2025年3月12日
仕事の進め方を科学する:個人に合った計画の方法(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2025年1月にセミナー「仕事の進め方を科学する:個人に合った計画の方法」を開催しました。
計画の立て方が、自分の業務効率やチームの目標達成を左右する。このことに異論はないでしょう。一方、メンバーの中に計画遂行へ負担を感じている人がいるならば、その原因は、計画の立て方が本人の得意な方法と合っていないからかもしれません。
本セミナーでは、「スケジューリングスタイル」という研究テーマを軸に、計画に対する個人の趣向や考え方を深堀し、それぞれに適したタスクや状況を紹介しました。また、それらの学術知見をもとに、チーム運営や人事・経営戦略へ実際にどう取り入れるのがよいのか、具体的なポイントも解説しました。
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
「目標」と「計画」を区別する
黒住:
まず、研究上の前提として、目標と計画は区別できることが確認されています。目標とは、自分が望む結果を思い描くことを指します。例えば、「良い成果を上げたい」と考えたり、私生活で「体重を減らしたい」と思ったりすることも目標に該当します。
一方で、計画とは、時間管理の一環として説明できますが、より広く捉えると、目標達成のための具体的な方法や手順を指します。つまり、計画は、目標の達成に向け、行動を整理し、時間を有効に活用するための手段と言えます。
目標と計画を区別する理由に、「目標を持つだけでは達成できない」という点があります。複数の研究データによると、目標を意識するだけでは、成果にはつながらないことが明らかになっています。目標を達成しようと考えるだけでなく、実際に行動を起こさなければ結果には結びつかないのです。
さらに、目標と計画を区別するもう一つの理由は、「進捗管理が目標達成を促す」という点です。目標を達成するためには、現在の状況を正しく把握し、目標との差(ギャップ)を認識することが重要です。つまり、「今どの程度達成できているのか」を定期的に確認することで、適切な行動を取ることが可能になります[1]。
「計画力」の研究
スケジューリングスタイル;時計か進捗か
ここからは、具体的な計画に関する研究に分けて説明していきます。最初のテーマは、タイトルにもある「スケジューリングスタイル」に関する研究です。この「スケジューリングスタイル」とは、計画の立て方の個人差を研究したもので、二つのスタイルが想定されています[2]。
一つ目は「時刻重視」のスタイルです。これは、時計の時間を基準に計画を立てる方法です。職場での例を挙げると、「資料は水曜日に共有する」「完成はしないかもしれないが、今日は30分で切り上げる」など、完成度はともかく、まず時間を基準にした予定に表れます。
二つ目は「出来事重視」のスタイルです。こちらは活動の進捗を基準に計画を立てる方法です。例えば、「アイデアがまとまったら共有する」「資料をまとめ終えたら退勤する」といったように、進捗に応じて予定を決める形になります。
こうした二つのスタイルには、文化的な背景が影響すると考えられています。産業の発展に伴い時計が普及し、時間管理が重要視されるようになったことで、時刻重視のスタイルが広く浸透しました。特に先進国や営利企業の活動では、効率性を重視するため、時刻によるスケジュールが適しているとされています。
一方、時計が普及する以前は、出来事を基準に計画を立てるスタイルが主流でした。また、約束や義務を果たすためには進捗ベースのスケジュールが適していることもあり、時間の柔軟性が認められる文化や場面では、現在も出来事重視のスタイルがフィットすると考えられています。
また、スケジューリングスタイルとパフォーマンスの関連について、興味深い研究結果があります。それは、個人の特性に応じた計画スタイルを選ぶことで、より高いパフォーマンスを発揮できるというものです[3]。
具体的には、「時刻重視」のスタイルは「挑戦派」に適しています。挑戦派とは、望ましい結果を増やすことを重視し、新しい方法を試したり、複数のプロジェクトへ積極的に関与するようなタイプです。このような人は、時間で区切ると効率的に行動できるため、時刻重視の計画によりパフォーマンスが向上すると考えられます。
一方、「出来事重視」のスタイルは「慎重派」に適しています。慎重派とは、望ましくない結果を減らすことを重視し、確実な方法を選び、ミスを避けながら着実に進めるタイプの人を指します。このような人々にとっては、進捗を基準に計画を立てる方が、焦らず安心して進められるということから、良い成果が出せると考えられます。
そして、この研究結果の重要なポイントは、個人差と計画の組み合わせがパフォーマンスに向上につながるという点です。つまり、計画のノウハウは数多く存在しますが、自分に合った計画法を見つけることが重要だといえるでしょう。
臨時の計画;割り込みを予測する重要性
「自分に合った計画法」が大切とはいえ、組織の仕組み上、時刻重視で動かざるを得ない場面も多く存在します。そのため、時刻重視のスタイルを土台とし、自分の特性に合った計画の立て方をアレンジしていく、というアプローチが必要だと考えられます。そこで、時刻重視に関連する計画との関連が予想される研究テーマや視点を掘り下げます。
まず、取り上げるのは「臨時の計画」というテーマです[4]。一言で表現すると「あらかじめ割り込みタスクを考慮しておくこと」です。具体的には、予期せぬ割り込みタスクや、進行中のタスクがうまくいかなくなる可能性を事前に想定し、対策を立てておくという考え方になります。
仕事の場面で例を挙げてみます。例えば、ある案件の締め切りに対して、「同時期に急な業務が発生し、計画通りに進められなくなる可能性」を想定することできます。さらに、「あらかじめ○○さんや他のチームメンバーにもフォローの頭出しをしておこう」と、割り込みタスクへの具体的な対応も考えておくこともできるでしょう。
このように、あらかじめ予測し対処を考えておくことが、臨時の計画のポイントです。研究結果によると、こうした臨時の計画にはいくつかのメリットがあることが明らかになっています。
第一に、「時刻重視の弱点を補うことができる」という点です。時刻重視の計画では、「何時になったら」「いつまでに」といった時間を基準に計画を立てるため、割り込みタスクの発生により、計画が崩れやすくなります。その結果、タスクのパフォーマンスや作業への集中度(エンゲージメント)が低下してしまうことが研究で示されています。しかし、もし事前に割り込みタスクの可能性を想定し、その対応策を準備しておけば、時刻重視の計画を柔軟に実行しやすくなります。
もう一つのメリットとして、「タスクの遂行を早めることができる」という点が挙げられます。時刻重視の計画を立てた際に、もし割り込みタスクが入る可能性があると考えると、「今のうちにタスクを進めておかないと、後で時間が足りなくなるかもしれない」と気づくことができます。これにより、締め切りまでの余裕を評価し、早めに作業を開始することが促されるのです。その結果、タスクの先延ばしを防ぐことができ、より計画的に進めることが可能になります。このように、臨時の計画を立てることは、時刻重視の計画に対して補完的な役割を持ち、作業効率を向上させる効果があるのです。
ペーシングスタイル;ペース配分の個人差
次に、「ペーススタイル」に関する研究についても紹介します[5]。これは、課題やタスクに取り組む際に、締め切りに向けてどのようなペースで努力を配分するか、という点で個人差があることを研究したものです。
この研究では、作業期間全体における作業量の配分に個人差があることが明らかになり、ペースのタイプを三つに分類しています。研究はインタビューをもとに質問項目を作成し、統計的な解析を行うことで、これらの三つのタイプに集約されることが確認されました。
まず、一つ目のタイプが「期限型」です。このタイプでは、締め切りの直前になって急激に作業量が増加するのが特徴です。多くの人が経験したことがあると思いますが、締め切り間際になって一気に作業を進める傾向が見られるのがこのタイプです。
二つ目が「定常型」です。定常型は、タスクの開始から締め切りまでの間、均等なペースで作業を進めるタイプです。このタイプの人は、一定の努力量を維持しながら計画的に進める傾向があります。
三つ目が「U字型」です。このタイプでは、作業の開始直後と締め切り直前に作業量が増え、中間の期間では活動が低下するという特徴があります。つまり、作業ペースがU字の形を描くような特徴が見られるため、この名前がつけられています。
研究では、総合的には「定常型」が最も望ましいとされています。しかし、個別の結果からみえた2つの含意も紹介します。
1つ目の含意は、「開始時に作業を着手すること」が重要であることです。ペースの違いによって、作業中の時間的プレッシャーやタスクへの没頭度が変化することが研究で確認されています。そのなかで、「定常型」「U字型」は、タスクに没頭しやすく、フロー状態に入りやすいという特徴があり、早い段階で着手することがタスクの質を高める上で効果的であるとされています。
もう1つの興味深い含意に関して、「実践が難しいペーススタイル」が確認されています。理論的には想定可能であるものの、調査の結果として実践している人があまりいないペーススタイルであることが示されています。この点を踏まえると、ペースという観点でも、無理なく自分が実践できる型を見つけることが重要だといえるでしょう。
計画の多様性;「詰め込みすぎ」の危険性
最後に、「活動の多様性」という観点に注目した研究をご紹介します[6]。ここまで、計画の種類や意義に関わる話題でしたが、最後は計画を立てる際の重要な注意点に関するテーマです。
まず、「活動の多様性」とは何かについて説明します。これは、性質の異なる活動を計画に含めることを指します。例えば、月曜日の始業時を例にすると、メールチェックやアポイントの確認、今後の計画の整理など、さまざまな業務を行う場合は、多様性が高いと言えます。一方で、始業時には事務作業のみに集中する場合、多様性が低い状態になります。
また、1週間単位で考えた場合、「今週は案件1~3に取り組み、データ分析や外回りも行う」という場合は多様性が高く、「今週は案件1に集中し、他の業務は来週以降に回す」という場合は多様性が低い状態になります。このように、短い時間軸でも長い時間軸でも、活動の多様性を考えることができます。
重要なのは、「予定を詰め込みすぎることの危険性」です。研究によると、長期間にわたる活動の多様性は、満足度や充実感を高める一方で、短い時間軸での多様性が高すぎると、逆に満足度が低下することが分かっています。
なぜこのような逆転現象が起こるのかというと、「活動への刺激」と「生産性」によって説明されています。長期間の中で多様なタスクに取り組むことは、異なる種類の刺激を受け、退屈を感じにくくなることから、満足度が高まります。対して、短時間でタスクを頻繁に切り替えることは、その都度切り替えの時間やコストがかかり、生産性が低下してしまいます。その結果、満足度も低くなってしまうのです。
このリスクへの対応は、ここまでの内容のまとめとして「複数の時間軸を意識すること」が挙げられます。例えば、1週間という長い時間軸と、1日、さらには1~2時間単位の短い時間軸を組み合わせ、各時間軸における適切な進捗を考えながら計画を立てることが重要です。
また、こうした時間軸の意識によって、割り込みタスクの発生を考慮した計画も立てやすくなります。例えば、「1週間の中で割り込みが発生するかもしれない」「今日の予定の中で急な業務が入る可能性がある」といった状況を想定し、適切に対応できるようにしておくことで、時刻重視の計画とも組み合わせやすくなります。
つまり、複数の時間軸を考慮することで、今日お話しした計画の立て方のさまざまな要素をバランスよく取り入れることができるということです。これが、計画のアレンジを行う上での1つの基本的な考え方になるといえるでしょう。
個人と組織の目標の整合性
藤井:
計画とは目標を達成するための手段の一つであり、将来の見通しを立てる役割を持っています。しかし、複数の目標が同時に存在したり、計画通りに進行できない場合、目標の達成が難しくなることがあります。これらについて、個人と組織の目標の整合性に注目してみましょう。
計画を立てる目的の一つは、目標達成に向けた明確な見通しを持つことです。しかし、計画通りに進まなかった場合、目標が達成できなくなり、計画外の方法をとらざるを得なくなるなど、結果的に効率が下がることがあります。
職場においては、組織としての目標と、従業員が個々に持つ目標が存在します。また、各従業員には、業務以外にも個人的な目的があることが考えられます。このように、職場には複数の目標が共存していることにも注意が必要です。
例えば、ある業務に取り組む際、業務上の目標を達成すると同時に、その業務を通じて新たなスキルや知識を身につけたいと考えることもあるでしょう。業務の達成という仕事上の目標がある一方で、個人としてのキャリア成長や自己満足感といった目標が同時に存在し得るのです。
そこで、作業を進める方法が複数取り得る場合、自分が楽しめる方法を選びたいと考えることもあります。特に、従業員に一定の裁量が与えられている場合、業務目標を達成するために様々な計画立案の余地があります。業務の効率を最優先する計画を立てることもあれば、自分の成長や満足感を優先する計画を選ぶかもしれません。
自分の目標を優先することで業務の効率が下がる場合、組織にとっては損失となる可能性があります。そのため、従業員がどの目標にフォーカスして計画を立てているのかは、組織の目標との整合性を考えるうえで重要なポイントとなります。
特に、組織の目標と個人の目標の整合性について、以下の点が問題になり得ることが研究でも指摘されています[7]。
目標の重要性の認識
組織の目標が従業員にとって受け入れられるものかどうかが重要です。個人の目標と一致していない場合、従業員は組織の目標を受け入れにくくなり、モチベーションの低下につながります。
例えば、業務効率よりも自分のやりやすい・満足できる方法を選びたいと考えるようになり、結果的に業務の生産性が低下する可能性があります。
管理者のサポート
上司や管理者の支援が、従業員の目標達成意欲の持続に影響を与えます。管理者が継続的に支援を提供しない場合、従業員は組織目標を自分ごととして捉えにくくなり、モチベーションが低下する傾向があります。
目標への圧力と不安
組織文化や風土が影響を及ぼすことも示唆されています。例えば、競争的な環境では高い目標を達成するプレッシャーが生じます。その結果、従業員が達成困難な目標を設定したり、無理な計画を立ててしまうことがあります。特に、タスクの複雑性が増すと、パフォーマンスが低下する傾向があります。
こうした問題が起こらないためにも、組織と個人の目標の整合性を取ることが重要となります。例えば、以下のようなサポートが考えられます。
- 組織目標と個人の目標の関係を明示する:従業員が自分の業務が組織にどのように貢献しているのかを理解できるようにする。
- 目標の意義を共有する:業務の目的を明確に伝え、従業員の理解を促進する。
- 個別面談の実施:従業員の課題や計画の進捗状況を確認し、必要な支援を提供する。
- 適切なリソースの提供:必要な研修やツールを提供し、計画達成をサポートする。
- タスクの優先順位を明確化する:計画の見直しを行い、不要なプロセスを削減することでコストを抑える。
このような取り組みにより、個人と組織の目標の整合性を高め、従業員のモチベーション維持や業務の効率向上につなげることが可能になります。
計画の修正と組織のサポート
計画を修正することについては、パフォーマンスの観点からも重要とされています。特に職場や事業形態によって異なるものの、不確実で予測不能な環境では、計画を効果的に調整する能力が適応力の重要な側面として研究されています[8]。
例えば、組織の再編成や方針の変更、予算の削減などが発生した場合、計画内でどのように優先順位を調整するかが問われます。また、各段階でのリソース配分や不足分の補填、削減すべき工程を決定することも必要です。
これは、管理職だけでなく、個々の従業員にも求められる能力であり、業務に応じた計画の柔軟な変更が不可欠です。このような状況において、柔軟に調整することが重要であり、計画を策定した後の行動も適宜調整することで、変化する環境に対応する力が強化されます。これが適応力の鍵となります。
この適応力には、個人の認知的能力や性格的特性が関与することが指摘されています。また、過去の経験や訓練も重要です。個人の経験が類似の場面での調整力を高めることが研究で示されています。こうした個人の側面だけでなく、環境要因も大きな影響を与えます。ここでは環境要因に焦点を当てて考えてみましょう。
組織からサポートできる側面
まず、職場環境として、柔軟な行動や計画の調整を奨励する文化があるかどうかが重要です。さらに、チームのダイナミクスも影響し、協力関係がしっかり築かれている場合、計画の柔軟性が向上し、必要に応じた変更が可能になります。これらの要因は組織が支援できる側面として挙げられます。
組織環境の改善に向けて、以下のような支援が考えられます。
プロセスマニュアルの策定
計画変更の手順をマニュアル化し、標準化することが有効です。計画を変更する際、手順が明確でないと適切な対応が難しくなるため、事前にプロセスを整備しておくことが望まれます。
計画変更を奨励する行動規範の整備
計画変更を奨励する行動規範を整備することも重要です。計画の変更は失敗ではなく、適応と改善の機会であると評価する文化を醸成することで、柔軟な対応が可能になります。
フィードバック機会の提供
定期的なフィードバックの機会を設けることが効果的です。計画変更が必要になった際に、個人が相談しやすい環境を整備することで、適切な判断が促されます。
個人の経験や訓練の観点でも、組織からのサポートが可能です。
シナリオトレーニング
例えば、シナリオでトレーニングする機会を提供することが有効です。実際の業務を想定した訓練を行い、計画調整の経験を積むことで、対応力を高めることができます。
成功事例と失敗事例の共有
また、成功事例や失敗事例を共有することで、過去の知見を活かしつつ、メンバー間での共通認識も高まり、より適切な計画調整が可能になります。
メンター制度
経験豊富な従業員をメンターとし、計画変更に関するアドバイスを受けられる体制を整えることも有効です。トレーニングや事例の共有と合わせたサポートがあるとより効果的です。
続いて、チームビルディングの視点からの支援も考えてみましょう。
計画変更を議論する会議の実施
想定外の事態に迅速に対応できる相談の場を設けることが重要です。チームで計画を調整する際には、個々の都合だけでなく、関係者との調整が不可欠です。そのための場をすぐ用意できるような体制が望まれます。
計画管理のリーダーシップ訓練
チームリーダーや計画を管理する立場の人に、リーダーシップに関する訓練を提供するなど、計画調整に必要なスキルを高める機会をもつことが大事です。
情報共有システムの導入
情報共有システムの導入も有効です。チーム内で計画を立てる際、リアルタイムで情報を共有できるツールを活用することで、計画の適応力を向上させることができます。
失敗からの回復
計画が思うように進まなかった場合でも、それを次に活かすことが重要です。計画の失敗を単なる問題として捉えるのではなく、適応力を高める機会として位置づけることが求められます。困難に直面した組織がどのように回復するのか、そうした過程を研究する分野もあり、ポジティブな捉え方が議論されています[9]。
研究知見を参考にすると、失敗からの回復力が高い組織について以下の特徴があげられます。
- 計画変更が常に起こり得るという認識
- 潜在的なリスクを考慮した対応策の準備
- 非常時の柔軟性、計画への過度な固執を避ける姿勢
- 全体への正確で迅速な情報共有、
- 失敗を責めず学びの機会とする文化
これらは、個人の計画修正にも適用可能な観点を含んでいます。計画変更の際、チームメンバーと迅速に情報を共有し、適切に対応することが求められますが、従業員個人では対応が難しいこともあります。そうしたところに組織のサポートが重要な役割を果たします。今回ご紹介した観点が、従業員の計画立案・計画調整のサポートに少しでも役立てば幸いです。
Q&A
Q1: 手帳に目標を書くだけでもその達成に繋がるか
黒住:
研究知見から考えると、「書くだけ」では目標を達成しづらいといえるでしょう。ただし、手帳に「目標を書くこと」自体には意味があるでしょう。それによって目標を常に意識し、再認識する効果が期待できるからです。しかし、それだけで必ずしも達成できるとは限らず、具体的な計画や行動が必要になります。その点を踏まえると、「書くこと自体は無駄ではないが、それだけで達成できるとは言えない」というのが適切な表現になるかと思います。
Q2: イノベーションや創造性を求められる出来事重視の職場では、部下をどのように管理するべきか
藤井:
イノベーションや創造性を重視する場合、目標管理において「プロセスよりも成果にフォーカスする」ことが有効です。つまり、業務の進め方に一定の裁量を持たせ、部下が自由にアイディアを試し、計画を立てやすい環境を作ることが大切です。
また、心理的安全性の確保も重要です。新しいアイディアを試す場面では、失敗を恐れずに報告や発表ができる環境を整えることが、創造性を促す要因となります。
黒住:
業務の種類によっても、適したスケジュールスタイルが異なるといえそうです。そのうえで、出来事重視の職場であれば、役割に応じた計画のマネジメントが考えられます。例えば、実作業を担当するスタッフには、なるべく集中できる時間を確保する。一方で、調整役のスタッフが外部とのやり取りを担い、出来事重視の働き方が維持できるようにする。このような役割分担を意識することで、出来事重視のなかで時間の負担を軽減しながら、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができるかと思います。
Q3: 個人目標と組織目標の整合性はどのように高められますか?
藤井:
目標の共有と説明が重要と言えます。組織の目標を単に伝えるだけではなく、その背景や意義をしっかり説明することが大切です。また、従業員一人ひとりのタスクや業務が、組織目標にどう貢献しているのかを明確にすることも重要です。
さらに、個人の目標についても把握し、それが組織目標と一致する部分を見つけることが効果的です。上司やメンターが部下の目標を理解し、組織の目標と重なる部分をサポートすることで、より高いモチベーションと成果につながるのではないかと考えます。
脚注
[1] このテーマについては、当社の右記のコラムで詳しく紹介しています。適宜参照ください:「目標達成を助ける心的対比:理想と現実を比べる効果」
[2] 以下2つの研究を参考;
Avnet, T., & Sellier, A. L. (2011). Clock time vs. event time: Temporal culture or self-regulation? Journal of Experimental Social Psychology, 47, 665667. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2011.01.006
長峯 聖人・湯 立・三和 秀平・海沼 亮・浅山 慧・外山 美樹 (2023). スケジューリングスタイルと日常における目標追求との関連─TSQ日本語版を作成して─. 心理学研究, 94(1), 65-75.
[3] Avnet, T., & Sellier, A. L. (2011). Clock time vs. event time: Temporal culture or self-regulation? Journal of Experimental Social Psychology, 47, 665667. https://doi.org/10.1016/j.jesp.2011.01.006
[4] Parke, M. R., Weinhardt, J. M., Brodsky, A., Tangirala, S., & DeVoe, S. E. (2018). When daily planning improves employee performance: The importance of planning type, engagement, and interruptions. Journal of Applied Psychology, 103(3), 300-312.
[5] Gevers, J., Mohammed, S., & Baytalskaya, N. (2013). The conceptualisation and measurement of pacing styles. Applied Psychology: An International Review. 64(3), 499–540.
[6] Etkin, J., & Mogilner, C. (2016). Does variety among activities increase happiness? Journal of Consumer Research, 43(2), 210–229.
[7] Locke, E. A., Shaw, K. N., Saari, L. M., & Latham, G. P. (1981). Goal setting and task performance: 1969-1980. Psychological bulletin, 90(1), 125.
[8] Pulakos, E. D., Arad, S., Donovan, M. A., & Plamondon, K. E. (2000). Adaptability in the workplace: development of a taxonomy of adaptive performance. Journal of applied psychology, 85(4), 612.
[9] Sutcliffe, K. M. and T. J. Vogus(2003). Organizing for Resilience. Positive Organizational Scholarship: Foundations of a New Discipline. K. S. Cameron, J. E. Dutton and R. E. Quinn. San Francisco, CA, Berrett-Koehler: 94-110.
登壇者
藤井 貴之 株式会社ビジネスリサーチラボ チーフフェロー
関西福祉科学大学社会福祉学部卒業、大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了、玉川大学大学院脳情報研究科博士後期課程修了。修士(教育学)、博士(学術)。社会性の発達・個人差に関心をもち、向社会的行動の心理・生理学的基盤に関して、発達心理学、社会心理学、生理・神経科学などを含む学際的な研究を実施。組織・人事の課題に対して学際的な視点によるアプローチを探求している。
黒住 嶺 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー
学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了、筑波大学人間総合科学研究科心理学専攻博士後期課程満期退学。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。