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コラム

組織の階層構造を捉える:マルチレベル分析の基礎

コラム

従業員のエンゲージメントを高めようとする際、組織サーベイを実施して、全社や部署ごとの傾向を把握するケースが増えています。

しかし、同じ調査項目であっても、ある部署は高いスコアを示す一方で別の部署では低いスコアが出たりします。こうした差が生じるのは、従業員個人の違いだけでなく、部署単位で共有されている文化やマネジメントの仕方にも要因が存在するためです。

例えば、定期的にチームビルディングを行っている部署では、従業員同士の信頼関係が強く、サーベイの回答もポジティブになることが考えられます。一方、同じ企業内でも、別の部署ではコミュニケーションがあまり活発でなかったり、上司との面談が少なかったりすると、エンゲージメントスコアが低くなるかもしれません。

このように個人要因と部署要因が混在するデータを扱うときには、部署間の違いを無視して分析すると、真の要因を誤って推定するリスクが生じます。

そこで注目されるのが「マルチレベル分析」です。マルチレベル分析は、組織サーベイのように「個人の回答が部署という単位にネスト(階層)されている」場合に、部署全体の特徴と個人ごとの特徴を分けて捉えることを可能にします。

本コラムでは、組織サーベイを例に挙げながら、マルチレベル分析の基本的な考え方、必要性、適用例、そして注意点を解説します。

マルチレベル分析の概要

マルチレベル分析とは、階層構造を持つデータを正確に扱うための統計手法です。組織サーベイの例で言えば、従業員の回答(個人レベル)が部署(グループレベル)に属しているという形で、データが二つの階層に分かれています。

通常の(線形)回帰分析[1]では、すべての従業員の回答が互いに独立していると仮定しますが、実際には同じ部署に所属する従業員同士の回答が似通うケースがあります。例えば、「上司がこまめにフィードバックをする部署では、そこに属する従業員のエンゲージメントが全体的に高い」といった現象です。

マルチレベル分析では、まず「個人差を説明するモデル(Withinレベル)」を設定し、従業員一人ひとりの要因とエンゲージメントスコアの関係を分析します。さらに「部署間差を説明するモデル(Betweenレベル)」を組み込み、部署ごとの特徴がエンゲージメントにどのように影響するかを別途捉えます。

これら二つを階層的に組み合わせることで、「個人の違いによるエンゲージメントのばらつき」と「部署ごとの違いによる平均エンゲージメントのばらつき」を同時に解析できるようになるのです。

また、マルチレベル分析では誤差構造にも階層性を持たせることができます。従業員ごとに誤差(個人レベルの誤差)があり、部署ごとにも誤差(部署レベルの誤差)があると考えるわけです。

このように多層的な誤差を切り分けることで、「従業員固有のばらつき」と「部署文化など集団が共有する要因によるばらつき」の両方を把握し、例えば組織文化やマネジメントスタイルが全体に及ぼす重要度を評価できるようになります。

マルチレベル分析の必要性

階層データの独立性

多くの統計手法、特に通常の回帰分析では、「各観測値が互いに独立である」ことを前提としています。Aさんの回答の高さは、Bさんの回答の高さと関連していない、といった状況を想定しているのです。

しかし、組織サーベイでは、同じ部署に属する従業員の回答が似通っていることが見られます。例えば、「上司が頻繁に声かけをしてくれる」「チーム内で助け合いが当たり前になっている」などの環境要因により、部署全体で回答傾向が高くなるケースがあります。

このような場合、Aさんの回答が高いこととBさんの回答が高いことには、部署文化やリーダーシップといった共通の要因が影響しているかもしれません。従業員一人ひとりが完全に独立した存在ではなく、部署にネストされているということです。

そこでマルチレベル分析を使えば、個人レベルと部署レベルを分けて考えることができます。個人レベルでは「Aさんがどうして高いのか、Bさんはどうして低いのか」をモデル化し、部署レベルでは「この部署はどうして全体的に平均が高いのか(あるいは低いのか)」を別途モデル化します。

これによって、部署ごとに似通った回答を示す「構造」を統計モデルの中に組み込むことができ、観測値の独立性が崩れていても、分析結果を歪めずに済みます。結果、個人差だけでなく部署差も含めて全体像を捉えられるようになり、人事施策の立案にあたって「どの部署にどういった特徴があって、個人の特性とはどのように交わっているのか」を的確に把握できます[2]

誤差推定の精度

組織サーベイのデータを従来の回帰分析などで扱うと、同じ部署に属する回答の似通いを無視することになるため、標準誤差が過小に推定される恐れがあります。標準誤差が過小に見積もられると、わずかな違いも統計的に有意と判定されてしまい、本当はそこまで強くない関係を過大評価するリスクが高まります。

例えば、新しい人事施策を導入したところ、エンゲージメントスコアが若干上昇したという結果が得られたとしましょう。もし部署内の回答が似通っている構造を無視した分析を行うと、もしかしたら「統計的に有意な上昇があった」と結果が出るかもしれません。

ところが実際には、「チームワークの良い部署や悪い部署がはっきり存在し、部署間でチームワークの違いが顕著だった」という可能性があります。そうなると、施策の効果を過大に評価し、人事施策の方向性を間違えてしまうかもしれません。

マルチレベル分析であれば、部署レベルの影響をモデルに組み込み、部署内の回答の類似性を考慮した上で標準誤差を推定します。その結果、必要以上に小さな標準誤差が算出されることを防ぎ、より正確な結論へとつなげることができます。要するに、実態に即した不確実性を盛り込みながら、どの施策が本当に有効なのかを見極められるようになるのです。

階層構造の解析

組織サーベイでは、従業員個人だけでなく、部署や事業部、さらに企業全体というように複数の階層を含むデータが得られることがあります。

通常の分析手法では、こうした多階層の違いをまとめて一度に扱おうとすると、それぞれの階層がもつ固有の影響力を混同してしまいがちです。結果的に、「部署単位の違いなのか、それとも個人単位の違いなのか」が不明瞭になり、適切な施策を立てにくくなります。

マルチレベル分析は、個人レベルを分析した上で、部署レベル、さらに上位レベルがあればそれも追加しながら階層ごとの影響を明らかにしていくことが可能です。

例えば、個人レベルの分析では「自己効力感が高い従業員ほどエンゲージメントが高い」という関係を見出し、部署レベルでは「平均残業時間が短い部署ほどエンゲージメントが高い」といった部署特性の影響を切り分けて捉えられます。

このように階層構造をモデル化することで、従業員一人ひとりの違いと部署間の違い、企業全体の違いを同時に考察できるため、どの階層にどれくらい力を入れて施策を行うべきかがクリアになります。

例えば、「管理職研修など部署単位の強化にリソースを投下するべきか、それとも個人単位のスキルアップ施策を充実させるべきか」といった問いに対して、有用な判断材料が得られます。

分析の基本枠組み

マルチレベル分析を行う際には、少なくとも二つのレベルを設定してモデルを構築します。第一のレベル(Withinレベル)は個人レベルで、従業員一人ひとりのエンゲージメントスコアや職務満足度、あるいは個人的特性(例えば、自己効力感、キャリア志向など)を扱います。第二のレベル(Betweenレベル)は部署レベルで、マネジメントスタイルや上司との面談頻度、平均残業時間など、部署全体で共有されているような集団の特性を扱います。

具体的には、まず個人レベル(レベル1)のモデルを考えます。ここでは「個人変数エンゲージメント」という関連を仮定し、個人ごとの差異を主に説明します。しかし、同じ企業でも部署が違えばエンゲージメントの平均値が異なる可能性があります。

そこで次に、部署レベル(レベル2)のモデルを組み込みます。例えば「部署のコミュニケーション量」や「チームビルディングの頻度」といった部署特性が全体のエンゲージメントにどのように作用するかを推定します。

この二段階のモデルを階層的に統合すると、個人レベルで「自己効力感の高い人ほどエンゲージメントが高い」という傾向を捉えつつ、同時に部署レベルで「コミュニケーションの頻度が高い部署は、平均エンゲージメントがさらに高い」という傾向を捉えられるようになります。さらには、後述するように、個人レベルの要因が部署レベルの要因によって強まったり弱まったりする交互作用まで検証することも可能です。

マルチレベル分析でこのような検証ができる理由は、この分析が「変量効果」と「固定効果」という二つの効果を活用して部署レベルの影響を取り入れているからです。変量効果とは、成果指標の高低にランダムな変動をもたらす効果を指します。通常の回帰分析における誤差項は「個々の回答者ごとに成果指標の得点が異なっている」ことを表しますが、これは回答者ごとの個人差により成果指標の得点が多様な(ランダムな)高低が生じていると捉えられ、変量効果の一種となります。マルチレベル分析では、特に部署レベルの影響について、「部署の違いにより、成果指標の得点に多様な高低が生じる」と仮定した変量効果を含めることで、まず部署の違いが成果指標に影響することをモデルで考慮しています。

他方、固定効果とは、「自己効力感が1ポイント上がると、エンゲージメントが平均してどれくらい変化するか」のように、影響指標によって成果指標に一定の得点上下が生じることを仮定した効果です。変量効果は「その要因によって多彩な(ランダムな)得点上下が生まれる」と大まかに効果を捉えますが、固定効果は「影響指標が1ポイント上がると、成果指標は○ポイント高まる」と具体的な数値で効果を表現します。普段の回帰分析における、回帰係数で表される影響指標の影響・関連の強さは固定効果の代表例です。

マルチレベル分析では、先に述べたように部署の違いを変量効果としてモデルに組み込み、部署の違いが成果指標の得点に違いを生む状態を表現しますが、その中に部署レベルで考えられる固定効果をモデルに投入することで、部署レベルの影響指標が及ぼす影響を加えます。このアイデアは、通常の回帰分析と同じ発想に基づいています。例えば、成果指標にエンゲージメントを取る通常の回帰分析を考えてみましょう。エンゲージメントの高さは回答者ごとに様々な値をとる、つまり個人差があります。この個人差は誤差項として扱われるもので、先ほど述べたとおり変量効果に該当するものです。それに対して、「エンゲージメントの高さに影響する要因として、上司サポートがある」と考えたとしましょう。すると、回帰分析に上司サポートが影響指標として投入され、モデルに組み込まれます。そうして回帰式に上司サポートが固定効果として含められるわけですが、これは「個人差という変量効果により様々な得点上下があるが、それが生じる要因である上司サポートを固定効果としてモデルに加える」手続きとなります。多様な得点上下を表す変量効果は、ある影響指標が持つ固定効果により生じていたものだと考える、そういったプロセスです。

このように、通常の回帰分析における「変量効果の要因となる固定効果を、モデルに組み込んでいく」手続きを、マルチレベル分析の変量効果でも行います。例えば、エンゲージメントを成果指標に置いたとき「部署による多様な違いがある」と仮定して、部署の違いによって生まれる変量効果を仮定したとします。その変量効果について、「部署の違いによってエンゲージメントの得点に違いが生じるのは、各部署の部内コミュニケーション頻度による影響だ」と考えた場合、部署の変量効果に対して部内コミュニケーション頻度を固定効果として組み込むことになります。マルチレベル分析では部署レベルの影響指標を分析に追加できますが、そこでは通常の回帰分析と同様に「変量効果に対して、その要因となる固定効果をモデルに組み込む」手続きを取っているのです。マルチレベル分析は、このように部署による得点の違いや部署レベルの影響指標を捉えるために、部署の違いによる変量効果を仮定し、その要因として部署レベルの影響指標を固定効果に組み込んでいることが独自の特徴です。

実務での活用イメージ

カテゴリデータの扱い方

組織サーベイを行うと、従業員が部署にネストされているだけでなく、事業部や勤務地などさらに大きなカテゴリにネストされている場合があります。例えば、本社と支社で働く人々では、働き方や評価制度が微妙に異なることが多いかもしれません。

通常の分析では、「本社か支社か」といった変数を追加することである程度区別はできますが、「部署」という中間の階層をどのように取り扱うかが曖昧になると、影響源を混同する危険が高まります。

マルチレベル分析なら、部署レベルをモデルに組み込み、必要に応じてさらに上位の階層(事業部や勤務地など)を追加していくことで、それぞれの階層がエンゲージメントに与える影響を推定できます。

例えば、本社勤務の人たちでも、「部署Aは研修制度が充実していて平均エンゲージメントが高い」「部署Bは残業が多いため平均エンゲージメントが低い」という違いがあるかもしれません。対して、支社勤務の人たちにも同様の部署差がある可能性があります。このような多重の階層構造を一つのモデルで扱うことで、それぞれの階層要因を混在させずに解析し、誤った結論を避けることができます。

例えば、新たな社内研修を導入してエンゲージメントが改善したかどうかを知りたいとき、事業部別に研修の導入時期が異なり、部署ごとに参加率や受講態度も違っているかもしれません。マルチレベル分析なら、事業部レベル、部署レベル、個人レベルでデータを分けて考え、どの階層に大きな影響があるのかを見極められます。

部署レベルの効果分析

マルチレベル分析の利点の一つに、「Betweenレベルの主効果」を精度高く検証できる点があります。Betweenレベルとは、部署ごとに共通する特徴を指します。例えば、「上司面談の頻度が高い部署ほどエンゲージメントも高いのではないか」という仮説がある場合、これを部署単位のデータとしてモデルに組み込み、かつ個人レベルの要因を統制しながら分析できます。

通常の回帰分析でも、部署レベルの説明変数(例えば、上司面談の頻度)をモデルに入れることは可能です。しかし、個人単位の回答を単純にプールする(まとめて扱う)と、従業員数が多い部署の影響が大きく見えるなど、部署ごとの違いがうまく反映されない恐れがあります。さらに、部署内の回答の類似性を無視したままだと、独立しているはずのデータを必要以上に増やしてしまい、統計的に過度に自信を持った推定になりがちです。

マルチレベル分析を使うと、個人レベルのばらつきをモデル化したうえで、「部署間の平均エンゲージメントがどのように違うか」を別枠で評価できます。その結果、「上司面談の頻度が高い部署は平均エンゲージメントも高い」というようなBetweenレベルの主効果を示すことができます。

これは、施策を部署単位で設計する際に有用であり、「上司との定期的な面談を増やすことで、チーム全体のやる気が上がる」というエビデンスを示すことにもつながります。

交互作用の検証

マルチレベル分析を活用すると、部署レベルの要因(Between)と個人レベルの要因(Within)がどう組み合わさってエンゲージメントに影響するかという「交互作用」を検証できます[3]。例えば、個人の自己効力感が高い従業員ほどエンゲージメントが上がりやすいのは確かだとしても、どの部署でも同じように上がるとは限りません。

もしかすると、自由に意見を言える環境の部署では自己効力感が高い従業員がより活躍しやすく、結果としてエンゲージメントが一層高まる可能性があります。一方、上意下達が中心の部署では、個人の自己効力感がそこまでエンゲージメントに反映されないかもしれません。

こうした仮説を確かめるには、自己効力感(個人レベルの変数)と部署文化(部署レベルの変数)の交互作用項をモデルに組み込む必要があります[4]。マルチレベル分析では、個人レベルと部署レベルが別々の階層として扱われるため、それぞれの主効果を捉えた上で、両者の掛け合わせ(交互作用)が統計的に有意かどうかを検証できます。

もし交互作用が有意であれば、「自己効力感が高い人ほど、部署の風土によってさらにエンゲージメントが左右される」ということになり、施策としては「個人のやる気を伸ばす研修」だけでなく、「それを活かせるチームビルディングの施策」も同時に導入するほうが効果的だと分かります。

要するに、同じタイプの研修を全員一律に行うのではなく、個人の特性と部署の風土の組み合わせに注目することで、効率的なエンゲージメント向上策を打ち出せるようになるのです。

実施時の留意点

マルチレベル分析を実施する際、留意すべきなのが各階層におけるサンプルサイズです。個人レベルのデータが多くても、部署(あるいは事業部など)の数が極端に少ないと、部署レベルの効果を安定して推定できなくなる可能性があります。例えば、従業員は1000名いても、それらが2つか3つの部署にしか分かれていないようなケースでは、部署レベルの特性を一般化して語るのは難しくなります。

サンプルサイズが小さいと、モデルの推定がうまく収束しなかったり、変量効果の推定に大きな誤差が出たりして、実際には存在しないパターンを見誤ってしまうリスクが高まります。マルチレベル分析で交互作用を検証する場合も同様で、部署数が十分に確保されないまま交互作用項を入れると、一時的な偶然の結果を取り違える可能性があります。

この問題を避けるには、データ収集の段階で「どの程度の部署数・個人数があれば信頼に足る推定が得られるか」をある程度見積もり、計画的にサーベイを実施することが望ましいです。もしやむを得ずサンプルが不足している場合は、階層を多段にしすぎない、あるいは交互作用を無理に入れないなど、モデルの複雑さを下げて解釈に慎重になることが必要です。

脚注

[1] 回帰分析の詳細は当社コラムをご参照ください。

[2] ICC(級内相関係数)とは、全体の分散のうち、集団(この場合は部署)レベルの分散がどの程度を占めているかを示します。0から1の値をとり、1に近いほど集団内の回答が類似していることを意味します。

例えば、ICC=0.2の場合、全体の分散の20%が集団レベルで説明されることを示します。一般的に、ICC≧0.05でマルチレベル分析の必要性が示唆され、0.1を超えると顕著な集団効果があると判断されます。

ただし、ICCが小さくても、理論的な関心が集団レベルにある場合はマルチレベル分析が推奨されます。

組織サーベイでは、項目によってICCは大きく異なることがあり、「上司の評価」などの項目は比較的高いICCを示すかもしれません。マルチレベル分析を実施する前に、ICCを確認することで、分析の必要性や解釈の重要性を判断できます。

[3] マルチレベル分析のひとつである階層線形モデルでは、個人レベルの変数の「中心化」が重要な前処理となります。主に、集団平均中心化(個人の値から所属グループの平均を引く)と全体平均中心化(個人の値から全サンプルの平均を引く)の2種類を用います。

集団平均中心化を行うと、純粋な個人レベルの効果を推定でき、全体平均中心化を行うと、個人レベルの効果を解釈する際に「集団レベルの状態は、平均的な状態を仮定する」よう調整でき、効果の意味を考えやすくなります。特にクロスレベルの交互作用を検討する際は、多重共線性を避けるために2つの中心化の同時使用が推奨されます。

[4] 統計的には、先に述べた変量効果と固定効果の投入が少し違った形で活用されています。成果指標のエンゲージメントに対する個人の自己効力感の高さ(個人レベルの変数)の影響を仮定するため、個人レベルの固定効果をモデルに組み込み、その傾き(回帰係数)を数式に含めます。それに対して「個人の自己効力感の高さがエンゲージメントを高める影響は、部署ごとに異なる」と考えて、部署による変量効果を仮定します。傾きに対して変量効果を含めることがポイントです。そしてその変量効果、つまり「自己効力感がエンゲージメントに及ぼす影響の大きさが、部署によって異なる状態」は、部署文化(部署レベルの変数)が影響していると考えた場合、その変量効果に対して、部署文化を固定効果に組み込めば、部署文化(部署レベルの変数)が自己効力感(個人レベルの変数)の影響力を高めることを分析できるわけです。このような、集団レベルの変数が個人レベルの変数の影響力を変える(調整する)作用を「クロスレベル交互作用」と呼びます。

 


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

 

能渡 真澄
株式会社ビジネスリサーチラボ チーフフェロー。信州大学人文学部卒業、信州大学大学院人文科学研究科修士課程修了。修士(文学)。価値観の多様化が進む現代における個人のアイデンティティや自己意識の在り方を、他者との相互作用や対人関係の変容から明らかにする理論研究や実証研究を行っている。高いデータ解析技術を有しており、通常では捉えることが困難な、様々なデータの背後にある特徴や関係性を分析・可視化し、その実態を把握する支援を行っている。

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