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コラム

行動は性格だけでは決まらない:職場環境との相互作用がもたらす影響力

コラム

皆さんは職場で、普段は穏やかな同僚が突如として攻撃的になったり、いつも誠実な上司が約束を破ったりする場面に遭遇したことはないでしょうか。私たちは「あの人はああいう性格だから」と言いがちですが、人の行動は性格だけでは決まりません。むしろ、その人の性格が特定の状況に置かれることで引き起こされる場合が少なくありません。

こうした現象を説明する理論として「特性活性化理論」があります。特性活性化理論は、個人の性格特性が特定の状況下で活性化され、行動として表れることを説明するものです。例えば、普段は控えめな人でも、自分の専門分野について議論する場面では雄弁になることがあります。逆に、普段は社交的な人でも、ストレスの多い環境では引きこもりがちになることもあります。

このように、人の行動は性格と状況の相互作用によって生まれます。本コラムでは、職場における様々な場面で特性活性化理論がどのように実証されているかを見ていきます。反生産的な行動が生まれるメカニズム、心理的な契約違反への反応、企業の魅力度の判断、人材評価の仕組みなど、多岐にわたる研究成果を紹介します。

対人衝突が多い環境で反生産的行動が増える人

職場における反生産的行動の発生プロセスを理解することは、組織運営において欠かせません。反生産的行動とは、組織や他者に損害を与えるような行動を指します。実証研究では、従業員とその上司から成るペアのデータを複数の時点で収集し、社会的支配指向と敵対的帰属スタイルという二つの性格特性に着目しました[1]

社会的支配指向とは、他者よりも自分の地位を高く保とうとする傾向を指します。この特性を持つ人は、周囲との関係を競争的に捉える傾向があり、自分の地位や権限を意識しています。一方、敵対的帰属スタイルとは、曖昧な状況を他者からの攻撃と解釈する傾向を指します。この特性を持つ人は、他者の意図を否定的に解釈しがちで、防衛的な態度をとりやすい特徴があります。

実証研究では、職場における二つの環境要因に注目しました。一つは組織的な制約で、これは必要な資源やサポートの不足などを意味します。もう一つは対人衝突で、これは同僚や上司との意見の不一致や摩擦を指します。これらの環境要因が、先述の二つの性格特性とどのように相互作用し、反生産的行動を引き起こすのかを分析しました。

分析結果は、性格特性と環境要因の間に関係があることを浮き彫りにしました。社会的支配指向が強い人は、特に組織的な制約が強い環境において反生産的行動を起こしやすいことが判明しました。

これは、資源やサポートが限られた状況下で、自分の地位やリソースを守ろうとする競争意識が高まるためです。具体的には、他者の業務を妨害したり、組織の設備を損壊したり、意図的に生産性を落としたりするような行動が観察されました。

同様に、敵対的帰属スタイルが強い人は、対人衝突の多い環境において反生産的行動が増加することが分かりました。この人々は、職場での些細な出来事でも自分への攻撃として受け取りやすく、それに対する防衛反応として攻撃的な行動をとる傾向があります。例えば、業務上の意見の相違を個人攻撃と解釈し、報復的な行動に出ることがあります。また、組織の方針変更なども自分に対する意図的な不利益と捉え、それに対する反発として反生産的行動を取ることがあるかもしれません。

この研究の意義は、反生産的行動が個人の性格特性から直接的に生じるのではなく、その特性が特定の職場環境と相互作用することで引き起こされることを実証した点にあります。資源配分の適切な管理や、対人関係の調整が、特定の性格特性を持つ従業員の反生産的行動を抑制する可能性を示唆しています。

さらに、この研究は組織的な制約と対人衝突という二つの環境要因が、異なる性格特性に対して異なる作用を持つことも明らかにしました。社会的支配指向の強い人は組織的な制約に、敵対的帰属スタイルの強い人は対人衝突に、それぞれより敏感に反応することが分かりました。

心理的契約の違反がナルシシズムを活性化させる

ナルシシズム(自己愛)という性格特性と心理的契約違反の関係について考察します。心理的契約違反とは、組織が従業員に約束したとされる期待が満たされない状態を指します。研究では、アメリカ南部の様々な業界で働く正社員を対象に、ナルシシズムと心理的契約違反が退職意図や怠惰行動にどのように作用するかを調べました[2]

ナルシシズムは、高い自己肯定感を保ちたいという欲求を持つ特性です。ナルシシストは自分を特別な存在だと考え、他者からの賞賛や承認を強く求める傾向があります。一方、心理的契約違反は、昇進や報酬、職場環境など、組織から暗黙のうちに約束されていると考えられていた期待が裏切られた状態を指します。

データ収集は異なる時点で行われ、最初の調査でナルシシズムと心理的契約違反を測定し、一定期間後に退職意図と怠惰行動を測定しました。質問票は詳細な段階評価を用い、心理的契約違反の作用を統計的に検証しました。

調査結果は、心理的契約違反とナルシシズムの間に興味深い関係性を示しました。心理的契約違反が高い場合、ナルシシズムの高い従業員は退職意図が著しく高まることが判明しました。これは、心理的契約違反がナルシシストの自己評価を脅かすためと解釈できます。ナルシシストは自己肯定感を非常に重視するため、組織から期待通りの待遇を得られないことは、自己価値への重大な脅威として受け止められます。その結果、自己肯定感を回復するために新たな職場を探す行動が誘発されるのです。

一方で予想に反して、ナルシシズムと怠惰行動の関係については、心理的契約違反の作用は確認されませんでした。これは、怠惰行動が職場での否定的評価につながりやすいため、ナルシシストがこれを避けようとするためと考えられます。ナルシシストは他者からの賞賛や認知(ナルシシズム供給)を必要とするため、心理的契約違反を感じても、短期的には職場での評価を維持しようと努力を継続するのです。

この研究結果から、ナルシシストの行動パターンは、その特性と状況の相互作用によって異なることが分かります。外部への積極的な行動である退職意図は、ナルシシストが「より良い環境」を求めて自己価値を回復するための典型的な反応として表れます。一方、怠惰行動のような受動的な反応は、他者からの評価を損なうリスクがあるため避けられる傾向にあります。

このように、ナルシシストは自己評価が脅かされた際、その回復手段として「より良い待遇が期待できる新たな職場を探す」という外向的な対処を選択する一方で、現在の職場での評価は維持しようとする複雑な行動パターンを示すことが明らかになりました。

候補者の企業魅力も特性活性化理論で説明できる

応募者と従業員の性格的適合性が、応募者の組織に対する魅力にどのように作用するかを検討しましょう。研究では、ベルギーの失業中の求職者を対象に、誠実性、協調性、外向性という性格特性に焦点を当てて調査を実施しました[3]

調査では、求職者に対して、これらの性格特性が高いか低いかを示す従業員のプロフィールを提示し、その組織に対する魅力度を評価してもらいました。これによって、応募者自身の性格特性と、従業員の性格特性の一致が、組織の魅力度判断にどのような影響を与えるかを分析しました。

実証結果は、特に誠実性と協調性において顕著な傾向を示しました。誠実性と協調性の高い応募者は、同じく誠実性や協調性が高い従業員がいる組織に対して、より強い魅力を感じることが分かりました。これは、応募者が職場で自分の性格特性を表現し、評価されると感じられる場合に、その職場の魅力が高まることを示しています。

この現象は特性活性化理論によって説明することができます。応募者は、自分の性格特性が職場環境で認められ、発揮できると感じられる場合、その職場に対してより強い魅力を感じるのです。応募者は自分の性格特性が活かせる環境を直感的に見出し、そこに魅力を感じる傾向があると言えます。

外向性に関しては、やや異なる結果が得られました。応募者の外向性と従業員の外向性の一致は、組織の魅力に直接的な作用を及ぼすわけではありませんでしたが、応募者の職場適合感を高めることが示されました。外向性の高い応募者は、職場で求められる外向的な活動や協力的な性質を認識し、働きやすい環境だと感じる一方で、それが必ずしも企業全体の魅力を決定づける要因とはならないことが分かったのです。

さらに追加的な調査として、給与水準が組織の魅力度に与える影響についても検討しました。その結果、市場平均かそれ以上の給与水準では、給与の違いは応募者の組織魅力の評価にそれほど大きな影響を与えないことが分かりました。これは、一定の給与水準が確保されれば、応募者は職場環境の適合性をより重視する傾向があることを示唆しています。

これらの結果は、採用活動における示唆を含んでいます。組織は給与や待遇だけでなく、応募者の性格特性が活かせる職場環境をアピールすることで、より効果的に人材を惹きつけることができる可能性があります。誠実性や協調性の高い人材を求める場合、そのような特性が評価され発揮できる職場文化を強調することが有効かもしれません。

アセスメントの方法と結果の関係を特性活性化理論で検討

アセスメントセンターにおける評価の仕組みを特性活性化理論の観点から検討した研究を紹介しましょう。研究では、長期間にわたる多数の評価データを分析し、アセスメントの方法と結果の関係性を探りました。

アセスメントセンターでは、コミュニケーションや問題解決などの評価次元を設定し、グループディスカッションやインバスケット課題などの様々なエクササイズを通じて候補者を評価します。研究では、これらの評価次元とエクササイズを性格特性と関連付けて分析を行いました。

分析の結果、同じ特性を活性化するエクササイズ間での評価の一致性が高いことが判明しました。例えば、リーダーレスグループディスカッションとロールプレイは、どちらも外向性を活性化する場面を多く含んでいます。これらのエクササイズでは、候補者が他者を説得する能力や主導権を握る態度などの外向性の特性を発揮する機会が多く、そのため評価結果が一致しやすい傾向が見られました。

一方で、インバスケット課題のような個人作業では、外向性を示す機会が限られるため、評価の一致性は低くなりました。外向性や誠実性は、行動として観察しやすい特性です。外向性は発言の頻度や自信のある態度として、誠実性は時間管理能力や計画性として具体的な行動で表れます。そのため、観察者がこれらの特性を評価しやすく、エクササイズ間での評価の一貫性が保たれやすい傾向がありました。

特に競争的な状況、とりわけグループディスカッションやロールプレイでは、多様な特性が引き出されることが分かりました。このような場面では、外向性、誠実性、問題解決能力などの様々な特性が自然と表出するため、観察者が各評価次元を明確に区別できるようになり、評価の精度が高まることが示されました。

競争的な状況が特性を引き出す理由として、次のようなメカニズムが考えられます。まず、競争的な環境では、参加者は自分の能力や特性を積極的に表現する必要性を感じます。また、他者との相互作用が活発になることで、より多様な行動が自然と引き出されます。さらに、時間的なプレッシャーや課題の複雑さが加わることで、より本質的な性格特性が表出しやすくなると考えられます。

この研究の意義は、アセスメントセンターの設計において、評価したい特性に応じて適切なエクササイズを選択することの重要性を科学的に示した点にあります。特に、複数の特性を評価する場合には、競争的な要素を含む課題を取り入れることで、より正確な評価が可能になることが示唆されました。

職場環境デザインと個人特性の調和に向けて

本コラムで検討した実証研究は、職場における人々の行動が、性格特性と状況の相互作用によって生じることを示しています。この知見は、組織のマネジメントに対して示唆を与えます。

組織の環境設計は個人の行動に影響を及ぼします。対人衝突の多い環境や資源の不足は、特定の性格特性を持つ人々の反生産的行動を誘発する可能性があります。また、心理的契約の維持は、ナルシシズムの高い従業員の退職を防ぐ上で不可欠な要素となります。

人材採用の場面では、応募者の性格特性と職場環境の適合性を慎重に検討することが望まれます。同時に、アセスメントを実施する際には、評価対象となる特性に合わせて適切な課題を設定することで、評価の精度を高めることができます。

これらの研究成果は、個人の特性を考慮した組織設計とマネジメントの必要性を強く示唆しています。職場環境が個人の行動にどのような影響を与えるかを理解し、それに基づいて環境を整備することが、組織運営の成功につながるでしょう。

脚注

[1] O’Brien, K. E., Henson, J. A., and Voss, B. E. (2021). A trait-interactionist approach to understanding the role of stressors in the personality-CWB relationship. Journal of Occupational Health Psychology, 26(4), 350-360.

[2] Zagenczyk, T. J., Smallfield, J., Scott, K. L., Galloway, B., and Purvis, R. L. (2017). The moderating effect of psychological contract violation on the relationship between narcissism and outcomes: An application of trait activation theory. Frontiers in Psychology, 8, 1113.

[3] Van Hoye, G., and Turban, D. B. (2015). Applicant-employee fit in personality: Testing predictions from similarity‐attraction theory and trait activation theory. International Journal of Selection and Assessment, 23(3), 210-223.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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