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コラム

眠れる才能を呼び覚ます:性格特性の発現メカニズム

コラム

外向的な人もいれば内向的な人もいます。完璧を目指す人もいれば、おおらかな人もいます。こうした性格特性は、職場での行動やパフォーマンスに色濃く反映されるように思えます。しかし実際には、職場環境とのかかわりの中で、性格特性の発揮のされ方は異なってきます。

例えば、外向的な性格でありながら、それが職場で発揮されない人もいれば、完璧主義者でありながら、ある状況では柔軟に対応できる人もいます。性格特性の発揮は職場環境との相互作用の中で変化するのです。

特性活性化理論は、こうした性格特性と職場環境の相互作用を説明する理論です。どのような環境下で性格特性が活性化され、どのような環境下では抑制されるのか。職場環境をどのように整えれば、従業員の持つ性格特性を活かせるのか。本コラムでは、様々な調査研究の知見をもとに、この問いへの答えを探っていきます。

タスク重要性が外向性を活性化させる

外向性の高い人は、活発で社交的な性格をもっていると認識されています。仕事の場面においても、多くの人と関わりあい、アイデアを積極的に発信する人物像が想起されます。しかし、外向性は職場環境によってその発揮の度合いが変わってきます。ドイツの医療関連企業で働く従業員を対象にした調査では、外向性の高い従業員がその特性を発揮するには、仕事に社会的な意義が感じられることが必要だと分かりました[1]

調査では、医療関連企業に勤務する従業員を対象に、外向性とタスクの意義性、仕事の成果との関係を検証しました。外向性の測定には性格特性を評価する質問票が用いられ、タスク重要性は仕事が他者や社会にどれほど貢献しているかという観点から評価されました。仕事の成果については、職務遂行能力と組織市民行動の二つの側面から測定が行われました。

調査の結果、外向性の高い従業員は、タスク重要性が高い場合に特に優れた職務遂行能力を見せることが明らかになりました。組織市民行動についても同様の結果が確認されています。外向性の高い人は、自分の仕事が他者や社会に大きな貢献をしていると感じられる環境において、その性格特性を発揮できるということです。

この結果を理解する上で鍵となるのが、外向性の高い人が持つ内的動機の構造です。外向性の高い人は、他者から認められたい、影響力を持ちたいという欲求を持っています。この欲求は「地位向上動機」と呼ばれ、外向性の高い人の行動を方向付ける要素となっています。

タスク重要性が高い仕事では、他者や社会に影響を及ぼしているという実感が得られます。この実感は、外向性の高い人が持つ地位向上動機と結びつきます。自分の仕事が他者に価値をもたらしているという認識は、他者からの承認や影響力の獲得という欲求を満たすものとなるのです。その結果、仕事に対する意欲が高まり、職務遂行能力や組織市民行動の向上につながります。

一方で、調査ではタスク多様性(様々な種類の仕事をこなす機会が多いこと)と外向性の関係についても検討されました。しかし、タスク多様性は外向性との間に明確な相互作用を示しませんでした。タスクの多様性が必ずしも外向性の高い人の地位向上動機を刺激するものではないからでしょう。

仕事の自由度が働く意欲を活性化する

働く意欲の高い人は、長時間労働や挑戦的なタスクへの取り組みを厭わない特性があります。パキスタンの自動車産業に従事するエンジニアを対象とした調査では、働く意欲が仕事の自由度によって活性化されることが明らかになりました[2]

調査は、自動車産業の三つの階層(大手メーカー、中小企業、部品メーカー)から選ばれたエンジニアを対象に実施されました。働く意欲の測定には、仕事への取り組み姿勢や意欲を評価する質問票が用いられました。また、仕事の自由度については、業務の進め方や意思決定における裁量の程度が評価されました。

調査の顕著な発見は、働く意欲の高い従業員が、仕事の自由度が高い環境において、より多くのイントラプレナー行動を起こすということでした。イントラプレナー行動とは、従業員が組織内で新しいアイデアを提案したり、既存の仕事のやり方を改善したりする行動を指します。

この結果の背景には、複数の心理的メカニズムが働いています。まず、自由度の高い環境では、従業員は自分の裁量で意思決定を行うことができます。これによって、自己決定感が高まり、内発的なモチベーションが刺激されます。働く意欲の高い従業員は、自己決定感を特に強く感じ取り、それが革新行動につながるのです。

加えて、自由度の高い環境では、新しい試みに対する心理的な障壁が低くなります。従業員は、自分のアイデアを実践する機会を得やすく、また失敗が許容される文化も形成されやすくなります。これらの要因が相まって、働く意欲の高い従業員のイントラプレナー行動が促進されます。

さらに、調査では職務の自由度が従業員の能力開発にも貢献することが示されました。自由度の高い環境では、従業員は新しいスキルや知識を獲得する機会に恵まれます。この点は、働く意欲の高い従業員にとって特に有益です。なぜなら、彼ら彼女らは学習や成長の機会を積極的に活用する傾向があるためです。

プロアクティブ・パーソナリティと職場環境の相互作用は循環的

先を見通して自ら行動を起こすプロアクティブな性格は、どのように職場環境と関わり合うのでしょうか。東ドイツのドレスデンの住民を対象とした3年間の調査では、プロアクティブな性格と職場環境が互いに影響し合い、循環的な関係を形成することが分かりました[3]

調査の特徴は、同じ対象者を3年間にわたって追跡したことです。これにより、プロアクティブな性格が職場環境に及ぼす影響と、逆に職場環境が性格に及ぼす影響を、時間の経過とともに観察することが可能になりました。

調査では、プロアクティブな性格の持ち主が、仕事のコントロール度(裁量や意思決定の自由度)を徐々に高めていく過程が確認されました。プロアクティブな従業員は、業務改善の提案や、新しい仕事の進め方の提案を行います。また、上司との交渉を通じて、より多くの責任や権限を獲得していきます。

このようにして増加した仕事のコントロール度は、さらにプロアクティブな性格を発展させる要因となります。コントロール度が高まると、従業員は自分の行動が成果に直接つながるという実感を得ます。この実感は自己効力感を高め、さらなるプロアクティブな行動を引き出すのです。

調査ではまた、プロアクティブな従業員が上司からの支援をより多く獲得することも明らかになりました。プロアクティブな従業員は、上司との良好な関係を築き、必要なリソースや支援を得る能力に長けています。この支援は、さらなるプロアクティブな行動の基盤となります。

プロアクティブな従業員は、組織的な制約を減少させる能力も持っています。彼ら彼女らは業務の遂行を妨げる障害を特定し、その解決策を提案します。例えば、非効率なプロセスの改善や、必要なリソースの確保などです。制約が減少することで、プロアクティブな行動がより発揮しやすい環境が整うのです。

相互作用的公正が完璧主義の効果を調整する

完璧主義はネガティブな性格特性として捉える側面もありますが、職場環境によってポジティブに機能することもあります。韓国の製造業とサービス業の従業員を対象とした調査では、自己志向型完璧主義(自分に高い基準を課す完璧主義)が、相互作用的公正感(上司が部下を公平に扱う度合い)によって、その効果が異なることが明らかになりました[4]

調査では、上司と部下のペアを対象に、自己志向型完璧主義とタスクパフォーマンス、組織市民行動との関係が分析されました。自己志向型完璧主義の測定には、個人が自分に課す基準の高さや、目標達成への執着度を評価する質問票が用いられました。

調査結果は、完璧主義に対する従来の理解に新たな視点を提供するものでした。自己志向型完璧主義は、タスクパフォーマンスを向上させる効果があることが確認されました。完璧主義の高い従業員は、自分に高い基準を課し、その達成に向けて努力を惜しまない傾向があります。この特性が、業務の質の向上につながるのです。

特に注目すべきは、この効果が相互作用的公正感の低い環境でより強く現れたことです。上司からの公平な扱いが少ない状況において、完璧主義の効果がより顕著になったのです。この一見矛盾する結果には、深い意味があります。

完璧主義の高い従業員は、外部からの支援が少ない環境でも、自分の内的な基準に従って高いパフォーマンスを維持しようとします。これは、完璧主義が持つ内発的な動機づけの強さを表しています。上司からの公平な扱いが少ない状況でも、自分の定めた高い基準に従って仕事を遂行するのです。

対して、相互作用的公正感が高い環境では、完璧主義の効果は相対的に弱まることが分かりました。上司からの公平な扱いや支援が、パフォーマンスを支える外的な要因として機能するためです。要するに、環境からの支援が充実している場合、個人の完璧主義的な特性に頼る必要性が低下するのです。

上司部下関係の質が性格の欠点を補完する

職場での性格特性の発揮は、上司との関係性によっても変化します。多国籍企業のエンジニアを対象とした調査では、上司部下間の関係性が良好な場合、性格特性の欠点が補完されることが明らかになりました[5]

調査の特徴は、性格特性の評価に同僚からの評価を用いたことです。これによって、より客観的な性格特性の測定が可能になりました。調査では特に、誠実性と協調性という二つの性格特性に焦点が当てられました。

調査結果は、上司との良好な関係が性格特性の欠点を補完する効果を持つことを示しました。例えば、誠実性が低い従業員でも、上司との関係が良好であれば、高いパフォーマンスを発揮できることが確認されました。上司からの適切な指示や支援が、個人の性格特性を補完する働きを持つためです。

上司との良好な関係は、具体的にどのように機能するのでしょうか。上司との関係が良好な場合、従業員は必要な時に指示やサポートを受けることができます。これによって、性格特性に起因する弱点が目立たなくなり、パフォーマンスが安定化するのです。

例えば、誠実性の低い従業員は、計画性や細部への注意が不足しがちです。しかし、上司との関係が良好であれば、上司から業務の進め方についてアドバイスを得ることができます。また、重要なポイントについて適切なタイミングでリマインドを受けることもできます。これらの支援が、誠実性の低さを補完する機能を果たすのです。

同様に、協調性の低い従業員についても、上司との良好な関係が補完的な効果を持つことが確認されました。協調性の低い従業員は、チームワークや人間関係の構築に課題を抱えがちです。しかし、上司との関係が良好な場合、上司が仲介役となってチーム内の関係調整を行ってくれます。また、上司からのフィードバックにより、対人関係のスキルを徐々に向上させることも可能です。

調査では、このような補完効果が職場での同僚への助け合い行動において顕著に現れることが分かりました。協調性が低い従業員でも、上司との関係が良好な場合、同僚への支援的な行動が増加する傾向が見られたのです。これは、上司からの働きかけや手本が、従業員の行動変容を促すためと考えられます。

さらに、上司との良好な関係は、職場全体の雰囲気にも影響を与えます。上司と部下の関係が良好な場合、その部下は職場により強い帰属意識を持つようになります。この帰属意識は、性格特性の欠点を補うモチベーションとなり得ます。例えば、誠実性が低くても、職場への愛着から仕事への取り組み方を改善しようとする動きが生まれるかもしれません。

上司との良好な関係は、従業員の心理的安全性も高めます。心理的安全性が確保された環境では、従業員は自身の弱点や課題を率直に認識し、それを克服するための支援を求めやすくなります。これも、性格特性の欠点を補完する要素となっています。

脚注

[1] Dietl, E., and Kombeiz, O. (2021). The interplay between extraversion, task significance, and task variety at work. Personality and Individual Differences, 171, 110471.

[2] Alam, M. Z., Rafiq, M., Alafif, A. M., Nasir, S., and Bashir, J. (2023). Success comes before work only in dictionary: Role of job autonomy for intrapreneurial behaviour using trait activation theory. International Journal of Innovation Science, 16(6), 1100-1116.

[3] Li, W.-D., Fay, D., Frese, M., Harms, P. D., and Gao, X. Y. (2014). Reciprocal relationship between proactive personality and work characteristics: A latent change score approach. Journal of Applied Psychology, 99(5), 948-965.

[4] Kim, M., Kim, S. L., Son, S. Y., and Yun, S. (2022). Perfectionism, interactional justice and job performance: A trait activation perspective. Sustainability, 14(3), 1117.

[5] Kamdar, D., and Van Dyne, L. (2007). The joint effects of personality and workplace social exchange relationships in predicting task performance and citizenship performance. Journal of Applied Psychology, 92(5), 1286-1298.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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