2025年2月10日
なぜ仕事中にSNSを開くのか:変わりゆく働き方とサイバーローフィング
仕事中のSNSチェックやネットサーフィン。このような行為は、なぜ起こるのでしょうか。
従業員は、上司からの不適切な言動にストレスを感じた時、あるいは仕事への意欲が低下した時に、こうした行動を取る可能性があります。しかし、職場環境や個人の性格によって、その表れ方は異なります。
業務時間中の私的なインターネット利用、すなわち「サイバーローフィング」は、複雑な心理メカニズムの産物です。それは時に生産性を低下させる要因となりますが、従業員にとっては息抜きやストレス解消の手段として機能することもあります。
本コラムでは、サイバーローフィングが生じる心理的・組織的なメカニズムを解き明かしていきます。上司の管理スタイル、従業員の性格特性、職場の規範、世代間の認識の違いなど、さまざまな要因がどのように絡み合って、この行動を生み出しているのか。その全体像に迫ります。
侮辱的管理とサイバーローフィング
サイバーローフィングの背景には、上司からの不適切な振る舞いが関係していることがあります。上司による侮辱的な言動や態度は、従業員の感情的な消耗を引き起こし、それがサイバーローフィングにつながる可能性があるのです。
ただし、この関係は単純ではありません。マレーシアの上場企業に勤める255名の従業員を対象とした調査では、上司の不適切な振る舞いは、それ自体が直接的にサイバーローフィングを引き起こすわけではないことが分かりました[1]。むしろ、組織への帰属意識の度合いによって、その影響は異なってきます。
侮辱的管理を受けた従業員は、確かに感情的な消耗を経験します。これは、上司からのネガティブな行動(侮辱、無視、不適切な批判など)によって、従業員の心理的な資源(自己効力感やエネルギー)が消耗するためです。このようなストレスの蓄積は、従業員を心理的・感情的に疲弊させます。
しかし、感情的な消耗を感じたとしても、それが直接的にサイバーローフィングを引き起こすわけではありません。従業員によっては、この状況に対して異なる対処方法を選択することもあります。例えば、業務に集中することで状況を改善しようとしたり、同僚との会話でストレスを解消したりする場合もあります。
組織への帰属意識の役割が興味深いものでした。組織への帰属意識が高い従業員は、感情的に消耗した状態でも、サイバーローフィングを選択する可能性が低くなります。組織に対する忠誠心や責任感が、ストレス状況下でも自制心として働くためです。
一方で、組織への帰属意識が低い従業員の場合、感情的な疲労を感じると、そのストレスを解消する手段としてサイバーローフィングを選択しやすくなります。このような従業員は、組織への忠誠心や動機づけが弱いため、ストレス状況下で業務から逃避する傾向が強まるのです。
このことから、サイバーローフィングは単純な「規律の問題」ではなく、職場環境や心理的要因が複雑に絡み合って生じる現象であることが分かります。上司の不適切な振る舞いは、従業員の感情的消耗を通じて間接的にサイバーローフィングを引き起こす可能性がありますが、その効果は組織への帰属意識によって調整されるのです。
心理的エンパワーメントの意外な効果
従業員に自律性を与え、仕事への意味づけを高める「心理的エンパワーメント」は、一般的に職場における好ましい行動を促進すると考えられています。しかし、サイバーローフィングに関しては、予想に反する結果が得られています。
アメリカの247名の従業員を対象とした調査では、従業員の性格特性として「誠実性」と「情緒的安定性」に注目しました[2]。誠実性が高い人は責任感が強く、ルールに従う傾向があります。また、情緒的に安定している人は、ストレスや感情の波に左右されにくい特徴があります。
調査の結果、誠実性の高い人はサイバーローフィングをする頻度が低くなることが分かりました。責任感の強さとルール遵守の意識が、業務外の行動を抑制するためです。同様に、情緒的に安定している人もサイバーローフィングが少なくなります。感情的な浮き沈みが少ないため、気晴らしとしてインターネットを使用する必要性が低いのです。
職場における公正感は、誠実性の高い人のサイバーローフィング抑制効果をさらに強めることも分かりました。公正な環境では、誠実性の高い人が組織に対する責任感をより強く感じ、非生産的な行動を一層控えるようになるのです。
ところが、心理的エンパワーメントが高い環境では、意外な結果が生じます。調査によると、誠実性の高い人であっても、エンパワーメントが高い状況ではサイバーローフィングが増加する傾向が見られました。
エンパワーメントによって与えられた自由さが、逆効果をもたらしているからかもしれません。従業員が自律的に仕事を進められる環境では、行動の規範が緩くなり、「仕事以外のことをしても許される」という認識が生まれやすくなります。その結果、普段は規律正しい行動を取る誠実性の高い人でも、サイバーローフィングに走る可能性が出てくるのです。
一方で、心理的エンパワーメントは、情緒的安定性とサイバーローフィングの関係には影響を与えませんでした。情緒的安定性の特性は、環境要因に左右されにくく、比較的一貫した効果を持つことが示唆されています。
このことは、職場における自由さを高めることが、必ずしも望ましい結果だけをもたらすわけではないことを示しています。特に、現代のテクノロジー環境では、自由度の高さが非生産的な行動を誘発するリスクがあることを認識する必要があるでしょう。
罰則と組織統制の二面性
サイバーローフィングへの組織の対応として、罰則の適用と組織統制という二つのアプローチがあります。しかし、スペインの公立大学で働く147名を対象とした調査によれば、これらは異なる効果をもたらすことが分かっています[3]。
処罰への恐怖は、意図した効果を生まない、あるいは逆効果となる可能性があります。調査では、罰則を恐れる従業員ほど、むしろサイバーローフィングの頻度が高まる結果が得られました。この一見矛盾する現象には、いくつかの理由が考えられます。
第一に、罰則への恐怖は、従業員に組織への不信感や反発を抱かせます。処罰を強調する管理手法は、「組織から信頼されていない」という感覚を従業員に与え、それが不満や反抗的な態度を生み出すのです。
第二に、リーダーと従業員の信頼関係が損なわれることで、組織への協力的な態度が低下します。社会的交換理論によれば、信頼関係の欠如は従業員の組織への献身度を下げ、かえって非協力的な行動を引き起こす要因となります。
第三に、恐怖というネガティブな感情そのものが、従業員の心理的ストレスを高めます。このストレスが、サイバーローフィングを含む逸脱行動を誘発することになるのです。
一方で、組織統制の認識は、サイバーローフィングを抑制する効果があることが分かっています。ここでいう組織統制とは、組織が従業員の行動を管理・監督している状態を指します。
この効果が生まれる理由として、次のような点が挙げられます。第一に、組織統制を認識することで、従業員は逸脱行動へのリスク意識を高めます。第二に、統制の存在は、規範に従う「外発的動機づけ」として機能します。第三に、適切な統制は、組織の秩序を保つための要素として従業員に理解されやすいのです。
リーダーの物理的な近接性は、この組織統制の認識を高める要因となります。リーダーが近くにいることで、従業員は自然と行動を意識するようになり、それが組織の規範に従う意識を強化するのです。
技術的介入の両面性
サイバーローフィングへの対策として、技術的な監視や規制を導入する企業が増えています。しかし、このような介入策には光と影の両面があることが分かってきました[4]。
技術的介入は、確かにサイバーローフィングを抑制する効果があります。従業員が監視されているという状況は、心理的な抑止力として機能し、業務外のインターネット利用を控えさせる要因となります。この効果は、短期的には顕著に表れます。
しかし、その一方で技術的介入は従業員の心理に負の影響を及ぼす可能性があります。従業員は、監視されることで「プライバシーを侵害されている」という不快感を抱きます。この感情は、組織への不満や不信感につながり、忠誠心を低下させる原因となりかねません。
こうした否定的な影響を緩和するためには、技術的介入の導入方法が鍵となります。調査によれば、組織が従業員に対して公平な説明や配慮を示す「相互作用的公正」が重要です。従業員が「自分は組織から正当に扱われている」と感じられれば、組織への信頼や忠誠心を維持できる可能性があります。
しかし、注意すべき点もあります。相互作用的公正を感じることは、必ずしも直接的にサイバーローフィングの抑制にはつながりません。サイバーローフィングを控える主な理由は、公正な扱いではなく、やはり「監視されている」という意識なのです。
また、過去にサイバーローフィングを頻繁に行っていた従業員ほど、新しい技術的介入に対してより強い抵抗感を示すことも分かっています。これは、習慣化された行動が制限されることへの心理的な反発であり、不満や否定的感情を増幅させる要因となります。
ミレニアム世代の独自の認識
サイバーローフィングに対する考え方は、世代によって異なります。1981年から1995年生まれのミレニアム世代は、この行動を従来とは異なる視点で捉えています。
オーストラリアの大学院生90名(平均年齢23歳)を対象とした調査では、デジタルネイティブであるミレニアム世代にとって、インターネットの利用は日常生活の自然な一部であることが分かりました[5]。そのため、彼らはサイバーローフィングを単なる「逸脱行為」としてではなく、「文化的規範」や「業務効率向上のツール」として認識する傾向があります。
調査では、ミレニアム世代がサイバーローフィングを容認する理由として、いくつかの特徴的なパターンが見出されています。例えば、短時間のサイバーローフィングは「最小限の息抜き」として位置づけられ、業務に支障がない限り問題視されません。例えば、「2-3分の休憩としてソーシャルメディアをチェックする」「短い動画を見る」といった行動を、生産性を維持するための必要な休息として捉えています。
サイバーローフィングは無意識的な習慣として行われることも多く、回答者の多くが「日常的な行動の一部」として認識していました。例えば、メールチェックやSNSの確認を業務の合間に「つい」行ってしまうといった行動が報告されています。
業務量が少ない時や退屈を感じた時には、時間つぶしとしてインターネットを利用する傾向が顕著です。業務が閑散期になると暇つぶしとしてサイバーローフィングを行います。刺激の少ない作業環境では注意力が低下しやすく、新しい刺激を求める心理が働くためです。
一方で、サイバーローフィングには両面性があることも認識されています。回答者は「精神的なニーズ」として行動を正当化する一方で、過度な利用は集中力を削ぎ、業務への復帰を困難にする可能性も指摘しています。
組織的な不公平感やサポートの不足も、サイバーローフィングを促進する要因となります。職場環境に不満を感じると、それに対する小さな報復行動としてサイバーローフィングが選択されることがあります。「自己価値」や「職場環境の公平性」を重視する人にとって、これらが満たされない状況では、サイバーローフィングが増加しやすくなります。
メカニズムを考慮した対策を
サイバーローフィングのメカニズムを理解することは、現代の職場マネジメントにおいて不可欠です。本コラムで見てきたように、この行動は単純な規律の問題ではなく、様々な要因が複雑に絡み合って生じる現象です。
職場のマネジメントにおいては、次の点に留意する必要があるでしょう。
- 第一に、上司の管理スタイルが従業員の感情的な状態に及ぼす影響を認識し、適切なコミュニケーションを心がけることです。
- 第二に、心理的エンパワーメントを高める際は、その自由さが非生産的な行動を誘発する可能性も考慮に入れることです。
- 第三に、技術的な監視や規制を導入する場合は、従業員への丁寧な説明と配慮が必要です。
罰則による抑制は逆効果をもたらす可能性が高く、代わりに組織統制の認識を適切に形成することが効果的です。また、世代による認識の違いを理解し、特にミレニアム世代に対しては、その価値観に配慮した柔軟な対応を検討することが賢明でしょう。
脚注
[1] Lim, P. K., Koay, K. Y., and Chong, W. Y. (2021). The effects of abusive supervision, emotional exhaustion and organizational commitment on cyberloafing: a moderated-mediation examination. Internet Research, 31(2), 497-518.
[2] Kim, K., del Carmen Triana, M., Chung, K., & Oh, N. (2016). When do employees cyberloaf? An interactionist perspective examining personality, justice, and empowerment. Human Resource Management, 55(6), 1041-1058.
[3] Zoghbi Manrique de Lara, P., Verano Tacoronte, D., and Ting Ding, J. M. (2006). Do current anti‐cyberloafing disciplinary practices have a replica in research findings? A study of the effects of coercive strategies on workplace Internet misuse. Internet Research, 16(4), 450-467.
[4] Khansa, L., Barkhi, R., Ray, S., and Davis, Z. (2018). Cyberloafing in the workplace: Mitigation tactics and their impact on individuals’ behavior. Information Technology and Management, 19(3), 197-215.
[5] Chavan, M., Galperin, B. L., Ostle, A., and Behl, A. (2022). Millennial’s perception on cyberloafing: workplace deviance or cultural norm? Behaviour & Information Technology, 41(13), 2860-2877.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。