2025年1月28日
職場のネット私用:サイバーローフィングには両面性がある
インターネットやスマートフォンの普及により、職場での私的なウェブ閲覧、いわゆる「サイバーローフィング」が見られるようになってきました。サイバーローフィングとは、勤務時間中に業務とは関係のないインターネット利用を行うことを指します。たとえば、SNSのチェックやニュースの閲覧、オンラインショッピングなどが該当します。
この現象は一見すると、時間の無駄遣いや生産性の低下につながるように思えます。しかし、実際にはサイバーローフィングには多面的な性質があることが分かってきました。
本コラムでは、サイバーローフィングが職場にもたらす多様な側面について検討していきます。その過程で、単純に「よくない行動」とだけ決めつけることのできない、サイバーローフィングの複雑な性質が浮かび上がってくるでしょう。
効果には二面性がある
サイバーローフィング研究の調査結果によると、この行動は職場に対して相反する二つの作用を持つことが分かっています[1]。
一方では、従業員の心理的リフレッシュにつながる場合があります。短時間のインターネット利用によって新しい刺激を受け、それまでの業務で生じた精神的な疲労が和らぐことを報告しています。同じ作業を継続することで負荷がかかりますが、異なる種類の活動に切り替えることでその負荷が分散され、結果として疲労回復につながります。
また、サイバーローフィングを通じて得られる情報が、予期せぬ形で業務に貢献することもあります。例えば、趣味に関連するブログを読んでいた従業員が、そこで紹介されていたデザインや表現方法のアイデアを自身のプレゼンテーション資料に応用できるかもしれません。ニュースサイトで目にした技術動向の記事から、新しいビジネスチャンスを発見できるかもしれません。
その一方で、サイバーローフィングの悪影響も見えてきています。長いインターネット利用が発生すると、その後の業務再開に時間がかかり、予定されていた作業の完了が遅れます。インターネット利用に没入することで時間感覚が鈍り、また業務モードへの切り替えに予想以上の時間を要するのです。
さらに、職場の協働作業における問題も指摘されています。会議中にスマートフォンを頻繁に確認する従業員がいると、議論の流れが中断され、他のメンバーの集中力も低下します。特に、重要な意思決定を行う場面での私的なインターネット利用は、判断の質を下げ、プロジェクト全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
ポジティブな面もある
サイバーローフィングに関する別の研究では、この行動が従業員のストレス解消に寄与することが報告されています。IT業界や製造業、教育業など、多岐にわたる職場で働く172名の従業員を対象に調査が実施されました[2]。
調査によると、従業員は継続的な業務の後にインターネット利用を行うことで、心拍数や血圧の低下が観察されました。また、ストレスホルモンの一種であるコルチゾールのレベルも減少します。このような生理学的な変化は、次の業務に向けた心身の準備状態を整えることにつながっています。
業務関連の知識獲得という観点でも、サイバーローフィングの効果はあります。従業員は、専門分野のニュースサイトや技術ブログを閲覧する中で、自身の業務に関連する新しい情報に偶然出会うことがあります。
例えば、マーケティング担当者が消費者トレンドに関するブログを読んでいた際に、自社製品の新たな販売戦略のヒントを得たり、エンジニアが技術フォーラムを見ていて、自身が抱えていた課題の解決策を発見したりすることもあるでしょう。
集中力の回復についても検討が加えられています。連続作業後にインターネット利用を行った従業員グループと、休憩なしで作業を続けた従業員グループを比較すると、前者は後者に比べて、その後の業務における集中力の維持が優れていることが分かります。
インターネット利用を通じた創造性の向上も注目されています。従業員が様々なウェブサイトを閲覧することで、異なる分野のアイデアや手法に触れ、それらを組み合わせることで新しい発想が生まれる可能性があります。
他のローフィングとも関連する
従業員の心理的態度や組織の特徴がサイバーローフィング行動に及ぼす影響について研究が行われています。従業員143名を対象に調査が実施されました[3]。
調査結果からは、仕事への関与度が高い従業員ほど、サイバーローフィングを行う頻度が低いことが明らかになりました。業務に対して使命感や達成欲求を持つ従業員は、作業の途中で気が散るような行動を避ける傾向が見られました。これらの従業員は、一つの課題に取り組む際に深い没入状態に入りやすく、その状態を維持するために意識的に注意の分散を避けます。
同様に、内発的関与が高い従業員も、サイバーローフィングを控える特徴が見られました。これらの従業員は、自分の仕事が組織の目標達成に貢献していると認識しており、その認識が業務への集中力と結びついていました。このような従業員は、業務時間中の私的なインターネット利用を「組織の信頼を裏切る行為」として捉えるのでしょう。
職場における同僚の行動も、サイバーローフィングの発生に影響しています。調査データによると、同じ部署内で同僚がサイバーローフィングを行っている場合、他の従業員も同様の行動を取る確率が上昇します。職場での行動規範が周囲の様子を観察することで形成され、「みんながやっているなら問題ない」という認識が生まれるためです。
管理職のインターネット利用に関する考え方も、従業員の行動に関連していることが明らかになりました。例えば、管理職が「インターネットは仕事の効率を上げるツールだ」と発言したり、自身も業務中にニュースサイトを閲覧したりする様子を見せることで、部下の間に「インターネット利用は広く認められている」という認識が広がります。この認識は、業務目的以外のウェブ閲覧も暗黙的に容認されているという解釈につながり、サイバーローフィングの増加を招いていました。
サイバーローフィングと他の非生産的行動との関連も調査されています。サイバーローフィングを行う従業員は、他の形態の非生産的行動も行う傾向があることが判明しました。例えば、これらの従業員は私的な会話や電話、不必要な休憩、私用での外出を行っていることが確認されています。
これらの行動の背景には、仕事に対する集中力の維持や時間管理に関する個人的な特性が存在します。例えば、長時間の集中作業が苦手な従業員は、様々な形で業務から離れる機会を作る傾向があります。また、締め切り管理が不得手な従業員は、時間の使い方に対する意識が低く、様々な形の非生産的行動を取りやすいのでしょう。
不公正感を埋め合わせる
従業員のサイバーローフィング行動と組織的公正感との関連性を調べた研究を紹介しました。職場でインターネットを利用可能な社会人188名を対象に行われた研究です[4]。
調査結果によると、組織的公正感が低い従業員ほど、サイバーローフィングを行う傾向が強いことが明らかになりました。組織的公正感は、分配的公正、手続き的公正、相互作用的公正の3つの側面から検討されました。
分配的公正に関する分析では、従業員が自身の給与や昇進機会が貢献度に見合っていないと感じる場合、それを補償するような行動を取ることが観察されました。
例えば、残業手当が十分に支払われていないと感じる従業員は、その埋め合わせとして業務時間中に私的なインターネット利用を行う傾向が見られました。また、同僚と比較して自分の評価が不当に低いと考える従業員も、その不満をサイバーローフィングという形で表現していました。
手続き的公正については、昇進や報酬の決定プロセスが不透明だと感じる従業員の行動が分析されました。これらの従業員は、人事評価の基準が曖昧であったり、評価者の主観に左右されすぎていたりすると感じており、そうした不満をサイバーローフィングという形で表していました。例えば、評価面談で十分な説明を受けられなかったと感じる従業員が、その後の数週間でサイバーローフィングの頻度を増加させるというイメージです。
相互作用的公正の面では、上司からの不適切な扱いを受けた従業員の反応が検討されています。例えば、上司から一方的な叱責を受けたり、必要な情報が適切に共有されなかったりした場合、従業員はその精神的なダメージを緩和する手段としてサイバーローフィングを選択します。
研究では、従業員による行動の正当化プロセスも分析されました。従業員は、過去の頑張りや貢献を一種の「貯金」として認識しており、その貯金を使って現在のサイバーローフィングを相殺する考え方を持っていました。
例えば、「先月の大型プロジェクトで休日出勤をしたのだから、今日は少し自由に使っても良いはずだ」といった思考パターンを持つということです。また、「普段から定時後の残業をしているのだから、その分を日中に取り戻しても問題ない」という考え方もあり得ます。従業員が組織との関係を一種の取引として捉え、その収支バランスを調整する手段としてサイバーローフィングを利用していることを示しています。
職場攻撃の悪影響を弱める
サイバーローフィングは職場の攻撃性への対処メカニズムとして機能します。週20時間以上働く大学生258名を対象に調査が実施されました[5]。
調査では、職場で言語的攻撃や身体的攻撃を受けた従業員の反応が検証されました。その結果、このような攻撃を受けた従業員は職務満足度が低下し、離職意図が高まる傾向にあることが分かりました。
しかし、こうした状況下でサイバーローフィングを行う機会があった従業員の場合、職務満足度の低下が抑制され、離職意図の上昇も抑えられることが分かりました。サイバーローフィングが職場のストレス状況から一時的に距離を置く機会を提供し、感情を落ち着かせる時間を確保できるためと考えられています。
サイバーローフィングがストレス緩和に効果を発揮する理由として、次のような心理メカニズムが想定されます。まず、ストレスフルな状況に直面した時、人は通常、「闘争か逃走か」の反応を示します。しかし、職場では物理的な逃避や攻撃的な反応は許されません。そこで、インターネット利用という形で心理的な逃避を行うことで、ストレス反応を和らげることができます。これは、「情動焦点型コーピング」と呼ばれる対処方法の一種です。
例えば、上司から不当な叱責を受けた従業員が、その直後にスマートフォンで友人とのSNSでのやり取りや、心を落ち着かせるような動画の視聴を行うかもしれません。この行動は、ストレス状況から心理的に距離を取り、感情を整理する時間を確保する効果があります。
従業員は、インターネットを通じて全く異なる世界や情報に接することで、現在の不快な状況から精神的に離れることができます。例えば、趣味に関連するウェブサイトを閲覧したり、娯楽的な記事を読んだりすることで、職場でのネガティブな出来事を一時的に忘れ、心理的な安定を取り戻すことができます。
サイバーローフィングは「マイクロブレイク」という観点からも有効性が指摘されています。これは短い休憩を指す概念で、この間にインターネットを利用することで、ストレス状況下で高まった心拍数や血圧を正常値に戻す効果があります。
感情管理の面でも、サイバーローフィングの効果が得られます。職場での攻撃的な状況は、怒りや不安、悲しみといった強い負の感情を引き起こします。これらの感情が高ぶった状態で、インターネットを通じて自分の好きなコンテンツに触れることで、感情の強度が和らぎます。
サイバーローフィングの背後に目をやる
本コラムでは、サイバーローフィングが職場にもたらす様々な側面について検討してきました。この行動は、単純に「生産性を下げる有害な行為」と片付けることはできません。職場のストレスや不公正感に対する従業員の対処行動として捉えることも可能です。
研究が示すように、サイバーローフィングには職場環境や人間関係における様々な課題が反映されています。組織の公正性が保たれていない場合、従業員はその不満の表現としてこの行動を選択する場合があります。また、職場での攻撃的な行動に対する防衛手段として機能することも明らかになっています。
一方で、適度なインターネット利用は、従業員の心理的健康や業務の質にポジティブな影響をもたらす可能性も示されています。短時間の気分転換は心身の疲労回復を促し、新たな発想や情報の獲得にもつながります。ただし、その頻度や時間が過度になると、むしろ生産性の低下や職場の人間関係に悪影響を及ぼす可能性にも注意が必要です。
今後の職場マネジメントにおいては、サイバーローフィングの背景にある従業員の心理や職場環境の課題に目を向ける必要があるでしょう。組織の公正性を高め、ストレスフルな状況への対処手段を提供することで、健全な職場環境の構築が可能になると考えられます。
脚注
[1] Tandon, A., Kaur, P., Ruparel, N., Islam, J. U., and Dhir, A. (2022). Cyberloafing and cyberslacking in the workplace: Systematic literature review of past achievements and future promises. Internet Research, 32(1), 55-89.
[2] Sao, R., Chandak, S., Patel, B., and Bhadade, P. (2020). Cyberloafing: Effects on employee job performance and behaviour. International Journal of Recent Technology and Engineering, 8(5), 1509-1515.
[3] Liberman, B., Seidman, G., McKenna, K. Y., and Buffardi, L. E. (2011). Employee job attitudes and organizational characteristics as predictors of cyberloafing. Computers in Human Behavior, 27(6), 2192-2199.
[4] Lim, V. K. (2002). The IT way of loafing on the job: Cyberloafing, neutralizing and organizational justice. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 23(5), 675-694.
[5] Andel, S. A., Kessler, S. R., Pindek, S., Kleinman, G., and Spector, P. E. (2019). Is cyberloafing more complex than we originally thought? Cyberloafing as a coping response to workplace aggression exposure. Computers in Human Behavior, 101, 124-130.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。