2025年1月24日
「同じはず」の思い込みを防ぐ:研究が明かすメソッド
会議で発言する時、「皆も私と同じ考えのはずだ」と思うことはありませんか。あるいは、商品やサービスに魅力を感じ、「周りの人も同じように感じているはずだ」と考えることはありませんか。
私たちの周りには、多様な考え方や価値観を持つ人々が存在しています。しかし人は無意識のうちに、自分の考えや行動が周囲の人々と共通していると捉えてしまいます。この心理的特徴は、個人の判断から組織の方針決定に至るまで、意思決定に影響を与える可能性があります。
自分の意見や行動が他者にも共有されていると過度に見積もってしまうことを「フォールス・コンセンサス」と呼びます。この効果は、日々の生活や仕事における判断に根付いており、時として誤解や対立を生み出す原因となります。
フォールス・コンセンサスは、どのような仕組みで生じ、どのような状況で強まるのでしょうか。そして、この効果を緩和するには、どのような対策が機能するのでしょうか。本コラムでは、研究知見に基づき、この問題について検討します。
曖昧な選択肢や一般的な質問ほど起こる
フォールス・コンセンサスは、特定の条件下で一層強く現れることが判明しています。その条件とは、選択肢の曖昧さと質問の一般性です。
32種類の質問を8人の評価者に提示し、解釈の余地の程度を7段階で評定する実験が行われています[1]。その後、200人を超える参加者に同一の質問への回答を求め、他者の選択予測と実際の選択との関係を分析しました。
結果、質問の曖昧さとフォールス・コンセンサスの間には、確かな関係が観察されました。解釈の幅が広がる質問においては、自分の選択が他者と共通していると過度に見積もる傾向が見えました。
例えば、「2000年までに地球外生命体が発見されると考えるか」という質問では、「地球外生命体」の解釈や「発見」の基準が回答者によって異なります。微生物レベルの生命を想定する人もいれば、高度な知的生命体を思い描く人もいるでしょう。
解釈の幅が広い質問においては、回答者それぞれが自身の解釈に基づいて判断を下します。そして、その解釈が自然なものだと認識するため、他者も同様の考えを持っているという前提を無意識のうちに置いてしまいます。
対照的に、解釈の余地が限られた具体的な質問では、このような特徴は相当程度弱まることが確認されました。研究グループは検証のため、同一内容の質問を一般的な表現と具体的な表現の2パターンで提示する実験を行いました。200人の学生を対象に、3つの選択肢について、それぞれの表現形式で回答を収集しました。
好みの色を尋ねる質問を例に取ると、「どちらの色が好きか」という一般的な質問と、「タン色とアクア色のどちらが好きか」という具体的な質問を対比しました。
一般的な質問では、「色」の概念に対する解釈が人によって異なり、自分の選好が他者と共通していると過度に見積もる性質が見られました。これに対し、色を特定した質問では、選択の対象が明確となり、他者の選好が自分と異なる可能性を現実的に考慮できることが分かったのです。
この実験は、解釈の違いがフォールス・コンセンサスの強弱と関係することを示唆しています。音楽の好みに関する実験では、この点がより鮮明に浮かび上がりました。
「1960年代と1980年代の音楽、どちらが好きか」という質問について、各年代の音楽への解釈は回答者によって相当程度の開きがありました。
1960年代の音楽を選択した人々は、ビートルズやボブ・ディランを代表例として思い浮かべ、その時代の音楽を高く評価していました。一方、1980年代の音楽を選択した人々は、マドンナやマイケル・ジャクソンを念頭に置き、その時代の音楽に強い魅力を見出していました。
こうした解釈の相違は、個人の嗜好を超えて、各時代の音楽に対する価値基準の違いにまで及んでいました。1960年代の音楽を選ぶ人々は、社会的メッセージ性や芸術性を評価基準としていました。これに対し、1980年代の音楽を選ぶ人々は、エンターテインメント性やダンス性を評価基準としていました。
同一の選択肢でも解釈が異なる状況では、各人が自身の解釈を当然のものと捉えがちです。そして、その解釈が普遍的だと考え、他者も同一の基準で判断するはずだと想定してしまいます。加えて、自身の解釈に基づく選択への確信が強いほど、その選択が他者と共通しているはずだという思い込みも強まります。
この思い込みは、相手の立場や視点を理解する際の障害となります。意思決定や合意形成の場面では、各人が異なる解釈に基づいて判断を行っているにもかかわらず、その違いに気づかないまま議論が進んでいくことで、誤解や対立が生まれる可能性があります。
情報とインセンティブが与えられると抑制可能
フォールス・コンセンサスは、情報提供と金銭的インセンティブを組み合わせることで抑制できることが判明しました。研究では、80名の経済学・ビジネス管理専攻の学生を対象として、5回のセッションを独立して実施しました[2]。
各セッションにおいて、16名の参加者が2つの選択肢から1つを選択し、その後、無作為に選ばれた他の参加者グループの選択を予測するよう指示を受けました。この際、参加者の半数には他の参加者の選択に関する情報が渡され、予測の精度に応じて金銭的な報酬が付与される仕組みが採用されました。
セッションでは、「公共財」や「脱税」などの社会問題に関する選択を求め、その後、他の参加者がどのような選択を行うかの予測を実施しました。予測が実際の選択パターンに近似するほど、報酬額が増加する設計が導入されています。
結果的に、情報提供と金銭的インセンティブを併用した条件下では、フォールス・コンセンサスが低減することが明らかになりました。参加者は自分の選択が他者の間でも一般的だと過度に評価することを避け、データに基づいた客観的な予測を行うようになったのです。
特筆すべき点として、この条件下では、参加者が自分の選択を過度に評価するどころか、逆に過小評価する傾向さえ観察されました。参加者は他者の選択に関する情報を検討し、自分の選択が少数派である可能性も視野に入れた予測を行うようになったわけです。
こうした結果が得られた背景には、2つの要素が存在すると考えられます。第一に、他者の選択に関する情報が提供されることにより、参加者は自分の感覚や体験だけでなく、事実に基づいて判断を行えるようになりました。「自分の選択が一般的である」という思い込みを修正する機会が生まれたのです。
第二に、金銭的インセンティブの存在が、慎重で分析的な判断を促す作用をもたらしました。予測の精度が報酬額と連動することにより、参加者は主観的な思い込みを超えて、客観的な分析を心がけるようになったと解釈できます。
参加者が他者の選択パターンを学習し、その知見を活用して予測の精度を向上させていく過程も確認されました。情報提供によって、参加者は自分とは異なる選好や価値観を持つ人々の存在を認識し、その多様性を予測に反映できるようになったということです。
また、金銭的インセンティブは、参加者の認知的な努力を促進する機能も持ち合わせていました。報酬の最大化には正確な予測が不可欠であり、そのためには入念な分析と判断が必要とされます。この動機づけにより、参加者は直感的な判断を再検討し、深い思考を行うようになったと考えられます。
マインドフルネスによって弱められる
フォールス・コンセンサスの緩和において、マインドフルネスが有用であることが解明されています[3]。マインドフルネスとは、現在の状況に意識を向け、先入観や固定観念から離れ、物事を客観的に捉える心理状態を意味します。
近年の研究で注目を集めているのが、個人レベルのマインドフルネスを超えた「チーム・マインドフルネス」という新しい概念です。これは、チーム全体が協働して注意深く、柔軟に状況を理解し対応する能力を表しています。
個人のマインドフルネスが個人の認知や判断を対象とするのに対し、チーム・マインドフルネスは、チーム全体としての認識や対応能力の向上を目指すものです。
チーム・マインドフルネスを構成する要素として、最初に「オープンマインド」が挙げられます。これは、チームメンバーが多様な視点や意見を受容し、固定観念や既存の枠組みから自由に、新たな可能性を探求する姿勢を表しています。オープンマインドな状態では、自分の意見と異なる見解であっても、それを排除せず、対話の機会として受け止めることが可能です。
次に「参加」の要素です。これは形式的な参加にとどまらず、メンバーが主体性を持って議論に加わり、自分の考えや感じ方を率直に共有することを指しています。各メンバーが自由に意見を表明できる環境では、多様な視点が自然と集積し、チーム全体の視野が拡大します。
加えて、「エンパワーメント」という要素も不可欠です。これは、チームメンバーが自発的に行動し、責任感を持って意思決定に関与する状態を表しています。エンパワーメントされたメンバーは、自分の判断や行動に自信を持ち、必要に応じて意見の相違を表明する力を備えています。
これらの要素が結合することで、チーム内の認知的な偏りが自然と減少していきます。例えば、オープンマインドな環境で、メンバーが主体的に参加し、それぞれがエンパワーメントされている状態では、多様な意見が尊重され、良質な対話が生まれやすくなります。
結果として、チーム全体としての判断や意思決定の水準が向上し、フォールス・コンセンサスが弱まっていきます。各メンバーが異なる視点や解釈の存在を認識し、それらを建設的に活用できるようになるためです。
異なる立場の情報を得れば和らぐ
フォールス・コンセンサスを弱める方法として、異なる立場からの情報を意識的に取り入れることが指摘されています。この点について、280人の大学生を対象とした研究を紹介しましょう[4]。
研究では、参加者を複数のグループに区分し、社会問題について賛成派と反対派の両方の見解を提示しました。注目に値するのは、同世代の人々が異なる見解について話し合う様子を記録したビデオを活用した点です。
このビデオには、参加者と同様の背景を持つ学生たちが、ある問題について異なる立場から意見を述べ、討論を展開する様子が収められていました。
このアプローチが優れた成果を上げた理由は、私たちの日常における情報収集の偏りを補完する機能を果たしたからです。一般に、人は自分と類似した考えを持つ人々と交流する機会が多く、異なる意見に接する機会は制限されています。この同質性バイアスにより、自分の意見が標準的だという錯覚が強化されやすい状況にあります。
しかし、ビデオを通じて異なる立場の意見を観察することで、参加者は他者の視点をより実践的に、そして具体的に理解することが可能となりました。同世代の人々による討論を見ることで、異なる意見が特殊なものではなく、それぞれに論理的な根拠を有していることを体感できたのです。
研究の中で際立った結果が見られたのは、動物実験に関する議論についてでした。ここでは、ビデオ視聴によってフォールス・コンセンサスが消失するという結果が得られました。動物実験に賛成する参加者は、反対派の主張を聞くことで、自分の立場が必ずしも支配的ではない可能性を認識し、慎重な判断を行うようになりました。同様に、反対派の参加者も、賛成派の根拠を理解することで、自分の立場を絶対的なものとは考えなくなったのです。
映像による情報提供が優れた効果を発揮した背景として、次のような点が考えられます。
第一に、映像情報は文字や音声と比較して強い印象を残し、記憶に定着しやすい性質を持ちます。ビデオを通じて異なる立場の人々の表情や態度、感情を直接観察することで、その意見の背景にある思考や価値観を深く理解することが可能となりました。
第二に、同世代の人々による討論という設定が、参加者の共感を喚起する作用を持っていました。自分と近い立場の人々が異なる意見を持つ様子を観察することで、「自分とは異なる考えを持つ人々も、特殊な存在ではない」という認識が形成されやすくなったのです。
第三に、ビデオによる情報提供は、異なる立場の意見を「生の声」として伝えることを可能にしました。これによって、参加者は各立場の主張を現実的なものとして受け止め、自分の意見との差異を客観的に評価できるようになりました。
脚注
[1] Gilovich, T. (1990). Differential construal and the false consensus effect. Journal of Personality and Social Psychology, 59(4), 623-634.
[2] Engelmann, D., and Strobel, M. (2000). The false consensus effect disappears if representative information and monetary incentives are given. Experimental Economics, 3, 241-260.
[3] Selart, M., Schei, V., Lines, R., and Nesse, S. (2020). Can mindfulness be helpful in team decision-making? A framework for understanding how to mitigate false consensus. European Management Review, 17(4), 1015-1026.
[4] Bauman, K. P., and Geher, G. (2002). We think you agree: The detrimental impact of the false consensus effect on behavior. Current Psychology, 21(4), 293-318.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。