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コラム

リーダーシップ・プロトタイプと組織力:期待がもたらす現実への影響

コラム

リーダーシップは、組織の成果やメンバーのモチベーションに直接的な影響を及ぼす重要な要素です。その中でも「リーダーシップ・プロトタイプ」と呼ばれる概念は、人々がリーダーに対して抱く典型的なイメージや期待を反映しており、リーダーシップ研究の中で注目されています。

リーダーシップ・プロトタイプは「暗黙の理論(Implicit Leadership Theories: ILT)」[1]に基づき、人々が無意識に持つリーダーの特性や行動に関する信念として形成されます。代表的なプロトタイプには「カリスマ性」「知性」「感受性」「献身」などが挙げられますが、これらの要素は一様ではなく、文化や組織の風土、評価者の価値観や経験により変化します。

このようなリーダーシップ・プロトタイプの存在は、リーダーの評価やリーダーシップ・スタイルへの期待に無意識の影響を与え、リーダーの行動がそのプロトタイプにどれだけ合致しているかが、評価の基準となることがよくあります。例えば、カリスマ性や献身を重視する文化では、そうした特性を持つリーダーが「理想的」とされ、高い評価を受ける傾向があります。逆に、こうした期待とリーダーの実際の行動がかけ離れている場合、評価が下がる可能性があるのです。

この視点は、リーダーシップの評価において、いかに人々の期待や価値観が重要な役割を果たすかを示しており、リーダーシップを考察する上で欠かせない要素となっています。

本コラムでは、リーダーシップ・プロトタイプに関する研究知見をもとに、フォロワーの成果への影響、信頼構築、性別による違い、文化的背景の影響、ロールモデルの効果、そして注意すべきネガティブな影響について考察していきます。これにより、リーダーシップ・プロトタイプの理解を深め、組織マネジメントにおいて役に立つ洞察を提供します。

リーダーが集団の理想だとフォロワーの成果があがる

リーダーシップにおける社会的アイデンティティ理論を発展させ、リーダーの「集団のプロトタイプ性」とその影響に焦点を当てたメタ分析を紹介します[2]。メタ分析は、過去に独立して実施された複数の研究結果を集めて統合し、それらを用いて解析を行う方法のことです。

米国の研究者が128の独立した研究(合計32,834名のデータ)を対象に、リーダーが「集団のプロトタイプ」を体現しているかどうかが、リーダーシップの効果にどのように影響を与えるかを調べました。

具体的には、リーダーのプロトタイプ性が強い場合、つまり「リーダーらしさ」が強く出ているリーダーは、影響力や評価が高まり、それがフォロワーの行動的成果にもポジティブな影響を与えることが分かりました。また、この効果はリーダーが「集団の理想」を体現していると認識された場合に特に強く、グループ内での長期的なリーダーシップの役割が効果をさらに高める要因として作用していることが確認されました。さらに、正式なリーダーシップの役割を担っている場合(例をあげると組織階層での上級職)に、この効果は強化されることが明らかになりました。

また、リーダーの「集団奉仕行動」にも注目が必要です。リーダーがフォロワーに対してサービス精神を持って接し、チーム全体の利益を優先する行動を示すことが、リーダーシップの有効性をさらに強化することが確認されました。これにより、リーダーとフォロワーの関係がより強固なものとなり、集団の連帯感が高まります。

実践的含意として、この研究はリーダーの選抜や育成において、リーダーがグループのアイデンティティを体現しているかどうかが非常に重要であることを示唆しています。特に、リーダーが単に指示を与えるだけでなく、フォロワーに対して「我々は誰か」という共通のビジョンを具現化できるかどうかが、リーダーの成功にとって重要です。このため、リーダーシップ開発においては、リーダー候補が組織の文化や価値観を深く理解し、それを行動で示せるようにすることが求められます。

マネジメントへの応用として、組織はリーダー選抜の際に、その人物が「集団の一員」としての特性を備えているかどうかを評価する基準を明確にする必要があります。リーダーがグループの一員として認識されることで、フォロワーのエンゲージメントや協力が向上し、集団全体のパフォーマンスも向上します。このため、単なるスキルや経験に基づく選抜基準に加え、リーダー候補がいかにして集団のアイデンティティを体現しているかを見極めることが重要です。

この研究は、リーダーシップの効果を向上させるためには、単にリーダーシップ・スキルを磨くだけでなく、リーダーがフォロワーと共有する社会的アイデンティティを形成し、強化することが重要であることを強調しています。リーダーの選抜や育成に携わるマネジメント層は、この視点を取り入れることで、リーダーシップの有効性を最大限に引き出すことができるでしょう。

リーダーが集団の価値観を体現するとフォロワーがより信頼する

リーダーシップが効果的に発揮されるためには、フォロワーがリーダーを集団の一員と認めることが重要です。リーダーが集団のアイデンティティをどの程度体現しているか(「集団プロトタイプ性」)が、リーダーシップの効果にどう影響するかを調査した研究があります[3]。過去の研究をレビューし、不確実性の低減、リーダーの公正さ、リーダー自身のプロトタイプ性認識、創造性や革新性に注目しました。

具体的に言うと、リーダーが集団のアイデンティティや価値観を体現しているとフォロワーが感じるほど、フォロワーはリーダーに対する信頼を強く持つということです。

このリーダーシップ・プロトタイプは、リーダーが全てのフォロワーに公平に接することで信頼を高め、不安や迷いを減らす効果があります。リーダーがグループの理想像を体現することで、フォロワーは「このリーダーと行動をともにすること」が「合理的で現実的な選択である」と感じやすくなり、安心感が得られるのです。

さらに、リーダーシップ・プロトタイプはフォロワーの創造性やイノベーションにも影響を及ぼします。創造性やイノベーションを重視する文化がある集団では、プロトタイプ的なリーダーの存在がフォロワーの内発的な動機を引き出し、組織の競争力強化につながる可能性が示唆されています。

この研究は、リーダーにとって、集団の価値や目標を自らの行動で示すことが信頼構築に繋がるという実践的含意を持ちます。例えば、組織が変革を進める際に、リーダーが組織の価値やビジョンを体現し、変革の重要性をフォロワーに伝えることで、組織全体が変革を受け入れやすくなることが期待されます。特に、不確実性の高い環境では、リーダーが集団の一員として認識され、信頼されることが、組織の安定に貢献します。

組織運営において、リーダーが集団のプロトタイプ性を体現することの意義は大きいです。リーダーは、まずチーム全体の目標や価値を深く理解し、それを日々の行動や意思決定で示すことが必要です。例えば、組織が顧客第一主義を掲げている場合、リーダーが顧客対応で模範的な行動を示すことで、フォロワーも自然とその価値を共有し、行動に移しやすくなります。さらに、不確実性が高い状況、特に変革期においては、リーダーがチームの安定を図り、不確実性を解消する役割を果たすことが求められます。これにより、フォロワーがリーダーに安心して従い、集団としての一体感を強化できるでしょう。

リーダーシップ認知には性別バイアスが存在する

リーダーの性別とオーセンティック・リーダーシップ(自分の価値観や倫理観を軸にリーダーシップを執り組織をまとめること)に対する認知の関連性についての研究があります[4]

この研究は、リーダーシップに対する認知がどのように形成されるかに焦点を当てており、特に女性リーダーの認知に関する新たな視点を提供しています。5つの個別研究で構成され、各研究がリーダーシップ認知に対する異なる要素を分析し、女性リーダーには周囲の人が以下の傾向を特徴として認識することが見出されました。

5つの研究

研究1:女性および男性のリーダー・ターゲットに関連するプロトタイプが明示的に活性化された場合のオーセンティック・リーダーシップの認知を分析する研究

研究2:オーセンティック・リーダーシップの4つの次元を別々に分析し、女性および男性のリーダー・ターゲットに対するオーセンティック・リーダーシップの認知を再度検討する研究

研究34:オーセンティック・リーダーシップが、女性および男性のターゲットに関連するリーダー・プロトタイプをどのように活性化させるかを検証する研究

研究4:活性化効果がオーセンティック・リーダーシップと他の共同リーダーシップ・スタイルで類似しているかどうかを評価する研究

研究5:共同的リーダーシップ・スタイルと代理的リーダーシップ・スタイルにおける反応待ち時間を比較する研究

女性リーダーの特徴(周囲からの認識)

  • オーセンティック・リーダーシップとして認知されやすい
  • 高い透明性や倫理性を示す
  • 共同的リーダーシップ・スタイルをとる
  • プロトタイプに一致しないリーダーシップ・スタイルが印象形成を遅らせる

この調査から得られた知見は、リーダーシップ認知が固定されたプロトタイプに基づいているだけでなく、リーダーの性別やリーダーシップ・スタイルといった柔軟な文脈的要因にも影響を受けることを示しています。特に、オーセンティック・リーダーシップが性別に依存しない形でポジティブに認知される可能性が示唆されています。この結果は、女性リーダーがリーダーシップを発揮する際の偏見を減少させ、彼女たちが効果的にリーダーシップを発揮する土壌を作るための重要な示唆を提供します。

実践的含意として、組織のマネジメント層やリーダーシップ開発担当者は、リーダーシップ認知に対する性別バイアス(リーダーの性別によってフォロワーの認識に違いが出る)の存在を認識し、オーセンティック・リーダーシップの実践を促進することが求められます。このリーダーシップ・スタイルは、透明性や倫理性を重視し、フォロワーとの信頼関係を築くことを目指すもので、組織の効果性を高める可能性があります。

さらに、マネジメント層は、女性リーダーが持つ共同的リーダーシップ・スタイルが、チームのエンゲージメントや協力体制を強化する点に注目できます。共同的リーダーシップは、透明性や協力体制を重視し、チームのエンゲージメントや生産性を向上させる傾向があるため、男女問わず共同的リーダーシップが発揮できるよう、部下やメンバーとの関係構築を奨励する文化を作ることが推奨されます。また、共同的リーダーシップをサポートするマネジメントの方針を示すことで、組織全体の協力体制が強化され、パフォーマンス向上につながると考えられます。

マネジメントへの応用としては、リーダー選抜や評価のプロセスにおいて、女性リーダーの共同的リーダーシップ・スタイルやオーセンティック・リーダーシップの特性を意識的に評価することが重要です。女性リーダーの活躍を支援するために、客観的な評価基準を設け、直感的な偏見が入りにくい評価方法を導入することが有効です。

例えば、管理職や評価者を対象としたアンコンシャスバイアス(無意識のうちに偏見をもつこと)研修を導入し、リーダーの性別によらず、公平なリーダーシップの評価基準を設けることが求められます。これにより、性別に関係なく公平にリーダーシップを評価できる仕組みが整い、女性リーダーが持つ実力を正当に評価しやすくなります。

父性的リーダーシップは権力格差の大きい集団主義的文化圏において顕著

父性的リーダーシップに関する調査があります。父性的リーダーシップは、リーダーが従業員の職場および私生活に対して親のように関わり、ケアや指導を行うリーダーシップ・スタイルであり、その見返りに従業員から忠誠や服従が期待されるものです。

本研究は、文化的な背景によって父性的リーダーシップがどのように認識され、他のリーダーシップ・スタイルとどう関わるかを明らかにするために、6か国(中国、トルコ、パキスタンといった権力格差が大きい集団主義的文化圏、アメリカ、ドイツ、オランダといった権力格差が小さい個人主義的文化圏)1272名の従業員が参加で実施されました[5]

父性的リーダーシップと他のリーダーシップ・プロトタイプ(権威主義的リーダーシップ、養育的タスクリーダーシップ、変革的リーダーシップ、参加型リーダーシップ)の相互関係を調査しました。各リーダーシップ・スタイルについては、理想的なリーダーシップ行動を示す行動項目を評価してもらい、父性的リーダーシップが他のリーダーシップとどのように関係しているか、または異なるかを多国間で分析しました。

分析の結果、権力格差が大きい集団主義的な文化圏(中国、トルコ、パキスタン)においては、父性的リーダーシップは権威主義的リーダーシップおよび養育的タスクリーダーシップと関係性が深いことが明らかになりました。これは、集団主義文化においてリーダーが親のように部下を養育し、権威をもって接する姿勢が理想的とされていることを反映しています。

一方、権力格差が小さい個人主義的な文化圏(アメリカ、ドイツ、オランダ)では、父性的リーダーシップが権威主義的リーダーシップや養育型リーダーシップとの関係性は弱く、父性的リーダーシップに求められる役割も異なることが示されました。特に個人主義的文化圏では、リーダーが従業員の私生活にまで介入することへの受け入れ度が低く、父性的リーダーシップが必ずしも権威主義的であることは望まれていないようです。

さらに、変革的リーダーシップや参加型リーダーシップは文化圏に関わらず、父性的リーダーシップと類似した側面を持ち、どの文化でも関係性を示しました。これは、変革的・参加的リーダーシップに含まれる「部下への個別的配慮」や「チーム志向」といった特性が、多くの文化圏で理想的なリーダー像として普遍的に支持されている可能性を示唆しています。

本研究の結果は、リーダーシップにおける文化的適応の必要性を示唆しています。特に権威主義的な姿勢や従業員の私生活に対する干渉が容認されやすい文化圏では、父性的リーダーシップが効果的に機能し、従業員の忠誠心を引き出すのに適しています。しかし、個人主義的文化では、リーダーが権威を強く示すことや私生活に踏み込むことは反発を招く可能性が高く、慎重な対応が求められます。

本研究から得られるマネジメントへの応用として、文化に応じたリーダーシップの適応が挙げられます。まず、上司と部下の上下関係が強い文化圏では、リーダーは部下に対して親密な支援を行うだけでなく、職場外の生活にも配慮することで、部下からの信頼や忠誠を得やすくなります。このようなスタイルは、組織全体の士気を高め、従業員が積極的にリーダーを頼り、組織の目標達成に貢献する環境を醸成します。

一方、個人主義的文化圏においては、リーダーが変革的でありつつ、従業員の自主性を重んじるアプローチが効果的です。個別的配慮を示しつつも、権威的な態度や過度な私生活への干渉を避け、従業員の自律性を尊重する姿勢が求められます。これにより、従業員がリーダーに対して信頼関係を構築し、組織へのエンゲージメントが向上するでしょう。

ロールモデルがリーダーシップに与える影響は強い

リーダーシップへの動機に影響を与える要因を調査した研究があります。この研究では、個人が自分のリーダーシップ基準を振り返り、どれだけその基準に適合しているかを感じることが、リーダーシップへの動機づけにどう影響するかに焦点を当てています。

具体的には、180名の経営幹部を対象に、「自己模範比較」と「自己プロトタイプ比較」という2つの軸で自己とリーダーの比較を行いました[6]。自己模範比較とは、自分と具体的で影響力のあるリーダーとの比較で、自己プロトタイプ比較は、一般的なリーダー像との比較を意味します。

本研究は、過去または現在に影響を与えた特定のリーダーとの自己比較が、リーダーシップへの動機づけに対してポジティブな効果をもたらすことを確認しました。模範的なリーダーと自分自身の一致度が高いほど、自分のリーダーシップ能力に対する自信が強まり、リーダーシップへの動機づけが高まります。

また、一般的なリーダーシップ像との自己比較においても、自己がリーダー像に適合すると感じるほどリーダーシップへの動機づけが高まることが確認されました。興味深いことに、前者の影響はリーダーシップ自己効力感を介した間接的なものである一方、後者の影響はリーダーシップ自己効力感を介さず直接的にリーダーシップへの動機づけに作用している点が示唆されました。

つまり、具体的なリーダーとの自己比較では「自分にもリーダーシップが発揮できる」という自信が間接的に意欲を高めるのに対し、一般的なリーダー像との比較では「自分が理想のリーダー像に近い」と感じること自体が直接的に意欲を引き上げる、ということです。

本研究の結果は、リーダーシップ育成において、リーダーシップの役割を担う個人がどんなリーダーになりたいかや、理想とするリーダー像との関係を理解することの重要性を示しています。マネージャーや経営幹部が、過去に影響を受けたリーダーや、理想とするリーダー像を振り返ることで、リーダーシップに対する自己効力感を高められるのです。この自己認識の過程は、コーチや仲間との対話や、影響力のあるリーダーの具体例に基づいた自己評価を通じて促進されるでしょう。

組織内のリーダーが、特に若手や新任のリーダー候補に対して積極的にロールモデルとしての影響を与えることも望まれます。管理職が次世代リーダーに自分のリーダーシップの姿を意識的に示すことで、若手がリーダーシップを自分の一部と認識しやすくなります。

本研究を組織マネジメントに応用するための実践的な方法の一つとして、メンタリング・プログラムの強化が挙げられます。リーダーとしての成長が期待される社員に、影響力あるリーダーの行動や価値観を学ぶ機会を与えることで、将来的なリーダーシップの動機づけを高めることができます。また、現在の管理職が部下に与える影響を自覚し、自己評価や360度評価などのフィードバックを活用して自己改善に努めることも効果的です。

加えて、自己とプロトタイプの比較を通じて、リーダーシップの基準を個々のリーダーが再確認する機会を設けることが有益です。組織全体としてリーダーシップに関する基準を示すとともに、個々のリーダーが自分自身のリーダーシップ観や目指す姿を明確にすることで、リーダーがリーダーシップを自分の一部と感じ、強い動機を持ってその役割に取り組む土壌を整えられるでしょう。

リーダーの権力濫用に注意

リーダーシップ・プロトタイプが集団に与える影響について調査した社会的アイデンティティ理論に基づく研究があります[7]。社会的アイデンティティ理論は、個人が自分自身を「社会的なカテゴリー」(例:職場、民族、性別など)と結びつけてアイデンティティ(自我同一性)を形成するプロセスを説明する理論です。その理論では、リーダーシップとは社会的アイデンティティと結びついた「自己カテゴリー化」と「プロトタイプ化」に基づく脱人格化プロセスで生まれるものであると提唱しています。

このプロセスによって、集団内のリーダーは最も「プロトタイプ的」なメンバーと見なされ、リーダーの意見や行動がグループ全体に影響を与える一方で、リーダーとフォロワーの地位差が構造化されていきます。この理論の実証は、研究室と現場調査を通じてなされ、リーダーのプロトタイプ性がリーダーシップの支持に強く影響することが確認されています。

調査の結果、集団内で強いプロトタイプ的特徴を持つリーダーは、個人的な権力を行使しなくても影響力を持つことができ、自然な形でフォロワーを引きつけ、支持を得やすくなることがわかりました。また、メンバーがリーダーと強く同一化することで、リーダーにカリスマ性が生まれるとともに、集団内の凝集力が増し、外部集団に対して競争的な姿勢が取られる傾向も示されました。

一方で、リーダーのプロトタイプ性が強調されすぎると、グループ内におけるリーダーとフォロワーの距離が生じ、リーダーがフォロワーをステレオタイプ(固定観念)的に見る、もしくは権力を濫用する可能性があるといったリーダーシップの落とし穴も指摘されています。

この理論の実践的な意義として、組織におけるリーダーシップを考える際には、単に個々のリーダーの資質や能力だけでなく、集団におけるリーダーの「プロトタイプ性」を理解することが重要であると言えます。特に変革期において、リーダーが明確な価値観を示し、従業員と共通の社会的アイデンティティを形成することで、不確実性が軽減され、従業員の結束が強まる可能性があります。

マネジメントとしては、リーダーがプロトタイプ的役割を過度に強調しすぎることで独断的な態度に陥らないよう、リーダーに対してメンタリングや定期的なフィードバックを通じてバランスの取れたリーダーシップを支援することが有効です。

組織が多様化する現代において、プロトタイプ的リーダーシップは、メンバーの結束を促進しやすい一方で、異なる背景を持つ人材がリーダーシップの役割を担うことに対する心理的な壁を生む可能性があります。そのため、マネジメントにはリーダーシップの多様性を尊重し、集団の中に異なるプロトタイプ的リーダー像が受け入れられる環境づくりが求められます。

リーダーシップ・プロトタイプが組織に与える実践的含意

リーダーシップ・プロトタイプは、組織の成果やメンバーの行動に影響を及ぼす多くの要因が含まれています。文化、性別、組織の風土などにより異なる形で形成され、リーダーの評価や影響力、さらにはフォロワーのエンゲージメントにも大きく関わっています。

例えば、リーダーが集団の価値観や目標を体現する場合、フォロワーはリーダーを「理想的なリーダー」として信頼しやすくなり、その影響力は増大します。逆に、プロトタイプから外れる行動が目立つリーダーは、評価が低下しやすく、フォロワーの支持を得ることが難しくなります。また、性別や文化によるバイアスがリーダーシップの評価に影響を与える場合もあり、特に女性リーダーがリーダーシップを発揮する場面では、この点への理解が欠かせません。

リーダーシップ・プロトタイプの理解は、組織内でのリーダー選抜や育成にも応用できます。リーダーが組織の文化や価値観を深く理解し、その理念に基づいて行動することが、フォロワーとの信頼関係の構築やリーダーシップの有効性を高めるためには重要です。さらに、リーダーがフォロワーに対して一貫して透明性や倫理性を示し、共通の目標に向けて協力を促すリーダーシップ・スタイルを取ることで、組織全体のパフォーマンスが向上することが期待されます。

結論として、リーダーシップ・プロトタイプの理解を深め、組織の風土や価値観に合ったリーダーシップを実践することが、現代の多様化する職場環境において不可欠であるといえます。リーダーシップ開発や評価において、プロトタイプの視点を組み込むことにより、リーダーシップの質を向上させ、組織全体の成果に寄与することができるでしょう。

脚注

[1] Offermann, L. R., Kennedy Jr, J. K., & Wirtz, P. W. (1994). Implicit leadership theories: Content, structure, and generalizability. The leadership quarterly, 5(1), 43-58.

[2] Steffens, N. K., Munt, K. A., van Knippenberg, D., Platow, M. J., & Haslam, S. A. (2021). Advancing the social identity theory of leadership: A meta-analytic review of leader group prototypicality. Organizational Psychology Review, 11(1), 35-72.

[3] Van Knippenberg, D. (2011). Embodying who we are: Leader group prototypicality and leadership effectiveness. The leadership quarterly, 22(6), 1078-1091.

[4] Braun, S., Peus, C., & Frey, D. (2018). Connectionism in action: Exploring the links between leader prototypes, leader gender, and perceptions of authentic leadership. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 149, 129-144.

[5] Aycan, Z., Schyns, B., Sun, J. M., Felfe, J., & Saher, N. (2013). Convergence and divergence of paternalistic leadership: A cross-cultural investigation of prototypes. Journal of International Business Studies, 44, 962-969.

[6] Guillén, L., Mayo, M., & Korotov, K. (2015). Is leadership a part of me? A leader identity approach to understanding the motivation to lead. The Leadership Quarterly, 26(5), 802-820.

[7] Hogg, M. A. (2001). A social identity theory of leadership. Personality and social psychology review, 5(3), 184-200.


執筆者

樋口 知比呂 株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
博士(人間科学)×人事専門家×キャリコン。アカデミック経歴は、立命館大学大学院博士課程修了 Ph.D(人間科学)、カリフォルニア州立大学MBA、早稲田大学政治経済学部卒。UCLA HR Certificate取得。研究テーマは、ワーク・エンゲイジメント、従業員エンゲージメント、モチベーション。従業員エンゲージメントに関する研究論文で人材育成学会奨励賞受賞。職業経歴は、通信会社で人事担当者、コンサルティングファームで人事コンサルタント/シニアマネージャー、銀行で人事部長を含む役席者を経て、2021年よりFWD生命にて執行役員兼CHROを務める。人事専門家として20年超の実務経験を有する。国家資格キャリアコンサルタント。

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