2025年1月14日
NECソリューションイノベータ株式会社|データ分析で挑むエンゲージメントスコア向上
(左から)株式会社ビジネスリサーチラボ 伊達洋駆、藤井貴之、NECソリューションイノベータ株式会社 人財企画部 湯本淳様、泉弘基様
NECグループのデジタルソリューション事業を支える中核企業であるNECソリューションイノベータ株式会社。
同社は、最先端の技術力を駆使して企業や自治体の課題解決を支援するとともに、人材の採用と育成を一体化した戦略を推進。社員一人ひとりが成長し続ける環境を整備し、技術力と社会貢献意識の両面でリーダーシップを発揮できる人材の育成に注力しています。
ビジネスリサーチラボは同社に対して、組織サーベイデータの分析レクチャーを行いました。同社の湯本様、泉様にお話を伺いました。
エンゲージメントスコア向上への課題
伊達:
ビジネスリサーチラボにご相談いただく前に、どのような課題を感じておられたのか、お聞かせいただけますか。直面されていた課題についてお伺いできればと思います。
湯本:
現在、エンゲージメントスコアの向上が重要な経営課題の一つとなっています。このスコアはKPIとして設定され、組織の評価にも影響する指標として、グループ全体で重視されています。
ただし、スコアを上げることだけを目的化すると本末転倒になりかねません。そのため、エンゲージメントスコアが低い原因を分析する必要性を感じていました。しかし、回答データ自体が外部のベンダーが保有しており、詳細な分析が難しい状況でした。そこで、人事データの分析に長けた企業を探していたところ、社内から貴社を紹介してもらえました。
伊達:
エンゲージメントスコアについて数値目標が設定されているのでしょうか。
湯本:
はい、具体的なターゲットがNECグループ全体で設定されています。
伊達:
スコアを高めていくためには、従業員が高いエンゲージメントで働ける環境を整備する必要があります。何が重要かは企業によって異なるため、組織サーベイの分析を通じて、貴社固有の要因を明らかにしたかったということですね。
湯本:
その通りです。以前から組織サーベイは実施していましたが、それを経営指標として本格的に活用し始めたのはここ数年のことです。それまでは調査は行っていたものの、その結果を積極的に活用するまでには至っていませんでした。
また、一般的に効果があるとされる施策はありますが、それが本当に私たちの会社に適しているのかという疑問もありました。サーベイには経営陣、人材活用、ダイバーシティ、マネジメントなど多くの項目があります。どの要因が最も効果的なのか、特にテクノロジー企業である私たちにとって何が重要なのかを理解したいと考えていました。
データ分析パートナーとの出会い
伊達:
ビジネスリサーチラボをお選びいただいた背景や理由について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
湯本:
弊社内の社員から貴社のことを紹介してもらいました。当初は具体的な成果物を求めていたわけではなく、私たちが抱える課題について一緒に検討してくれるパートナーを探していました。その過程で、貴社との対話を通じて様々な可能性が見えてきて、データ分析のレクチャーについてお願いすることになりました。
伊達:
その社員の方は、弊社が実は何度かお仕事をご一緒したことがあります。湯本さんはその方とは、どのような接点があったのでしょうか。
湯本:
その社員は私たちのテクノロジープラットフォームサービス事業ラインで、女性活躍推進を担当しています。最近では女性管理職比率の向上が求められており、NECグループ全体でもその課題に取り組んでいます。彼女は事業ラインの幹部メンバーの一人として、女性活躍推進に向け事業部横断的に関わっていました。そうした議論の中で私が人事担当として接点があり、データ分析のパートナーを探していた際に、ビジネスリサーチラボをご紹介いただいたという流れです。
伊達:
女性活躍推進の文脈でお話をする機会があり、そこから弊社への相談につながったということですね。
データ制約を乗り越えた新たなアプローチ
伊達:
プロジェクトの具体的な内容について振り返っていきます。弊社チーフフェローの藤井から、プロジェクトの流れと、印象に残っているエピソードについて話してもらいます。
藤井:
プロジェクトの流れとしては、組織サーベイのデータからエンゲージメントスコアの向上に寄与する要因を特定することから始まりました。具体的には、貴社内で分析を実行できるように、分析手法をレクチャーすることになりました。そのために、まず分析可能な形でデータを入手することから始めました。
実際の作業としては、データを分析可能な形に整理し、分析を実施し、その手法を共有させていただきました。さらに、分析結果をもとに、先行研究も参考にしながら、どのように改善を進めていくか、どの要因に注目して対策を講じていくかなどについて、一緒に検討させていただきました。
私自身の印象として特に記憶に残っているのは、ローデータを直接扱えないという難しい状況でした。これまでの経験でも、ローデータを扱えないケースは珍しく、手元にあるデータをどのように分析していくかという点で興味深い挑戦でした。データの抽出作業では大変ご苦労をおかけしましたが、それを乗り越えて分析が可能になったことを感謝しています。
伊達:
データの扱い方をめぐっては苦労しましたね。
湯本:
私たちもデータ分析の専門家ではないので、相談相手として支援していただければと考えていました。しかし、実際にお話を進める中で、個人ではなく組織を単位として事業ライン全体の傾向を分析するというアイデアをいただき、「そういう方法があったのか」と気づきを得ました。そこから可能性を感じ始めたことが、強く印象に残っています。
伊達:
組織単位で紐づけて分析するという手法は、他社の事例でも採用されているケースがあります。例えば、匿名で実施される年次サーベイで時系列分析をしたい場合、個人の回答を追跡することができないため、組織レベルでの分析を行うことがあります。今回は単年度のデータでしたが、システムの仕様上、個人単位ではなく組織単位でデータを扱うアプローチを取らせていただきました。これは工夫のポイントでもあり、検討時間を要した部分でもありました。
分析結果の活用と統計リテラシー
湯本:
プロジェクトを通じて特に印象に残っている点が二つあります。一つ目は、組織単位で分析することで、個人データがなくても事業ライン全体の傾向を把握できることがわかったことです。
二つ目は、分析結果の取り扱いについてです。分析結果について、そのまま現場に開示すると誤解を招く可能性があるものが含まれていました。数値自体は正確でも、その解釈を誤ると、マネージャー層に誤った印象を与えかねません。そのため、初年度は直接的な数値の開示は控え、環境改善の必要性を伝えつつ、内発的な動機づけを重視したコミュニケーションを心がけました。
伊達:
泉さんはいかがでしょうか。
泉:
私は統計学を学んだ経験がなく、これまでは網羅的に分析を行っていたため、非常に時間がかかっていました。今回、相関分析や回帰分析という手法を初めて知り、こういったツールがあれば非常に効率的だと感じたことが印象に残っています。
湯本:
これは時代の変化かもしれませんね。私の世代では文系でも大学で統計学を学ぶ機会がありましたが、最近はそうでもないようです。ただ、今回のプロジェクトを通じて、専門家に依頼した方が効率的だと実感しました。基本的な概念は理解しておいたほうが良いのは承知で、まさに「餅は餅屋」という感じですね。
伊達:
統計学の知識や手法について、学びの早さには大きく二つの要因があると感じています。一つは、基礎知識があること。もう一つは、データ集計の経験があることです。後者の場合、これまで手作業で行っていた分析が、統計的手法を使うことでより効率的に実施できることを実感できるため、理解が早い傾向にあります。
湯本:
当社の例を挙げると、数値を見る感覚が身についている社員は学習が早いですね。一方で、ゼロからそういった感覚を養うのは難しく、適切なサポートがないとスムーズに進まないとも感じます。
伊達:
人事領域でのデータ活用が10年前、20年前と比べて進んできています。この流れは今後も続くと思われますし、データリテラシーの重要性はさらに高まっていくでしょう。
泉:
実務面での印象深い出来事として、サーベイの仕様変更があった際の対応があります。データの項目が一つずれているだけでも大きな影響があるため、迅速な確認が必要でした。これまではデータを分析する立場の人がいることを想定していなかったのかもしれません。
湯本:
確かに、サービス提供側も、これまでは自社での分析はあまり想定されていませんでした。今後はサービスの形自体も変わっていく可能性があるでしょう。
ただし、人事データの分析では個人情報の取り扱いが重要な課題となります。年齢や部署といった属性情報から個人が特定される可能性があります。この点は、データを活用するときには気を遣っていきたいところです。
2年目の検証で見えた施策への示唆
伊達:
プロジェクト後、レクチャーを受けた内容をもとに、新しいデータの分析に取り組まれた際、うまくいったことや苦労された点などを教えていただけますか。
湯本:
先ほど申し上げた通り、初年度は、分析結果をそのまま現場に共有すると誤解を招く可能性があり、データの解釈と伝え方に苦労しました。そのため、内発的動機づけを重視したコミュニケーションを心がけました。
一方で、2年目の分析を行ったときの興味深い発見として、エンゲージメントに影響を与える要因が、1年目と重複していることがわかりました。特に経営陣の影響が大きいことがわかり、この結果を踏まえて実際に役員が各拠点を回るという施策を実施しました。
さらに、全社で重点的に取り組むべき項目として指定された項目と、我々の分析で特定したエンゲージメント向上に効果的な項目に若干のずれがありました。そのため、社内で相談し、全社の方針を尊重しつつ、我々の分析結果は切り札として取っておくことにしました。
実際には、3ヶ月ごとに実施しているパルスサーベイの数値が順調に上がっていったため、その切り札を使う必要はありませんでした。しかし、この分析結果があることで、社内で一定の安心感が得られたようです。
また、分析手法については、カルチャー変革担当や人事部門の他のシニアマネージャーにも共有しました。実際の分析方法や、どのようにデータを作成すれば良いかなどを紹介しました。今年も2月に組織サーベイの結果が出るので、その結果を共有し、再度働きかけを行おうと考えています。
泉:
私の方では、新しいデータが来た際に、前年度との比較で項目数が増えていることに気づき、その対応に苦労しましたね。
湯本:
属性の区分が増えていたのですが、これはグループ全体でデータを見ている部門が新しい分析を試みようとした結果だと思われます。ただ、その変更が事前に共有されていなかったのは、おそらく「データを分析するであろう」ということが想定されていなかったからでしょう。
伊達:
組織サーベイの目的の一つは、要因を明らかにしていくことですが、実際にはその機能が実装されていないケースもあります。その意味で、皆さんが要因検証に積極的に取り組まれているのは素晴らしいことだと思います。その一方で、データを分析したからこそ見えてくるものの難しさもあり、その調整も必要だったということですね。
湯本:
数値は事実を示していますが、解釈の仕方は様々です。事業部の方々も、それぞれの事業環境の中で独自の視点を持っています。我々の分析の視点と現場の視点が完全に一致することは稀です。そのため、数値が一人歩きしないよう、事業の実態を踏まえた丁寧な説明が必要だということを、今回改めて学びました。
データ統合による予防的アプローチへの展望
伊達:
人事領域におけるデータ活用について、今後どのような可能性を感じておられますか。構想レベルで結構ですので、お考えをお聞かせください。
湯本:
まず、当社のビジネス環境について説明させていただきます。当社は工数に基づくビジネスを行っており、社員の働き方が直接的に損益に影響します。収益性の高いプロジェクトと低いプロジェクトがあり、それと社員のパフォーマンスの両方が会社の業績を左右します。
実は社内には様々なデータが存在しています。例えば、直接工数と間接工数、営業支援や研究開発の工数、残業時間、PCの稼働状況などです。PCの稼働データからは、いつ会議をしているか、どのような作業をしているかといった情報も得られます。また、各作業に対する請求先や実績などの情報も紐づいています。
しかし現状では、これらのデータが統合されていません。例えば、社員の不調に関する問題が発生してから対応するという後手に回った状況です。本来であれば、PCの稼働状況の低下や、会議での様子の変化、チーム内での関係性の変化など、様々な予兆を捉えることができるはずです。
これがコロナ前であれば、「顔や雰囲気を見れば、メンバーの状況と原因になんとなくアタリがつく」という事ができたように思いますし、実際に現場では上司も部下も「ちょっと話をしませんか」というアプローチもやっていました。ただ現在、当社ではリモート勤務を積極的に取り入れモニター越しの会話も増やしていますので、利点の反面、「ちょっとした違いに気づいて声をかけあう」ということも少し難しくなってきています。従い予兆検知を現場の人間力だけに頼るのは現実的ではないのではと思うところです。
また、人事部門としては健康診断データなども保有していますが、こういった情報と日常の業務データを適切に組み合わせることができていません。社員の健康関係データは非常に機微なデータですので、その取り扱いにはくれぐれも留意しつつ、直属の上司が把握できる情報と、人事部門が把握できる情報の両方を見ながら、問題の予兆を捉えて早期に対応できる仕組みはないものかと考えています。
伊達:
様々なデータを統合して活用することで、問題が発生した後の対応ではなく、予防的なアプローチが可能になるということでしょうか。
湯本:
はい。特に最近は、メンタルヘルスの問題が増加傾向にあると感じています。環境への適応が難しいケースや、担当業務や人間関係の変化による疲労の蓄積など、様々なパターンがあります。
当社は工数管理が基本となるビジネスモデルで、プロジェクトを組み合わせて収益を上げる必要があります。そのため、事業戦略と人材マネジメントを密接に結びつけて考える必要があります。今後、顧客のニーズが変化し、生産人口が減少し、一人当たりの負荷が増加しかねない中で、事業構造も変えていかなければならなくなることが予想されます。そのような状況で社員の心身の健康を維持しながら事業を継続していくためにも、データを活用した予防的なアプローチが重要だと考えています。
泉:
私も同じ考えです。退職や休職など、何らかの予兆があるはずです。例えば、入社時の適性検査の結果と残業時間を組み合わせて、タイプ別のケアが必要なポイントを特定できれば良いですね。
湯本:
最近、比較的パフォーマンスが高く組織にも馴染んでいる社員が退職するケースが増加しつつあるように感じています。当社では毎年1回、社員一人一人が自らのキャリアをレビューし、懸念や今後の希望等をシステムに登録し上司に提出しています。そこで「今の業務について、自分は適性がある/やりがいがある/やりやすい環境にある」「異動を希望しない」と回答している社員は、大抵パフォーマンスも悪くないものです。
そうすると、組織としても問題が無いものとして現状の延長戦上での活用を推進する。勿論、それ自体がダメというわけでは決してないのですが、おそらく、自身の適性や能力を理解しているからこそ、より良い機会を求めて転職を選択するのだと思います。先に出た社員の不調という観点とは別ですが、このような優秀な人材の流出を防ぐためにも、データを活用した早期把握と対応が必要だと感じています。