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コラム

錯誤相関:なぜ私たちは少数派を誤って判断してしまうのか

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私たちは日々、様々な情報に接しながら判断を下しています。しかし、その判断は必ずしも正確とは限りません。特に、少数派グループに対する認識において、私たちは思い込みや偏見に陥りやすいものです。この現象は「錯誤相関」と呼ばれ、人々の意思決定に関わっています。

錯誤相関とは、実際には存在しない関連性を認識してしまう現象です。例えば、組織の中で少数派の部署のメンバーが一度でもミスを犯すと、その部署全体が「ミスが多い部署」とみなされてしまうことがあります。こうした認識の歪みは、職場における評価や意思決定に予想以上の影響を及ぼすことがあります。

本コラムでは、錯誤相関がなぜ発生し、どのように私たちの判断を左右するのか、その実態と背景を探っていきます。この現象が組織や職場でどのような形で現れるかを考察し、認識の歪みについての理解を深めていきたいと思います。

錯誤相関はなぜ現れるのか

人間の認知における錯誤相関の発生メカニズムは、記憶と注意の特性に関係しています。これまでの研究によれば、錯誤相関は特に少数派グループと否定的な行動の組み合わせにおいて顕著に確認されています[1]

例えば、参加者に多数派グループAと少数派グループBの行動に関する記述文が提示された実験があります。「グループAのメンバーが期限内に仕事を完了した」(肯定的行動)や「グループBのメンバーが会議に遅刻した」(否定的行動)といった行動の記述をイメージしてください。

実験では、両グループとも全行動のうち70%が肯定的な行動、30%が否定的な行動となるように設定されており、この比率は両グループで同じでした。しかし、後で参加者に記憶内容を尋ねると、少数派グループBの否定的な行動の割合を実際より高く見積もる傾向が見られました。

実際には両グループとも否定的な行動は30%だったにもかかわらず、参加者は少数派グループBの否定的な行動をより頻繁に起きていたと誤って記憶していたのです。

実験では、参加者に提示される情報量を段階的に増やしていきました。最初は各グループ10件ずつの行動記述から始まり、徐々に量を増やして最終的には各グループ50件の行動記述が提示されました。

情報量が増えるにつれて、参加者は全ての情報を正確に記憶することが難しくなります。このような状況下で、人は特徴的な情報に注目する傾向が強まります。特に、少数派グループの否定的な行動は、その希少性から目立つ情報として認識されやすく、記憶に強く残ります。

例えば、多数派グループAの行動が40件、少数派グループBの行動が10件提示された場合、グループBの否定的な行動は相対的に強く印象に残り、後の判断により影響を与えることが明らかになりました。これは、情報過多の状況で人間の認知システムが効率的に情報を処理しようとする際の反応パターンを示しています。

錯誤相関が起きる理由として、人間の記憶における「顕著性」の作用が挙げられます。珍しい出来事や特徴的な情報は、記憶に残りやすい性質があります。少数派の行動は相対的に観察機会が少ないため目立ちやすく、特に否定的な行動と組み合わさると、その印象が強く記憶に刻まれるわけです。

人間は判断を下す際、記憶に強く残る情報の組み合わせを基準にします。実験において、この傾向は特に「少数派グループの否定的な行動」と「多数派グループの肯定的な行動」という2つの組み合わせで顕著でした。

これは、両方の情報が特徴的であるため記憶に残りやすく、その結果、判断の基準として用いられやすいからです。少数派グループの否定的な行動は、その発生頻度が少ないからこそ目立ち、記憶に鮮明に残ります。多数派グループの肯定的な行動も頻繁に観察されるため、典型的な事例として記憶されます。このように、記憶に残りやすい情報の組み合わせが、私たちの判断に影響を与えています。

こうした認知の特性は、職場における評価にも反映されることがあるかもしれません。例えば、新しい部署や少人数のチームのメンバーが一度でもミスを犯すと、そのチーム全体の能力が低いと評価されやすくなります。珍しい存在(少数派のチーム)と否定的な出来事(ミス)が結びつきやすい特性が働いているためです。

手続き的公正の認識に影響を与える

錯誤相関は、組織における公正さの認識にも関係しています。人々が組織内での扱いの公平性をどのように判断するかが調査されています[2]

2つの架空のグループABについて、職場での扱われ方に関する様々な場面が参加者に提示されました。例えば、昇進の機会、研修の参加機会、会議での発言機会など、日常的な職場での扱いに関する情報が含まれていました。

実際のデータでは、両グループは同じように公平な扱いを受けていました。しかし、参加者はグループBを少数派として認識すると、このグループが不公平な扱いを受けているという印象を持つようになりました。特に発言機会が制限される場面や、昇進が見送られる場面など、否定的な状況において顕著でした。

この認識の歪みは、提示される情報の量によって強められることが分かりました。実験では、多数派グループAの情報が少数派グループB2倍以上提示される条件が設定されました。例えば、グループAのメンバーの職場での経験が20件提示されるのに対し、グループB8件しか提示されないといった具合です。

この場合、参加者は少数派グループBへの不公平な扱いをより強く認識する傾向を見せました。情報量の差が大きくなるほど、この傾向は強まりました。多数派の情報が「標準的な扱い」として認識され、それと比較して少数派への否定的な扱いが際立って見えるからです。

公正さの認識における情報の非対称性の影響は、より複雑なメカニズムで作用することが明らかになっています。例えば、多数派グループAについては100件の職場での出来事が報告され、そのうち80件が公平な扱い、20件が不公平な扱いであったとします。

一方、少数派グループBについては20件の出来事が報告され、そのうち16件が公平な扱い、4件が不公平な扱いであったとします。この場合、両グループとも不公平な扱いの割合は20%で同じですが、参加者は少数派グループBがより不公平な扱いを受けていると認識しました。

多数派グループの経験が「標準的な扱い」として受け取られ、その標準と比較して少数派グループの経験が評価されるのです。少数派グループへの不公平な扱いは、その出現頻度が少ないために一つ一つの事例が際立って記憶に残り、全体の印象形成に影響を与えることが分かっています。

実験参加者の判断を分析すると、少数派グループへの不公平な扱いは、一度でも観察されると記憶に残ることが分かりました。これは、少数派の経験する不利益が印象的な出来事として捉えられ、その後の判断に影響することを意味します。

不完全な学習過程で起こる

錯誤相関は、学習の過程で一時的に発生する現象であることが確認されています。実験参加者は、2つのグループの行動に関する情報を継続的に学習する中で、最初は正確な判断を示しましたが、学習の途中で錯誤相関を形成し、十分な学習後には再び正確な判断を取り戻しました[3]

架空のグループAとグループBについて、職場での行動に関する記述が段階的に提示されました。例えば、「期限内にプロジェクトを完了した」「チームメンバーを助けた」といった肯定的な行動や、「会議に遅刻した」「報告書の提出を忘れた」といった否定的な行動が含まれているイメージです。

参加者は9回のセッションに分けて情報を受け取り、各セッション終了後に両グループに対する印象を7段階で評価することを求められました。最初の3セッションでは、参加者は両グループに対してほぼ同じ評価を下しました。これは、情報が少ない段階では慎重な判断を行う傾向があることを示しています。

しかし、4から6セッション目になると、少数派グループBに対する評価が徐々に低下し始めました。否定的な行動に関する印象が強くなり、グループ全体の評価にマイナスの影響を与えることが観察されました。

学習条件を変えた追加実験では、詳細な分析が行われました。グループABの肯定的な行動の比率を意図的に変更しました。一つの条件では、グループAの行動の80%を肯定的なものとし、グループB60%としました。別の条件では、逆にグループBの行動の80%を肯定的なものとし、グループA60%としました。

このような比率の操作によって、参加者の認知バイアスがどのように形成されるかを検証しました。結果、少数派であるグループBの行動の方が、たとえ実際には肯定的な行動が多い場合でも、否定的に評価される傾向が確認されました。これは、情報の非対称性が認知バイアスを生み出す要因となっていることを示唆しています。

人間の認知過程は、学習の進行に応じて変化を見せます。初期段階では、参加者は限られた情報しか持っていないため、慎重に判断を行う傾向があります。この時点では、情報が少ないことを自覚しているため、性急な一般化を避け、両グループに対して中立的な評価を維持します。

中間段階に入ると状況が変化します。情報量が増えることで、参加者は全ての情報を同じように処理することが難しくなります。記憶負荷の増大により、特徴的な情報、すなわち「少数派グループの否定的な行動」に注目が集まりやすくなります。限られた認知資源を効率的に使用するための自然な反応ですが、同時に判断の歪みを生む原因となります。

学習が最終段階に達すると、十分な量の情報に触れることで、参加者は両グループの類似性に気付き始めます。この段階では、少数派グループの肯定的な行動や、多数派グループの否定的な行動にも注意が向けられるようになります。

その結果、初期の偏った評価が修正され、客観的な判断が可能になります。このことは、錯誤相関が不完全な学習状態で一時的に発生する現象であることを表しています。学習が完全な状態に近づくにつれて、両グループの真の特徴を理解し、偏見や固定観念から解放されていくということです。

実は合理的な確率推論に基づいている

錯誤相関は、一見すると非合理的な認知バイアスのように見えますが、実は確率論的には合理的な推論プロセスに基づいているという見方もあります[4]。これは「後続の法則」と呼ばれる確率推論の原理から説明できます。

後続の法則は、限られた観察から全体の傾向を推測する際の原理を説明するものです。例えば、ある集団の特徴を10回観察して、そのうち7回が肯定的な結果だったとします。この場合、単純に「70%が肯定的である」と結論づけるのではなく、実際の推測値は70%50%(中間値)の間に位置すると考えます。

限られた観察から全体を推測する際の不確実性を考慮した判断です。観察回数が少ない場合、中間値への引き寄せ効果は強く働きます。少ないサンプルから得られた極端な結果を過度に一般化することを防ぐ、合理的な推論メカニズムとして機能します。

職場の状況に当てはめて考えてみましょう。ある小規模な部署で一度ミスが発生した場合を考えます。この部署の観察機会は少ないため、一回のミスが大きな意味を持ちます。後続の法則に従えば、このミスから部署全体の傾向を推測する際、私たちは無意識のうちに「ミスを起こした観察結果」と「平均的な確率(中間値)」の間で判断を行います。

これは、限られた情報から判断を下さなければならない状況で、最も合理的な推論方法となります。一見すると「一度のミスで部署全体を判断するのは偏見である」と思えますが、実は限られた情報下での合理的な確率推論なのです。

また、人間の記憶や認識システムには自然な制約があり、これも錯誤相関の形成に関係しています。私たちの記憶システムは完璧ではなく、情報の一部が欠落したり、誤って記憶されたりすることがあります。例えば、ある出来事の詳細な状況は忘れても、「何か問題があった」という印象だけが残ることがあります。

こうした記憶の特性は、観察機会の少ない少数派グループの評価において影響を与えます。限られた観察機会の中で記憶のエラーが発生すると、その影響は相対的に大きくなり、結果として錯誤相関がより強く形成される要因となります。

サンプルサイズの違いが錯誤相関の強さに及ぼす影響も検証されています。小さなサンプルほど、観察された特徴が中間値に向かって回帰する傾向が強まることが確認されています。少数派グループの評価において錯誤相関が生じやすい理由の一つと言えます。

脚注

[1] Mullen, B., and Johnson, C. (1990). Distinctiveness‐based illusory correlations and stereotyping: A meta-analytic integration. British Journal of Social Psychology, 29(1), 11-28.

[2] Stroessner, S. J., and Heuer, L. B. (1996). Cognitive bias in procedural justice: Formation and implications of illusory correlations in perceived intergroup fairness. Journal of Personality and Social Psychology, 71(4), 717-728.

[3] Murphy, R. A., Schmeer, S., Vallee-Tourangeau, F., Mondragon, E., and Hilton, D. (2011). Making the illusory correlation effect appear and then disappear: The effects of increased learning. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 64(1), 24-40.

[4] Costello, F., and Watts, P. (2019). The rationality of illusory correlation. Psychological Review, 126(3), 437?450.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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