2024年12月27日
「みんなそう思っているはず」の罠:フォールス・コンセンサスの心理メカニズム
日常生活において、私たちは自分の考えや行動が他者にも共有されていると考えることがあります。例えば、「この映画は優れているから、友人も感動するはずだ」「この製品は使いにくいから、他の人も同じ印象を持っているだろう」などです。このように、自分の意見や行動を他者に投影し、実際以上に多くの人が同様に考えていると錯覚する現象を「フォールス・コンセンサス」と呼びます。
フォールス・コンセンサスは、組織における意思決定にも影響を与える可能性があります。例えば、職場での判断やチーム内での合意形成において、誤解や不一致を生み出す要因となるかもしれません。本コラムでは、フォールス・コンセンサスの発生メカニズム、その要因、実際の効果について解説します。
フォールス・コンセンサスのメカニズム
人はなぜ、自分の意見や行動が他者と合致していると考えやすいのでしょうか。この現象の背後には、4種類の心理メカニズムが存在します[1]。
第1に、選択的な情報接触と認知の利用可能性が挙げられます。人は自分と同様の意見や行動を持つ他者と接する機会が多くなります。例えば、読書を好む人は読書会に参加し、読書を趣味とする人と交流する機会が増えます。その結果、周囲に読書家が多いことから、「読書は一般的な趣味である」と考えてしまいます。実際には、自分の周囲の限定された人々の性質を、社会全体へと一般化しているのです。
第2に、顕著性と注意の焦点があります。自分の意見や行動が意識の中で際立つと、それが一般的であると考えやすくなります。ある大学での調査では、サンドイッチボードを持って歩くことに賛同する割合について、学生の様子が強調された映像を視聴すると、調査対象者は「多数の人がサンドイッチボードを持つことに賛同するだろう」と予測しました。自分たちの状況が強調されることで、その行動が一般的であると錯覚するわけです。
第3に、論理的な情報処理の方式が関連します。ある行動が環境や状況から生じると考える場合、他者も同じように行動すると予測しやすくなります。例えば、「仕事が忙しいためストレスを感じる」という場合、これは状況要因によるものなので、他の人々も同様にストレスを感じると考えます。一方、「性格的に神経質なためストレスを感じる」という場合は、個人の特性に原因を求めるため、他者も同様にストレスを感じるとは限らないと判断します。
第4に、動機づけの要因が存在します。自分の意見や行動が他者に共有されていると信じることで、自己の立場を正当化し、心理的な安定を獲得しようとする心理が働きます。裁判員の評決に関する研究では、自分の判断に確信を持つ人ほど、他の人々も同一の意見を持っているはずだと考える傾向が強まることが見出されています。
自分の意見や選択を他者に投影する
自分の意見や選択を他者に投影する現象について、複数の研究が実施されています。中でも主要な実験の内容を見てみましょう[2]。
初めに、40項目の性格診断に関する実験を説明します。この実験では、実験参加者に対して、外向的な性格や内向的な性格、協調性や自立性といった多様な性格特性に関する40の質問項目が提示されました。参加者は、各項目について自分自身に該当するかを回答します。その後、他の人々がそれぞれの項目についてどのように回答すると思うかを推定するよう求められました。
実験の結果、参加者は自分が「該当する」と回答した項目について、他者も同様に「該当する」と回答するだろうと予測する傾向が顕著でした。例えば、「私は新しいことに挑戦するのが好きだ」という項目に同意した参加者は、他者も同様に同意するだろうと予測しました。他方で、自分が「該当しない」と回答した項目については、他者も同様に「該当しない」と回答すると予測しました。
特徴的なのは、このバイアスが同じ属性を持つ他者に対してより強く出現したことです。例えば、20代の参加者は、他の20代の人々が自分と同じような回答をすると強く予測しました。同様に、女性の参加者は他の女性たちが、男性の参加者は他の男性たちが、それぞれ自分と類似した回答をすると予測しました。
続いて、バイアスの自己認識に関する実験結果を紹介します。実験では、参加者は自分の予測と他者の予測の正確さについて評価することを求められました。その結果、大多数の参加者が、自分の予測は客観的で正確だと考える一方、他者の予測にはバイアスがあると考えていることが判明しました。
例えば、「批判は心を傷つける」という項目において、この意見に同意した参加者の多くは、他の人々も同様に感じるはずだと予測するということです。しかし、その予測が自分自身の経験や感情に基づくバイアスである可能性を考慮することはありませんでした。代わりに、「批判が人を傷つけることは事実である」と考え、自分の判断は客観的な観察に基づいていると信じていました。
予測の修正可能性を検討した実験も実施されました。参加者に社会的な事象(人々の行動や意見)と、非社会的な事象(天候や交通量など)に関する予測を行ってもらいました。予測後に実際のデータを提示し、その後で再度予測を行ってもらうという手順を採りました。
実験では、サンプルサイズ(提示されるデータの量)を変化させることで、予測がどの程度修正されるかを観察しました。結果、データ量が増えるにつれて、予測は徐々に修正される傾向が見出されました。しかし、完全な修正には至らず、特に社会的な予測において、自分の選択や意見に基づく予測バイアスが維持されることが分かりました。
例えば、ある商品の評価について、自分が高評価を付けた参加者は、他者の評価も高いと予測し、実際の評価データを確認しても、その予測は部分的にしか修正されないということです。これは、人が新しい情報を入手しても、完全には自分の視点や経験から離れられないことを意味します。この傾向は、特に主観的な判断を含む社会的な予測において顕著でした。
ソーシャルメディアの影響は推測より限定的
ソーシャルメディアとフォールス・コンセンサスの関係について研究が実施されています。493人を対象とした調査が行われています[3]。
調査では、参加者のソーシャルメディア使用時間、使用頻度、利用しているプラットフォームの数などを記録しました。同時に、性格特性に関するフォールス・コンセンサスの度合いを測定しました。具体的には、外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性という5つの主要な性格特性について、自己評価と他者の評価の推定を行ってもらいました。
予測とは異なり、ソーシャルメディアの使用状況と、フォールス・コンセンサスの強さの間には、わずかな相関しか認められませんでした。これは、ソーシャルメディアを1日に数時間使用する人でも、ほとんど使用しない人でも、フォールス・コンセンサスの度合いに大きな違いがないことを意味します。
次に実施された364人を対象とした研究では、さらに広範な領域でこの関係を検証しました。この研究では、政治的態度(保守的か進歩的か、経済政策への賛否など)、基本的な社会的動機(所属欲求、達成欲求、権力欲求など)についてフォールス・コンセンサスを測定しました。
結果的に、政治的態度に関するフォールス・コンセンサスとソーシャルメディア使用の相関は0.11程度、社会的動機に関する相関は0.12程度と、やはりいずれも小さな値にとどまりました。これは、例えばソーシャルメディアで政治的な意見を頻繁に目にする人でも、必ずしも自分の政治的立場が多数派だと強く信じているわけではないことを表しています。
さらに、875人を対象とした調査では、一般の人々のソーシャルメディアに対する認識を調べました。参加者に対して、「ソーシャルメディアの使用は、人々が自分の意見を他者と共有していると考える度合いにどの程度影響すると思うか」を評価してもらいました。
参加者は平均してソーシャルメディアの影響を相関係数0.39程度と推定しました。これは、実際に観測された相関(0.10~0.12)の約3倍以上の値です。このことから、人々はソーシャルメディアがフォールス・コンセンサスに及ぼす影響を過大に見積もっていることが分かります。
こうした過大評価が生じる背景には、メディアによるソーシャルメディアの影響力に関する報道や、エコーチャンバー(同じ意見を持つ人々が集まり、その意見が増幅される現象)への社会的な懸念があるのかもしれません。実際には、人々はソーシャルメディア上でも多様な意見に触れる機会があり、また、オフライン上の人間関係や経験も相応の影響を持っているのでしょう。
誤った情報も反復提示により信頼が高まる
情報の信頼性判断に関する複数の実験から、人々が情報の反復にどのように反応するのか、詳細な知見が得られています。
誤った内容を含むニュース記事を用いた実験が行われました[4]。参加者を3つのグループに分け、それぞれに異なる条件で情報を提示した実験です。第1のグループには、複数の異なる情報源(新聞社、通信社、研究機関など)から類似の内容の記事を提示しました。第2のグループには、同一の情報源から同じ内容の記事を複数回提示しました。第3のグループには、単一の記事のみを提示しました。
実験の結果、第1のグループ(異なる情報源)と第2のグループ(同一情報源の反復)は、ほぼ同程度の信頼度評価を示しました。これは、情報が反復提示されることで、その情報源が同一であっても、異なる情報源から得られた情報と同じように信頼されてしまうことを表しています。
情報源の信頼性が低い場合の実験もあります。大学生が執筆したエッセイを材料として使用しました。参加者には、これらのエッセイが学術的な訓練を受けていない学生によって書かれたものであることが明確に伝えられました。
注目すべきことに、同じエッセイが複数回提示されると、その内容の信頼性評価は上昇していきました。例えば、スウェーデンの税制度に関する学生のエッセイであっても、それが3回、4回と反復提示されることで、参加者はその内容を次第に信頼するようになりました。これは、情報源の信頼性の低さよりも、情報の反復の効果の方が強く働くことを表しています。
情報源の確認を指示した場合の結果も注目に値します。参加者に対して「情報源が同一か異なるかを必ず確認してから、内容の信頼性を評価するように」と指示が与えられました。参加者は実際に情報源を確認し、同じ情報源からの反復であることを認識していました。
それにもかかわらず、情報が反復されるたびに、その内容への信頼度は上昇していきました。多数の参加者が情報源が同一であることは認識していたものの、何度も目にすることで、その内容が正確であるように感じられたのです。人間の認知システムは情報の反復に自動的に反応し、その過程が意識的な制御を超えて機能することを示唆しています。
例えば、ある製品の性能に関する記事を反復して読んだ場合、その情報源が同一の企業PRであることを認識していても、その製品の性能の評価は向上するということです。私たちの脳は情報の反復を、その情報の正確性や信頼性の基準として無意識的に扱ってしまう性質があることを表しています。
職場でフォールス・コンセンサスとどう向き合うか
フォールス・コンセンサスは、職場のマネジメントにおいて看過できない作用を持ちます。マネジャーの立場にある人々の意思決定や組織運営に、この心理的な性質がどのように作用するのか考えてみましょう。
マネジャーが陥りやすい代表的な事例として、部下の考えや価値観に関する思い込みがあります。例えば、マネジャーが「時間外労働は仕事への意欲の表れである」と考えている場合、部下たちも同様に考えているはずだと思い込む可能性があります。しかし、若手社員は「業務の効率化によってワークライフバランスを実現すべきである」と考えているかもしれませんし、中堅社員は「時間外労働は避けられない現状として受け入れるべきである」と考えているかもしれません。
実際には部下一人一人が固有の価値観や考え方を持っているにもかかわらず、マネジャーが自分の価値観を部下に投影してしまうことで、組織内のコミュニケーションに不一致が生じ、意欲の低下や業務効率の低下を招くこともあるでしょう。
会議やミーティングにおける意見の扱いについても、留意が必要です。多くの場合、発言力のある一部のメンバーが自分の意見を強く、そして反復して主張することがあります。例えば、新規プロジェクトの方針を議論する際に、営業部門の部長が「顧客ニーズはこれである」と反復して主張するケースを考えてみましょう。
この場合、実際には技術部門や管理部門が異なる見解を保持していたとしても、発言力のある人物の意見が反復して述べられることで、それが組織全体の意向であるかのように誤認されてしまいます。
この状況に対応するためには、いくつかの方策が必要です。まず、異なる観点を募る仕組みを構築することです。例えば、会議では必ず複数の部門から意見を募る、発言の少ないメンバーに意図的に発言機会を設定する、匿名でのフィードバックの仕組みを導入するなどの方法が考えられます。
意思決定の際には、自分の判断が個人的な偏りの影響を受けていないかを確認する習慣を作ると良いでしょう。「私はなぜこの選択が適切だと考えているのか」「他のメンバーは異なる観点を持っているかもしれないか」「この判断の根拠は客観的なものか」といった問いを自身に投げかけることです。
一見迂遠に思えるこれらの取り組みは、長期的には組織の意思決定の質を向上させ、新たな発想を促進し、職場環境の向上につながる価値ある施策となるでしょう。フォールス・コンセンサスの存在を認識し、それを克服するための意識的な取り組みを継続することが、組織マネジメントにおいて求められます。
脚注
[1] Marks, G., and Miller, N. (1987). Ten years of research on the false-consensus effect: An empirical and theoretical review. Psychological Bulletin, 102(1), 72-90.
[2] Krueger, J., and Clement, R. W. (1994). The truly false consensus effect: An ineradicable and egocentric bias in social perception. Journal of Personality and Social Psychology, 67(4), 596-610.
[3] Bunker, C. J., and Varnum, M. E. (2021). How strong is the association between social media use and false consensus? Computers in Human Behavior, 125, 106947.
[4] Yousif, S. R., Aboody, R., and Keil, F. C. (2019). The illusion of consensus: A failure to distinguish between true and false consensus. Psychological Science, 30(8), 1195-1204.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。