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コラム

心のさまよいを活かす:マインドワンダリングから考える今後の働き方(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、202412月にセミナー「心のさまよいを活かす:マインドワンダリングから考える今後の働き方」を開催しました。

仕事中、ふと気がつくと全く関係のないことを考えていた。そんな経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

これは、実は「マインドワンダリング」という科学的に研究された現象で、人間の認知機能において重要な役割を果たしていることが明らかになってきています。研究によれば、人は起きている時間の実に数十%もの間、マインドワンダリングを経験していると言われています。

一見すると生産性を下げる要因のように思えるこの現象が、実は創造性を高め、問題解決能力を向上させる可能性があることも分かってきました。その一方で、メンタルヘルスやパフォーマンスへの影響も指摘されており、企業における人材マネジメントの観点からも、見過ごすことのできない重要なテーマと言えます。

本セミナーでは、マインドワンダリングの研究知見を紐解きながら、企業における具体的な活用方法や対策について解説します。

社員の創造性を最大限に引き出しながら、いかにメンタルヘルスとパフォーマンスのバランスを取るべきか。働き方改革やウェルビーイング経営が叫ばれる中、マインドワンダリングという新しい視点から、これからの人材マネジメントの在り方を考えます。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

マインドワンダリングとは

電車に乗っているときや会議中、ふと気がつくと全く関係のないことを考えていた経験はありませんか。このように、注意が現在の課題から離れて、過去の記憶や将来の計画、空想などに向かってしまう現象を「マインドワンダリング」と呼びます[1]

私たちの意識は、常に一つの対象に固定されているわけではありません。むしろ、さまざまな思考や感情の間を自由に行き来する性質を持っています。マインドワンダリングは、このような意識の流動性を示す現象です。

人間の意識が課題から離れてしまうのは、一見すると集中力の欠如や注意散漫な状態のように思えるかもしれません。しかし、研究によって、マインドワンダリングには重要な認知的な意味があることがわかってきています。

マインドワンダリングの特徴的な性質の一つは、その非意図性にあります。私たちは通常、意識的にマインドワンダリングを始めようと決めることはありません。

例えば、重要な報告書を作成している最中に、突然週末の予定を考えていることに気づくことがあります。このとき、「週末のことを考えよう」と意識的に決めたわけではありません。気がついたときには、すでに思考が仕事から離れて週末の計画へと移行していたのです。

マインドワンダリングの内容は多様です。過去の出来事に関する思考は、楽しかった思い出から反省点まで幅広く含まれます。例えば、学生時代の部活動での成功体験や、先週の商談で失敗してしまった場面など、様々な記憶が思い浮かびます。

将来に関する思考も多岐にわたり、明日の会議での発表内容から、数年後のキャリアプランまで含まれます。さらに、現実とは全く関係のない空想、例えば「もし宝くじに当選したら」といった架空の状況についての想像なども、マインドワンダリングの一部です。

研究によれば、私たちは多くの時間をマインドワンダリングに費やしています。実験室での測定では、参加者は平均して起きている時間の3050%の間、マインドワンダリングを経験していることが示されています。これは、一日の中でも相当な時間が、現在の課題とは関係のない思考に費やされていることを意味します。

マインドワンダリングの測定方法

マインドワンダリングの頻度をどのように測定しているのでしょうか。主な測定方法として、二項対立プローブと多段階プローブという2つのアプローチが用いられています[2]

二項対立プローブは、実験参加者の思考状態を定期的に確認する方法です。例えば、パソコンで文章を読んでいる最中に、突然画面に「あなたの注意は今、文章の内容に向いていましたか?」という質問が表示されます。

参加者はこの質問に対して、「はい」(文章に集中していた)か「いいえ」(他のことを考えていた)のいずれかで回答します。この方法を用いた研究では、参加者の約40パーセントの時間でマインドワンダリングが報告されています。

しかし、この方法には問題もあります。注意が少しでもタスクから外れていると感じた場合、参加者は「はい」と答える傾向があるのです。完全にタスクから離れていない場合でも、マインドワンダリングとして報告される可能性があります。

他方で、多段階プローブでは、思考状態をより詳細に評価することができます。参加者には「1. 完全にタスクに集中していた」「2. ほとんどタスクに集中していた」「3. タスクと他のことの両方に注意が向いていた」「4. ほとんど他のことを考えていた」「5. 完全に他のことを考えていた」という5つの選択肢が提示されます。

これにより、思考の状態をより正確に把握することが可能になります。例えば、文章を読みながら時々週末の予定について考えていた場合、「3」を選択することで、部分的なマインドワンダリングの状態を表現することができます。

この方法を用いた研究では、完全にタスクから外れている時間は全体の12パーセント程度に過ぎないことがわかりました。

マインドワンダリングのメカニズム

マインドワンダリングは、私たちの認知システムが果たす重要な機能の一つだと考えられています。特に注目されているのが、マインドワンダリングを「他の魅力的な目標を探す過程」として捉える見方です[3]

認知制御システムは、私たちの脳の中で現在の活動の価値を評価しています。例えば、仕事中であれば、今取り組んでいるタスクがどれだけ重要で、どれだけの満足感や達成感(報酬)をもたらすかを無意識のうちに判断しています。

もし現在のタスクからの報酬が不十分だと判断された場合、脳は自動的により良い活動を探し始めます。これがマインドワンダリングの開始につながるのです。例えば、難しい企画書の作成に行き詰まっているとき、脳は自動的に「他にもっと効率的に時間を使える活動があるのではないか」と探索を始めます。

マインドワンダリングの開始要因は複雑で、様々な要素が絡み合っています[4]。内的な要因としては、まずストレスや不安といった感情状態が挙げられます。締め切りに追われているときや、上司との関係に悩んでいるときなど、精神的なプレッシャーを感じている状況では、現実から一時的に逃避するようにマインドワンダリングが起こりやすくなります。

また、仕事量が多すぎて疲れを感じているときなど、過負荷な状態でもマインドワンダリングは増加します。逆に、単調な作業を続けているときのような退屈な状況でも、心は別の方向へと向かいやすくなります。

外的な要因も重要です。例えば、オフィスで突然誰かの携帯電話が鳴ったり、窓の外を通り過ぎる救急車のサイレンが聞こえたりしたりするなど、予期せぬ音が聞こえると、それをきっかけにマインドワンダリングが始まることがあります。また、デスクに置かれた家族写真や、窓から見える季節の移ろいなど、視覚的な刺激も思考の方向を変えるきっかけとなります。

状況要因も関係しています。例えば、長時間の会議では、議題が自分に直接関係ない内容になったとき、参加者の多くが自然とマインドワンダリングに陥りやすくなります。昼休みや休憩時間など、意識的にリラックスできる時間帯では、仕事とは関係のない思考が自然と増えていきます。

マインドワンダリングの終了にも、いくつかのパターンがあります。内的な合図による終了の典型例は、突然「あ、仕事に集中しなければ」と思い出すような自己意識の復帰です。「今自分は何をしているんだろう」という、より高次な認識(メタ意識)が働くことで、マインドワンダリングから抜け出すこともあります。

外的な合図による終了は、例えば上司に声をかけられたり、重要なメールの着信音が鳴ったりすることで、現実の課題に意識が引き戻される場合です。

マインドワンダリングは自然な形で終わることもあります。例えば、頭の中で週末の予定を考えているうちに、一通りの計画が立って満足感が得られた場合、自然と現在の作業に意識が戻ることがあります。

マインドワンダリングのパフォーマンスへの影響

マインドワンダリングとパフォーマンスの関係については、広範な研究が行われています。研究者たちは88の異なる研究結果を統合的に分析し、両者の関係を詳しく調べました[5]

その結果、読解や暗算、反応時間テストなど、様々な種類の課題において、マインドワンダリングの頻度が高まるほど、成績が低下する傾向が確認されました。例えば、読書中にマインドワンダリングが多い人は、内容の理解度が低く、重要なポイントを見落としやすいことが分かっています。

この現象は、認知資源理論という枠組みで説明することができます。私たちの脳が一度に処理できる情報量には限りがあり、これを認知資源と呼びます。例えば、運転中に携帯電話で会話をすると運転パフォーマンスが低下するのは、限られた認知資源を両方のタスクで分け合うためです。

同じように、目の前の仕事に取り組みながらマインドワンダリングが発生すると、認知資源が分散されてしまいます。認知資源が豊富な人は、マインドワンダリングが起きても仕事への集中を維持できる余裕がありますが、認知資源が少ない人は、マインドワンダリングによって仕事のパフォーマンスが低下してしまいます。

また、作業の性質とマインドワンダリングの関係も明らかになっています。データ入力のような単純作業や、長時間続く会議など、認知的な負荷が低く、持続的な注意を必要とする状況では、マインドワンダリングの頻度が著しく増加します。このとき、作業の正確性は低下し、反応時間も遅くなります。

興味深いのは、単調な作業におけるマインドワンダリングの特徴です。ある実験では、参加者にメトロノームの音に合わせて定期的にボタンを押すという単純な課題が与えられました[6]。このとき、多くの参加者が別のことを考え始めました。例えば、昨日見たテレビ番組の内容を思い出したり、週末の買い物リストを考えたりと、課題とは全く関係のない思考活動を行っていたのです。

単調で退屈な作業に従事している場合、脳は自動的により刺激的で意味のある活動を求めようとします。その結果、仕事上の単純作業よりも、個人的な関心事や感情的に重要な事柄に意識が向かいやすくなるのです。

マインドワンダリングの両面的な効果

マインドワンダリングには、両面的な効果があります。ある研究では、865人の大学生を対象に、一般的な物体の珍しい使い方を考えるといった発散的思考課題を実施しました[7]。その結果、普段からマインドワンダリングを頻繁に経験する学生ほど、より多くのユニークなアイデアを生み出せることが分かりました。

例えば、「レンガの珍しい使い方」という課題に対して、「ドアストッパー」や「ペーパーウェイト」といった一般的な回答だけでなく、「ミニチュア建築の材料」や「アート作品の素材」といった発想を多く提案できたのです。

創造性の向上は、マインドワンダリングならではの思考の特徴によって説明できます。通常の目的志向的な思考では、関連性の高い情報同士が結びつけられる傾向がありますが、マインドワンダリング中は、一見無関係に見える概念同士が予期せぬ形でつながることがあります。

例えば、仕事の問題について考えているときに、趣味の園芸から得たヒントが突然閃くといったケースです。このような予期せぬ結びつきが、新しいアイデアや創造的な解決策を生み出す源となります。

一方で、マインドワンダリングは私たちの健康にも影響を与えます[8]。研究によれば、頻繁なマインドワンダリングは、短期的には心拍数の上昇や睡眠の質の低下といった問題と関連していることが分かっています。

しかし、興味深いことに、これらの影響は長期的には深刻な問題とはならないようです。例えば、最初は仕事中のマインドワンダリングによってストレスを感じていた人も、時間とともにそれを自然な現象として受け入れられるようになります。

このように、マインドワンダリングは単純に「良い」「悪い」と判断できない、複雑な現象であることがわかります。

創造性やアイデア創出においてはポジティブな効果をもたらし、問題解決の新しいアプローチを生み出す源となる一方で、集中力や作業効率の面ではネガティブな影響を及ぼす可能性があります。また、短期的には健康面での懸念材料となるものの、長期的には自然な認知プロセスとして受容されていく傾向にあります。

重要なのは、マインドワンダリングを完全に排除しようとするのではなく、その特性を理解した上で、状況に応じて適切にコントロールすることです。特に職場環境では、創造性が求められる場面では積極的に活用し、正確性や迅速な判断が必要な場面では意識的に抑制するといった対応が求められるでしょう。

マインドワンダリングの減らし方

マインドワンダリングは、動機づけを高めることで効果的に制御できることが分かっています。ある実験では、参加者を2つのグループに分け、一方には通常の作業指示のみを与え、もう一方には「高い成績を収めれば、実験時間を短縮できる」という報酬を提示しました[9]

その結果、通常指示群では作業中の67パーセントの時間でマインドワンダリングが観察されたのに対し、報酬提示群では49パーセントまで低下しました。これは、目標達成による見返りが示されることで、課題への集中力が高まったためと考えられています。

動機づけの効果は、課題への取り組み方にも表れます。報酬が提示された参加者は、課題に積極的に関与するようになり、「良い成績を収めよう」という意識が自然と高まります。結果、雑念が浮かんでも意識的にそれを抑制し、目の前の課題に注意を向け直すことができるようになります。

さらに、動機づけの向上は作業の質にも影響を与えます。例えば、コンピューター画面上の特定の刺激に素早く反応する課題では、報酬提示群の方が反応時間のばらつきが小さく、より安定したパフォーマンスを示しました。

また、課題に関連する重要な情報の見落としも少なくなり、正確な作業遂行が可能になりました。これらの結果は、適切な動機づけによって、効率的で質の高い作業が可能になることを表しています。

職場における効果的な動機づけとしては、多様なアプローチがあり得ます。具体的には、短期的な達成目標を明確に設定し、その達成に応じた報酬システムを構築することが有効です。例えば、一日の業務目標を達成した社員を表彰したり、週間目標を達成したチームに何らかのポイントを与えたりするといった施策が考えられます。

業務の意義や重要性を伝えることで、内発的な動機づけを高めることも重要です。プロジェクトが組織全体にどのような価値をもたらすのか、個人の成長にどうつながるのかを説明することで、社員は目の前の作業に大きな意味を見出すことができます。

職場におけるマインドワンダリングの活かし方

マインドワンダリングを「仕事中のぼんやり」として否定的に捉えるのではなく、職場における創造性の源泉として活用することができます。

この活用方法の典型例として、問題解決場面での活用があります。例えば、新規プロジェクトの企画立案で行き詰まったとき、あえて15分程度の休憩を取り、コーヒーを飲みながら窓の外を眺めるといった時間を作ります。

この間、脳は仕事の制約から解放され、より自由な発想が可能になります。その結果、これまでにない切り口やアプローチが自然と浮かんでくることがあるのです。

ただし、マインドワンダリングの活用には、適切な状況の選択が重要です。例えば、重要なプレゼンテーションの直前や、緊急の対応が必要な案件の処理中など、高度な集中力と即時的な判断が求められる場面では、マインドワンダリングはマイナスの影響を及ぼすかもしれません。

情報の見落としや判断の遅れ、さらには重大なミスにつながる可能性があります。また、締め切りが迫った状況でのマインドワンダリングは、不必要なストレスや焦りを生む原因となることがあります。

職場環境の設計も、マインドワンダリングの活用に重要な役割を果たします。例えば、個人で集中して作業を行うためのクローズドな空間と、リラックスしてアイデアを練るためのオープンな空間を分けることで、それぞれの空間が持つ特性を活かした思考が可能になります。

防音性の高い個室やブースを設置することで、外部からの刺激を最小限に抑え、集中力を要する作業に適した環境を作ることができます。一方、自然光が入り、緑を配置したオープンスペースは、リラックスした状態でのアイデア創出を促進します。

また、単調な作業におけるマインドワンダリングの制御も課題です。例えば、長時間のデータ入力作業では、具体的な短期目標を設定すると良いでしょう。「30分で100件の入力を目指す」といった目標を立て、達成するごとに短い休憩を取るようにします。

さらに、作業手順にバリエーションを加えることで、単調さを軽減することもできます。例えば、データの種類ごとに入力方法を変えたり、チェックのタイミングを工夫したりすることで、作業に小さな変化をつけることができます。こうした工夫により、意図せずマインドワンダリングに陥る機会を減らすことができるでしょう。

Q&A

Q:本を読んでいるときに、ページごとに内容に関連してマインドワンダリングが始まってしまい、本が進まなくて困っています。自力でコントロールができないのですが、どうすれば良いでしょうか。

このケースのマインドワンダリングには、良い面と課題となる面の両方があると考えられます。課題となる面は、本を読み終えることができないというパフォーマンスの低下です。これに対しては、例えば「今日は10ページ読んでみよう」という目標を立て、達成したら自分へのご褒美を設定するというインセンティブの設計が一つの方法として考えられます。

一方で、本の内容を起点として、その本だけでは到達できなかったような新しい思考が生まれる可能性があり、これは良い側面と言えます。したがって、マインドワンダリングを完全に取り除くのではなく、目標を立てつつ、ある程度のマインドワンダリングは許容していくという読み方が良いかもしれません。

Q:オンラインミーティングが増え、参加者のマインドワンダリングも増えているように感じます。オンラインでの会議において、参加者の集中力を保つためにどのような工夫が効果的でしょうか。

オンラインコミュニケーションは、対面のコミュニケーションと比べると緊張感が生まれにくいことが検証されています。そのため、別のことを考えてしまいやすいのかもしれません。

集中力を高めるためには、参加者の関与を高めていく方針が効果的です。例えば、議題ごとに異なる人にプレゼンテーションをしてもらったり、チャット機能を活用して積極的な参加を促したりすることで、マインドワンダリングを抑制することができるでしょう。

Q:必要な単純作業をこなしている社員のマインドワンダリングについて心配しています。単純作業をなくすことはできないのですが、社員の成長につなげるためにはどのようなマネジメントが有効でしょうか。

認知的負荷が低い単調な作業を継続している場合、マインドワンダリングは発生しやすくなります。しかし、そういった状況でも成長につなげる方法を考えてみましょう。

まず、作業の意味を考える機会を設けることです。作業が一段落したときに、その作業が自分や会社にとってどのような価値があるのかを考えたり、一緒に考えたりする時間を作ることができます。

他にも、例えばデータ入力作業であれば、作業にかかった時間や効率を記録し、より効率的に進めるための改善提案をしてもらうという方法もあります。これにより、目の前の作業をこなすだけでなく、効率化というタスクに取り組むことができ、マインドワンダリングが減るかもしれません。

また、ゲーミフィケーションを取り入れる方法もあります。進捗を可視化したり、報酬を設定したり、周囲と競い合ったりすることで、単純作業をより楽しく取り組めるものにすることができます。

Q:創造性が求められる仕事でマインドワンダリングを生かしていきたいと考えています。どのように活用することができますか。

一つの観点として、「散歩」が挙げられます。歩くという行為自体に集中し続けることは難しく、自然とマインドワンダリングが発生しやすくなります。このように意図的に環境を変えることで、マインドワンダリングを促し、新しい発想を得て創造性を高めることができるでしょう。

Q:ハイブリッドワークが進んでいる中で、対面とリモートでは社員のマインドワンダリングの質や頻度に違いがあるように感じています。働く場所による違いを踏まえた上で、どうしていくと良いでしょうか。

マインドワンダリングの開始要因の一つに、外的要因があります。オフィスは仕事をするために必要なものが揃えられ、それ以外の要素が最小限に抑えられた環境です。一方、自宅は仕事のために設計された場所ではないため、仕事に関係ない、様々なものが目に入ります。これらが外的要因となってマインドワンダリングが発生する可能性があります。

ただし、これには両面性があります。オフィスでは思いつかないようなアイデアが、自宅での些細なものがきっかけで生まれるかもしれません。マネジメントとしては、いずれにせよ、特に自宅で仕事をする場合、環境により注意を払うことが重要になってきます。

Q:営業の商談中にマインドワンダリングが起きることで、重要な情報を見落とすリスクがありますが、一方で顧客のニーズに対する新しい気づきが得られることもあります。バランスをどう取れば良いですか。

マインドワンダリングには、パフォーマンスの低下と創造性の向上という二面性があります。この問題に対しては、タイミングが重要です。

商談中は、完全になくすことは難しいものの、できるだけマインドワンダリングを抑制する方向性が有効でしょう。顧客への良い提案のためには、まず顧客の話に集中して傾聴することが必要だからです。

一方で、商談後の振り返りの時間には、意図的にマインドワンダリングを促す環境を作ることができます。例えば、窓の外を眺めたり、ウォーキングをしたりしながら、新たな提案のアイデアを生み出すことができます。このように、場面や状況に応じてマインドワンダリングを調整することがあり得ます。

脚注

[1] Smallwood, J., and Schooler, J. W. (2015). The science of mind wandering: Empirically navigating the stream of consciousness. Annual Review of Psychology, 66(1), 487-518.

[2] Seli, P., Beaty, R. E., Cheyne, J. A., Smilek, D., Oakman, J., and Schacter, D. L. (2018). How pervasive is mind wandering, really?. Consciousness and Cognition, 66, 74-78.

[3] Shepherd, J. (2019). Why does the mind wander?. Neuroscience of Consciousness, 2019(1), niz014.

[4] Merlo, K. L., Wiegand, K. E., Shaughnessy, S. P., Kuykendall, L. E., and Weiss, H. M. (2020). A qualitative study of daydreaming episodes at work. Journal of Business and Psychology, 35, 203-222.

[5] Randall, J. G., Oswald, F. L., and Beier, M. E. (2014). Mind-wandering, cognition, and performance: A theory-driven meta-analysis of attention regulation. Psychological Bulletin, 140(6), 1411-1431.

[6] Seli, P., Cheyne, J. A., Xu, M., Purdon, C., and Smilek, D. (2015). Motivation, intentionality, and mind wandering: Implications for assessments of task-unrelated thought. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 41(5), 1417-1425.

[7] Yamaoka, A., and Yukawa, S. (2020). Mind wandering in creative problem-solving: Relationships with divergent thinking and mental health. PLoS One, 15(4), e0231946.

[8] Ottaviani, C., and Couyoumdjian, A. (2013). Pros and cons of a wandering mind: a prospective study. Frontiers in Psychology, 4, 524.

[9] Seli, P., Schacter, D. L., Risko, E. F., and Smilek, D. (2019). Increasing participant motivation reduces rates of intentional and unintentional mind wandering. Psychological Research, 83(5), 1057-1069.


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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