2024年12月5日
パフォーマンスの鍵は環境にあり:職場環境から考える生産性向上(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、
2024年11月にセミナー「パフォーマンスの鍵は環境にあり:職場環境から考える生産性向上」を開催しました。組織の中で、期待されるパフォーマンスを発揮できずに「ローパフォーマー」と呼ばれる方々がいます。しかし、その原因を個人の問題として片付けるのは適切ではありません。
ローパフォーマーの存在は、組織の構造や文化、そして人間関係の複雑な相互作用の結果かもしれません。例えば、努力が正当に評価されない組織風土や、個人の成果を不当に搾取するような環境、こうした状況下では、誰もが本来の能力を十分に発揮することをためらってしまうでしょう。
本セミナーでは、高いパフォーマンスが発揮されない状況を、より深く理解することを目指します。周囲との関係性や職場環境全体を見直し、全ての従業員が活躍できる職場づくりのヒントを探ります。
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
パフォーマンスに影響する組織の特徴
パフォーマンスに影響を与える要因は、大きく個人的要因と環境的要因の二つに分けて考えることができます。
個人的要因として、自己管理能力や自己モニタリング能力などの能力面、そしてモチベーションの高低や体調などが挙げられます。このような要因でパフォーマンスが低下している場合、本人には頑張りたい気持ちがあっても実際に頑張ることができないという状況も考えられます。
一方で環境的要因として、職場環境や組織風土、組織の考え方が個人に合っていないことや、同僚、上司、顧客との人間関係がうまくいっていないことなどが挙げられます。これらも個人のパフォーマンス低下の大きな要因になります。特に職場環境や組織の考え方に違和感がある場合、「この職場で頑張っても仕方がない」「ここでは頑張りたくない」といった思いを抱くこともあります。これは本人だけの問題ではなく、組織や周囲のメンバーの様子、お互いの関係性も影響していると考えられます。本セミナーでは環境的要因に注目して解説していきます。まず、組織の特徴が組織のパフォーマンスにどのように影響を与えているかを見ていきましょう。
組織風土と組織パフォーマンス
組織風土と組織パフォーマンスに関する研究知見をご紹介します。組織の重要な特徴の一つとして、「探索行動」と「活用行動」という二つの側面を同時にうまく行える能力が挙げられています[1]。
探索行動とは、新しい革新的な事業への挑戦や新市場の開拓などを指します。一方、活用行動とは、既存事業の改善や、現在の方針の効率化、改善などの、既存の資源やノウハウを活用する行動を指します。
研究結果によると、この両方の行動をバランスよく行える組織ほど、売上や市場関連の指標などのパフォーマンスが高いことが示されています。例えば、探索行動だけを重視すると、成果が出るまでに時間がかかり、そのための費用もかさみます。また、探索に失敗するリスクもあります。反対に、活用行動だけを重視すると、長期的な成長が望めず、業界の新しい技術や潮流を見逃してしまうリスクがあります。そのため、両方の能力をバランスよく持つ組織の方が、より高いパフォーマンスを発揮できると考えられます。
ただし、例外もあります。新しい技術が次々と登場する業界・分野では、探索行動がより重要になります。技術革新に関する情報を収集し、それを活用して新事業を考えていくような探索行動の重要度が高くなるのです。
自社の目標や業界の特性によって、組織パフォーマンスを高めるために必要な組織の行動や、そこに影響を及ぼす特徴も異なります。単にバランスを取ればよいというわけではなく、自社の目標に合わせた探索行動と活用行動の運用が大事です。そして、社員がその自社の目標をよく理解し、それに沿って行動することが重要になるでしょう。
もう一つ、別の研究知見をご紹介します。パフォーマンス向上に寄与する組織風土の要因を調べた研究結果によると、会社の方針が明確に示されている組織では、所属する従業員が自社の組織パフォーマンスを高く評価する傾向が示されています[2]。ここでの組織パフォーマンスとは、売上や利益といった業績を指します。特に、従業員が自身の組織のパフォーマンスをどの程度高いと認識しているかという点に着目しています。
この研究では、組織風土の特徴として以下の4つを挙げています。
- 会社方針の明示:経営陣が従業員に対して経営の姿勢や方針決定を明確に示す
- 職場の良好な雰囲気:良好なチームワークや活発な議論、挑戦的な取り組みを認める環境がある
- 職場の規律:業務遂行を阻害する態度やモラルに反する行動が見られないよう、適切に管理されている
- 個人の主体的な態度:従業員それぞれが仕事に対して積極的、自主的な態度を持っている
研究ではこれらの特徴と、従業員による組織パフォーマンスの評価との関連を調査しています。
研究結果から、この4つの特徴の中で「会社方針の明示」が組織パフォーマンスの評価と最も強い関連を示すことがわかりました。つまり、経営陣の方針決定が従業員に明確に伝わり、受け入れられているということです。そのような組織では、従業員は組織パフォーマンスを主観的に高く評価する傾向にあり、職場の雰囲気も良好であることが示されています。
職場の雰囲気が良好であることは、個々の従業員のパフォーマンスを高め、それが組織全体のパフォーマンス向上にも寄与していることが考えられます。
組織文化と組織パフォーマンス
次に、組織文化に注目した研究知見をご紹介します。この研究では、組織文化を「協調文化」「革新文化」「成果志向文化」の3つのタイプに分類し、それぞれが組織パフォーマンスに与える影響の違いを調査しています[3]。
まず、この研究が注目した文化タイプの特徴を説明します。
- 協調文化:内部志向で柔軟な組織構造を持ち、人材育成や信頼関係の構築、従業員の帰属意識を重視する文化です。この文化ではチームワーク、従業員の自主的な参加、オープンなコミュニケーションを高く評価します。
- 成果志向文化:統制的な組織構造の中で、競争力や生産性の向上に重点を置く文化です。この文化では、タスクの達成や競争、能力向上が重視されます。
- 革新文化:外部志向で柔軟な組織構造を持ち、革新性や創造性を重視する文化です。この文化では、成長や相互刺激、多様な考えを通じた革新を重要視します。
研究結果によると、これらの組織文化のタイプによって高まりやすい組織パフォーマンスの種類が異なることが明らかになりました。
協調文化は、サービスの品質や従業員の態度といった人間関係に関わる側面と強い関連を示しました。また、成果志向文化は、イノベーションや財務パフォーマンスと強い関連を示しました。一方、革新文化は、イノベーションや財務パフォーマンスと関連は示すものの、その関連性は比較的弱いものでした。
これらの結果から、組織の目標と組織文化の適合性が重要であることがわかります。例えば、顧客満足向上を目指す組織では、人間関係を重視する協調文化が効果的です。一方、市場シェアの拡大を目指す組織では、競争や達成を重視する成果志向文化が効果的となります。
つまり、組織が高めたいパフォーマンスを明確にし、それに適した組織文化を醸成するアプローチすることが重要です。
以上のように、組織の特徴は組織パフォーマンスに影響を与えることが研究で示されています。ここまでは組織全体の視点でお話ししてきましたが、この考え方は個々の従業員にも適用できると考えられます。続いては、職場における他者の存在が個人のパフォーマンスに与える影響について解説します。
職場の他者がもたらす影響
まず、他者の存在がもたらす影響について人の性質に注目して考えてみましょう。特にここでは、他者からの評判を気にすること、他者の行動を真似て学習すること、そして他者からの搾取を避けようとすること、これらに注目します。誰もが多かれ少なかれ持っている性質に思えますが、特に集団生活において、社会の中でうまく生きていくことを助けています。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
評判を気にすること
「情けは人のためならず」ということわざがありますが、これは他者を助ける行為が、回り巡って自分に返ってくるということを示しています。このような状況では、良い評判を得ていることが自分の将来の利益につながると考えられます。
例えば、職場の同僚が自分の職務を超えて他のメンバーや部下を助けている場合、その同僚が困っている時に「今度は私たちが助けてあげよう」という形で、その人の評判に応じて周囲が行動するようなことが想像できます。
また、評判に関連して「名誉の文化」というテーマがあります。名誉の文化とは、個人や集団の社会的な評価や名誉を非常に重視する文化を指し、このような文化で名誉を損なうような行動や言動を取ることは、社会的な信用を失い、その結果として不利益や搾取を受けやすくなります。逆に、名誉を守るために自分の権利を主張することが、搾取を防ぐ方法となるわけです。このように、良い評判を得ることも、悪い評判を持たれないことも、社会生活のなかで重要な意味を持っています。
メンバーから学習すること
次に、学習の側面について見ていきましょう。同じ集団や同じ目標を持つ人々が集まった社会の間では、メンバーが成功を収めた行動を真似ることは、失敗のリスクを減らすことにつながります。また、同じ行動をとるメンバーに対しては、自分と同じ考えを持っているという認識から、絆や信頼関係が強まります。
さらに、自分の行動や提案を他者が採用した場合、「自分のやり方が認められた」という実感や仲間意識も高まり、これも信頼関係の構築につながります。このように、メンバー間の結びつきを強め、目標達成のリスクを下げることで、集団としての成果を高めることができます。
感情が喚起されること
三つ目に、感情の重要性にも触れておきたいと思います。まず。ポジティブな感情の表出です。例えば、業務で協力してくれた相手に対して嬉しかった気持ちや感謝の気持ちを伝えることは、相手にとっては心理的な報酬になり、さらなる協力を促すとともに、お互いの信頼関係の強化につながります。
一方で、不利益な扱いを受けたときにも、適切に不快感を表明することも重要です。「これは嫌です」とはっきり伝えることで、相手の理解を促し、不当な扱いを防ぐことができます。これは先の名誉の文化とつながるところです。不当な扱いには屈しないという姿勢を示すことでお互いの関係性が公平なものとなり、お互いに尊重し合う関係性を築くためにも重要です。
これらの要素は、メンバー間の協力を促進し、非協力的な関係を防ぎ、公平な関係性を築くことに貢献します。結果として、個々の従業員が無理なく働き続けられ、互いに恩恵をもたらし合う関係性を維持することができます。
以上のように、ここで紹介した性質はいずれも社会の中で協力しながら生活していくために重要な役割を果たしています。特に協力性に注目すると、貢献の評価、信頼関係の構築、持続可能で対等な協力関係の維持など、組織や社会のパフォーマンス向上において重要な観点となることがわかります。
ローパフォーマンスの原因と対策
ローパフォーマンスの原因について、三つの状況に注目して解説していきます。先述の人の性質を考慮した内容となっています。一つ目は「搾取されると感じられる状況」、二つ目は「評価懸念を感じる状況」、三つ目は「頑張っても報われないと感じられる状況」です。これらの三つの状況について、順番に説明します。
搾取されると感じられる状況
搾取の状況に関して、まずは「フリーライダー」についてお話ししたいと思います。ここではフリーライダーについて、他者の努力や投資から生まれる利益を、自らは貢献せずに享受する振舞いを指す言葉として用います。
例えば、個人の功績として評価される仕事や、自分に責任が明確な仕事には一生懸命取り組む一方で、チームプロジェクトのように個々人の貢献や責任の所在が不明確な場合には、最小限の努力しか払わないという行動に見ることができます。自分が頑張らなくても成果が平等に配分されるなら、できるだけ労力を払わないようにしようという考えです。
チーム内にこのような振る舞いをする人がいると感じると、他のメンバーは「自分が頑張っても、その成果が搾取されている」という感情を抱くことがあります。このような懸念を強く持っている場合、以下のような行動が見られます:
例1:自分の仕事や役割を明確に区切ろうとする。「これは私の仕事なのでしょうか」と、常に確認を行う。
例2:チームの作業分担を頻繁にチェックし、他のメンバーと比べて自分に多く仕事が割り当てられていないか確認する。
例3:自主的な業務が減少する。新しいアイデアの提案や、組織の改善点を見つけても提案を控える。
例4:同僚やメンバーと必要以上に距離を取る(頼み事をされるのではないかと警戒している)。
こうした行動が複数見られたり、職場の多くの人がこのような行動を示すような場合、その職場では搾取への懸念やフリーライダーの存在が問題となっている可能性があります。
このように、ローパフォーマンスの原因の一つとして「搾取される懸念」が挙げられます。特に、周りの人が非協力的だと感じられる状況では、自分の努力がメンバーや組織によって搾取されているのではないかという感覚が生まれやすくなります。
- 自分が頑張った作業なのに、手を抜いた人も同じ評価を受ける
- 本来の業務外の仕事を頑張っても、それに対する見返りがない
このような状況では、個人は自分の成績や報酬に直接関係のない部分での努力を控えるようになり、結果としてパフォーマンスが低下します。さらに、このような状況が継続する職場では、それまで高いパフォーマンスを示していた人も、周囲の影響を受けてパフォーマンスを抑制してしまう懸念があります。
この問題への対策として、周囲の支援を強化していくアプローチが重要です。メンバー同士が協力的な関わり方をすることで状況の改善が見込めます。
特に上司や身近な同僚との間で相互に協力する関係を築くことが重要になります。ただし、一方が常に依頼する側で他方が常に受ける側というような偏った関係ではなく、お互いが恩恵をもたらし合うバランスの取れた関係を目指すべきです。
これは競争的ではなく、協調的な文化を作ることにつながります。研究知見からも、チームメンバーから支援を受けることがパフォーマンスを高めることが示されています[4]。チーム内で協力関係が確立され、お互いに協力しあうことが続いていけば、支援が循環していく状況を作り出すことができます。
評価懸念を感じる状況
まずは「他者の目が気になる」という現象について、研究知見を交えてお話しします。他者が自分の行動を見ていることがパフォーマンスに及ぼす影響を調べた研究知見があり、パフォーマンスの性質によって影響が異なることが分かっています[5]。
この影響には、2つの側面があります。1つは「社会的促進」で、パフォーマンスを向上させる方向に働く影響です。もう1つは「社会的抑制」で、パフォーマンスを低下させる方向に働く影響です。
まず社会的促進について説明します。単純な課題や、長年続けて習熟している作業の場合、周りに人がいて見られていることでパフォーマンスが向上することが分かっています。これは他者の存在が覚醒水準を高め、それが良い方向に作用してパフォーマンスを向上させると解釈されています。
一方、社会的抑制については、創造性を必要とする難しい課題や、頭の中で深く考える必要がある課題、様々な情報を考慮した判断が必要な複雑な問題、こうした取り組みの場合に見られます。こうした状況では人が近くにいて見ているとパフォーマンスが低下するのです。この原因の一つとして、他者が自分の振る舞いを評価していると意識してしまい、「この人は自分のことをどう思っているだろうか」といった評価懸念が生じることがあげられます。評価懸念が認知負荷を高め、結果としてパフォーマンスの低下につながると考えられています。この評価懸念が職場でどのように表れるか、具体例を挙げてみましょう:
例1:ミスが発生した際に「これは私のミスではなく、上司の指示に従った結果です」という責任転嫁をするなど、自己防衛的な態度が目立つ。
例2:自分の行動に対して「私のやり方はどうでしたか」と頻繁に確認するなど、他者からの評価を常に気にする。
例3:上司に対し「さすがです。その進め方が一番いいに決まっていますよね」といった形で、評価する立場の人に過度に迎合する。
例4:通常は確認不要な細かい事項まで「この方法で間違っていませんか」と確認するなど、些細なことでも頻繁に確認・報告を行う。
これらの行動は、場面によっては自然に見られることもありますが、複数の傾向が頻繁に見られたり、職場全体でこのような傾向が強く見られる場合、その職場のメンバーの間で評価懸念を高める状況が存在する可能性があります。
ここから、パフォーマンス低下の2つ目の原因として、評価懸念によるストレスがあげられます。特に自分を評価する立場の人(多くの場合は上司)が作業を見ている場合、ストレスを感じて認知負荷が高まり、パフォーマンスが低下することがあります。
評価者が見ている状況では、「うまくできないと悪い評価をされるかもしれない」という焦りや緊張から、通常では起こさないミスをしたり、やり直しが必要になったりすることもあります。直接的な監視だけでなく、頻繁な進捗確認なども同様の圧力やストレスとなり、パフォーマンス低下につながる可能性があります。
一方で、ここで注意すべき点は、監視は良くないといって関与を極端に減らし、全く様子を見ないようにすることも問題があるということです。自分のことを全く気にしてもらえていないという感覚は、別の理由でパフォーマンスを下げてしまうでしょう。過度の監視と完全な放置は、どちらも望ましくない極端な状況であり、適切なバランスを取ることが重要です。
評価懸念がパフォーマンスを下げることへの対策として、作業の性質を考慮した対応が考えられます。特に評価の面では、組織内で作業の性質に合わせた対応が重要です。以下に例をあげてみます。
- 単純作業の場合:他者の存在がパフォーマンスを高める効果があるため、適度な他者の存在を活用する。自分の行動や成果が即座に可視化される環境を整える。例えば、進捗ボードの活用、達成状況が見える化される環境の整備など。
- 複雑な作業の場合:作業の途中で過度な圧力をかけない評価方法を採用する。成果が一段落したタイミングで評価を行う。例えば、最初の評価は、直接の評価者ではなく同僚からのピアレビューを活用するなど。
これらは単純作業と複雑な作業という大まかな区分に基づいていますが、個人の性格や、対面・オンラインといった就業状況の違いなども考慮する必要があります。しっかりとしたヒアリングを行いながら調整していくことが重要です。
頑張っても報われないと感じられる状況
最後は公平性が欠如している状況です。成果に応じて報酬が高まるような制度が導入されていない場合、努力が報われにくい状況が生じます。従業員間の給与差が小さい場合、頑張り方によって報酬があまり変わらないという認識につながります。
研究知見によると、このような状況ではハイパフォーマー(高い成果を出す人材)が離職しやすいことが示されています[6]。「もっと努力が報われるところを探そう」と考え、努力に見合った報酬が得られる環境を求めて転職する傾向があるということです。
報われないと感じている状況では、以下のような様子が見られます:
例1:「評価されるのは特定の人だけだ」といった、他人の成果に否定的な反応を示す。
例2:「良い結果が出ても評価されない」といった考えで、新しいアイデアの提案や挑戦を避け、消極的になる。
例3:「ここにいても成長できない」といった、退職や異動を希望する声が増える。
例4:「頑張っても報われないなら、楽な方がいい」といった考えで、意図的な業務量の調整を行う。
こうした様子が職場で多く見られる場合、職場のメンバーは努力が報われないと感じられている可能性が高いと考えられます。
したがって、ローパフォーマンスの3つ目の原因として「報われない状況」が挙げられます。労力に見合った報酬が得られない、公正ではないと感じられる状況では、努力をすることをやめてしまう傾向があります。
ここでいう報酬は、金銭的なものだけではありません。例えば、担当業務外の仕事を頼まれて頑張ったにもかかわらず、感謝やねぎらいの言葉もないといった場合、組織への愛着や信頼関係は弱くなってしまうでしょう。業務への意欲を低下させ、結果としてパフォーマンスの低下につながることも考えられますので、この点も注意が必要です。
努力が報われないと感じる状況を生み出さないための対策として、公正感を高めていくことが重要です。研究では、評価プロセスの公正性が従業員に認識されている場合、たとえ評価結果自体が望ましくない場合でも、受容度が高まることが示されています。
手続きの公正感、働きぶりの評価の公正感を高めていく対策が重要と考えられます。以下に例をあげました。
- 手続きの公正性を高める:特定の人に有利な評価にならないよう評価基準の設定段階で従業員の意見を取り入れる、など
- 従業員への態度の公正性を保つ:話しかけたりフィードバックを行う機会が偏らないように注意し、全ての部下に対して公平な態度で接する、など
Q&A
Q:同僚との競争はパフォーマンスを上げるような気がしますが、実際パフォーマンスにはどう影響しますか。
適度な競争は従業員の意欲を引き出し、パフォーマンスを向上させる効果があります。一方で、過度な競争はストレスを生み出し、チームワークを低下させる可能性があります。特に、競争が激しくなると同僚に対して敵対心が生まれたり、メンバー間の関係性を悪化させてしまう懸念もあるため、過度にならないよう注意する必要があります。
Q:上司からのフィードバックはどのようにパフォーマンスに影響しますか。
一対一の関係において、具体的で建設的なフィードバックは、従業員の成長を促しモチベーションを高め、結果としてパフォーマンスの向上につながります。一方で、ネガティブなフィードバックが多い場合、自信を失ってしまい作業効率が低下することも考えられるため注意が必要です。
また、ある従業員へのフィードバックの態度や内容が、他の従業員に対する場合と大きく異なると不平等だと感じるかもしれません。フィードバックを行う際にも公平性を意識することが大事です。
脚注
[1] 石田大典, & 黒澤壮史. (2017). 組織の双面性がパフォーマンスへ及ぼす影響: メタアナリシスによる研究成果の統合. 組織科学, 51(2), 28-37.
[2] 吉田・高野(2018). 現代企業においてパフォーマンス向上に寄与する組織風土要因に関する研究.日本経営工学会論文誌,69(1), 1-20.
[3] Hartnell, C. A., Ou, A. Y., & Kinicki, A. (2011). Organizational culture and organizational effectiveness: A meta-analytic investigation of the competing values framework’s theoretical suppositions. Journal of Applied Psychology, 96(4), 677-694.
[4] Liden, R. C., Wayne, S. J., & Sparrowe, R. T. (2000). An examination of the mediating role of psychological empowerment on the relations between the job, interpersonal relationships, and work outcomes. Journal of Applied Psychology, 85(3), 407-416.
[5] Bond, C. F., & Titus, L. J. (1983). Social facilitation a meta-analysis of 241 studies. Psychological bulletin, 94(2), 265.
[6] Shaw, J. D. (2015). Pay dispersion, sorting, and organizational performance. Academy of Management Discoveries, 1(3), 165-179.
登壇者
藤井 貴之
株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー。関西福祉科学大学社会福祉学部卒業、大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了、玉川大学大学院脳情報研究科博士後期課程修了。修士(教育学)、博士(学術)。ECC編入学院大阪校非常勤講師(心理学担当)。社会性の発達・個人差に関心をもち、向社会的行動の心理・生理学的基盤に関して、発達心理学、社会心理学、生理・神経科学などを含む学際的な研究を実施。組織・人事の課題に対して学際的な視点によるアプローチを探求している。