2024年12月5日
異質な声に耳を傾ける:組織における少数派影響のメカニズム
組織において多様な意見や価値観が存在し、少数派の考えが組織の発展や変革に果たす役割は大きなものがあります。しかし、少数派の意見がどのように多数派に受け入れられていくのか、そのプロセスについては十分に知られていません。
本コラムでは、「少数派影響」というテーマに注目します。少数派の一貫した主張が多数派の考えを徐々に変えていく過程や、少数派の影響力が高まる条件などについて、研究知見を基に解説していきます。
少数派の声が組織を動かすことがある背景には、どのような心理的メカニズムがあるのでしょうか。その仕組みを理解することで、多様な意見が共存し、建設的な議論が行われる組織の実現に向けたヒントが得られるかもしれません。
少数派が将来の相互作用を期待しない場合
少数派の意見は、どのような状況で多数派に受け入れられやすくなるのでしょうか。将来の相互作用に対する期待がグループの意思決定に及ぼす作用に着目した研究があります[1]。
具体的には、少数派と多数派のメンバーが将来にわたって交流するかどうかという期待が、グループ意思決定の質や情報共有にどのような効果をもたらすかを調べました。2つの実験を通じて、注目すべき結果が得られました。
1つ目の実験では、MBAの学生160名を対象に、架空の会社のCFO候補者を推薦するタスクが行われました。少数派メンバーは候補者に関する固有情報を持ち、多数派は共有情報に基づいて意思決定を行う設定でした。
結果、少数派が将来の相互作用を期待していない場合、彼ら彼女らの意見が多数派の私的および公的な意思決定に顕著な作用を及ぼすことがわかりました。言い換えれば、少数派は将来的な相互作用を期待しない方が、グループ内でより強い影響力を発揮したのです。
2つ目の実験では、パリ大学の学生171名を対象に、架空のレストランのシェフを選定するタスクが行われました。ここでは、少数派と多数派の両方が将来の相互作用を期待するかどうかを操作し、少数派の反対意見の表明、多数派の異質な情報に対する開放性、そしてグループ全体の体系的な情報処理への効果が検討されました。
この実験でも、少数派が将来の相互作用を期待していない場合、より多くの反対意見を表明し、これによって多数派は異質な情報に対してオープンになりやすくなることが示されました。結果的に、グループ全体での情報処理が促進され、少数派の影響力がさらに高まりました。
このような現象が起こるのは、将来の相互作用を期待しない少数派が、自由に意見を表明しやすくなるためです。今後も同じメンバーと協力することがないと考え、反対意見を述べることに対する心理的な抑制が少なくなるのです。
一方、多数派が同じメンバーとの将来の相互作用を期待している場合、異質な情報を受け入れる傾向が強まります。将来的に同じメンバーと再度協力する必要があると考えるため、他者の意見に注意を向け、関係を損なわないようにしたいという動機が働くのでしょう。
この組み合わせがグループ全体での体系的な情報処理を促し、少数派の影響力が高まるという現象が確認されました。
この研究結果は、組織やチームの構成を考える上で参考になります。例えば、短期的なプロジェクトチームや、異なる部署からメンバーを集めた臨時のタスクフォースなど、将来の相互作用が限定的な環境では、少数派の意見がより活発に表明され、グループ全体の意思決定の質が向上する可能性があります。
少数派を受け入れる人、受け入れない人
少数派の影響力は、それを受け取る側の価値観によっても左右されます。個人の文化的価値観、特に個人主義と集団主義の傾向が、少数派の意見の受け入れやすさにどのように作用するかが調査されています[2]。
個人主義と集団主義を「水平的」(平等を重視)と「垂直的」(階層を重視)の2つの軸でさらに細分化し、4つのタイプに分類しました。これらのタイプによって、少数派の意見に対する反応が異なることがわかりました。
水平的個人主義が高い人は、少数派の視点を取り入れることで意思決定の質が向上しました。彼ら彼女らは独立性を重視し、ユニークな考え方を歓迎します。少数派の影響にさらされた水平的個人主義の高い人は、意思決定の質を2.27倍向上させる可能性があることが示されました。
一方、水平的集団主義が高い人は、集団の合意を重視するため、少数派意見を受け入れにくく、意思決定の質を改善する効果が低いという結果が得られました。水平的集団主義の高い人は、少数派の影響を受けた場合でも意思決定の改善が低いことが示されています。
水平的集団主義の高い人が少数派意見を受け入れにくいのは、集団の調和や一致を重視するためです。集団内の分裂を避けようとし、少数派意見を取り入れることで、集団内の不和が生じるリスクを避けたいと考えます。
垂直的集団主義が高い人は、少数派影響エージェントが高い地位にある場合、意思決定の質が向上することが確認されました。階層的な地位を重視する垂直的集団主義の高い人が、権威のある人物からの意見を受け入れやすいからです。
少数派であっても、その意見を提案する人物がリーダーシップを持っていたり、集団内で高い地位にいたりする場合、垂直的集団主義の高い人はその意見を簡単に否定せず、むしろ受け入れることで意思決定の質を向上させることができるのです。
垂直的個人主義に関しては、期待された結果が得られず、地位の高い少数派影響エージェントとの相互作用は検出されませんでした。しかし、垂直的個人主義が高いエージェントは、役割ストレスが少ないことが明らかになりました。
垂直的個人主義の高い人が役割ストレスを感じにくいのは、他者より優位に立ち、独自性を際立たせることに価値を見出すためです。少数派として意見を述べることや、その意見が反対されるリスクを冒すこと自体が、自己実現の一環となります。
この研究結果は、組織における多様性の価値を改めて表しています。異なる文化的背景や価値観を持つ人々が混在することで、少数派の意見がより効果的に取り入れられ、意思決定の質が向上する可能性があります。
例えば、水平的個人主義の傾向が強い人々がチームに含まれていれば、少数派の意見がより積極的に検討され、創造的な解決策が生まれやすくなるかもしれません。一方で、水平的集団主義の傾向が強い環境では、少数派の意見を引き出すための特別な配慮が必要かもしれません。
また、垂直的集団主義の傾向が強い組織では、少数派の意見を持つ人物の地位や権威が、その意見の受け入れられやすさに大きく影響することを認識しておく必要があるでしょう。
選択や選考は影響を受けにくくする
少数派の意見が多数派に影響を与えるプロセスには、様々な要因が関わっています。新しいメンバー(新人)が既存のワークチームに与える影響に焦点を当てた研究が、興味深い知見を提出しています[3]。
研究では、3人のチームがTAST(Team Air-Surveillance Task)という模擬航空監視タスクを実行する実験が行われました。実験の結果、チームが新人の提案を受け入れる条件が明らかになりました。
1つ目の重要な要素は、チームの選択です。チームが初期のタスク戦略を自分で選択した場合、コミットメントが強まり、新人の提案を受け入れる可能性が低くなりました。一方で、戦略があらかじめ割り当てられた場合は、コミットメントが低いため、新人の提案を受け入れやすくなります。
自分で選んだ選択肢に対して人は強い所有感を抱き、その選択を正当化しようとします。自分で決めたことには投資や努力が伴っているため、変えることへの抵抗が強くなるのです。逆に、与えられた戦略は自分のものではないため、変化を受け入れる余地が広がります。
2つ目の重要な要素は、パフォーマンスの影響です。チームが最初のタスクで失敗した場合、新しい戦略に対する受容性が高まりました。失敗したチームは、現状に対する不満が高く、戦略を変える動機づけが強くなるためです。逆に、成功したチームは現状に満足しているため、新しい戦略への抵抗が強くなります。
人は一般的に、失敗したときに問題解決のために行動を変えようとします。成功した場合には、変化の必要性を感じないため、リスクを取って新しい方法を試すことに消極的になります。失敗は変化を促進し、成功は現状維持を促進する要因として働くのです。
これらの要素によって、コミットメントと知覚されたパフォーマンスを通じて、新人の提案への受容性に影響を与えることがわかりました。特に、選択された戦略に対するコミットメントが高いと、新しい提案に対する抵抗が強くなる一方で、失敗したチームでは新人の提案が成功への糸口として受け入れられる可能性が高まります。
地理的な距離は少数派影響を促す
近年、テクノロジーの発展により、地理的に離れた場所にいるメンバーでチームを構成することが可能になりました。このようなバーチャルチームにおいて、少数派影響はどのように機能するのでしょうか。コンピュータを介したコミュニケーション(CMC)による少数派影響について発見がなされています[4]。
少数派メンバーの地理的な近接性や孤立性が、少数派の意見がグループに及ぼす作用をどのように変えるかに焦点を当てました。実験では、180名の米国とカナダの大学生を対象に、隠れプロファイルタスクを使用した実験が行われました。
実験の結果、少数派メンバーの地理的位置が重要な役割を果たすことが明らかになりました。特に、孤立した少数派が一貫性のある主張を行った場合、グループの多数派に大きな作用を与えることが確認されました。対して、同じ場所にいる少数派が一貫した意見を持っていた場合、その影響力は弱まりました。
孤立した少数派の影響力が強くなる理由は、物理的に離れているために他のメンバーから独立した視点として認識されやすく、かつその一貫した主張が新鮮で説得力を持ちやすいからです。遠くからの視点はチーム内の議論を刺激し、既存の考えに疑問を持たせ、意思決定にポジティブな作用を与えます。
一方、同じ場所にいる少数派が一貫した意見を持っている場合、その意見は逆に影響力を失いやすくなります。近くにいるメンバーが意見の異なる少数派を「頑固さ」や「過激さ」として認識しやすくなり、かえってその意見が無視されたり、否定的に扱われたりすることがあるのです。
この現象は「黒い羊効果」とも関連しています。黒い羊効果とは、グループ内で自分たちと異なる意見を持つ人(少数派)に対して、外部の意見よりも強い拒絶反応を示す現象です。同じ場所にいる少数派が一貫した意見を持つと、その意見が多数派からの強い反発を引き起こすことがあります。
この研究は、バーチャルチームや地理的に分散したチームの運営に参考になります。例えば、異なる拠点や部署からメンバーを集めてプロジェクトを構成する際、地理的に孤立したメンバーの意見を求めることで、新しい視点や創造的なアイデアを引き出せる可能性があります。
少数派影響が増すのはどういうときか
これまで見てきたように、少数派影響は様々な要因によって左右されます。いくらか古くはありますが、その時点における少数派影響に関する15年にわたる研究をまとめ、少数派の影響がどのようにして多数派に作用するか、どのような条件で影響力が強まるのかを包括的に検討した論文の内容を紹介しましょう[5]。
少数派が影響力を持つための重要な要素として、「一貫性」が挙げられています。一貫した行動は、少数派がその意見に強い自信を持っているという印象を与えます。人々は、自信を持っている人の意見に従いやすいため、少数派が意見を変えずに一貫性を保つことで、多数派もその意見を無視できなくなり、次第に影響を受けるのです。
しかし、一貫性が強すぎて「硬直的」に見えると、逆に非協力的で柔軟性がないと見なされます。例えば、相手の意見や状況に応じて少しも譲歩しない態度は、かたくなで頑固に見え、多数派から反感を買うことがあります。そのため、硬直的な少数派の影響力は減少します。
少数派の意見が多数派とどれだけ異なるか(意見の不一致の度合い)も、影響力に関係します。意見の不一致があまりに大きい場合、少数派は極端な立場を取っていると見なされ、多数派から敵対的な扱いを受けやすくなります。
人々は、自分の意見とあまりにかけ離れた立場には心理的に抵抗を感じます。極端な少数派の意見は説得力を持たないことが多いということです。しかし、不一致が適度であれば、少数派の意見が「少し違うけれど参考になるかもしれない」と多数派に思わせることができ、説得力が増します。
また、少数派の立場がその時代の一般的な価値観や社会的規範と一致しているかどうかも重要です。少数派の意見が社会の価値観に合致している場合、意見が受け入れやすくなります。逆に、社会的規範に反している場合、多数派はその意見を無視したり、批判したりします。
さらに注目すべきは、「シングル・マイノリティ」と「ダブル・マイノリティ」の違いです。シングル・マイノリティは意見だけが多数派と異なる人たちを指し、ダブル・マイノリティは意見に加えて、性別や人種など、社会的カテゴリーでも異なる少数派を指します。
これまでの研究によると、ダブル・マイノリティの影響力はシングル・マイノリティよりも弱くなります。これは、ダブル・マイノリティが社会的に「二重の逸脱者」として認識され、その意見が「自己利益的」であると見なされることが多いからです。
脚注
[1] San Martin, A., Swaab, R. I., Sinaceur, M., and Vasiljevic, D. (2015). The double-edged impact of future expectations in groups: Minority influence depends on minorities’ and majorities’ expectations to interact again. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 128, 49-60.
[2] Ng, K. Y., and Van Dyne, L. (2001). Individualism-collectivism as a boundary condition for effectiveness of minority influence in decision making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 84(2), 198-225.
[3] Choi, H.-S., and Levine, J. M. (2004). Minority influence in work teams: The impact of newcomers. Journal of Experimental Social Psychology, 40(2), 273-280.
[4] Bazarova, N. N., Walther, J. B., & McLeod, P. L. (2012). Minority influence in virtual groups: A comparison of four theories of minority influence. Communication Research, 39(3), 295-316.
[5] Maass, A., and Clark, R. D. III. (1984). Hidden impact of minorities: Fifteen years of minority influence research. Psychological Bulletin, 95(3), 428-450.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。