2024年12月4日
ボランティア活動がもたらす効果:帰属意識と心理的ニーズの充足
ボランティア活動は、社会貢献の形の一つとして広く認知されています。しかし、その効果は社会への貢献だけでなく、参加する個人や支援する組織にも及ぶことが分かっています。学術研究においては、ボランティア活動が参加者の心理的健康や組織への帰属意識を高める可能性が示されています。
本コラムでは、ボランティア活動がもたらす多面的な効果について、研究知見をもとに探ります。特に注目するのは、組織への帰属意識の向上、自己の一貫性の役割、心理的ニーズの充足、そしてモチベーションに関わる要因です。これらの知見は、ボランティア活動を通じて個人の成長や組織の発展を促したい企業や非営利団体にとって、有益な情報となるかもしれません。
ボランティア参加が組織への帰属意識を高める
ボランティア活動への参加は、社会貢献の機会を提供するだけでなく、参加者自身の組織に対する態度や行動にも関わります。特に注目すべきは、ボランティア活動が組織への帰属意識、つまり従業員が組織に対して感じる愛着を高める効果です。
ある研究では、ボランティア活動に参加した従業員と参加しなかった従業員を比較し、ボランティア活動への参加が組織への帰属意識を向上させることが確認されました[1]。この効果は、ボランティア活動を通じて得られる様々な経験や感情が、従業員の組織に対する見方を変えるためだと考えられます。
ボランティア活動が組織への帰属意識を高める理由は複数あります。まず、ボランティア活動を通じて、従業員は自社が社会的責任を果たしていることを体験します。これによって、自分が働いている会社に対する誇りや愛着が増すのです。
また、ボランティア活動は往々にして通常の業務とは異なる環境で行われるため、新しいスキルの習得や、普段接することのない同僚との交流の機会となります。このような新鮮な経験が、仕事に対する意欲を刺激し、組織への帰属意識を強めます。
さらに、ボランティア活動への参加動機も重要な要素です。自分の価値観に基づいてボランティア活動に参加する「価値動機」が強い従業員ほど、組織への帰属意識が高まる傾向にあります。ボランティア活動が自分の価値観を表現し、実現する機会となるからです。自分の価値観と組織の活動が一致していると感じることで、組織への愛着がさらに強まるということです。
一方で、キャリア開発を目的としたボランティア参加は、必ずしも組織への帰属意識の向上につながらないことも分かっています。キャリア志向の強い従業員が、ボランティア活動を自己成長の手段として捉え、組織への帰属意識よりも個人の利益を優先するためでしょう。
ボランティア活動が組織への帰属意識を高める効果は、参加の頻度とも関連しています。ボランティア活動に頻繁に参加する従業員ほど、組織に対する忠誠心が高まる傾向が見られます。継続的な参加によって、自分の貢献が組織や社会にとって大切だという認識が強まります。
組織への帰属意識の向上は、企業にとって意味を持ちます。組織への帰属意識が高い従業員は、仕事への満足度が高く、離職率が低い傾向にあります。また、組織の目標達成に向けて積極的に貢献します。ボランティア活動の推進は、従業員の定着率向上や生産性の向上にもつながる可能性があるのです。
自己の一貫性を高め、組織への帰属意識につながる
ボランティア活動が組織への帰属意識を高める過程において、「自己の一貫性」が重要な役割を果たしています。自己の一貫性とは、個人が持つ価値観や信念が、自身の行動や周囲の環境と一致している感覚のことを指します。ボランティア活動を通じてこの自己の一貫性が高まると、組織への愛着が強化されます。
ある研究では、製薬会社の従業員を対象に、企業が主催するボランティア活動への参加と組織への帰属意識の関係を調査しました。その結果、ボランティア活動への参加が自己の一貫性を高め、それが組織への帰属意識の向上につながるというメカニズムが明らかになりました[2]。
ボランティア活動に参加する際の「価値機能」、すなわち自分の価値観や信念を表現し、実現したいという動機が重要な役割を果たしています。価値機能に基づいてボランティア活動に参加する従業員は、その活動を通じて自分の価値観を実践できると感じます。これによって、「自分の信念と行動が一致している」という自己の一貫性の感覚が強まります。
自己の一貫性が高まると、従業員は自分自身に対してポジティブな評価を持つようになります。自分の価値観を実現できる環境にいるという認識が、自尊心や自己効力感を高めます。そして、この肯定的な自己評価が、組織に対する感謝や愛着につながります。「この組織が自分の価値観を実現する機会を与えてくれた」という認識が、組織への帰属意識を強化するということです。
実際、調査では、価値機能に基づくボランティア動機と自己の一貫性の間に正の相関が見られました。そして、この自己の一貫性の感覚は、価値機能と組織への帰属意識の関係を部分的に媒介していることが確認されました。価値機能に基づくボランティア参加が自己の一貫性を高め、それが組織への帰属意識の向上につながるという一連の流れが存在します。
しかし、自己の一貫性を制御しても、価値機能の支持が組織への帰属意識に対して直接的な影響を与えていました。ボランティア活動への参加が、自己の一貫性を高める以外の方法でも組織への帰属意識を強化する可能性を示唆しています。例えば、ボランティア活動を通じて得られる新しいスキルや人間関係、達成感なども、組織への帰属意識の向上に寄与しているのかもしれません。
ボランティア活動の頻度も重要な要素です。企業ボランティア活動に頻繁に参加する従業員ほど、組織への帰属意識が高まりました。参加頻度が高いほど、自己の一貫性を実感する機会が増え、組織との結びつきがより強固になるためだと考えられます。
心理的ニーズの充足がよい効果をもたらす
ボランティア活動が従業員にもたらす効果を理解する上で、心理的ニーズの充足という観点は大切です。特に、「有能感」と「関連性」という二つの心理的ニーズが、ボランティア活動を通じてどのように満たされ、それがどのような効果をもたらすかについて、研究結果が得られています。
企業ボランティア(CV: Corporate Volunteering)が、これらの心理的ニーズの充足を通じて、従業員の仕事満足度や情緒的コミットメントにどのように関わるかを調査しました。その結果、企業ボランティアを通じて有能感と関連性のニーズが満たされることで、従業員の仕事満足度や組織コミットメントが高まることが明らかになりました[3]。
初めに、有能感の充足について見てみましょう。ボランティア活動を通じて新しいスキルを学んだり、自分の能力を発揮したりする機会を得ることで、従業員は自分の有能感を高めます。有能感の向上は、仕事満足度と情緒的コミットメントの両方に好ましい影響を与えることが分かりました。
ボランティア活動で新しい課題に挑戦したり、自分の専門知識を活かしたりすることで、従業員は自分の成長を実感します。成長の感覚が、仕事に対する満足感を高めます。また、自分の能力が組織や社会に貢献できているという認識は、組織への愛着を強める効果があります。
続いて、関連性の充足についても同様の効果が見られました。ボランティア活動を通じて同僚や地域社会の人々と新たなつながりを築くことで、従業員は社会的な帰属感を得ます。つながりの感覚が、仕事満足度と情緒的コミットメントを高める要因となっています。
ボランティア活動は、普段の業務では接点の少ない同僚と協力する機会を提供します。このような経験を通じて、職場内の人間関係が深まり、チームワークが向上することがあります。また、地域社会との交流は、自分の仕事が社会にどのように貢献しているかを実感する機会となり、仕事の意義を深く理解することにつながります。
ボランティア活動は従業員の心理的ニーズを満たす手段となり得ます。有能感と関連性という基本的な心理的ニーズの充足が、仕事満足度や組織コミットメントの向上につながるということです。
リーダーシップの効果は性格によって異なる
ボランティア活動における効果的なリーダーシップのあり方について研究が行われています[4]。興味深いのは、リーダーシップの効果が従業員の性格特性によって異なるという点です。
研究では、「自主性支援型リーダーシップ」という概念に着目しています。このリーダーシップスタイルは、メンバーに選択肢や自由度を与え、個人の自律性を尊重するものです。調査の結果、このリーダーシップスタイルは概してメンバーの自律的動機づけを高め、管理的動機づけ(外部からの圧力や義務感に基づく動機づけ)を抑制する効果があることが分かりました。
しかし、この効果はメンバーの性格特性によって大きく左右されます。特に「自律志向」と「統制志向」という二つの性格傾向が、リーダーシップの効果を調整する要因となっています。
自律志向の強い従業員は、自分で決定を下すことを好み、外部からの影響を自分なりに解釈します。こういったメンバーに対しては、自主性支援型リーダーシップの効果がそれほど顕著ではありませんでした。そうしたメンバーがすでに高い自律的動機づけを持っているため、リーダーシップによる追加的な効果が限定的だからだと考えられます。
一方、自律志向が弱いメンバーに対しては、自主性支援型リーダーシップが自律的動機を大きく高める効果がありました。これらのメンバーは、リーダーからの支援や励ましによって、自主的に行動する意欲が高まります。
統制志向の強いメンバー、すなわち外部のルールや他者の期待に従うことを重視する人々に対しては、自主性支援型リーダーシップが意図せぬ効果をもたらします。これらのメンバーは、リーダーの支援的な態度を外部からの圧力と解釈してしまい、かえって管理的動機が高まってしまうのです。
自律志向の強い従業員に対しては、過度の支援や指示を控え、その自主性を尊重する姿勢が大切です。これらのメンバーは、自分で決定を下し、活動を進めていく能力があるため、リーダーは必要最小限のサポートを提供するだけで十分かもしれません。
一方、自律志向の弱いメンバーに対しては、より積極的な支援と励ましが効果的です。これらのメンバーには、自主的に行動することの意義や価値を丁寧に説明し、小さな成功体験を積み重ねられるよう支援することが大切です。
統制志向の強いメンバーに対しては、慎重なアプローチが求められます。リーダーの支援的な態度が圧力として感じられる可能性があるため、自主性を強調しすぎないようにしましょう。代わりに、明確なガイドや期待を提示しつつ、その中でメンバーが自分なりの方法を見出せるよう促すことが効果的かもしれません。
仕事の特徴でモチベーションが変わる
職務特性理論をボランティア活動に適用し、仕事の特徴が従業員のモチベーション、満足度、そしてパフォーマンスにどのように関わるかが調査されています[5]。
職務特性理論によれば、仕事の特徴は主に5つの要素から構成されます。スキルの多様性、タスクの一貫性、タスクの重要性、自律性、そしてフィードバックです。これらの要素が高いレベルで存在する仕事は、メンバーの内発的動機を高め、結果として仕事の満足度やパフォーマンスの向上につながると考えられています。
研究結果から、ボランティア活動においても、これらの特徴が重要な役割を果たすことが明らかになりました。仕事の特徴が高いほど、ボランティアの自律的モチベーションが高まります。
例えば、ボランティア活動が多様なスキルを必要とし、活動の意義が明確で、一定の自律性が与えられ、適切なフィードバックが得られる場合、ボランティアは自分の活動に対してより強い内発的動機を感じます。こうした特徴を持つ活動が、ボランティアの自己決定感や有能感を満たすためだと考えられます。
仕事の特徴は満足度にも直接的な影響を与えることが分かりました。ボランティアは、自分の活動が意味あるものだと感じ、その過程で成長を実感できるとき、高い満足感を得ます。満足感は、部分的に自律的モチベーションによって媒介されていますが、仕事の特徴そのものも直接的に満足度を高める効果があります。
一方、仕事の特徴とタスクパフォーマンスの関係も興味深い結果を示しています。仕事の特徴が高いほど、ボランティアのパフォーマンスも向上することが確認されました。しかし、このパフォーマンスの向上は、必ずしも自律的モチベーションを介していません。仕事の特徴が直接的に作業の効率や質を高める効果があることを示唆しています。
例えば、明確なフィードバックがあれば、ボランティアは自分の活動の成果を確認でき、それに基づいて改善を図ることができます。また、高い自律性が与えられれば、ボランティアは自分の判断で最適な方法を選択し、効率的に活動を進めることができるでしょう。
脚注
[1] Breitsohl, H., and Ehrig, N. (2017). Commitment through employee volunteering: Accounting for the motives of inter‐organizational volunteers. Applied Psychology, 66(2), 260-289.
[2] Brockner, J., Senior, D., and Welch, W. (2014). Corporate volunteerism, the experience of self-integrity, and organizational commitment: Evidence from the field. Social Justice Research, 27(1), 1-23.
[3] Haski-Leventhal, D., Kach, A., and Pournader, M. (2019). Employee need satisfaction and positive workplace outcomes: The role of corporate volunteering. Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 48(3), 593-615.
[4] Oostlander, J., Guntert, S. T., Van Schie, S., and Wehner, T. (2014). Leadership and volunteer motivation: A study using self-determination theory. Nonprofit and Voluntary Sector Quarterly, 43(5), 869-889.
[5] Millette, V., and Gagne, M. (2008). Designing volunteers’ tasks to maximize motivation, satisfaction and performance: The impact of job characteristics on volunteer engagement. Motivation and Emotion, 32, 11-22.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。