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コラム

ボランティア活動の多元的動機;利他か利己かを超えて

コラム

私たちの社会において、ボランティア活動は欠かすことのできない存在となっています。災害支援、環境保護、高齢者介護など、様々な分野で奉仕活動が行われ、社会の課題解決に貢献しています。しかし、なぜ人々は自らの時間と労力を提供するのでしょうか。この問いに対する答えは、一見単純に見えて実は複雑です。

近年の研究は、ボランティアの動機が利他主義だけではないことを明らかにしています。確かに、他者を助けたいという純粋な思いは重要な動機の一つですが、それだけではありません。自己成長の機会、社会的なつながりの形成、キャリア発展への期待など、様々な個人的な動機もボランティア活動を促進しています。

さらに、ボランティア活動の「価値」をどのように測るべきかという問題も、新たな視点から議論されています。従来は活動時間で評価されることが多かったボランティアですが、精神的・感情的な努力も含めた多面的な評価の必要性が指摘されています。

本コラムでは、ボランティアの動機や行動に関する研究成果を紹介します。ボランティアになりたい人とそうでない人の違い、ボランティア経験がもたらす影響、そして公共サービス動機とボランティア活動の関係など、様々な角度からボランティアの実態に迫ります。

ボランティア動機の多様な側面

ボランティア活動に参加する人々の動機は、一見単純に見えて実は複雑です。ボランティアの動機が6つの役割に分けられることを示した研究があります[1]。これらの役割は、価値観、理解、社会的機能、キャリア、自己防衛、自己向上と呼ばれています。

価値観の次元は、他の人を助けたいという思いを表します。多くのボランティアは、社会に貢献したい、困っている人を助けたいという強い気持ちから活動を始めます。例えば、災害ボランティアとして被災地に行く人々は、この動機が強く働いていると言えるでしょう。

理解の次元は、新しい知識や技能を学びたいという知的な欲求を指します。ボランティア活動を通じて、自分の視野を広げたり、専門的な技術を身につけたりすることができます。環境保護活動に参加する人々が、生態系について深く学んでいくような例が挙げられます。

社会的機能の次元は、他の人とのつながりや人間関係を作るための動機です。ボランティア活動は、同じ志を持つ人々と出会い、交流する絶好の機会となります。地域のイベントの運営ボランティアなどは、この機能が強く働く典型例でしょう。

キャリアの次元は、将来の仕事に役立つ経験を得たいという目標に関連します。特に若い世代のボランティアにとって、活動を通じて得られる経験や人脈は、将来の職業選択や就職に影響を与える可能性があります。

自己防衛の次元は、マイナスの感情から解放されたいという願望を表します。例えば、自分が恵まれた環境にいることへの罪悪感を和らげるために、恵まれない人々を支援するボランティア活動に参加する人もいます。

最後に、自己向上の次元は、自分の価値を高めたい、あるいは自信を強めたいという欲求を指します。ボランティア活動を通じて、自分の存在意義を確認したり、自信を得たりすることができます。

これらの動機は、一人のボランティアの中で複数存在し、互いに影響し合っています。例えば、環境保護のボランティアに参加する人は、環境への貢献(価値観の次元)と同時に、環境問題に関する知識の獲得(理解の次元)、同じ志を持つ人々との交流(社会的機能の次元)を求めているかもしれません。

研究者たちは、これらの動機を測定するための「ボランティア機能インベントリ」も開発しました。ボランティア機能インベントリを使うことで、個々のボランティアがどの役割を重視しているかを把握し、その人に適した活動を提供することができます。

動機に合った募集や配置が重要

ボランティアの動機を理解することは、効果的な募集や適切な配置を行う上で重要です。研究において、ボランティアの動機に合わせた「機能的分析アプローチ」が提案されています[2]。このアプローチは、ボランティアの募集、配置、保持のそれぞれの段階で、個人の動機を考慮することの大切さを強調しています。

初めに、ボランティアの募集段階では、異なる動機を持つ人々に向けて、適切なメッセージを発信することが効果的です。例えば、キャリア志向の強い若者に対しては、ボランティア活動を通じて得られる職業スキルや人脈形成の機会を強調することが有効です。環境保護団体が学生向けにボランティアを募集する際、「将来の環境関連の仕事に役立つ経験が得られます」といったメッセージを使うのは、この戦略の一例です。

続いて、ボランティアの配置段階では、個人の動機に合った活動を提供することが重要です。例えば、社会的機能を重視するボランティアには、チームでの活動や対人サービスの機会を多く与えることで、満足度を高めることができます。地域のお祭りの運営ボランティアで、人と接する機会の多い受付や案内の役割を任せるなどが挙げられます。

さらに、ボランティアの保持段階では、個人の動機が満たされているかを継続的に確認し、必要に応じて新たなタスクを提供することが大切です。例えば、理解機能を重視するボランティアには、定期的に新しい知識や技能を学ぶ機会を提供することで、活動への継続的な関与を促すことができます。環境保護団体が定期的に専門家を招いて勉強会を開催し、ボランティアの知識向上を図るのは、この戦略の一例と言えるでしょう。

この研究では、フィードバックの重要性も強調されています。ボランティアが自分の活動が組織や社会にどのように貢献しているかを理解することで、活動への満足感が高まり、長期的な参加につながります。例えば、福祉施設でのボランティア活動後に、施設利用者や職員からの感謝の言葉を伝えることで、ボランティアは自分の活動の意義を実感し、次に向けた参加意欲が高まるのです。

ボランティアの動機は時間とともに変化する可能性があることも認識しておく必要があります。最初はキャリア機能を重視してボランティア活動を始めた人が、活動を続けるうちに社会的機能や自己向上機能を重視するようになるかもしれません。このような変化に対応し、新たな機会を提供することで、長期的なボランティアの維持が可能になります。

ボランティアを通じた生活の質の向上

ボランティア活動は、社会に貢献するだけでなく、活動に参加する個人の生活の質(Quality of Life: QOL)も向上させる可能性があります。ボランティア活動が個人のQOLにどのような影響を与えるかを、体系的な生活の質モデル(Systemic Quality of Life, SQOL)を用いて分析されています[3]

この研究では、ボランティア活動の動機を、「利他主義」対「自己利益」という二分法ではなく、包括的な視点から捉えています。SQOLモデルに基づく16の機能モードを使用し、ボランティアがこれらのモードをどの程度満たしているかを評価しました。

調査結果によれば、ボランティア活動の動機として最も重要視されたのは、「友情の発展」と「社会への帰属感の強化」でした。これらはどちらも全体の約6割の回答者が重要だと評価しています。また、ボランティア活動を通じた「自己表現」や「信念の表現」も重要な動機として挙げられました。

これらの結果は、ボランティア活動が個人のQOLを多面的に向上させる可能性を示唆しています。例えば、友情の発展は、ボランティア活動を通じて新しい人々と出会い、深い関係を築くことができることを意味します。地域の清掃活動に参加することで、近隣住民と知り合い、コミュニティの一員としての実感を得られるような例が考えられます。

社会への帰属感の強化は、ボランティア活動を通じて社会とのつながりを感じ、自分の存在意義を確認できることを表しています。例えば、地域の高齢者支援ボランティアに参加することで、社会に必要とされている実感を得られるかもしれません。

自己表現や信念の表現は、ボランティア活動が個人の価値観や信念を実践する場となっていることを意味しています。環境保護活動に参加することで、自分の環境への思いを行動で表現できるような例が挙げられるでしょう。

これらの動機は、個人の心理的・社会的ニーズを満たすものであり、結果としてQOLの向上につながると考えられます。ボランティア活動を通じて、人々は社会的なつながりを強化し、自己実現の機会を得て、自己肯定感を高めることができるのです。

この研究では、ボランティア活動に参加する人々の人口統計的な特徴も明らかになっています。高学歴や高所得、宗教心が強い人々は、ボランティア活動に参加する可能性が高いことが示されました。これらの要素が「精神的資産」として機能し、他者のために時間や労力を提供する余裕を生み出していると考えられます。

この研究の面白い点は、ボランティア活動が単なる利他的行動ではなく、個人の生活の質やニーズを満たす手段としても機能していることを明らかにした点です。ボランティア活動は、社会貢献と個人の成長や満足を同時に達成できる、独特な活動形態であると言えるでしょう。

ボランティアの強度を質の側面から再考

ボランティア活動の評価は主に「活動時間」で測られてきましたが、この指標だけでは活動の真の価値を捉えきれない可能性があります。ボランティア活動の「強度」を時間だけでなく、精神的・身体的・感情的な努力を含む多次元的な視点から捉えることの重要性を指摘する研究があります[4]

研究によれば、ボランティア活動の強度は、費やした時間だけでは測れないものです。例えば、短時間のボランティアでも、精神的・感情的に大きな負担を伴う活動もあれば、長時間活動していても比較的軽度の労力で済む活動もあります。このような違いを考慮に入れることで、ボランティア活動の価値をより正確に評価できるのです。

具体的には、ボランティア活動の強度を3つの側面から評価することを提案しています。

  • 身体的な努力:体力を使う作業や実際の肉体的な労働にどの程度関与しているか
  • 精神的な努力:問題解決や計画立案といった、知的な働きが必要な場面での貢献度
  • 感情的な努力:他者を支えたり、感情的なケアを提供したりするなど、感情面での負担や関与度

このアプローチを用いることで、時間ベースの評価では見落とされがちだった活動の質的側面を捉えることができます。例えば、終末期患者へのカウンセリングを行うボランティアは、短時間の活動でも非常に高い感情的努力を要するかもしれません。一方、長時間の事務作業のボランティアは、身体的・感情的な負担は比較的小さいかもしれません。

この研究では、公共サービス動機とボランティア活動の関係にも注目しています。公共サービス動機とは、公共の利益のために働きたいという個人の志向を指します。公共サービス動機が高い人々は、ボランティア活動に多くの時間を費やし、その強度も高くなる傾向があることが分かっています。

例えば、公共サービス動機の「思いやり」や「市民の義務」といった次元が強い人は、ボランティア活動への参加に積極的です。医療ボランティアや地域社会での活動は、他者の福祉を考える「思いやり」の側面が働きますし、政治や市民活動は「市民の義務」という感覚が影響します。

公共サービス動機の概念は、ボランティアの動機を深く理解し、適切な活動とのマッチングを行う上で有益な視点を提供しています。例えば、公共サービス動機が高い人々に対しては、社会貢献度の高い活動や、公共の利益に関わるような役割を提供することで、高い満足度と継続的な参加を期待できるかもしれません。

ボランティアの強度を多面的に捉えるこのアプローチは、ボランティア活動の真の価値を理解し、より効果的に支援・促進するための重要な視点を提供しています。時間だけでなく、活動の質や個人の動機を考慮に入れることで、ボランティア活動のより深い理解と、より適切な評価・管理が可能になるのです。

ボランティアになりたい人の動機の構造

ボランティア活動に参加したい人々と、そうでない人々の間には、動機の構造に違いがあることが明らかになっています。この違いを詳細に分析し、ボランティア活動の背後にある複雑な動機構造が明らかになっています。

研究では、154名を対象に調査を実施し、ボランティアになりたい人とそうでない人の動機の違いを分析しました[5]。その結果、両グループの間に違いが見られました。

ボランティアになりたい人々は、欲求階層理論における高次の欲求、特に「社会的帰属の欲求」や「自己実現の欲求」に動機づけられる傾向がありました。これらの人々は、他者とのつながりや、自己の才能を活かして社会に貢献することに価値を置いています。

一方、ボランティアになりたくない人々は、より低次の欲求、特に物質的な要因により動機づけられる傾向が見られました。これらの人々は、賃金やキャリア発展といった直接的な利益をより重視しています。

この研究においては、ボランティア経験の有無による動機の違いも明らかになりました。ボランティア経験者は、その活動を通じて得られる社会的・心理的な報酬をすでに経験しているため、他者との関わりや社会への貢献をより高く評価しました。一方、ボランティア未経験者は、そのような高次の報酬をまだ体験していないため、動機づけがより物質的な要因に集中していました。

脚注

[1] Clary, E. G., and Snyder, M. (1999). The motivations to volunteer: Theoretical and practical considerations. Current Directions in Psychological Science, 8(5), 156-159.

[2] Clary, E. G., Snyder, M., and Ridge, R. (1992). Volunteers’ motivations: A functional strategy for the recruitment, placement, and retention of volunteers. Nonprofit Management and Leadership, 2(4), 333-350.

[3] Shye, S. (2010). The motivation to volunteer: A systemic quality of life theory. Social Indicators Research, 98(2), 183-200.

[4] Costello, J., Homberg, F., and Secchi, D. (2017). The public service-motivated volunteer devoting time or effort: A review and research agenda. Voluntary Sector Review, 8(3), 299-317.

[5] Zarubova, L., and Svecova, L. (2019). Does a difference in the motivation of volunteers and other people exist? In Proceedings of the 13th International Days of Statistics and Economics (pp. 1707-1716). University of Economics, Prague.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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