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コラム

善意の裏側:ボランティア活動の隠された動機

コラム

ボランティア活動は社会を支える大切な役割を果たしています。しかし、なぜ人々はボランティア活動に参加するのでしょうか。単に社会に貢献したいという理由だけではありません。学術研究では、ボランティア活動への参加には様々な要因が関係していることが分かっています。本コラムでは、ボランティア活動の動機に関する研究知見を紹介し、その複雑な様相を明らかにします。

文化の違いがボランティア活動の動機にどのように影響するのか、職場における人間関係はどう関わっているのか、そして金銭的な報酬はボランティア活動にどんな影響を与えるのか。これらの疑問への答えには、私たちの常識に挑戦する発見が含まれています。ボランティア活動の本質を理解することは、より効果的な社会貢献の方法を考える上でヒントを与えてくれるでしょう。

ボランティア活動の動機と文化による違い

ボランティア活動の動機は、国や文化によって異なります。中国とアメリカを比較した研究は、この点を示しています[1]。中国では集団を重視する文化があり、社会の一員としての責任感や国を愛する気持ちが主なボランティア活動の動機となっています。国や地域社会に貢献することで、家族や友人、職場などの集団への帰属意識を表現することが大切にされています。

一方、アメリカでは個人を重視する文化があり、自分を高めたり、キャリアを積んだりすることがボランティア活動の主な動機となっています。アメリカの人々は、ボランティア活動を通じて自分の能力を向上させたり、新しい人脈を作ったりすることを目指しています。また、自分自身の満足感や達成感を得ることも動機となっています。

この違いは、それぞれの社会で大切にされている価値観や期待の違いを反映しています。中国では、社会全体の利益を個人の利益よりも優先する傾向があります。そのため、ボランティア活動は社会的な責任を果たす手段として考えられています。一方、アメリカでは個人の成長や達成が重視されるため、ボランティア活動も自分自身を成長させる一つの方法として位置づけられています。

この文化の違いは、ボランティア活動を広める方法にも影響を与えています。中国では、政府や学校がボランティア活動を勧めることが効果的である一方、アメリカでは個人の興味や関心に訴えかけるアプローチが効果的です。

このような文化の違いを理解することは、世界中の人々が交流する現代社会において、ボランティア活動を効果的に広める上で有益です。文化的な背景を考慮したアプローチをとることで、より多くの人々がボランティア活動に参加する可能性が高まります。

ただし、注意すべき点もあります。文化の違いを過度に一般化することは避けるべきです。同じ国の中でも、個人によって動機は異なります。また、世界のつながりが強まる中で、これらの文化的な特徴が少しずつ変化していく可能性もあります。

それでもボランティア活動の動機の文化による違いを理解することは、多様性を尊重し、より包括的な社会を築く上で有用な視点を提供してくれます。異なる文化的背景を持つ人々が共にボランティア活動に参加することで、互いの価値観や動機を理解し合い、豊かな社会貢献の形を見出すことができるでしょう。

人間関係を築く動機が働いている

ボランティア活動の動機を考える上で、「関係的動機」という視点が貴重な考え方を提供しています。関係的動機とは、人間関係を築くためにボランティア活動に参加する動機のことです。これまで、ボランティア活動の主な動機は他人を助けたいという気持ちや社会に貢献したいという思いだと考えられてきましたが、実際にはもっと個人的で身近な理由が大きな役割を果たしているのです。

フランスで行われた大規模な調査では、多くのボランティアが「同じ趣味や関心を持つ人々と出会い、友人を作ること」を目的にボランティア活動に参加していることが明らかになりました[2]。ボランティア活動は社会貢献の場であると同時に、新しい人間関係を作る場としても機能しているのです。

特に興味深いのは、この関係的動機が特定の社会的背景を持つ人々に強く見られるという点です。例えば、学歴が高くない人や自営業者、農業に従事している人など、日常生活で他の人との接触が少ない職業に就いている人々は、ボランティア活動を通じて社会とのつながりを求める傾向が強いことが分かりました。また、配偶者を亡くした人や子供のいない家庭、退職した人、高齢者にも同じような傾向が見られました。

これらの人々にとって、ボランティア活動は社会から孤立することを防ぐ手段となっています。普段の生活で他の人との交流が少ない環境にいる人々にとって、ボランティア活動は新しい人間関係を築く機会なのです。

さらに、ボランティア活動と友人を作ることの間には時間的な順序関係があることも明らかになりました。ボランティアとして団体に参加することで、その団体の中で友人を作る可能性が高まるのです。これは、ボランティア活動が社会に貢献するだけでなく、個人的な人間関係を築くための効果的な方法でもあることを表しています。

この結果は、ボランティア活動の意味を新しい視点から捉え直すきっかけを与えてくれます。ボランティア活動は、社会貢献と個人の社会的なニーズを同時に満たす場として機能していると言えるでしょう。特に、現代社会において人々の孤立が問題になる中、ボランティア活動が果たす機能はますます重要になってきています。

しかし、関係的動機があるからといって、ボランティア活動の本質的な価値が損なわれるわけではありません。むしろ、個人の社会的なニーズと社会に貢献したいという願いが結びついた結果として、より長続きし、意味のあるボランティア活動が生まれるかもしれません。

ボランティア活動を広める側も、この関係的動機の重要性を認識する必要があります。社会貢献を呼びかけるだけでなく、活動を通じて新しい人間関係を築ける機会を提供することが、多くの人々の参加を促す効果的な方法になり得ます。

同僚から誘うのが効果的

ボランティア活動への参加を促す上で、「誰から誘われるか」が重要な要素であることが分かってきました。特に職場の環境において、従来の常識に挑戦する発見がもたらされています[3]

これまで、企業でのボランティア活動の推進は、主に上層部や経営陣からの上から下への方式で行われることが多かったと言えます。しかし、実際には親しい同僚からの誘いの方が効果的であることが分かりました。

上層部からの勧誘は、従業員にプレッシャーを与え、逆効果になることがあります。従業員は、上司からの依頼を「命令」や「義務」として受け取り、自発的に参加しようという気持ちを失ってしまうのです。一方、親しい同僚からの誘いは、より自然で心理的な負担が少ないものとして受け止められます。

なぜ、同僚からの誘いが効果的なのでしょうか。その理由は、ボランティア活動への参加動機が、社会貢献という人のためになる理由だけでなく、職場での人間関係を強くすることにもあるからです。従業員は、ボランティア活動を通じて同僚との友情を深める機会として捉えています。ボランティア活動は、仕事とは違う場面で同僚と交流し、関係を強くする場としての役目も果たしているのです。

この研究は、企業がボランティア活動を推進する際の方法にヒントを与えています。効果的なボランティア活動の推進には、上から下へのアプローチではなく、従業員同士の横のつながりを活用することが有効です。例えば、ボランティア活動の経験者が他の従業員に直接声をかけるような仕組みを作ることが良いでしょう。

また、企業の標準的な連絡手段であるウェブサイトやメール、掲示板による勧誘は、あまり効果がないことも分かりました。これらの手段は個人的なつながりを作ることができず、従業員の感情的なつながりを生み出すことができないからです。

代わりに、直接会って話をすることが効果的です。感情を伝えたり、信頼関係を確認したりできる対面での依頼は、「個人的に頼まれている」という特別な感覚を生み出し、従業員の参加したいという気持ちを高めます。

この結果は、ボランティア活動の推進が社会貢献を呼びかけることではなく、職場の人間関係や組織の雰囲気と密接に関連していることを表しています。ボランティア活動は、従業員同士のつながりを強くし、職場の雰囲気を良くする効果も期待できるのです。

しかし、この知見を活用する際には注意も必要です。同僚からの誘いが効果的だからといって、仲間からのプレッシャーを過度にかけることは避けるべきです。あくまでも自発的な参加を促すことが重要です。

ボランティア活動の推進において、人間関係の重要性を認識することは、効果的で長続きするボランティア文化を築くことにつながります。従業員同士の関係性を活かしたアプローチは、ボランティア活動への参加を促進するだけでなく、職場の雰囲気や組織の文化を良くすることにも貢献する可能性があります。

報酬が自発的なボランティア動機を低減

ボランティア活動を促進する上で、お金による報酬を導入することは効果的でしょうか。この問いに対する答えは、従来のモチベーション研究の知見と符合しています。

イタリアで行われた研究では、ボランティア活動に対する報酬の導入が、かえってボランティア活動を減少させる可能性があることが明らかになりました[4]。これは、いわゆるアンダーマイニングと呼ばれる現象です。

アンダーマイニングとは、外部からの報酬によって内側から湧き上がる動機が損なわれ、結果的に望ましい行動が減少してしまう現象を指します。ボランティア活動の場合、報酬の導入によって、もともとあった「社会に貢献したい」「他人を助けたい」という内側からの動機が薄れてしまうのです。

このような現象が起こるのは、報酬の導入によって、ボランティア活動が「自発的な社会貢献」から「報酬を得るための行為」へと認識が変化するからです。ボランティア活動が市場での取引のように捉えられ、純粋に社会貢献のために行っていた活動が、報酬を得るための「仕事」として認識されてしまうということです。

単純にお金によるインセンティブを与えれば人々の参加が増えるという考えは、必ずしも正しくありません。むしろ、内側から湧き上がる動機を大切にし、それを育む環境を整えましょう。

ただし、この結果は全てのケースに等しく当てはまるわけではありません。ボランティア活動の分野や個人の背景によって、動機の影響の度合いは異なります。例えば、社会福祉の分野では、内側からの動機が特に強く作用する傾向があります。一方、政治活動や労働組合活動では、内側からの動機と外側からの動機のバランスが異なる可能性があります。

ボランティア活動における動機の複雑さを浮き彫りにする結果です。動機は単純に「内側からの動機」か「外側からの動機」かの二つに分けられるものではありません。むしろ、様々な要因が複雑に絡み合って個人の行動に影響を与えていると考えるべきでしょう。

例えば、ある人は強い内側からの動機でボランティア活動を始めたものの、活動を続ける中で外側からの要因(例えば、社会からの評価や新しい能力の獲得)も重要になってくるかもしれません。また、別の人は最初は外側からの理由でボランティア活動を始めたが、活動を通じて内側からの満足感を見出し、それが主な動機になっていくこともあるでしょう。

このような動機の多様性と変化を理解することは、ボランティア活動を長く続けられるように推進する上で大切です。報酬を与えたり、社会貢献の重要性を訴えたりするだけでは、長期的な参加を促すことは難しいかもしれません。個々人の多様な動機を理解し、それぞれのニーズに合わせたアプローチを取ることが求められます。

また、ボランティア活動の意義は、お金をもらわずに労働力を提供することだけではありません。自発的な意思に基づいて社会に貢献し、その過程で個人的な成長や満足感を得ることにあります。報酬の導入によってこの価値が損なわれないよう、慎重に検討する必要があります。

一方で、組織や社会全体として、ボランティア活動の価値を認識し、それを適切に認める文化を育むことも重要です。ボランティア活動が、社会にとって欠かせない貢献であり、個人の成長にも寄与する活動であるという認識を広めることで、多くの人々の参加を促すことができるでしょう。

ボランティア活動の推進には、個人の内側からの動機を尊重しつつ、多様な動機に対応できる柔軟なアプローチが必要です。お金によるインセンティブに頼るのではなく、参加者の自発性や主体性を大切にする環境づくりが求められています。

脚注

[1] Chen, J., Wang, C., and Tang, Y. (2022). Knowledge mapping of volunteer motivation: A bibliometric analysis and cross-cultural comparative study. Frontiers in Psychology, 13, 883150.

[2] Prouteau, L., and Wolff, F. C. (2008). On the relational motive for volunteer work. Journal of Economic Psychology, 29(3), 314-335.

[3] Teague, D. E., and Peterson, D. K. (2011). Employee volunteerism: An exploratory study of recruiting volunteers in the workplace. International Journal of Business Environment, 4(2), 146-161.

[4] Cappellari, L., and Turati, G. (2004). Volunteer labour supply: the role of workers’ motivations. Annals of public and cooperative economics, 75(4), 619-643.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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