2024年11月27日
ICONIC Co.,Ltd.|組織サーベイ「iconic Empower」の開発支援
ICONIC Co., Ltd.組織人事コンサルティング部門 シニアマネージャー 前田純様、株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆
2008年にホーチミン市で設立されたICONIC様。人材紹介事業と組織人事コンサルティング事業の二つを柱に、ベトナムに進出している日系企業を主なお客様として、サービスを提供しています。
自社サービスの一つとして組織サーベイを開発することになり、その全面的な支援をビジネスリサーチラボが担いました。組織サーベイはiconic Empowerとしてリリースされています。サーベイ開発にも参加された前田様にお話を伺いました。
現状把握と効果検証を行いたい
伊達:
本題に入る前に、会社の簡単な紹介をお願いできますでしょうか。特に、事業内容について教えていただけますと幸いです。
前田:
弊社ICONICは2008年に日本人がホーチミン市で設立した会社です。事業内容としては、人材紹介事業と組織人事コンサルティング事業の二つを柱に、ベトナムに進出している日系企業を主なお客様として、サービスを提供しています。
伊達:
ありがとうございます。では質問に入らせていただきます。まず、弊社にご相談いただく前に、どのような課題を感じていましたか。
前田:
サーベイを開発しようと考えた背景があります。まず、日本人とベトナム人で構成される組織では、言語や文化の壁が存在します。そのため、組織の状態を可視化する必要性を感じていました。
また、私たちは人事コンサルティングサービスを提供していますが、研修や人事制度の設計・改定後の効果を、これまでは定性的な評価しかできていませんでした。組織の変化を定量的に測定し、お客様にお示しできるツールが必要だと考え、サーベイの開発を決めました。
伊達:
組織をより良くしていくためには、二つの観点が必要ということですね。一つは現状把握です。適切な現状把握がなければ、課題設定を誤り、解決策の質が下がってしまいます。そこに組織サーベイが役立つのではないかというのが一つ目の問題意識。
もう一つは、施策の効果測定です。PDCAを適切に回すためには、講じた施策がうまくいったかどうかを測定する必要があります。現状把握と効果測定を行うためのツールとして、組織サーベイの開発を考えられたということですね。
前田:
そうですね。しかし、弊社では組織サーベイの開発経験が少ないため、品質の高いサービスをベトナムのお客様に届けられるように、専門家の力をお借りして開発することにしました。
伊達:
ベトナムに進出している日系企業では、組織サーベイはどの程度普及しているのでしょうか。
前田:
日本ほど普及はしていないと思います。ベトナムに進出する日系企業は、多くの場合、小規模な組織からスタートします。サーベイの必要性を感じるサイズまで成長するのに時間がかかるのです。
例えばタイのように日系企業が既に多い国では、組織が成熟している企業も多く、サーベイの対象となる企業数も多いかもしれません。ベトナムはこれからという段階で、小規模な日系企業が多い状況です。
伊達:
組織サーベイのニーズが生じるには、自社の状況を把握する必要性や、「理解が不十分かもしれない」という認識が必要です。
日本では従業員が100人を超えるあたりからサーベイを導入する企業が増えてきます。これは個々の従業員の状況を把握しきれなくなってくる規模だからだと思われます。ただ、文化的背景の異なる方々と働く場合、100人未満でも組織を俯瞰し、従業員の心理状態を理解する必要性は高まりそうですね。
前田:
40~50名程度の規模でも、そういった課題を気にされる企業はいらっしゃいますね。
ありたい姿を大事に開発を進める
伊達:
なぜ弊社ビジネスリサーチラボの支援を受けることを決めたのでしょうか。2021年9月頃、組織診断や適性検査の開発についてウェブサイトからお問い合わせをいただきました。弊社を選んでいただいた理由や、どのように弊社の情報を知っていただいたのか、また、どのような点を評価していただいたのかをお聞かせいただけますか。
前田:
ビジネスリサーチラボを知ったのは、ある対談記事がきっかけでした[1]。その中で、組織サーベイには成果指標や影響指標があることや、オーダーメイド型とパッケージ型があるといった内容が、全4回にわたって解説されていました。
組織サーベイについて検索した際、そこまで詳しい情報を提供している会社が少なかったこともあり、お声がけさせていただきました。
伊達:
現時点でも、組織サーベイのメカニズムや考え方、注意点といった情報は、市場であまり発信されていません。「組織サーベイ」や「エンゲージメントサーベイ」で検索すると、基本的にはサービスの紹介が出てきますよね。
前田:
そうですね。
伊達:
それぞれのサービスの魅力は書かれているものの、組織サーベイとは何かといった説明は簡易的なものに留まっています。当時から数年経った今でも、詳しい情報が広まっていない状況です。
そのような中で、弊社は組織サーベイについて様々な観点から情報発信を行っています。この対談シリーズも、確か1時間半から2時間ほどの内容を、全4回という形で濃密にお届けしたものだったかと記憶しています。
前田:
決め手となったのは、多くの企業がサービスやツール主体のアプローチをする中で、ビジネスリサーチラボさんは研究に基づいたオーダーメイド型の開発を重視されていた点です。組織がどうありたいかという本質的な部分から逆算してオーダーメイドで作り、それを踏まえた上でパッケージ型を開発するというアプローチは、単なるパッケージ販売とは一線を画していると感じました。
HR事業者向けにサービスを提供している企業は他にもありますが、ビジネスリサーチラボさんは組織のあるべき姿、ありたい姿に向かうためのツール作りを重視されているということが、インタビューを通じてよく分かりました。
伊達:
私たちが大切にしている点ですので、そのようにご評価いただき、大変嬉しく思います。ツールとは、組織が目指す世界観に近づくためのアプローチの一つだと考えています。それをサービスとして作り上げていく際には、世界観、つまりゴールが重要になってくるわけです。
丁寧に議論してエンパワーメントにたどり着く
伊達:
組織サーベイの開発プロジェクトの中で印象に残っていることをお聞きしたいのですが、その前に、プロジェクトの全体の流れを整理させていただきます。
最初に、コンセプトを考えるステップがありました。比較的時間をかけて議論させていただきました。人や組織の目指すべき状態、すなわち成果指標を定義する段階です。今回はエンパワーメントという概念に行き着きました。
次に、エンパワーメントを促す要因、いわゆる影響指標を探っていきました。これには研究知見や実践的な知見を活用しました。エンパワーメントとその要因が明らかになった後、それらを測定する項目を開発し、概念と項目を対応させていきました。
その後、項目をベトナム語に翻訳し、英語と照らし合わせながら意味が適切に伝わるかを確認しました。そして、御社のクライアント企業にご協力いただいて調査を行い、得られたデータを分析して概念と項目の関連性や項目の機能を精査しました。最後に、アウトプットイメージと計算式を作成して納品させていただきました。
このような流れの中で、印象に残っている点はありますか。
前田:
特に最初のコンセプト設定の段階が印象的でした。私たちが依頼した理由の一つは、研究知見を実践につなげたいということでした。コンセプトを一つ選ぶということは、他を捨てることでもあり、その選択には悩みましたが、エンパワーメントというテーマを選んでよかったと感じています。既存の研究論文やその時点での知見をレビューしていただけたことは、とても有意義でした。
また、試作版の作成からデータ収集、英語とベトナム語の言語ニュアンスを合わせる作業など、予想以上に時間と労力を要した部分も印象に残っています。
伊達:
コンセプトについて議論した際、エンパワーメントという言葉はすぐには出てこなかったんですよね。権限委譲や仕事を任せること、信頼して認めること、自律性を高めていくことの重要性を話す中で、学術的な概念としてのエンパワーメントに行き着きました。
海外進出する日系企業には構造的な課題があります。日本人だけで運営していくことは現実的ではありませんし、現地のことをよく理解しているのは現地の方々です。そういった状況で、いかに任せていくかという点が重要な課題だと納得できました。
また、要因を検討する際には、単に課題を明らかにするだけでなく、解決策も提示できなければならないと考えました。「できていないことがある」と分かっても、改善につなげられなければ悲しいものです。御社でも時間をかけて、本当に解決できる問題なのかを検討していただいたことが印象に残っています。
前田:
ソリューションについては、これからサービスを提供していく中で、さらにブラッシュアップしていく必要がある課題ですね。
伊達:
要因のリストは商品開発の方向性を示すものとしても捉えることができますね。
実装まで試行錯誤を積み重ねる
伊達:
今回のプロジェクトでは、計算式や質問項目の納品までが一区切りでしたが、その後、プロダクトとしてリリースするまでには様々な作業が必要だったと思います。例えば、デザインやUI、システム開発、プロモーション、ネーミングなど、弊社とのプロジェクト後に、どのようなアクションを取ってリリースまで至ったのか、教えていただけますか。
前田:
主な作業としては、納品いただいたものをシステムに実装することと、システム自体の開発でした。複数の言語対応もあり、UIの設計は特に難しい部分でした。
UIデザインについてはシステム開発の企業に依頼しましたが、私たち自身もシステムを実際に使用してみて、分かりやすさの改善を繰り返しました。その後、ランディングページの準備やセミナーの実施など、リリースに向けた施策を行いました。
伊達:
納品からリリースまでの期間は、当初の想定と比べていかがでしたか。
前田:
少し時間がかかりました。レポーティング、つまりお客様にどのような形で結果をお届けするかを考え、それをシステムに実装するというプロセスがありました。基本となる部分は納品いただいていましたが、実際のお客様への提供方法を決めてからシステム開発に入るまでに一段階あり、そこで時間を要してリリースも若干遅くなりました。
伊達:
残念ながら、納品後に計画が二転三転してなかなかリリースにたどり着けないケースもあります。その点、御社は着実に前に進められていた印象があります。
前田:
実際にやってみると大変でしたが・・・。アウトプットがシステムでなければもう少し簡単だったかもしれませんが、システムとして実装すると後から変更が難しくなります。UIの設計や、その後のソリューション提案、お客様にとっての見やすさや分かりやすさなど、考慮すべき点が多くありました。
システム開発自体は設計書さえできれば、どの企業でもそれほど変わらないと思いますが、最終的な仕上げの部分は重要です。弊社は比較的小規模な組織なので、大企業と比べると承認プロセスなどは少なかったかもしれません。
伊達:
御社の取り組みは健全な試行錯誤だと感じます。サービスの質を高め、より良いものを作ろうとする過程は確かに大変ですが、着実に前進されていました。一方で、二転三転してしまうケースというのは、例えばサーベイの必要性を再検討することになったり、説明を求められたり、コンセプトの調整が必要になったりと、組織的な調整に時間がかかってしまうことがあるということですね。
前田:
意思決定者が多層にわたっていなかったので、リソースは限られていましたが、根本から覆されるような「そもそも論」は発生しませんでした。
権限委譲で効果が出る環境を作る
伊達:
ビジネスリサーチラボの支援を受けてプロジェクトに取り組み、学んだことや発見したこと、気づきがありましたら教えてください。
前田:
開発プロセスを進める中で、エンパワーメントという概念から掘り下げていく形になりましたが、研究知見に基づいて進めることの重要性を改めて感じました。一方で、アカデミックな内容をビジネスの実践に結びつけることの難しさも実感しましたが。
先日実施したセミナーのアンケートを見ても、理論的な部分に関心がある方からは高評価をいただきましたが、現場寄りの方々からは「それは感覚的に分かっている」という反応も見られました。理論と実践の橋渡しがいかに重要で、かつ難しいかということを学ばせていただきました。
伊達:
エンパワーメントの要因一つ一つを見ると、当たり前のことに思えるかもしれません。しかし、その「当たり前」ができていないからこそ、エンパワーメントが難しいのだとも思います。サーベイの良さは、その当たり前の要因をきちんと導き出し、それができているかどうかを検討できる点にあります。
人と組織を巡る現象において、全く新しい発見というのはそれほど多くないのかもしれません。むしろ、当たり前のことを着実に実行していくことが大事で、そのためにまず現状をチェックし、できていない部分を改善していく。そのプロセスにおいて、サーベイは有用なツールになるのではないでしょうか。
また、私自身、今回のプロジェクトを通じてエンパワーメントについて改めて学ぶ機会を得ました。特に興味深かったのは、エンパワーメントは単に仕事を任せるという行動面だけでなく、心理的な自律性も重要な要素だということです。
マネジャーが部下に仕事を任せれば完了というわけではなく、任された本人が自律性を感じ、選択肢があると認識し、前向きに取り組めるようになることも含まれているのです。これは、マネジャーが見落としがちな視点ではないかと感じました。
前田:
権限移譲にばかり注目してしまいがちですが、さらに任せやすい状態を作ることも重要で、それは心理的エンパワーメントの概念と関係しています。この部分は組織サーベイで測定するのに適していると思います。
伊達:
任せたときに効果が出るような環境をどう構築していくか。今回の組織サーベイでは、そうした要因を影響指標として組み込むことができました。単純な権限委譲であれば上司と部下の一対一の関係で完結するように見えますが、実際はそうではありません。
だからこそ多くの人がエンパワーメントに苦心するのだと思います。上司と部下の関係だけでなく、同僚との関係や制度など、様々な要素を整えていかないと、仕事を任せてもうまく機能しません。
実装までのフォローアップには意義がある
伊達:
依頼して良かった点や改善してほしい点について教えてください。
前田:
良かった点としては、研究知見を提供していただき、それをベースに設定していただいたことです。
また、現在様々な組織サーベイが出回っている中で、特にエンゲージメントについて、実際にどのように使われているのか、ツールとしてどう販売されているのかといった実態を知ることができました。これは非常に参考になりました。さらに、各影響指標の改善方向性や事例なども提供していただき、助かりました。
改善してほしい点については、御社の専門外かもしれませんが、納品後のお客様への見せ方やデザイン、UIといった部分です。
もちろん、ソリューションの準備は私たちの責任ですが、システムへの実装と納品の間の部分について、何らかのサポートがあれば良かったかもしれません。スコアの出し方の一例を超えて、全体像としてどのようにまとめるかという視点があれば、実装がよりスムーズになったのかなと感じました。
伊達:
お話を伺いながら思い出したのですが、納品後も打ち合わせに同席してほしいというリクエストを受けることがありました。
特に準備は必要なく、その場で気づいたことを助言する程度でしたが、開発プロセスを全て見てきたものとして、また組織サーベイについて幅広く理解している立場から、アドバイスができました。このような形での関わり方も、今後はオプションとして提示していくと良さそうだと感じました。
前田:
弊社でも人事制度の設計プロジェクトを半年かけて行う際、コンセプトを考えて開始しても、途中で目的を見失いがちです。社員への展開時にまとめられなくなることもあります。そういった時、開発を見届けてきた方の存在があれば心強いですね。
主体的に動く組織づくりのために
伊達:
最後に、未来に目を向けてみましょう。iconic Empowerというプロダクトをどのように活用し、クライアントのどのような課題を解決していきたいとお考えでしょうか。構想をお聞かせください。
前田:
まず、開発のきっかけとなった現状把握と効果測定という基本的な役割を果たしていきたいと考えています。さらに、サービスのコンセプトである「主体的に動くためのエンパワーメント」が機能している組織づくりを目指したいと思います。
特に、創造性を必要とするサービス業や、お客様と直接やり取りが多い業種では、その場その場で主体的な判断が求められます。また、拠点が分散していて指示を仰ぎにくい組織でも、主体的に動ける体制を作っていければと思います。
副次的な効果として、エンパワーメントの向上がエンゲージメント、つまりやりがいの向上につながり、従業員の定着率が高まることも期待しています。ベトナムは日本と比べて離職率が高いと言われているので、従業員の方々が定着し、やりがいを持って働ける環境づくりに、このツールが貢献できればと考えています。
伊達:
私からも一つ期待を申し上げたいと思います。エンパワーメントについて調べ、考える中で印象的だったのは、エンパワーメントには相互の信頼が不可欠だという点です。信頼があるから任せることができ、任せた結果が良好だからさらに信頼が深まるという好循環があります。エンパワーメントを促進することは、組織内の信頼関係を醸成することにもつながるのです。
これは海外で事業展開する企業にとって重要な観点です。国境を越えて働く仲間との間に信頼関係を築いていくツールとしても、エンパワーメントは機能すると考えています。生産性やエンゲージメントの向上も重要ですが、信頼関係の構築にも貢献できる。そういった形で展開されていくことを期待しています。