2024年11月12日
変化を味方に:”曖昧さ耐性”が導く組織づくり(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2024年11月にセミナー「変化を味方に:”曖昧さ耐性”が導く組織づくり」を開催しました。
変化の激しい今のビジネス環境。そんな中で注目されているのが「曖昧さ耐性」です。はっきりしない状況でも慌てず、むしろチャンスと捉えて行動できる力のことです。
曖昧さ耐性は聞いたことあるけど、具体的に何なのか。うちの会社にどんな関係があるのか。そんな疑問にお答えします。
研究知見をもとに、曖昧さ耐性が社員の成長や会社の業績にどう影響するのかを解説します。さらに、どうすれば社員の曖昧さ耐性を高められるのかも紹介します。
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
曖昧さ耐性に注目する
ビジネス環境は、日々複雑化を続けています。テクノロジーの発展は速く、世界各地との取引は増え、突発的な事態も発生します。このような状況において、これまでの経験や方法だけでは対処が難しい問題が次々と生まれています。物事の見通しが立ちにくい環境は、日常となりつつあります。
この中で多くの人が関心を寄せているのが「曖昧さ耐性」です。研究では、曖昧さ耐性の高さが人のキャリア開発や交渉力、企業の業績にまで影響を及ぼすことが明らかになっています。
曖昧さ耐性は生まれつきの能力ではありません。経験を積むことで成長し、意識的に育てることもできるスキルです。今回は、曖昧さ耐性の性質や、企業活動への作用、育成方法などについて研究知見をもとに検討していきます。
曖昧さ、そして曖昧さ耐性とは
初めに、曖昧さの本質、曖昧さ耐性の定義を紹介しましょう[1]。
曖昧さとは何か
曖昧さとは、物事の意味や結果が明確でない状態を指します。例えば、新しいプロジェクトの進め方が分からない場合や、市場の先行きが読めない場合が挙げられます。
曖昧さには、主に三つの側面があります。第一に「新規性」です。これは経験のない事態に直面することを意味します。例えば、新技術の導入や、未知の市場への参入などが当てはまります。今までの知識や経験が通用せず、手探りの対応が必要になります。
第二に「複雑性」です。これは多くの要因が絡み合う状態を意味します。例えば、世界的な部品調達の管理や、多数の関係者との利害調整などが当てはまります。一つの変化が他の要因に波及し、全体を把握することが難しくなります。
第三に「解決不可能性」です。これは正解のない状態を意味します。例えば、将来の市場予測や、新しい価値の創造などが当てはまります。正解を探すのではなく、より良い答えを見出すことが必要になります。
曖昧さ耐性とは何か
曖昧さ耐性とは、こうした曖昧な状況にどの程度上手く対応できるかを表す個人の特性です。
曖昧さ耐性が高い人は、曖昧な状況をストレスの原因としてではなく、発見の機会として捉えます。例えば、新規プロジェクトに取り組む時、未知の領域を脅威ではなく、新しい解決策を見出す機会として受け止めます。
また、曖昧さ耐性が高い人は、複数の選択肢が存在する状況でも落ち着いて対応できます。一つの答えにこだわらず、様々な可能性を柔軟に検討することができます。情報が不足している状況でも、入手可能な情報を活用しながら判断を下すことができます。
曖昧さ耐性は、曖昧さを受け入れるだけの力ではありません。その状況を活用する能力も含まれます。不完全な情報から意味のあるパターンを見出す力、複数の可能性を同時に検討する力、曖昧さを発見の機会として活かす力などが含まれます。
例えば、市場の変化が激しい中で新製品を開発する場合、曖昧さ耐性が高い人は、不確実な市場動向を分析しながら、その中に眠る機会を見出し、製品の構想を生み出すことができます。また、異なる考えを持つ関係者との調整が必要な場合も、多様な視点を受け入れながら、解決策を見出すことができます。
曖昧さ耐性が高いと何が良いのか
続いて、曖昧さ耐性が高いことで得られる利点について検討します。個人のキャリア開発、交渉力の向上、そして組織全体の業績への作用という観点から、曖昧さ耐性の効果を見ていきます。
キャリア開発に対する効果
曖昧さ耐性が高い人は、キャリアに関する迷いが少なくなることが分かっています[2]。具体的には、キャリア選択における4つの側面において改善が確認されています。
- 一般的な迷い:キャリアに関する決断を後回しにする傾向を指します。曖昧さ耐性が高い人は、完璧な情報がなくても決断を下すことができます。
- 非現実的な考え:キャリアに関する思い込みを指します。例えば「自分に合う仕事は一つしかない」といった考えです。曖昧さ耐性が高い人は、より柔軟に考えることができ、多様な可能性を検討できます。
- 情報不足:キャリア選択に必要な情報が足りない状態を指します。曖昧さ耐性が高い人は、限られた情報でも前に進むことができます。
- 情報の矛盾:得られる情報が食い違っている状態を指します。曖昧さ耐性が高い人は、矛盾する情報も受け入れ、総合的な判断を下すことができます。
さらに、曖昧さ耐性の高い人は、環境の調査と自己分析を積極的に行うことで、キャリアに関する判断の質を高めています。
環境の調査とは、様々な職業や職場について情報を集める活動です。例えば、業界研究や職場体験への参加、社会人への聞き取りなどが含まれます。自己分析は、自分の価値観や適性、興味を深く理解しようとする活動です。例えば、自己分析やキャリアコンサルティングを受けることなどが当てはまります。
これらの活動は、不確実な要素を含むため、曖昧さ耐性の低い人は避けがちです。しかし、曖昧さ耐性の高い人は、これらを積極的に行い、より良いキャリア選択につなげることができます。
交渉力に対する効果
トルコの銀行に勤める中間管理職98人を対象に、交渉の模擬実験と曖昧さ耐性の測定を行った研究があります[3]。その結果、曖昧さ耐性の高い人は、交渉においてより良い結果を得られることが分かりました。これは、相手の立場や本心が完全には分からない状況でも、適切な判断を下せることを表しています。
注目すべきは、曖昧さ耐性の低い人が交渉の過程で虚偽の情報を伝える傾向が高かったという発見です。これは、曖昧な状況に対する不安を減らすため、情報を操作することで自分に都合の良い状況を作り出そうとする行動と解釈されています。
一方、曖昧さ耐性の高い人は、交渉相手との関係づくりに力を入れ、優れた解決策を見出します。例えば、双方の利害が対立する状況でも、新しい選択肢を提案することで、両者が満足できる関係を築くことができます。
組織の業績にもつながる
管理職の曖昧さ耐性が組織の財務業績に及ぼす作用が分析されています。ギリシャの54の銀行から412名の上級管理職を対象に調査を行いました[4]。
結果としては、管理職の曖昧さ耐性が組織の財務業績と密接な関係にあることを示しています。特に、総資産利益率(ROA)と株主資本利益率(ROE)という二つの収益性指標において、顕著な関係が見られました。
ROAは企業が総資産をどれだけ効率的に使って利益を生み出しているかを表します。曖昧さ耐性の高い管理職は、不確実な状況でも適切な投資判断を行い、資産の効率的な活用を実現できるようです。ROEは株主が投資した資本に対してどれだけの利益を生み出しているかを意味します。曖昧さ耐性の高い管理職は、市場環境の変化に柔軟に対応し、株主価値の向上につながる戦略的な判断を行うことができるのでしょう。
どんな人の曖昧さ耐性が高いのか
曖昧さ耐性の高さを決める要因について考えてみましょう。個人の属性による違い、組織への愛着との関係、そして仕事への満足度との関連性を探ることで、曖昧さ耐性の要因について理解を深めていきます。
属性だけで決まるものではない
曖昧さ耐性が必ずしも個人の属性のみで決まるわけではないことを示す研究を取り上げましょう[5]。例えば、性別による違いを調査したところ、男性と女性の間に有意な差は見られませんでした。これは、曖昧さ耐性が生まれつきの性差とは関係なく、むしろ個人の経験や学びによって形作られる可能性を表しています。
同様に、職位による違いも見られませんでした。上級管理職、中級管理職、下級管理職の間で、曖昧さ耐性に有意な差は確認されていません。組織内での地位や権限の大きさが、必ずしも曖昧さへの対応力を決めるわけではないのでしょう。
興味深いことに、起業家と一般の管理職の間にも明確な差は見られませんでした。起業家は高い曖昧さ耐性を持つと考えられてきましたが、研究ではそうした考えは支持されませんでした。現代のビジネス環境において、管理職も起業家と同様に高い曖昧さ耐性が求められているのかもしれません。
組織に愛着を持つ人は曖昧さ耐性が低い
組織への愛着と曖昧さ耐性の関係について、意外な発見がなされています。組織に愛着を持つ管理職ほど、曖昧さ耐性が低くなる傾向があるのです[6]。
この一見矛盾した結果は、組織への愛着の性質を考えると理解できます。組織に強い愛着を持つ人は、その組織の考え方や方針を深く内面化しています。その組織の現在の方法や考え方に共感し、それを自分のアイデンティティの一部として受け入れています。
そのため、現状の方針や価値観を揺るがす可能性のある変化や不確実な状況に直面すると、それを脅威として受け止めやすくなります。例えば、組織の戦略や構造の大きな変更、新しい業務方法の導入、予測困難な市場環境への対応などの場面で、強い不安や抵抗感を示します。
また、組織に愛着を持つ人は組織の将来に期待や希望を抱いているため、その将来が不確実になることを特に心配します。組織の成功が自分の成功と強く結びついているため、曖昧な状況は個人的な脅威としても受け止められるのです。
仕事に満足する人は曖昧さ耐性が高い
組織への愛着は曖昧さ耐性と負の関係にある一方で、仕事の満足度が高い人ほど、曖昧さ耐性が高まることが実証されています[7]。
この関係は、仕事への満足がもたらす心理的な効果から説明できます。仕事に満足している人は、自分の能力や職場環境に対する信頼感を持っています。そのため、新しい課題や予測困難な状況に直面しても、それを乗り越えられるという自信を持つことができます。
例えば、新しいプロジェクトや未経験の業務に取り組む際も、過度の不安を感じることなく、それを成長の機会として前向きに受け止めることができます。問題解決の過程で困難に直面しても、それを克服できるという確信を持って取り組むことができます。
仕事への満足感は、新しい挑戦に対する意欲も高めます。日々の業務で充実感を得ている人は、より難しい課題にも積極的に取り組もうとします。この姿勢が、不確実な状況への適応力を高めることにつながっています。
どんな環境を作れば曖昧さ耐性が高まるのか
曖昧さ耐性を高めるための環境づくりを考えてみましょう。曖昧さの低い環境の効果と、コントロール感を高めることに焦点を当てて、実践的な施策を探っていきます。
曖昧さの低い環境が有効
意外にも、曖昧さの低い環境が曖昧さ耐性を高める可能性が示されています。大学生を対象に、異なる曖昧さの度合いの環境が及ぼす作用を調査しました[8]。
学生たちは異なる形式の面接や課題に取り組みました。例えば、明確な形式の面接では、質問項目や進行手順が事前に決められており、何をすべきかが明確でした。一方、自由な形式の面接では、質問や進行が柔軟で、より多くの不確実さが含まれていました。
結果的に、明確な指示や構造のある環境で活動した学生の方が、より高い曖昧さ耐性を獲得することが分かりました。安全な環境で段階的に経験を積むことで、徐々に不確実な状況への対応力が築かれていくことを指しています。
このような環境では自己効力感も高まりやすいことが確認されました。明確な目標や手順があることで、自分の能力や進み具合を客観的に評価できるためです。自己効力感の向上が、さらなる曖昧さへの対処能力の向上につながっていきます。
曖昧さの低い環境を作るためには、どうすれば良いのでしょう。例えば、仕事の目標や評価基準を設定する、手順書やガイドラインを整備する、定期的な振り返りの機会を設ける、段階的な難易度設定を行うなどが考えられます。こうした施策により、安全な環境で経験を積み、徐々に曖昧さへの対応力を高めていくことができます。
コントロール感が曖昧さ耐性を高める
ある研究は、環境や状況をコントロールできているという感覚が、曖昧さ耐性の要因であることを示しています[9]。コントロール感が高い人は、自分の行動が結果に作用すると信じており、そのため不確実な状況に対してもより前向きに対応することができます。
例えば、新しいプロジェクトにアサインされた時、コントロール感の高い人は「自分の努力次第で成功できる」と考え、不確実な要素があっても問題なく取り組むことができます。予期せぬ問題が発生しても、「自分で解決できる」という自信を持って対応することができます。
反対に、コントロール感が失われると、人は不確実な状況に対して不安を感じ、過度に構造化された環境や明確なルールを求めるようになります。例えば、些細な判断でも上司の承認を求めたり、既存の手順に固執したりするかもしれません。これは、自分でコントロールできない状況を避けようとする防衛反応として理解できます。
組織においてコントロール感を高めるためには、まず意思決定への参加機会を増やすことが効果的でしょう。例えば、業務計画の立案に関与してもらう、改善提案の機会を設ける、プロジェクトの方向性決定に参画してもらうなどの方法が考えられます。これによって、従業員は自分の意見や行動が組織に作用を及ぼせると実感することができます。
自律性を持って仕事に取り組める環境を作ることも大切です。仕事の進め方の裁量を与える、自己管理の機会を増やす、成果に対する責任と権限を付与するといった取り組みも考えられます。これらの施策によって、従業員は仕事に対する主体性とコントロール感を高めることができます。
一見すると、曖昧さの低い環境を作ることと、コントロール感を高めることは矛盾するように思えます。しかし、これらは段階的な取り組みによって両立させることが可能です。例えば、初期段階では明確な指針と構造を提供しながら、徐々に自己裁量の範囲を広げていくという方法です。
また、基本的な枠組みは明確に定めながら、その中での実行方法については自由度を持たせるという方法もあり得ます。安全な環境で経験を積みながら、同時にコントロール感も高めていくことが可能になります。
曖昧さ耐性に注意点はあるのか
曖昧さ耐性を高めることに伴う潜在的なリスクや注意点もあります。最後に、過度な曖昧さ耐性がもたらす問題について考えていきます。
判断の遅れにつながる可能性もある
曖昧さ耐性が過度に高くなると、判断が慎重になりすぎ、必要な決断が遅れる可能性があります。様々な可能性を検討することは大切ですが、それが行き過ぎると、「より良い選択肢があるかもしれない」「もう少し情報が集まるかもしれない」という考えにとらわれ、決断を先延ばしにしてしまいます。
特に、競争の激しい環境では、判断の遅れが致命的になることもあります。例えば、新製品の開発や市場参入の時期、大きな投資判断など、速さが求められる場面で機会損失につながる可能性があります。
また、部下を持つ立場では、上司の優柔不断さが組織全体の士気低下やストレス増加を招くこともあります。明確な指示や決定を求める部下に対して、過度に不確実な態度を取り続けることは、組織の機能不全につながりかねません。
規律や秩序が乱れるかもしれない
曖昧さ耐性を過度に意識すると、組織の基本的な規律や秩序が損なわれる可能性があります。例えば、安全管理や品質管理、法令順守など、明確なルールや手順が不可欠な領域でも、「状況に応じて柔軟に」という判断が安易になされるかもしれません。
これは特に、厳格な規律が求められる仕事において深刻な問題となります。例えば、製品の品質基準を「柔軟に解釈」することで重大な事故につながったり、法令違反を「状況判断」で正当化してしまったりする危険性があります。
また、組織の基本的な価値観やルールが不明確になることで、従業員の行動基準が定まらず、結果的に組織の一体性が損なわれることもあり得ます。特に、組織が成長期にある場合や、異なる文化背景を持つ従業員が増加している場合には、この問題が目立つかもしれません。
気付かないうちにストレスがたまることも
曖昧さ耐性が高い人の中には、表面的には不確実な状況に適応しているように見えても、実は大きな精神的負担を抱えている可能性があります。不確実性に対処し続けることによる蓄積的なストレスです。
例えば、継続的な判断の必要性、常に新しい状況への適応を求められること、明確な成果が見えにくいことなどが、潜在的なストレス要因となります。周囲からの期待も大きく、「この人なら不確実な状況でも対応できるはず」という暗黙の圧力にさらされることもあります。
こうしたストレスは、突然の体調不良やバーンアウトとして表面化することがあります。自身のストレス耐性を過信している人や、周囲からの期待に応えようとする傾向が強い人は注意が必要です。
定期的な休息や振り返りの機会を設けること、信頼できる相談相手を持つこと、適切なストレス管理の方法を身につけることなどが大切になります。組織としても、過度な期待や負担を特定の個人に集中させない配慮が必要でしょう。
Q&A
Q:曖昧さ耐性の高い人の方が環境調査や自己分析に積極的に取り組むという話がありましたが、逆に曖昧さ耐性の低い人も、曖昧さを低下させるために情報収集や分析に意欲的になるのではないでしょうか。
情報を大量に収集して分析する作業自体が曖昧性の高い状況です。曖昧さ耐性の低い人は、そのような状況を避けたいと考える傾向があります。情報収集や分析よりも、誰かに手軽に企業を推薦してもらうなど、簡単な解決策を求めるかもしれません。要するに、曖昧な状況に対してあまり前向きな態度を取らないため、情報収集や分析へのモチベーションは高まりにくいのです。
Q:採用の場面など、第三者が応募者の曖昧さ耐性をどのように判断できますか。
個人の曖昧さ耐性を数値化して他の人と比較することは簡単ではありませんが、面接の場面で評価することは可能でしょう。例えば、過去に経験した不確実性の高いプロジェクトや予期せぬ事態が起きた時の話を聞き、その際の考え方、感情、行動を掘り下げることで、定性的に評価できます。
Q:曖昧さ耐性の高い人材と低い人材の両方が必要だと考えています。異なる特性を持つ人材をどのように組み合わせて活かしていくべきでしょうか。
確かに、曖昧さ耐性の高い人材だけで組織を構成すると、基準が緩くなりすぎたり、効率的な業務遂行が難しくなったりする可能性があります。両者の特性を活かす方法として、例えば、曖昧さ耐性の高い人材は新しい方向性を模索する役割を、低い人材はその方向性を具体的な実行計画に落とし込む役割を担うという補完的な組み合わせが考えられます。
ただし、特性の異なるメンバー間でコンフリクトが起きる可能性もあるため、お互いを理解し、敬意を払うことが重要です。理解と尊重があれば、それぞれの得意分野を活かした役割分担が可能になります。
Q:若手社員の中に曖昧さ耐性が低い人が増えているように感じます。指示待ち傾向が強く、不確実な状況に直面すると生産性が下がってしまいます。採用段階でスクリーニングすべきでしょうか。
まず、若手社員の曖昧さ耐性が本当に低いのか、現状を把握することが重要です。曖昧さ耐性は年齢などの属性よりも、置かれた環境や仕事の内容、周囲との関係性によって変化する特性だからです。
曖昧さ耐性は環境によって変化する可能性があるため、採用時点でのスクリーニングよりも、入社後の育成や配置、マネジメントに力を入れることをお勧めします。
具体的なアプローチとしては、段階的に曖昧な状況への対応力を身につけてもらうことが有効です。例えば、最初は明確な指示と目標設定から始め、徐々に裁量の範囲を広げていきます。小さな成功体験を積み重ねることができ、自信をつけながら曖昧さ耐性を高めていくことができます。
Q:コンプライアンスや品質管理部門のメンバーは曖昧さ耐性が低い傾向にありますが、昨今のビジネス環境では、これらの部門でも一定の曖昧さ耐性が求められると感じています。どのようにアプローチすれば良いでしょうか。
これらの部門では厳格さが求められますが、法令改正などの変化に対応するためにも、ある程度の曖昧さ耐性は必要かもしれません。
重要なのは、柔軟に対応できる部分と厳格さを維持すべき部分の境界線について検討することでしょう。例えば、社内でグレーケースのケーススタディを用いた議論を行い、どの程度の柔軟な対応が許容されるのかについて指針を考えてみましょう。
また、他部門との対話の機会を増やすことも一案です。他部門との関わりを通じて新しい状況や複雑な課題に触れることで、ビジネスニーズへの理解を深めながら、曖昧さ耐性を高めることができます。
Q:メンタルヘルスケアの観点から、過度な曖昧さ耐性がバーンアウトを引き起こすリスクを心配しています。ストレスチェックなどの既存の仕組みに加えて、曖昧さ耐性が高い社員の心理的負担を早期に発見し、支援するための施策についてアドバイスをいただけませんか。
曖昧さ耐性の高い社員のメンタルヘルスケアは重要な課題です。一つの効果的な方法として、定期的な振り返りの機会を設けることが挙げられます。例えば、上司面談や人事面談などの対話の場を活用します。
これらの機会では、業務の進捗状況や課題だけでなく、曖昧な状況への対応から生じる心理的負担についても話を聞きましょう。特に主体性の高い社員は曖昧な状況に多く直面する傾向があるため、定期的な状況把握とサポート体制の構築が必要です。
[1] Furnham, A., and Ribchester, T. (1995). Tolerance of ambiguity: A review of the concept, its measurement and applications. Current Psychology, 14(3), 179-199.
[2] Xu, H., and Tracey, T. J. G. (2014). The role of ambiguity tolerance in career decision making. Journal of Vocational Behavior, 85(1), 18-26.
[3] Yurtsever, G. (2001). Tolerance of ambiguity, information, and negotiation. Psychological Reports, 89(1), 57-64.
[4] Katsaros, K. K., Tsirikas, A. N., & Nicolaidis, C. S. (2014). Managers’ workplace attitudes, tolerance of ambiguity, and firm performance: The case of Greek banking industry. Management Research Review, 37(5), 442-465.
[5] Munteanu, C. I. (2008). A comparative study on managers’ tolerance for ambiguity. SSRN. https://doi.org/10.2139/ssrn.1132935
[6] Katsaros, K. K., and Nicolaidis, C. S. (2012). Personal traits, emotions, and attitudes in the workplace: Their effect on managers’ tolerance of ambiguity. The Psychologist-Manager Journal, 15(1), 37-55.
[7] Nicolaidis, C., and Katsaros, K. (2011). Tolerance of ambiguity and emotional attitudes in a changing business environment: A case of Greek IT CEOs. Journal of Strategy and Management, 4(1), 44-61.
[8] Endres, M. L., Camp, R., and Milner, M. (2015). Is ambiguity tolerance malleable? Experimental evidence with potential implications for future research. Frontiers in Psychology, 6, 619.
[9] Ma, A., and Kay, A. C. (2017). Compensatory control and ambiguity intolerance. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 140, 46-61.
登壇者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。