2024年10月23日
職場の”隠れた脅威”を解き明かす:組織を蝕む「侮辱的管理」(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2024年10月にセミナー「職場の”隠れた脅威”を解き明かす:組織を蝕む『侮辱的管理』」を開催しました。
皆さんの職場は健全ですか。上司と部下の関係に問題はないでしょうか。
近年、「侮辱的管理」に関する研究が増えています。これは、上司が部下に対して継続的に敵対的な態度を取ることを指します。侮辱的管理は、それを受けた部下はもちろん、組織全体にも深刻な影響を及ぼします。
本セミナーでは、研究知見をもとに、侮辱的管理について様々な観点から解説します。
- なぜ上司が、部下を侮辱し始めるのか?
- 侮辱的管理を受けた従業員の生産性は本当に下がるのか?
- 「上司への復讐」は組織にどんな影響を与えるのか?
- 侮辱的管理は伝染する? 職場全体に広がる “負の連鎖” とは?
これらの問いに、最新知見を交えながら、わかりやすく答えていきます。さらに、侮辱的管理を防ぐための方策も紹介します。
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
侮辱的管理とは
会議室で声高に叱責される部下、廊下で上司に無視される同僚、些細なミスを理由に執拗に能力を否定される新入社員、皮肉な口調で「期待してなかったけど」と言われる中堅社員。このような光景を見たことはありませんか。
これらは全て、「侮辱的管理」と呼ばれる問題の一端です。怒鳴る、罵るといった露骨な行為だけでなく、静かに、しかし確実に人格を否定する言動もこれに含まれます。
侮辱的管理は、個人間の問題にとどまりません。近年、経営学の分野で注目を集める、組織全体に深刻な影響を及ぼす問題なのです。優秀な人材が次々と離職していく理由、会社の業績が急落している原因、そしてなぜこのような状況が改善されないのか。これらの問題の根底に、侮辱的管理が潜んでいるかもしれません。
今回は、侮辱的管理が個人と組織にもたらす影響を、研究知見を交えながら明らかにしていきます。さらに、この問題を解決するための具体的な方策についても探ります。
侮辱的管理の実態:A社の事例から
架空の企業の話から始めたいと思います。大手電機メーカーA社の話です。A社は、かつては日本を代表する企業として名を馳せていました。しかし、現在のA社の様子は、かつての栄光とはかけ離れたものになっています。
人事部長の佐藤さんは、本社ビル20階の会議室で離職率グラフを見つめ、深いため息をつきます。待遇を良くしているにもかかわらず、若手社員が次々と辞めていく状況に困惑しています。
そんな中、隣の開発部門からは、部長の山田さんが部下を厳しく叱責する声が聞こえてきます。「君たち、いつまでこんな低レベルの仕事しかできないんだ!他社はどんどん先を行っているのに!」という怒鳴り声に、佐藤さんは顔をしかめます。
開発部のフロアを通りかかった佐藤さんは、机に向かって身を縮めるように座る若手社員たちの姿を目にします。かつては活気に満ちていたはずのフロアが、今は重苦しい空気に包まれています。
営業部の前では、課長の田中さんが部下を叱責している声が聞こえてきます。「こんな時間までかかるなんて、君たちは無能なのか?」新入社員の佐藤さんは肩を縮めるようにしてパソコンに向かい続けています。
人事部に戻った佐藤さんの机には、メンタルヘルス相談の予約表が置かれています。ここ数ヶ月、予約が急増しており、保健師の報告によると、上司とのコミュニケーションの問題を訴える社員が増えているとのことです。
A社の廊下には、かつての栄光を物語る賞状や記念写真が飾られています。しかし今、その下を行き交う社員たちの足取りは重く、会話も少なくなっています。昼食時、社員食堂で耳にする会話の多くが、転職サイトの話題になっています。
侮辱的管理の定義と影響
侮辱的管理は、現代の職場における深刻な問題として認識されつつあります。侮辱的管理は、日本でよく知られる「パワーハラスメント」と重なる部分が多いのですが、学術的な観点から定義され、研究されています。侮辱的管理とは「上司による持続的な敵対的言動」と定義されます[1]。
具体的には、部下を公然と批判する、侮辱的な言葉を投げかける、意図的に無視するといった行為が含まれます。例えば、「無能」「使えない」といった言葉で部下を罵る、部下の意見を一切聞かずに否定する、重要な情報を意図的に共有しない、部下の前で感情的に怒鳴るなどの行動が該当します。これらの行為は、単発ではなく、継続的に行われることが特徴です。
この現象は、いわゆる「厳しい指導」とは異なります。厳しい指導は、部下の成長や業績向上を目的として行われ、ネガティブ・フィードバックや建設的な批判を含みます。一方、侮辱的管理は、部下の尊厳を傷つけ、自尊心を低下させる行為であり、その目的は部下の成長ではなく、上司の優位性や権力の誇示である場合が多いのです。
侮辱的管理は従業員の態度や行動に広範な影響を与えます。例えば、仕事満足度の低下、組織への愛着の減少、さらには心理的健康の悪化などが報告されています[2]。
これらの悪影響は、次のようなメカニズムで生じます。まず、継続的な侮辱や批判により、従業員の自尊心が低下し、自己効力感が損なわれます。これによって、仕事への意欲が減退し、満足度が低下します。また、上司からの否定的な扱いは、組織全体への不信感につながり、組織への愛着を弱めます。さらに、常に緊張や不安を強いられることで、ストレスが蓄積し、心理的健康が悪化します。
侮辱的管理は組織支援感を低下させ、従業員の成果も減少させることも明らかになっています[3]。組織支援感とは、従業員が「組織が自分の貢献を評価し、幸福を気にかけてくれている」と感じる度合いを指します。従業員は上司を通して組織全体を推測するため、上司の行動が組織全体の評価につながります。
例えば、上司から常に侮辱的な扱いを受けると、従業員は「この組織は従業員を大切にしていない」と感じ、組織支援感が低下します。その結果、従業員の仕事への意欲や努力が減少し、成果が低下するということです。
侮辱的管理を受けた従業員が報復行動を取りやすいことも示されています[4]。これには、上司の指示を意図的に無視する、仕事の質を落とす、上司の悪口を言いふらすなどの行動が含まれます。
このような報復行動が起こるのは、「負の互恵性の信念」が関与しています。「悪いことをされたら、同じように仕返しをするべきだ」という考えが、報復行動を引き起こすのです。また、自尊心を傷つけられた従業員が、その回復のために攻撃的な行動を取るという心理メカニズムも働いています。
さらに、侮辱的管理の影響は、直接の被害者だけでなく、それを目撃した第三者にも及びます。同僚が虐待的な扱いを受けているのを目撃した従業員は、自身も不安を感じ、結果として「沈黙」を選択する傾向があります[5]。
これは、「次は自分がターゲットになるかもしれない」という恐怖心から生じます。目撃者は、自分を守るために問題を指摘したり、意見を述べたりすることを避けるようになります。このメカニズムにより、職場全体に「沈黙の文化」が形成され、問題が余計に深刻化する可能性があります。
侮辱的管理が組織にもたらす影響
侮辱的管理の影響は、個人レベルにとどまらず、組織全体に負の連鎖をもたらします。この連鎖は、従業員の過度な警戒心の蔓延、中間管理職の苦悩、そして組織文化の歪みという形で現れます。
侮辱的管理を受けた従業員は、過度に警戒的な心理状態に陥りやすくなります[6]。この状態では、従業員は周囲の言動に対して過敏に反応し、悪意を持って解釈する傾向が強まります。
例えば、上司の些細な指摘を「自分を陥れようとしている」と受け取ったり、同僚の何気ない一言を「裏で何か企んでいる」と疑ったりしてしまいます。このような心理状態は、職場での人間関係を著しく損ない、チームワークや生産性の低下を招きます。
この過度に警戒的な状態は、従業員の行動を変化させ、それがさらに上司の侮辱的管理を引き起こすという悪循環を生みます。従業員が常に警戒し、防衛的な態度を取ることで、上司の不信感や苛立ちを招きます。
例えば、部下が上司の指示に対して過剰に詳細な確認を求めたり、同僚との協力を避けたりする行動は、上司にとってはチームワークを乱す問題行動と映ります。その結果、上司はより厳しい管理や監視を行うようになり、それがさらに従業員の警戒心を高めるという悪循環に陥るのです。
中間管理職も、この負の連鎖に巻き込まれます。上からのプレッシャーに苦しむ中間管理職は、自らのストレスや不満を、部下への不合理なタスク割り当てという形で表出させてしまいます[7]。
例えば、無理な締め切りの設定、能力や経験に見合わない難易度の高い業務の割り当て、逆に能力を活かせない単純作業の大量の割り当てなどが挙げられます。これらの行動は、中間管理職自身が受けている侮辱的管理の影響を、意図せずに部下に転嫁してしまう結果となります。こうして、侮辱的管理の連鎖が組織の階層を超えて広がっていきます。
そして深刻なのは、これらの問題が組織文化そのものを歪めていく点です。心理的特権意識の高い従業員が、上司の行動をより「虐待的」と認識しやすいことが明らかになっています[8]。心理的特権意識とは、自分が他の人よりも特別扱いされるべきだと感じ、自分の要求や期待が満たされるべきだと信じる心理状態を指します。
侮辱的管理が蔓延する組織では、従業員の間に不信感や特権意識が広がり、それがさらに人間関係を悪化させるという悪循環が生まれます。例えば、「自分の能力は正当に評価されていない」「他の人よりも優遇されるべきだ」といった考えが強まり、それが職場での不満や軋轢を増大させます。この状況は、組織の一体感を損ない、協力的な職場環境の構築を困難にします。
この負の連鎖は、組織の評判にも深刻な影響を及ぼします。「働きやすさに課題のある企業」という評判が広まれば、優秀な人材の獲得が困難になります。具体的には、就職活動中の学生や転職を考える社会人の間で、その企業を避ける傾向が強まります。また、現在の従業員の間でも口コミで否定的な情報が広がり、離職率の上昇につながる可能性があります。
この評判は取引先や顧客にも伝わり、ビジネス上の信頼関係にも悪影響を及ぼします。例えば、長期的なパートナーシップの構築が難しくなったり、商品やサービスの品質に対する疑念が生じたりする可能性があります。最終的には、企業の競争力や市場での地位にまで影響を与えかねません。
侮辱的管理がもたらす負の連鎖は、個人の問題を超えて、組織全体の存続を脅かす重大な課題となります。この連鎖を断ち切り、健全な組織文化を再構築することが、現代の企業にとって急務となっているのです。
侮辱的管理への対策
侮辱的管理の問題が深刻化する中、その対策の必要性が認識され始めています。この転換点において、組織はどのような行動を取るべきでしょうか。
「サポート監督戦略」と呼ばれる介入が侮辱的管理の減少に効果があることが実証されています[9]。この介入では、コンパッション(思いやり)、インテグリティ(誠実さ)、フェアネス(公平さ)、経験的処理(過去の経験からの学習)の4つの要素に焦点を当てます。
コンパッションでは、部下の感情やニーズに敏感になり、困難な状況での適切な支援方法を学びます。例えば、積極的な傾聴のスキル向上や、ストレス下にある部下へのサポート方法などが含まれます。
インテグリティでは、一貫性のある誠実な行動を取り、部下との信頼関係を築く方法を学びます。これには、約束を守ること、透明性のある意思決定プロセスの実践などが含まれます。
フェアネスでは、全ての部下を平等に扱い、偏りのない評価やフィードバックを提供する方法を学びます。具体的には、客観的な評価基準の設定や、公平な業務分配の方法などが教えられます。
経験的処理では、過去の経験を振り返り、それを今後の対応改善に活かす方法を学びます。これには、自己反省の習慣化や、失敗から学ぶ姿勢の育成などが含まれます。
とはいえ、上司の置かれた状況が侮辱的管理に影響している可能性もあり、上司ばかりを責めても事態は改善しません。実際、上司の役割過剰感が侮辱的管理につながる可能性も指摘されています。上司が自分に求められる仕事や責任が多すぎると感じる状態(役割過剰感)が、フラストレーションを高め、それが侮辱的管理につながることが明らかになっています[10]。
このため、業務の適切な分配や、ストレス管理のサポートなど、管理職への支援体制の整備も重要です。具体的には、管理職の業務量の適正化が挙げられます。これには、定期的な業務棚卸しや、優先順位付けのスキル向上支援が含まれます。
また、タイムマネジメント研修の実施も効果的で、効率的な時間配分や集中力の維持方法などを学びます。さらに、メンタルヘルスケアの提供も重要です。例えば、定期的なストレスチェックの実施や、専門家によるカウンセリングの機会提供などが考えられます。これらの取り組みにより、管理職のストレスを軽減し、健全なリーダーシップの発揮を促すことができます。
加えて、先ほども紹介しましたが、侮辱的管理を目撃した第三者も不安を感じ、「沈黙」を選択する傾向があることが分かっています[11]。同僚が虐待的な上司に遭遇している場面を目撃した従業員は、自分自身も不安を感じ、その結果として問題や懸念事項について声を上げないことが明らかになっています。
この「沈黙の文化」を打破するため、問題を指摘しやすい環境づくりや、内部通報制度の充実が必要です。例えば、匿名性を保証した報告システムの導入が挙げられます。これには、オンラインでの匿名報告システムや、外部の第三者機関を介した通報窓口の設置などが含まれます。
また、問題提起を評価する組織文化の醸成も重要で、建設的な批判や提案を積極的に評価し、表彰するような制度の導入が考えられます。心理的安全性を高める必要があると言えるでしょう。
最後に、組織全体の文化や規範の見直しが必要となります。組織の文化や規範が攻撃的な行動を容認する場合、侮辱的管理が増加することが指摘されています。一方で、組織が明確な制裁を設けている場合、侮辱的管理が抑制されることが明らかになっています[12]。
具体的には、侮辱的行動に対する罰則規定を設け、それを確実に執行することで、組織全体に侮辱的行動が許容されないというメッセージを送ることができます。例えば、侮辱的行動の定義の明確化、段階的な処分基準の設定、処分プロセスの透明化などが含まれます。
また、360度評価システムの導入も効果的です。これによって、上司の行動を多角的に評価し、潜在的な問題を早期に発見することができます。さらに、支援的行動を評価する人事制度の構築も重要です。例えば、部下の育成や職場の雰囲気改善に貢献した管理職を昇進や報酬面で優遇するなどの施策が考えられます。
まとめ:健全な組織にするために
今回は、侮辱的管理が個人と組織に及ぼす影響、そしてその対策について見てきました。侮辱的管理は、単なる「厳しい指導」とは異なり、従業員の尊厳を傷つけ、自尊心を低下させる行為です。その影響は個人の心理的健康から始まり、組織全体の生産性や創造性の低下、さらには企業の評判や競争力の低下にまで及びます。
特に注目すべきは、侮辱的管理がもたらす「負の連鎖」です。過度の警戒心、中間管理職の苦悩、組織文化の歪みといった問題が互いに影響し合い、組織全体に深刻な影響を及ぼします。この連鎖を断ち切るためには、組織全体での取り組みが不可欠です。
幸いなことに、「サポート監督戦略」をはじめとする効果的な対策が研究されています。コンパッション、インテグリティ、フェアネス、経験的処理といった要素に焦点を当てた介入は、侮辱的管理の減少に効果があることが実証されています。また、上司の役割過剰感への対処や、「沈黙の文化」を打破するための施策も重要です。
侮辱的管理の問題は、決して一朝一夕に解決できるものではありません。しかし、この問題に真摯に向き合い、適切な対策を講じることで、より健全で生産的な職場環境を作り出すことができるはずです。今回のお話が、そのための一助となれば幸いです。
Q&A
Q:侮辱的管理を受けている同僚がいます。私にできることはありますか。直接介入すべきでしょうか。
この状況への対処は難しいですが、同僚を助ける方法はいくつかあります。まず、同僚の話をよく聞くことです。どんな気持ちなのか、どんなことが起きているのかを理解しましょう。
直接介入は慎重に考える必要があります。状況が悪くなる可能性があるためです。会社に相談窓口がある場合は、そこに報告することを検討しましょう。人事部門がそういった役割を担っていれば、人事に状況を伝えるのも良いでしょう。
社内外で利用できる支援の情報があれば、それを同僚に教えるのも助けになるかもしれません。大切なのは、同僚の立場で考え、安全で効果のある方法で支援することです。
Q:優秀な先輩社員が後輩の能力不足に対して、「頭で考えているのか」「こんなこともわからないのか」というような言葉や態度を示すことも侮辱的管理の範疇でしょうか。
そのような言動も侮辱的管理に含まれる可能性があります。繰り返し行われているかどうかがポイントです。一度きりではなく、何度も行われている場合、侮辱的管理と考えられます。
侮辱的管理の研究では、主に上司から部下への行為を対象としています。しかし、実際の職場では先輩と後輩の間でもこのような問題は起こりえます。このような言動は、後輩の自信を失わせ、学ぶ意欲を減らす可能性があります。職場の雰囲気を悪くし、チームの生産性を下げることもあります。
Q:侮辱的管理が生じるのは村社会のような日本型雇用企業の方が多いような印象ですが、米国系や欧州など地域性は影響していますか。
侮辱的管理は、特定の国や文化、雇用システムに限られた問題ではありません。どのような文化圏や雇用形態でも起こる可能性があります。実際、侮辱的管理に関する研究は、海外でも多く行われています。人が集まり、組織ができるところでは、侮辱的管理のリスクがあります。
ただし、文化や慣行によって、侮辱的管理の現れ方や頻度、それに対する認識や対応が違う可能性はあります。例えば、ある文化では許される行動が、別の文化では侮辱的と見られることもあるでしょう。
Q:侮辱的管理を行う上司の多くは、自分の行動が問題だと認識していないように思います。そういった上司の意識を変えるための効果のあるアプローチはありますか。
確かに、侮辱的管理を行う上司の中には自分の行動が問題だと気づいていない人もいます。これは難しい課題ですが、いくつかのアプローチが考えられます。
まず、360度評価の導入などで、部下や同僚からの意見を聞く機会を設けることで、自分の行動が周りにどう影響しているかを客観的に知ることができます。また、ロールプレイングなどを取り入れた研修を行い、侮辱的管理を受ける側の立場を体験させることで、相手の気持ちを理解し、自分の行動の影響を知る機会を作れます。
部下の成長を助けることやチーム全体の仕事の質を上げることなど、良い行動を評価する仕組みを作ることで、建設的なマネジメントへの移行を促せます。さらに、経営層が侮辱的管理を許さないという明確な方針を示すことで、組織全体の意識を変えることも大切です。
これらの方法を組み合わせ、続けて取り組むことで、上司の意識と行動の変化を促すことができるでしょう。ただし、変化には時間がかかることを理解し、諦めずに取り組むことが大切です。
Q:侮辱なのか、適正な業務指導なのか、その認識を部下との間で合わせる方法としては、どのようなものが考えられますか。
初めに、明らかに不適切で禁止すべき行動を検討することが大切です。判断が難しい部分を減らし、共通の基準を設けることができます。
また、上司と部下が定期的に話し合いの場を持ち、お互いの期待や感じ方について率直に意見を交わすことで、お互いの理解を深められます。上司と部下が立場を入れ替えて考える機会を設けることも有効です。上司も部下の立場に立って考えることで、より相手の気持ちが分かるでしょう。
他にも、具体的な例を用いて、どのような行動が適切で、どのような行動が不適切かをチームで話し合うことも役立ちます。これにより、共通の認識を作れるでしょう。
脚注
[1] Tepper, B. J. (2007). Abusive supervision in work organizations: Review, synthesis, and research agenda. Journal of Management, 33(3), 261-289.
[2] Zhang, Y., and Liao, Z. (2015). Consequences of abusive supervision: A meta-analytic review. Asia Pacific Journal of Management, 32(4), 959-987.
[3] Shoss, M. K., Eisenberger, R., Restubog, S. L. D., and Zagenczyk, T. J. (2013). Blaming the organization for abusive supervision: The roles of perceived organizational support and supervisor’s organizational embodiment. Journal of Applied Psychology, 98(1), 158-168.
[4] Mitchell, M. S., and Ambrose, M. L. (2007). Abusive supervision and workplace deviance and the moderating effects of negative reciprocity beliefs. Journal of Applied Psychology, 92(4), 1159-1168.
[5] Huang, J., Guo, G., Tang, D., Liu, T., and Tan, L. (2019). An eye for an eye? Third parties’ silence reactions to peer abusive supervision: The mediating role of workplace anxiety, and the moderating role of core self-evaluation. International Journal of Environmental Research and Public Health, 16(24), 5027.
[6] Chan, M. E., and McAllister, D. J. (2014). Abusive supervision through the lens of employee state paranoia. Academy of Management Review, 39(1), 44-66.
[7] Stein, M., Vincent-Hoper, S., Schumann, M., and Gregersen, S. (2020). Beyond mistreatment at the relationship level: Abusive supervision and illegitimate tasks. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17(8), 2722.
[8] Harvey, P., Harris, K. J., Gillis, W. E., and Martinko, M. J. (2014). Abusive supervision and the entitled employee. The Leadership Quarterly, 25(2), 204-217.
[9] Gonzalez-Morales, M. G., Kernan, M. C., Becker, T. E., and Eisenberger, R. (2018). Defeating abusive supervision: Training supervisors to support subordinates. Journal of Occupational Health Psychology, 23(2), 151.
[10] Eissa, G., and Lester, S. W. (2017). Supervisor role overload and frustration as antecedents of abusive supervision: The moderating role of supervisor personality. Journal of Organizational Behavior, 38(3), 307-326.
[11] Huang, J., Guo, G., Tang, D., Liu, T., and Tan, L. (2019). An eye for an eye? Third parties’ silence reactions to peer abusive supervision: The mediating role of workplace anxiety, and the moderating role of core self-evaluation. International Journal of Environmental Research and Public Health, 16(24), 5027.
[12] Zhang, Y., and Bednall, T. C. (2016). Antecedents of abusive supervision: A meta-analytic review. Journal of Business Ethics, 139(3), 455-471.
登壇者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。