ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

α係数の読み方:内的一貫性を検証する

コラム

人事領域のデータ分析において、α係数は重要な指標の一つです。一方で、実務的な文脈においては十分に活用されていないケースもあります。本コラムでは、α係数とは何か、なぜ重要なのか、どのように解釈すると良いかを解説します。

α係数は、複数の質問項目から構成される尺度の信頼性、特に内的一貫性を示す一つの指標です。例えば、組織コミットメントを測定するために5つの質問項目を用意したとします。これらの項目がどれほど一貫して同じ概念を測定しているかを確認するのがα係数の役割です。

ただし、α係数は信頼性の指標であり、尺度がどれだけ正しく目的の概念を測定しているか(妥当性)とは異なります。α係数が高くても、その尺度が測定したい概念を正確に測定している(妥当性が高い)とは限りません。

α係数が重要なのは、測定の質を保証するためです。信頼性の低い尺度を用いてデータ分析を行うと、誤った結論を導き出すリスクが高まります。人事施策の意思決定に影響を与える可能性があるデータ分析において、これは看過できない問題です。

本コラムを通じて、α係数の基本的な考え方から実際の活用方法までを段階的に理解していただくことで、データ分析の質を高め、より確かな根拠に基づいた意思決定をするための知識が提供できればと思います。

α係数とは何か

α係数は、クロンバックによって提唱された統計指標で、クロンバックのα係数と呼ばれることもあります。この指標は、複数の質問項目から構成される尺度の内的一貫性を評価するために広く使用されています。

α係数は通常、0から1の間の値をとり[1]1に近いほど内的一貫性が高いことを表します。一般的には、0.7以上であれば許容できる水準、0.8以上であれば良好な水準とされています[2]

内的一貫性とは

内的一貫性は、複数の項目から構成される概念において、それらの項目が同一の概念を測定しているかどうかを意味します。換言すれば、項目間の関連性や一貫性の度合いを表しています。

例えば、組織コミットメントを測定するために次の質問項目を用意したとします。

  • 項目1:この会社に強い愛着を感じている
  • 項目2:この会社の問題を自分の問題のように感じる
  • 項目3:この会社に対して帰属意識を持っている
  • 項目4:この会社の一員であることを誇りに思う

α係数は、項目群の内的一貫性を測定する信頼性の指標です。内的一貫性が高い場合、これらの項目は互いに強い相関関係を持ち、全体として単一の概念に関する反応が一貫していることを示唆します。ある人が項目1に高得点をつけた場合、他の項目にも同様に高得点をつける傾向があるということです。

一方、内的一貫性が低い場合、各項目が異なる概念を測定している可能性があります。例えば、上記の項目に「私は毎日残業をしている」という項目を加えた場合、この項目は他の項目とは異なる概念(例えば、労働時間)を測定している可能性があり、内的一貫性を低下させる要因となります。

ただし、α係数は信頼性を評価するための指標であり、項目群が測定しようとしている概念を適切に捉えているか、すなわち妥当性を評価するものではありません。つまり、内的一貫性が高い場合に単一の概念を捉えているとは言えますが、それが組織コミットメントなのかは保証するものではありません。

α係数の計算式

α係数の計算式は次の通り、まとめることができます。

α=(k/(k-1))*(1-(Σσi2/σ2total))

数式に慣れていない人からすると、この式は一見非常に複雑に見えます。しかし、各要素を見ていけば、α係数が何を算出しているのかを理解することができます。

k:項目数

これは尺度を構成する項目の数を表します。例えば、組織コミットメントを4つの質問で測定する場合、k=4となります。

σi2:各項目の分散

分散は、データのばらつきを表します。各項目の回答がどの程度ばらついているかということです。

Σσi2:各項目の分散の合計

全ての項目の分散を足し合わせた値です。

σ2total:全項目の合計得点の分散

全ての項目の得点を合計した値の分散です。

(Σσi2/σ2total):分散比

分散比は、個々の項目の分散の合計が、全体の分散に占める割合を示します。この値が小さいほど、項目間の一貫性が高いことを意味します。分散比が小さいということは、個々の項目の分散(ばらつき)が全体の分散に比べて小さいということです。各項目が互いに類似した動きをしており、一貫して同じ概念を測定していると考えられます。

(1-(Σσi2/σ2total)):一貫性の指標

この値が大きいほど、項目間の一貫性が高いことを示します。

(k/(k-1)):項目数の調整

この係数は、項目数が少ない場合にα係数が過小評価されるのを防ぐための調整項です。

各要素の説明をしてきましたが、結局のところ、α係数は何を計算しているのでしょうか。この式は、項目間の相関関係と項目数を考慮しながら、概念全体の内的一貫性を評価しています。個々の項目の分散(ばらつき)が全体の分散にどの程度寄与しているかを見ています。

仮に全ての項目が完全に一貫して同じ概念を測定しているなら、全体の分散(σ2total)は個々の項目の分散の合計(Σσi2)のk倍となります。この場合、(Σσi2/σ2total)=1/kとなります。これを計算式に当てはめると、α=1となります(もちろん、これは極端な状態であり、実際には起こらないでしょう)。

逆に、項目間に全く関連がない場合を考えてみましょう。この場合、個々の項目の分散の合計(Σσi2)は全体の分散(σ2total)よりも大きくなります。なぜなら、関連のない項目を足し合わせると、それぞれの項目のばらつきが相殺されずに蓄積されていくからです。この場合、(Σσi2/σ2total)1に近づいていき、α0に近づきます[3]

要するに、α係数は項目間の関連性が強いほど1に近づき、関連性が弱いほど0に近づく性質を持っているのです。

影響を与える要素

この計算式を手がかりにすれば、α係数がいくつかの要素に影響を受けることがわかります。

項目数

項目数が多いほど、α係数は高くなる傾向があります。これは計算式の(Σσi2/σ2total)の、とくに分母のσ2totalの部分によって生じる傾向です。例えば1,2,3,4,5の5件法を用いて、ある指標を3項目と30項目で測定した場合を考えてみます。3項目の場合、σ2total3項目を合計した得点の分散なので、3項目を合計した315点の得点で分散を算出することになります。一方、30項目の場合は30項目を合計した得点の分散なので、30項目の合計した30150点の得点で分散を算出することになります。

とはいえ、単純に項目を増やせばα係数が上がるということではありません。追加される項目が測定したい概念と関連していない場合、Σσi2が大きくなり、結果としてα係数が低下する可能性もあります。

項目間の相関

項目間の相関が高いほど、α係数は高くなります。項目間の相関が高いということは、各項目の分散(σi2)が似通っているということを意味します。そのため、Σσi2σ2totalに近い値になります。その結果、(Σσi2/σ2total) の値は1に近づき、α係数は高くなります。

各項目の分散

各項目の分散が小さく、全体の分散が大きいほど、α係数は高くなります。このことは、(Σσi2/σ2total) の部分から理解できます。各項目の分散(σi2)が小さく、全体の分散(σ2total)が大きいほど、この数式で表される比率は小さくなります。その結果、α係数は高くなるということです。

各項目の回答にばらつきが少なく(すなわち、回答者間で一貫性がある)、かつ尺度全体としては十分な変動がある(すなわち、個人差を捉えられている)状態を表しており、このような状態は、尺度の内的一貫性が高いことを示唆します。

α係数と尺度得点の関係

α係数は、複数項目の平均値を得点(いわゆる尺度得点)として用いてもよいかを判断する際に重要な役割を果たします。尺度得点とは、複数の項目の得点を合計または平均して算出される得点のことで、ある概念を測定・データ化するために使用されています。

人事領域のデータ分析においても、尺度得点の考え方はよく用いられています。例えば、エンゲージメントを測定する5項目の質問があった場合、それらの平均点や合計点を「エンゲージメントスコア」として扱うことがあるでしょう。

α係数が高い場合、尺度得点は各項目が互いに強く関連し、それぞれが同じ概念を測定していることを示唆します。このような状況では、各項目の得点を合計または平均して一つの得点とすることが有効です。

α係数が高い場合、平均値を尺度得点として用いても良いと判断できるのは、いくつかの理由があります。

一貫性の保証

α係数が高いということは、各項目が一貫して同じ概念を測定していることを意味します。これは、全ての項目が強い相関関係にあり、同じ潜在的な概念を反映していると解釈できます。

例えば、組織コミットメントを測定する4つの項目があり、それらのα係数が.82だったとします。この高いα係数は、これらの4つの項目が互いに強く関連し合っており、全て同じ概念を測定していることを示唆しています。ある人が1つの項目で高得点をつければ、他の項目でも同様に高得点をつける傾向があります。

このような一貫性が高い場合、これらの項目の平均値を取ることで、個々の項目よりも安定した、より信頼性の高い「組織コミットメント」の指標を得ることができます。

測定誤差の減少

あらゆる測定には誤差が含まれます。この誤差は、回答者の気分、質問の解釈の違い、環境要因など、様々な要因によって生じます。α係数が高い場合、その測定誤差が小さいことを表します。

複数の項目の平均を取ると、各項目における誤差は互いに相殺される傾向があります。例えば、ある項目で誤差によって実際よりも高い得点がついたとしても、別の項目では逆に低い得点がつく可能性があります。平均を取ることで、これらの誤差が打ち消し合い、より正確な値を得ることができます。

α係数が高いほど、この誤差の相殺効果が顕著になり、より信頼性の高い測定が可能になります[4]

概念の包括的測定

多くの概念は、複雑で多面的な性質を持っています。単一の項目でこのような複雑な概念を完全に捉えることは困難です。

例えば、「仕事満足度」という概念を考えてみましょう。これには給与への満足、仕事内容への満足、職場環境への満足、上司との関係への満足など、様々な側面が含まれます。複数の項目を用いることで、これらの異なる側面をカバーすることができます。

α係数が高い場合、これらの異なる側面を測定する項目が互いに強く関連していることを示しています。これらの項目が互いに補完し合い、「仕事満足度」という概念を包括的に測定していると考えられます。これらの項目の平均値は、単一の項目よりも概念全体をうまく表現することができます。

α係数が低い場合の問題点

α係数が低いにもかかわらず複数項目の平均や合計を尺度得点として用いると、分析に大きな問題があります。特に、統計的分析の精度低下が懸念事項です。その結果として、誤った結論を導き出す可能性が高まります。

データに意図しない概念が混入

α係数が低いということは、測定誤差が大きいことを意味します。α係数の計算式を思い出してみましょう。

α=(k/(k-1))*(1-(Σσi2/σ2total))

ここで、(Σσi2/σ2total) は個々の項目の分散の合計が全体の分散に占める割合を示しています。α係数が低いということは、この比率が大きいということです。個々の項目の分散(ばらつき)が全体の分散に比べて大きいのです。

個々の項目のばらつきが大きいということは、各項目が、全体で測定したい概念とは異なる独自な特徴をそれぞれ捉えている状態を指します。すると、そういった項目で合計得点を出しても、測定したい概念とは異なる特徴も捉えた得点になっている懸念が残ります。

α係数が低いということは、尺度得点にこのような問題が生じることを示唆しているのです。

相関の希薄化

α係数が小さいことは測定誤差が大きいことを表します。この測定誤差が大きいと、相関係数が実際の値よりも低く見積もられる、いわゆる相関の希薄化が生じます。相関の希薄化が起こる理由を理解するために、測定値が真の値と測定誤差から成り立っていると考えてみましょう。

測定値=真の値+測定誤差

二つの変数間の相関を考える場合、それぞれの変数の測定誤差が大きいほど、観測される相関係数は真の相関係数よりも小さくなります。

例えば、本当は強い関連がある二つの概念があったとしても、それらを測定する尺度のα係数が低い(すなわち、測定誤差が大きい)場合、観測される相関係数は実際よりも小さくなります。これが相関の希薄化です。

回帰係数の過小推定

相関の希薄化と同様の理由で、回帰分析における独立変数の効果(回帰係数)が過小評価される可能性があります。回帰分析においては、影響指標Xが成果指標Yに与える影響を、回帰係数を算出して推定します。回帰係数は数式に相関係数を含んでおり、相関の希薄化の影響を受けるのです。

つまり、Xの測定に誤差が大きくα係数が小さい場合、相関の希薄化が生じ、それに応じて推定される回帰係数は、実際の効果を過小評価してしまいます。

α係数の仮定と限界

α係数を適切に解釈し使用するためには、その仮定と限界を理解することが大事です。α係数の主要な仮定について詳しく説明します。

α係数の重要な仮定の一つは、測定している概念が一次元であるということです。全ての項目が単一の潜在的な構成概念を測定していることを前提としています。

例えば、「職務満足」を測定する場合、全ての項目が「職務満足」という単一の概念を測定していることを仮定しています。この仮定が満たされない場合、言い換えれば、測定している概念が多次元的である場合、α係数は概念の内的一貫性を適切に評価できません[5]

α係数が高すぎる場合の問題

一般的に、α係数が高いほど内的一貫性が高いと解釈されますが、極端に高い値(例えば0.95を超える場合)にも注意が必要です。そうしたα係数は、項目が冗長である可能性を示唆するからです。

α係数が非常に高い場合、複数の項目がほぼ同じ内容ばかり質問している可能性があります。これは、測定の効率性を損なうだけでなく、概念の多面的な側面を捉えられていない可能性があります。これは、構成概念の狭小化と呼ばれる問題です。

したがって、α係数が極端に高い場合は、尺度の再検討が必要かもしれません。例えば、冗長な項目を削除したり、概念のより多様な側面を測定する新しい項目を追加したりすることが考えられます。

 脚注

[1] 測定項目間に負の相関があるとα係数が負の値をとることもあり、その場合は測定項目の構成に問題がある可能性があります。

[2] ただし、これはあくまで目安であり、測定する概念や分析の目的によって判断基準は変わってきます。

[3] 理論上は、(Σσi2/σ2total)1を超えてαが負の値になる可能性もあります。実際の分析では、測定したい概念に対して敢えて逆の内容を質問する逆転項目について、逆転処理をせずにα係数を計算した際に負の値を取ることが多いです。

[4] もちろん、誤差の相殺効果は完全ではなく、全ての測定誤差を除去できるわけではないため、慎重に解釈する必要があります。

[5] 多次元の概念を測定する場合は、因子分析などの手法を用いて下位概念を特定し、下位概念ごとにα係数を算出することが望ましいと言えます。


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

#伊達洋駆 #人事データ分析

アーカイブ

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています