2024年9月24日
リーダーシップの新潮流:謙虚さが拓く可能性(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2024年9月にセミナー「リーダーシップの新潮流:謙虚さが拓く可能性」を開催しました。
リーダーシップの世界で、静かな変革が起きています。「謙虚さ」という要素が注目を集めています。謙虚なリーダーシップは組織に好影響を与えます。
自らの限界を認識する。他者の意見に耳を傾ける。学び続ける姿勢を持つ。一見すると弱さに見えるこれらの特性。しかし実は、組織を強くする力を秘めています。
本セミナーでは、謙虚なリーダーシップを多角的に探ります。その本質、効果、実践方法を研究知見をもとに紹介します。
この知見は、様々な場面で活用できるでしょう。
- 自身のリーダーシップ・スタイルの振り返り
- 管理職研修プログラムの見直し
- 組織の活性化や次世代リーダーの育成
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
謙虚なリーダーシップとは
皆さんは「リーダー」と聞いて、どのような人を思い浮かべますか。人々を引っ張っていく強い人、はっきりとした態度で決断する人、大きな目標を掲げる人などを想像するかもしれません。確かに、そうしたリーダーの姿は多くの場面で効果を発揮してきました。しかし今日は、少し違う角度から見た「謙虚なリーダーシップ」についてお話ししたいと思います。
一見すると、「謙虚なリーダーシップ」は今までの強いリーダーシップとは反対のように感じるかもしれません。ある意味では「弱い」リーダーシップと言えるでしょう。しかし、謙虚さこそが、今の複雑な組織の中では大切になっています。
謙虚なリーダーシップの核心は、リーダー自身が自分の限界を正直に認め、受け入れることです。自分がすべてを知っているわけではなく、いつも正しい判断ができるわけでもないことをよく理解していることです。そうした考えに基づいて、謙虚なリーダーは他の人の意見を積極的に求め、それを大切にします。部下や同僚、時には部外者からのアイデアや意見を、心を開いて受け入れる姿勢を持っています。
このようなリーダーは、周りの人々の知恵や経験を大切な資源だと考えています。他の人の視点を取り入れることで、もっと広い観点から物事を考え、良い決断ができると信じています。また、謙虚なリーダーは学ぶ姿勢を持ち続けます。他の人を尊敬し、新しい知識や技術を吸収しようとする態度が、謙虚なリーダーシップの特徴と言えます。
このように、謙虚なリーダーシップは、リーダー単独の力ではなく、チーム全体の力を最大限に引き出すことに重点を置いています。自分の弱点や限界を認めることで、逆説的ではありますが、組織としての強さを生み出すということです。
パフォーマンスへの効果
謙虚なリーダーシップが高いと、多くの良い点があります。そのことが様々な研究によって裏付けられています。
まず、謙虚なリーダーの下で働く部下は、自分が信頼されていると感じます[1]。これは、上司が自分の欠点や限界を素直に認め、部下の意見や能力を尊重していることを表すからです。
この信頼されている感覚は、部下の行動に影響を与えます。信頼されていると感じた部下は、信頼に応えようとする気持ちを持ちます。自分の能力を最大限に発揮し、与えられた責任を果たそうと努力するようになります。その結果、仕事の成果が向上します。
さらに、直属の上司から信頼されているという感覚は、組織全体からも信頼されているという感覚につながります。これによって、組織への帰属意識が高まり、組織の目標達成にも積極的に貢献したい気持ちが生まれます。その結果、自分の役割を超えた行動、つまり「プラスアルファ」の行動も増えるのです。
謙虚なリーダーシップは、被信頼感を通じて、部下の通常の仕事の成果と、それ以上の貢献の両方を向上させる効果があるのです。この点から、リーダーの謙虚さがいかに重要であるかが分かるでしょう。
仕事の成果向上は、信頼されている感覚だけでなく、良好な上司と部下の関係を通じても実現されます[2]。上司が部下の意見を尊重し、能力や貢献を適切に評価することで、上司と部下の間の信頼関係が強くなります。
この良好な関係は、部下の仕事に対する行動に大きな影響を与えます。上司との関係が良ければ、部下は自信を持って仕事に取り組むことができます。また、上司との間で情報のやりとりがスムーズに行われ、必要な時に適切な協力を得られやすくなります。これらの要因が合わさって、部下はより効率的に仕事を進めることができ、結果として成果が向上します。
ウェルビーイングへの効果
謙虚なリーダーシップは、仕事の効率や生産性を上げるだけでなく、従業員のウェルビーイングにも大きな影響を与えます。
ある研究では、謙虚なリーダーシップが従業員の仕事での幸福感に効果をもたらすことが分かりました[3]。心理的な安全性と、失敗を前向きに扱う組織の雰囲気がその過程で重要な役割を果たすことを明らかにしています。
謙虚な上司の特徴として、自分の限界を正直に認め、部下の能力や貢献を尊重する姿勢が挙げられます。このようなリーダーシップ・スタイルは、職場における心理的安全性を高めます。部下は失敗を過度に恐れることなく、自由に行動し、意見を述べることができるようになります。新しいアイデアが生まれやすい環境が整います。
さらに、心理的に安全な職場では、従業員は自分の意見やアイデアを躊躇なく表現でき、自分が組織にとって価値ある存在だと実感できます。失敗が学びの機会として捉えられ、厳しく非難されないため、職場のストレスが減ります。これらの要因が合わさって、従業員の全体的な幸福感が向上します。
謙虚なリーダーシップがもたらす効果は、幸福感の向上だけにとどまりません。研究によると、謙虚なリーダーシップは従業員のレジリエンスにも貢献することが分かっています[4]。仕事に関連した前向きな姿勢と、従業員が自分を組織の一員だと認識することが、この効果の仕組みとして働いていることが示されました。
謙虚な上司の下で働く部下は、自己成長の機会を多く得ることができます。上司が部下の能力を信頼し、挑戦的な仕事を与えることで、部下は自分の目標に向かって意欲的に取り組むようになります。このプロセスを通じて、困難な状況に直面した際にもそれを乗り越えようとする力、つまりレジリエンスが育っていきます。
加えて、謙虚な上司は部下の貢献を適切に評価し、認めます。これによって、部下は自分が組織にとって重要な存在であるという認識を強めます。この「組織の一員」としての自覚は、組織が困難な状況に陥った際にも、積極的に問題解決に取り組もうとする気持ちを育みます。結果として、やはりレジリエンスの向上をもたらします。
表面的な謙虚さは危険
しかし、謙虚なリーダーシップには注意すべき点があります。特に重要なのは、部下が上司の謙虚な態度をどのように受け取るかという点です。これは上司の行動だけでなく、それが部下にどのように理解されるかということを無視できません。
上司が謙虚なリーダーシップを実践していても、部下がその行動を自分勝手なものと捉える可能性があります。この捉え方は、部下の心理に影響を与えます[5]。
具体的には、部下が自分は特別な扱いを受けるべきだという意識を強めてしまいます。これは、部下が自分の価値や組織への貢献が正当に評価されていないと感じ、自分勝手な扱いを求める心理が働くためです。
この状況が進むと、部下の行動に悪影響が及びます。実際、職場における問題行動が増える傾向が見られます。例えば、仕事に対する努力を怠ったり、重要な情報を意図的に共有しなかったりすることがあります。さらに、周りの同僚や上司に対して不当な要求をしたり、チームワークに必要な協力を拒んだりするかもしれません。
一方で、上司の謙虚さが部下から誠実なものとして受け取られる場合、その効果は非常に良いものとなります。
先の研究で示されているように、謙虚なリーダーシップが上司と部下の関係を改善し、それが仕事の成果の向上につながるという連鎖があります。特に、部下が上司を誠実な人物だと認識している場合、この効果はさらに強くなります[6]。
上司の謙虚な態度がより信頼できるものとなり、部下はその行動をより真剣に受け止めるようになります。結果、上司への信頼が深まり、部下のやる気も向上します。これらの要因が合わさって、最終的には仕事の成果向上につながるのです。
したがって、謙虚なリーダーシップを効果的に実践するためには、表面的な態度や行動を示すだけでは不十分です。リーダーの内面から本当に出てくる謙虚さが必要です。形だけの謙虚さでは、期待される効果が得られにくいだけでなく、逆効果になる可能性すらあります。
本当の謙虚さは、リーダー自身の価値観や信念に基づいたものであるべきで、それが一貫した行動として表れることが重要です。表面的な謙虚さを装うのではなく、真剣に自分と向き合い、他の人の価値を認め、常に学ぶ姿勢を持つことが謙虚なリーダーシップの本質です。
謙虚なリーダーシップの実践イメージ
謙虚なリーダーシップは、上司の日々の行動や態度に表れるものです。自分自身や周りの上司が本当に謙虚なリーダーシップを実践できているかを検討するためには、日常の仕事の場面での行動を観察することが有効です。様々な仕事の場面における謙虚なリーダーの典型的な行動と、そうでない行動を比べながら見ていきましょう。
まず、会議の場面を考えてみましょう。謙虚さの低いリーダーは、他の参加者に発言の機会を与える前に、自分の意見を強く主張します。これは、自分の考えが最も重要であり、他の人の意見を聞く必要がないという態度の表れかもしれません。
一方、謙虚なリーダーは、まず他の参加者の意見を聞くことに重点を置きます。他の人が自由に発言できる環境を作るために、しばらくの間、黙って聞いています。この行動は、メンバーの意見を尊重し、様々な視点を取り入れる姿勢を示しています。
フィードバックを受ける際の反応も、リーダーの謙虚さを測る重要な指標となります。謙虚さの低いリーダーは、批判的な意見を受けた際に、すぐに防御的な態度をとります。これは、自分の弱点や間違いを認めたくないという心理から生じる反応です。
対照的に、謙虚なリーダーは、まずフィードバックをくれたことに対して感謝の気持ちを表します。その後、落ち着いてフィードバックの内容を考え、前向きに受け止めようとします。この姿勢は、常に学び、成長しようとする謙虚なリーダーの特徴を表しています。
重要な決定を下す過程でも、リーダーの謙虚さがはっきりと表れます。謙虚さの低いリーダーは、自分一人ですべての決定を下そうとします。これは、自分の判断力を過信し、他の人の意見を軽視している表れかもしれません。
一方、謙虚なリーダーは、重要な決定を下す前に積極的に部下や同僚に意見を求めます。自分の知識や経験の限界を認識し、様々な視点を取り入れることの価値を理解しているからです。
他の人から新しい意見や提案を受けた時の反応も、リーダーの謙虚さを測る指標です。謙虚さの低いリーダーは、新しいアイデアに対して「それは難しい」「現実的ではない」といった否定的な言葉から入りがちです。変化を恐れる心理や、自分の考えが最善であるという思い込みから生じる反応です。
対して、謙虚なリーダーは、まず「面白い視点ですね」と相手の意見を肯定的に受け止めます。この姿勢は、新しいアイデアを歓迎し、革新を促す環境づくりにつながります。
さらに、自分と異なる意見が出された際の対応も、リーダーの謙虚さを示す場面です。謙虚さの低いリーダーは、自分の意見と異なる考えをすぐに否定します。自分の考えが絶対的に正しいという思い込みや、他の人の意見を受け入れることへの抵抗を示しています。
一方、謙虚なリーダーは、「その視点も考えてみよう」と、異なる意見を積極的に受け入れます。多様性を尊重し、チームの創造性を高める効果があります。
謙虚なリーダーシップは決して抽象的な概念にとどまるものではありません。それは日々の仕事の中で、具体的な行動や態度として現れます。会議での発言の仕方、フィードバックへの対応、決定を下す過程、新しいアイデアへの反応、異なる意見への対処など、様々な場面で謙虚なリーダーシップの特徴を観察することができます。
これらの行動を意識的に実践し、継続的に改善していくことで、効果的な謙虚なリーダーシップを発揮することが可能となります。
実現に向けた上司と部下の役割
謙虚なリーダーシップを実践するためには、上司と部下の双方が重要な役割を果たします。それぞれの立場で意識すべきポイントがあり、これらを理解し実践してみましょう。
上司にできること
上司が意識すべき点として、まず自己理解が挙げられます。自分の長所を理解するだけでなく、特に自身の短所や弱点を正確に把握することも重要です。自分の限界を認識することで、他の人の強みを活かす機会を見出し、効果的なチーム運営が可能になります。
自己理解は継続的な過程であり、定期的に自己評価したり、他の人からの意見を聞いたりして深めていく必要があります。
次に、オープンなコミュニケーションが挙げられます。上司は部下の意見や感想を積極的に求めましょう。部下からの意見を待つのではなく、自ら機会を作り出し、部下が安心して意見を述べられる環境を整えます。
とりわけ、自分の考えと異なる意見や批判的な感想に対しても、防衛的にならず真剣に耳を傾けます。このような姿勢は、部下との信頼関係を築き、様々な視点を取り入れた意思決定を可能にします。
部下の能力を信頼し、仕事を任せることも重要です。仕事を自分で抱え込むのではなく、部下に責任と権限を与えることで、部下の成長を促し、同時に自身の負担を軽減することができます。これは仕事の効率化だけでなく、部下に対する信頼の表明でもあり、謙虚なリーダーシップの実践につながります。
自身の失敗を隠さず、正直に認め、むしろ積極的に部下と共有することも大切です。失敗を恥じるのではなく、学びの機会として捉え、チーム全体で教訓を共有することで、組織の成長につながります。このような姿勢は、部下に対しても失敗を恐れずチャレンジする勇気を与えることになります。
部下にできること
一方、部下も謙虚なリーダーシップの実践に貢献することができます。会議などの場で自分の意見を遠慮なく表明しましょう。上司のアイデアに対しても意見を提供することで、より良い判断に貢献できます。このような積極的な参加は、上司の謙虚なリーダーシップを支援します。
上司の弱みを補完する能力を磨くことも有効です。上司に対して自分ができる支援を考え、必要に応じて提供することで、チーム全体の成果を向上させることができます。上司を尊重しつつも、適切なタイミングで支援を提供する判断力が大事です。支援は必ずしも上から下へのものだけではなく、双方向的なものです。
部下自身も自分の限界を認識し、学ぶ姿勢を持ちましょう。失敗を恐れず新しいことに挑戦する勇気を持ちます。失敗を挫折ではなく、貴重な学習の機会として捉える姿勢は、謙虚なリーダーシップの文化を組織全体に広めることにつながります。
周りとの協力を大切にし、お互いの強みを生かそうとする姿勢が重要です。チーム内で各メンバーの長所を認識し、それを最大限に活用する環境を作り出します。同時に、自身の弱みを隠さず、必要に応じて他のメンバーの支援を求める勇気も必要です。このような助け合いは、謙虚なリーダーシップが根付いた組織の特徴です。
誤解を避けるために
謙虚なリーダーシップは、その本質と意図が正しく理解されないと、単なる「弱さ」として誤解される可能性があります。このような誤解は、リーダーシップの有効性に疑問を投げかけます。
ときには、謙虚さは優柔不断さや決断力の欠如と混同されがちです。特に、リーダーは常に強く、自信に満ちているべきだという従来の期待が強い組織文化においては、謙虚な態度が弱さの表れとして誤解される可能性が高くなります。この誤解は、リーダーの影響力を低下させ、チームの信頼を損ないます。
上司が自身の能力や貢献を過度に控えめに表現したり、過小評価したりすると、能力不足や自信のなさの表れと誤解されます。謙虚さを示そうとする意図が適切に伝わらず、弱さや能力不足として受け取られてしまうこともあります。これは、リーダーの信頼性や権威を損ないかねません。
謙虚なリーダーシップが「弱さ」だけとして受け止められないようにするためには、いくつかの工夫が必要です。
まず、謙虚さを保ちつつも、組織の目標と方向性を明確に示すことです。ビジョンと戦略をはっきりと伝えることで、上司の戦略的思考力と先見性が感じられ、単なる弱さではないという認識を部下に与えることができます。
重要な場面では、適切かつ迅速な決断を下すことも大切です。他の人の意見を尊重し聞く姿勢を保ちつつも、最終的な責任は自分が取ることを明確にすることで、リーダーとしての決断力と責任感を示すことができます。
謙虚なリーダーシップにおいて、自身の能力や経験を完全に否定する必要はありません。むしろ、自分の弱みだけでなく強みも認識し、必要な場面で活用しましょう。バランスの取れた自己認識を示すことで、謙虚さが、自分と他者の能力を最大限に活かすための手段であることを伝えることができます。
謙虚さの意図を自然に、かつ明確に説明することも効果的です。なぜ他の人の意見を求めるのか、そうすることがどのように組織に価値をもたらすのかを説明することで、謙虚な姿勢の背景にある思考を示すことができます。
さらに、上司自身が継続的に自分を高める努力をし、学び続ける姿勢を示しましょう。新しい知識や技能を吸収し、成長し続ける姿を見せることで、部下は上司を弱い存在としてではなく、常に進化し続けるリーダーとして認識するようになります。
Q&A
Q:謙虚なリーダーシップと、厳しいフィードバックや指導とのバランスをどのように保つべきでしょうか。
謙虚なリーダーシップと適切な厳しさは両立可能です。フィードバックを行う際には、その目的をしっかりと部下に伝えることが大切です。特に、部下の成長を目的にしていることを明示しましょう。
また、フィードバックの際に、上司が一方的に答えを押し付けるのではなく、部下の意見を聞きながら解決策を共に考える姿勢を持つことが求められます。このような双方向のコミュニケーションを心がけることで、謙虚なリーダーシップと厳しい指導を両立させることができます。
Q:謙虚なリーダーシップを実践する中で、自信を失ったり、自己否定的になったりするリスクはありませんか。リーダーとしての自信を持ちながら謙虚さを保つコツはありますか。
自己理解を深めることが一つの解決策になるかもしれません。自己理解が深まることで、自分の強みをより明確に把握できるようになり、その強みを活かしながら、弱点を受け入れることが可能になります。
さらに、弱点を認めることを成長の機会として前向きに捉えることも有効です。謙虚さは弱さではなく、成長や学びを続ける姿勢の一つだと考えるとよいでしょう。こうした姿勢を持つことで、弱点があってもそれを改善すればよいという気持ちで、自信を失わずに謙虚なリーダーシップを実践することができるでしょう。
Q:緊急時には謙虚なリーダーシップが適さない場合があるのではないでしょうか。この点をどのように考えるべきでしょうか。
ここで重要なのは、危機の度合いと意思決定のスピードです。緊急事態においては、素早い判断が必要で、皆の意見を聞いている余裕はないでしょう。
しかし、事態が収束した後で、謙虚なリーダーシップを発揮することは可能です。なぜそのような判断をしたのか、どの部分に迷いがあったのかを説明し、振り返りを行うことで、次回に備えることができます。
また、日常から部下との信頼関係を築き、オープンなコミュニケーションをしておけば、緊急時にも迅速に意見を集約しやすくなります。普段から謙虚なリーダーシップを実践し、良好な関係を築いておくことで、急ぎの場面でもスムーズに対応できるでしょう。
Q:リーダーに知識と経験があり、メンバーとの間に大きな差がある場合、意見を聞いても結局リーダーの考えが決まってしまうことがあります。このような状況で組織を活性化する方法はありますか。
特に優れたリーダーがいる場合に見られる問題です。この状況を改善する方法の一つとして、全員が経験の少ない新しい領域や課題に取り組むことが考えられます。
例えば、生成AIの導入など、未経験の分野に挑戦することで、リーダーと他のメンバーとの知識や経験の差が縮まり、新たな役割分担や協力の機会が生まれます。こうした新しい課題を通じて、謙虚なリーダーシップが効果的に機能する可能性が高まります。
Q:謙虚なリーダーシップの価値を理解していない組織に、どのようにその意義を伝えると良いでしょうか。
強力なトップダウン型のリーダーシップが根づいている組織では、いきなり謙虚なリーダーシップを全面的に導入するのは難しいでしょう。この場合、段階的に導入するアプローチが効果的です。
まず、小規模なチームやプロジェクトで試験的に導入し、成功事例を作り出します。その結果をもとに、組織全体に対してその有効性を示すことで、徐々に浸透させることが可能です。また、トップマネジメントが率先して実践することも、組織全体への影響力を高めるカギとなります。
脚注
[1] Cho, J., Schilpzand, P., Huang, L., and Paterson, T. (2021). How and when humble leadership facilitates employee job performance: The roles of feeling trusted and job autonomy. Journal of Leadership & Organizational Studies, 28(2), 169-184.
[2] Yang, B., Shen, Y., and Ma, C. (2022). Humble leadership benefits employee job performance: the role of supervisor-subordinate Guanxi and perceived leader integrity. Frontiers in Psychology, 13, 936842.
[3] Zhang, Z., and Song, P. (2020). Multi-level effects of humble leadership on employees’ work well-being: the roles of psychological safety and error management climate. Frontiers in Psychology, 11, 571840.
[4] Zhu, Y., Zhang, S., and Shen, Y. (2019). Humble leadership and employee resilience: Exploring the mediating mechanism of work-related promotion focus and perceived insider identity. Frontiers in Psychology, 10, 673.
[5] Qin, X., Chen, C., Yam, K. C., Huang, M., and Ju, D. (2020). The double-edged sword of leader humility: Investigating when and why leader humility promotes versus inhibits subordinate deviance. Journal of Applied Psychology, 105(7), 693-712.
[6] Yang, B., Shen, Y., and Ma, C. (2022). Humble leadership benefits employee job performance: the role of supervisor-subordinate Guanxi and perceived leader integrity. Frontiers in Psychology, 13, 936842.
登壇者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。