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コラム

好印象を得るには:印象管理の効力と実践

コラム

私たちは他人の目を意識して行動しています。例えば、会議での発言、上司への報告、同僚との雑談など、多くの行動は「他人にどう見られたいか」という思いを持っています。これが「印象管理」のエッセンスです。

しかし、印象管理は単に見栄を張ったり、虚飾をしたりすることではありません。それは、円滑な社会生活を営み、人間関係を築き、キャリアを発展させるためのスキルでもあります。適切な印象管理は、チームワークを向上させ、組織の生産性を高め、個人の成長を促します。

本コラムでは、印象管理の奥深さや多面性について考えます。研究知見を紹介しつつ、印象管理が上司の評価にどのように影響を与え、同僚からの支援を引き出し、顧客満足度を高めるかを探っていきます。また、個人の能力や文化的背景が印象管理の効果にどのように影響するかも検討します。

印象管理は、ときに操作的で不誠実なものと見なされることもありますが、自己表現の一形態であり、他者とのコミュニケーションを深めるツールにもなります。本コラムを通じて、印象管理の様々な側面を理解し、それを職業生活で活用するためのヒントを得ていただければ幸いです。

上司の評価に影響する印象管理

印象管理は、職場における上司の評価に影響を与えることがあります。特に、「上司に焦点を当てた戦術」「自分に焦点を当てた戦術」「職務に焦点を当てた戦術」の3つが、上司からの評価にどのように影響するかが注目されています[1]

上司に焦点を当てた戦術は、上司に好印象を与えるための行動を指します。たとえば、上司の意見に同意したり、上司の業績を褒めたりすることです。この方法は、上司からの評価にポジティブな影響を与えることが研究で示されています。上司は、自分に対して好意的な態度を示す従業員に対し、良い評価をするのです。

一方、自分に焦点を当てた戦術は、自分の業績や努力を強調する行動です。たとえば、「自分がどれだけ頑張ったか」をアピールすることがこれに該当しますが、この方法は上司からの評価にはあまり影響を与えないことが分かっています。上司は、自己アピールよりも、上司に対する直接的な感謝や敬意を重視するためです。

職務に焦点を当てた戦術は、自分の職務遂行能力をアピールする行動です。しかし、過剰に自分の成功を強調すると、上司から「利己的であり、協力的ではない」と判断され、評価が下がる可能性があります。

これらの結果は、印象管理が上司の評価に及ぼす影響の複雑さを示しています。単に自分の能力をアピールするだけではなく、上司に対する敬意と態度が求められているのです。

上司からの高い評価は、職場における良好な関係構築や、最終的なパフォーマンス評価にもつながります。ただし、印象管理は上司を騙したり、事実を歪めたりすることではありません。むしろ、自分の能力を適切に伝え、上司との信頼関係を築くためのコミュニケーションスキルの一部として捉えるべきです。

資源管理能力があれば有効に作用

印象管理の効果は、個人の資源管理能力によって左右されます。資源管理能力とは、時間やエネルギーといった自分のリソースを上手く管理する能力です。この能力が高い人は、印象管理をより効果的に行い、その結果として職場における評判や上司との良好な関係を築きやすくなります[2]

資源管理能力が高い人は、ポジティブな印象管理(例えば、自己宣伝や模範行動など)を妥当なタイミングで行い、余計なエネルギーを使わずに成果を上げます。これによって、他者からの評価が高まり、上司との関係も良好になります。

具体的には、資源管理能力が高い人は次のような利点を持っています。

  • 無駄な努力を避け、必要なときに印象管理を行うことで、疲労やストレスを軽減できる
  • 資源を有効に使うことで、印象管理が計画的かつ戦略的になる。信頼性や能力を印象づけることができる
  • 印象管理を通じて、他者との関係を改善し、職場での評判を高めることができる

例えば、会議の場面で、資源管理能力が高い人は全ての発言に反応するのではなく、重要なポイントで意見を述べることで、上司や同僚との良好な関係を築くことができます。

さらに、資源管理能力が高い人は、印象管理の効果を長期的に維持できます。継続的かつ一貫した行動を取ることで、周囲からの信頼を得て、安定した評価を受けることができます。

資源管理能力は訓練によって向上させることができるスキルです。セルフマネジメントやタイムマネジメントを磨くことで、資源管理能力を高め、より有効に印象管理を行うことが可能になります。

支援を引き出したり顧客満足を高めたりする

印象管理は、同僚からの支援を引き出したり、顧客満足度を高めたりする上でも重要な役割を果たします。特に、自己宣伝、ご機嫌取り、模範行動といった印象管理戦術が、職場における人間関係や顧客対応にどのような影響を与えるかが検討されています[3]

まず、自己宣伝戦術は同僚からの支援を引き出します。自己宣伝とは、自分の能力や実績を積極的にアピールする行動を指します。研究によると、適度な自己宣伝は同僚支援に対して影響を与えることが明らかになっています。

自己宣伝が同僚支援を引き出す理由は、自己宣伝を通じて自分の能力や専門性を示し、信頼感を醸成するからです。たとえば、「先日のプロジェクトでは、私が提案した方法で問題を解決できました」と発言することで、自分の問題解決能力をアピールし、同僚に「困ったときは相談してください」というメッセージを伝えることができます。同僚はその人に支援を求めやすくなり、相互支援の関係が築かれやすくなります。

一方、ご機嫌取りの方法は顧客満足度の向上に貢献します。ご機嫌取りとは、相手にお世辞を言ったり、好意的な態度を示したりする行動です。研究によると、ご機嫌取りは顧客満足度に影響を与えることが分かっています。

ご機嫌取りが顧客満足度を高めるのは、顧客が自分を大切に扱われていると感じるからです。例えば、「お客様のご要望をしっかり理解しました。素晴らしいアイデアですね」といった言葉は、顧客の意見を尊重し、価値あるものとして扱っていることを表します。顧客は自分が重要視されていると感じ、サービスに対する満足度が高まります。

さらに、模範行動は企業コンプライアンスの遵守に影響を与えます。模範行動とは、組織の規範や期待に沿った行動を示すことです。研究によると、模範行動は企業コンプライアンスに影響を与えることが明らかになっています。

模範行動が企業コンプライアンスを促進するのは、他の従業員に対して良い手本を示すからです。例えば、「私は規則を守り、倫理的な行動を心がけています」と言うだけでなく、実際にそのような行動を示すことで、周囲の従業員もそれにならうようになり、組織全体でコンプライアンス意識が高まります。

ただし、これらの印象管理は、適度かつ誠実に行われることが重要です。過度な自己宣伝は同僚の反感を買う可能性があり、過剰なご機嫌取りは顧客に不誠実な印象を与える恐れがあります。また、模範行動も表面的なものに留まれば、従業員の信頼を損ないます。

日本・韓国・米国での印象管理を比較する

印象管理の方法や効果は、文化によって異なります。日本、韓国、米国という3つの異なる文化圏における印象管理を比較することで、文化が印象管理にどのような影響を与えるかを理解できます。これらの国々では、印象管理の頻度やターゲット、方法の使い分けに顕著な違いが見られます[4]

まず、印象管理の使用頻度を見ると、韓国の従業員が最も頻繁に印象管理戦術を使用していました。自己宣伝、ご機嫌取り、模範行動という3つの方法すべてにおいて、韓国の従業員が高い頻度で使用していました。韓国の文化は階層志向が強く、職場で上司や同僚、部下に対して良い印象を与えることが重要視されているためです。

一方、日本の従業員は全体的に印象管理の使用頻度が低いものの、部下に対する自己宣伝が多いという特徴がありました。上司からの評価が重視される一方で、部下に対してリーダーシップを発揮することが期待されるためです。部下に自己宣伝を行うことで、自分の能力や実績をアピールし、信頼と尊敬を得ようとします。

米国の従業員の特徴としては、上司に対するご機嫌取りが少ないことが挙げられます。米国の職場文化が個人主義と平等主義を重視し、上司との関係でもフラットなコミュニケーションが求められるためです。過度なご機嫌取りは不自然に感じられ、評価を下げる可能性があります。

次に、印象管理のターゲットによる使い分けを見ると、日本と韓国の従業員は、上司、同僚、部下に対して異なる印象管理戦術を使い分けていました。日本と韓国では、社会的地位や上下関係が職場で重要視されるため、相手の立場に応じて戦略を変えることで、適切な関係を維持しようとします。

例えば、日本の従業員は上司に対して控えめな態度を取りつつ、同僚には協調性を示し、部下には自己宣伝を行うといった具合に、相手によって印象管理の方法を変えます。韓国でも同様に、上司に対しては敬意を示しつつ自己アピールを行い、同僚には協力的な姿勢を見せ、部下には自分の能力や実績を強調します。

一方、米国の従業員は、上司、同僚、部下に対して比較的一貫した印象管理の方法を使用します。米国の職場文化では、階層にかかわらず同じようなコミュニケーションスタイルが求められるためです。

印象管理の効果には、各国の「関係性の流動性」も影響を与えています。関係性の流動性とは、人々が新しい関係を築いたり、既存の関係を解消したりする頻度や容易さを指します。

例えば、米国は関係性の流動性が高い社会です。転職が容易で、新しい人間関係を築く機会が多いため、印象管理がより重要になります。そのため、米国の従業員は自己アピールを行い、新しい関係を築く準備をしていると言えます。

一方、日本は関係性の流動性が低い社会です。長期雇用が多く、既存の人間関係が重視されるため、印象管理よりも長期的な信頼関係の構築が重要です。日本の従業員は控えめな印象管理を行い、時間をかけて信頼を築こうとします。

韓国は、この点で日本と米国の中間に位置しています。韓国社会は伝統的な価値観と近代的な価値観が混在しており、関係性の流動性も中程度です。韓国の従業員は状況に応じて積極的な印象管理と控えめな態度を使い分けます。

これらの文化的な違いは、グローバルなビジネス環境で非常に重要です。例えば、日本企業で働く米国人従業員がアメリカ式の直接的な自己アピールを行うと、日本の同僚や上司には押し付けがましく感じられるかもしれません。逆に、米国企業で働く日本人従業員が控えめすぎる態度を取ると、それが消極的さや自信のなさとして誤解される可能性があります。

ただし、文化的な違いを理解し、それに適応することは重要ですが、それが自分の個性や価値観を抑え込むことを意味するわけではありません。むしろ、自分の文化的背景と現地の文化の両方を尊重し、バランスを取ることが大切でしょう。

印象管理の文化的な違いを理解することは、異文化間のコミュニケーションを円滑にするだけでなく、グローバルな視点でのリーダーシップ開発にも役立ちます。異なる文化圏での印象管理の特徴を学ぶことで、柔軟で適応力の高いリーダーシップスキルを身につけることができます。

ご機嫌取りと自己宣伝が用いられる

印象管理のさまざまな方法の中でも、特に「ご機嫌取り」と「自己宣伝」がよく用いられることが研究で明らかになっています。これらの方法は、職場における人間関係構築や個人の評価向上に影響を与えますが、その効果を最大限に引き出すためには、適切な使い方と注意点を理解することが必要です。

まず、ご機嫌取りについて見ていきましょう。ご機嫌取りとは、他者に好意を持ってもらうためにお世辞を言ったり、相手を褒めたりする行動を指します。研究によると、ご機嫌取りは印象管理の中で最も一般的に使用されるものの一つです。

ご機嫌取りが効果的であるのは、人間の基本的な心理メカニズムに関係しています。一般的に、人は自分を褒めてくれる人に対して好意を抱きやすい傾向があります。相手からの肯定的な評価が自尊心を高め、結果として相手に対する好感度も上がるのです。

例えば、「あなたの提案は斬新で、プロジェクトに価値をもたらしました」といった言葉は、相手の貢献を認め、その能力を評価していることを表します。こうした言葉を適切なタイミングで使うことで、相手との良好な関係を築き、協力を得やすくなります。

とはいえ、ご機嫌取りには注意が必要です。過度なお世辞や明らかに不自然な褒め言葉は、逆効果になる可能性があります。相手に媚びているように感じられたり、不誠実さを印象づけたりする恐れがあります。

次に、自己宣伝について見ていきましょう。自己宣伝は、自分の能力や成果を強調する行動を指します。研究によると、自己宣伝はご機嫌取りに次いでよく使用される印象管理の方法です。

自己宣伝が効果的であるのは、他者に自分の価値を認識させることができるからです。「私は、このプロジェクトで重要な役割を果たしました」や「私のスキルは、この分野でトップクラスです」といったアピールは、自分の能力や貢献を明確に伝えることができます。

特に競争の激しい職場環境や、自己主張が求められる文化圏では、適度な自己宣伝が求められます。自分の能力や成果をアピールすることで、評価や昇進の機会を増やすこともできるでしょう。

しかし、自己宣伝にも注意が必要です。過度な自己宣伝は、傲慢さや自己中心的な印象を与えます。常に自分の功績ばかりを強調すると、チームワークを重視する環境では反感を買うかもしれません。

 脚注

[1] Bolino, M. C., Varela, J. A., Bande, B., and Turnley, W. H. (2006). The impact of impression‐management tactics on supervisor ratings of organizational citizenship behavior. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 27(3), 281-297.

[2] Brouer, R. L., Gallagher, V. C., and Badawy, R. L. (2016). Ability to manage resources in the impression management process: The mediating effects of resources on job performance. Journal of Business and Psychology, 31(4), 515-531.

[3] Edeh, F. O., Zayed, N. M., Darwish, S., Nitsenko, V., Hanechko, I., and Islam, K. A. (2023). Impression management and employee contextual performance in service organizations (enterprises). Emerging Science Journal, 7(2), 366-384.

[4] Krieg, A., Ma, L., and Robinson, P. (2018). Making a good impression at work: National differences in employee impression management behaviors in Japan, Korea, and the United States. The Journal of Psychology, 152(2), 110-130.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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