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コラム

余暇の効果:幸福度を左右する休息時間の捉え方

コラム

仕事とプライベートのバランスを取ることの重要性が認識されている一方、仕事に追われ、十分な余暇時間を確保できていない状況もあります。

余暇の過ごし方は、私たちの心身の健康や幸福感に影響を与えます。余暇は、私たちの心身を回復させ、仕事のパフォーマンスを向上させる時間です。本コラムでは、余暇の重要性とそれが私たちの生活にもたらす影響について考察します。

具体的には、余暇が心理的健康にもたらす効果、仕事からの心理的な切り離しの重要性、ボランティア活動の意義、そして余暇に対する認識が幸福感に与える影響など、多角的な視点から余暇の意義を探ります。

これらの知見は、私たちが職業人生の中で余暇をどのように位置づけ、活用していくべきかについて示唆を与えてくれることでしょう。

余暇の満足が心理的健康をもたらす

余暇の過ごし方は、私たちの心理的健康に影響を与えます。アメリカの労働者を対象とした研究では、仕事の満足度(職務満足)と余暇の満足度(余暇満足)が心理的健康にどのように影響を与えるかが調査されました[1]

研究の結果、職務満足は心理的健康に対して正の関連があることが確認されました。仕事に対する満足度が高い人ほど、心理的健康が良好であることを意味します。

仕事に満足していると、ストレスや不安が減少し、ポジティブな感情が増えるため、心理的健康が向上します。満足のいく仕事環境や職務内容は、精神的な安定をもたらします。

興味深いのは、職業が心理的健康に与える影響は見られなかったことです。職務満足そのものが心理的健康に影響を与えるのであって、職業の種類や地位は直接的には影響しないことを示しています。

さらに、余暇満足も心理的健康に対して寄与しており、職務満足と組み合わせるとさらに強力な予測因子となることがわかりました。余暇は、仕事におけるストレスを解消し、リラクゼーションや趣味を通じてポジティブな感情を生み出す機会を提供します。

職務満足と余暇満足が両方とも高い場合、個人は仕事からの満足感と余暇からのリラクゼーションの両方を享受できるため、全体的な生活の質が向上し、結果として心理的健康もより良好になります。

意味のある余暇が仕事からの切り離しを促す

業務時間外に仕事から心理的に離れることは、従業員の幸福感と仕事のパフォーマンスにプラスの影響を与えます。勤務時間外に仕事に関連する問題を考えず、精神的に仕事から離れることを心理的ディタッチメントと呼びます。研究によると、心理的ディタッチメントが高い従業員は、生活満足度が高く、心理的なストレスが少ないことが検証されています[2]

さまざまな職種の従業員、特にストレスの高い職場環境で働く従業員を対象に調査が行われました。製造業、サービス業、教育機関、医療機関など、異なる業種の従業員が対象となり、特に長時間労働や高い業務要求がある職場環境で働く従業員、例えば看護師や教師、ITエンジニアなどに焦点が当てられました。

研究結果は、心理的ディタッチメントの重要性を明確に示しています。心理的ディタッチメントを経験する従業員は、より高いレベルの心理的幸福感(生活満足度、リラックス感、感情的疲弊の低減)を報告しています。また、心理的ディタッチメントが高い日は、より良好な感情状態(満足感、元気、疲労感の低減)をもたらすことが分かりました。

仕事のパフォーマンスに関しても、興味深い結果が得られました。心理的ディタッチメントが高い従業員は、週末後にリフレッシュし、積極的な仕事行動を表します。ただし、心理的ディタッチメントが高すぎるとパフォーマンスが低下する可能性もあるのです。

さらに、心理的ディタッチメントは仕事関連のストレス(いじめ、高い時間的圧力)を緩和する効果があることも明らかになりました。特にストレスフルな状況では、心理的ディタッチメントが重要な保護要因となります。

心理的ディタッチメントをサポートする要因があります。環境要因として、勤務時間外の活動や環境も心理的ディタッチメントに影響します。特に、意味のある活動や回復環境が心理的ディタッチメントを促進することが示されました。

仕事外のボランティア活動が翌日の仕事に好影響

余暇時間におけるボランティア活動は、従業員の翌日の仕事の成果に好影響を与えることが明らかになりました。研究では、ボランティア活動を行う習慣があり、半日以上の仕事を持つ105人の従業員を対象に、2週間(10営業日)にわたって毎日「仕事後調査」と「就寝前調査」のアンケートを実施しました[3]

研究の結果、ボランティア活動の時間が増えると、夕方の心理的ディタッチメントが増加することが分かりました。ボランティア活動に時間を費やすことで、仕事から離れた活動を行い、頭をリフレッシュさせることができます。例えば、地域の清掃活動や福祉施設での支援などを行うと、仕事のことを忘れ、その活動に集中する時間を持てます。

また、ボランティア活動の時間が増えると、夕方のマスタリー体験が増加することも明らかになりました。マスタリー体験とは、新しいスキルや知識を習得したり、困難な課題を達成したりすることで得られる達成感や満足感のことです。

ボランティア活動を通じて新しいことを学び、挑戦する機会が増えることで、マスタリー体験が促進されます。例えば、料理を教えるボランティアや、環境保護活動などを行うことで、新しい知識やスキルを身につけることができます。

さらに、ボランティア活動の時間が増えると、夕方のニーズ満足感が増加することも示されました。ニーズ満足感とは、個人の基本的な心理的ニーズ(自律性、効力感、関係性)が満たされることによって得られる満足感のことです。ボランティア活動を通じて、自分の選択や行動が尊重され、スキルや知識が発揮でき、他者とのつながりを感じることで満足感が高まります。

これらの心理的体験は、翌日の仕事にも好影響を与えることが分かりました。夕方の心理的ディタッチメントが高いと、翌日の仕事中の積極的リスニングが促進されます。相手の話を注意深く聞き、理解しようとするのです。夕方に仕事から心理的に離れることで、精神的な疲れが解消され、リフレッシュされるため、翌日に他者とのコミュニケーションに集中する余裕が生まれます。

また、夕方のニーズ満足感が高いと、翌日の仕事中のネガティブな感情が減少することも明らかになりました。夕方に自律性、効力感、関係性といった基本的な心理的ニーズが満たされることで、心理的な充足感や満足感が高まり、ネガティブな感情が軽減されます。

ボランティア活動の時間が増えると、翌日の仕事中のネガティブな感情が減少することも検証されました。この関係は夕方のニーズ満足感を介して調整されます。ボランティア活動が基本的な心理的ニーズを満たし、心理的な充足感を高めることで、翌日の仕事中にストレスや不安が軽減され、ネガティブな感情が減少するということです。

ボランティア活動という一見仕事とは無関係な活動が、実際には仕事のパフォーマンスや心理的な健康に深い影響を与えるのです。

余暇に体を動かすことがポジティブな感情に

これまでの研究結果から、余暇活動の重要性が明らかになりましたが、具体的にどのような余暇活動が効果的なのでしょうか。

余暇時間の身体活動が労働者の主観的幸福感にどのように影響するかが調査されています[4]。身体活動には、ジムでのエクササイズ、ジョギング、サイクリング、水泳、ダンス、ハイキングなどが含まれます。

研究によると、余暇の身体活動はポジティブ感情と正の相関を示しました。余暇に身体活動を行うことで、労働者のポジティブな感情が増加するということです。身体活動はエンドルフィンなどの分泌を促進し、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを下げる効果があります。また、運動することで達成感や自己効力感が高まり、心の健康が向上することも関係しています。

余暇の身体活動と生活満足度の間にも正の相関が見られました。身体活動は労働者の生活全体の満足度を向上させます。身体的に健康であることや、ストレスが軽減されること、そして充実した余暇時間を過ごすことで、全体的な生活の質が向上します。

一方で、余暇の身体活動とネガティブ感情の間には有意な相関は見られませんでした。これは、余暇時間の身体活動がネガティブな感情には直接影響しないことを表しています。ネガティブ感情の低減には、他の要因がより重要であるのでしょう。

従業員の幸福感を向上させるために、身体活動を奨励する施策を検討する価値があると言えます。例えば、企業内にジムを設置したり、スポーツイベントを開催したり、運動奨励プログラムを実施したりすることで、従業員の身体活動を促進し、結果として幸福感を向上させることができるかもしれません。

特に、デスクワークが中心の仕事に従事している人にとっては、余暇時間に体を動かすことの重要性が高いと言えるでしょう。

余暇は無駄だと考えると幸福感が低下

これまで見てきたように、余暇活動は私たちの幸福感や心理的健康に重要な役割を果たしています。しかし、興味深いことに、余暇に対する認識自体が、その効果に影響を与えることが明らかになっています。

余暇活動を無駄だと考えることが、どのようにその楽しみを減少させるかが検討されています。研究では、4つの実験を通じて、余暇を無駄だと感じる人々は、余暇活動の楽しみが減少し、精神的な健康状態(幸福度、抑うつ、不安、ストレス)も悪化することが見えてきました[5]

具体的には、余暇を無駄だと考える人は、特に純粋に楽しむための活動において楽しみが低いと報告しました。例えば、友達とのパーティーや映画鑑賞などの純粋に楽しむための活動でも、あまり楽しみを感じないのです。「この時間をもっと有効に使うべきだった」と感じてしまうためでしょう。

余暇を無駄だと感じることは、幸福度の低下や抑うつ、不安、ストレスの増加と関連していることも明らかになりました。余暇の時間が充実していないと、日常のストレスを解消する機会が失われます。精神的にリラックスできず、結果として不安や抑うつの症状が現れやすくなるのです。

「レジャーは無駄である」または「レジャーは生産的でない」という考えを植え付けられた参加者は、その後のレジャー活動の楽しさが減少した点も考えさせられます。例えば、実験では猫の動画を見せてその楽しさを評価させましたが、レジャーを無駄だと考えるよう促された参加者は、そうでない参加者に比べて動画を楽しめていませんでした。

「レジャーは無駄であるが有益」というポジティブなフレーミングを与えられた場合でも、楽しさの減少が見られました。レジャーが無駄であるという信念は、ポジティブな枠組みによってもなかなか変わらないことを意味しています。

余暇活動の価値や重要性について教育することで、人々の認識を変え、より充実した余暇時間を過ごせるようになる可能性があります。あるいは、自分自身の余暇に対する認識を見直すことで、より充実した余暇時間を過ごし、結果として幸福感を高めることができるかもしれません。

「この時間は無駄だ」と考えるのではなく、「この時間は自分を回復させ、明日への活力を生み出す大切な時間だ」と捉え直すことで、余暇活動をより楽しむことができます。

組織としても、従業員の余暇を尊重し、その価値を認める文化を醸成することで、従業員の幸福感やメンタルヘルスの向上につながる可能性があります。例えば、「仕事以外の時間も大切にしよう」というメッセージを発信したり、有給休暇の取得を積極的に推奨したりすることが効果的であると考えられます。

以上のように、余暇は私たちの心理的健康や幸福感、さらには仕事のパフォーマンスにも影響を与えています。しかし、時間があれば良いというわけではなく、その過ごし方や余暇に対する認識が重要であることも明らかになりました。

これらの知見は、個人のレベルでは自身の余暇の過ごし方を見直すきっかけとなります。仕事と余暇のバランスを意識し、積極的に心身をリフレッシュする時間を設けることが重要です。また、余暇を「無駄な時間」ではなく、「自己回復と成長のための大切な時間」と捉え直すことで、より充実した余暇時間を過ごせる可能性があります。

今回紹介した研究結果は、私たちに余暇の重要性を再認識させるとともに、より充実した人生を送るためのヒントを提供してくれています。これらの知見を踏まえ、各個人が自分にとっての理想的な余暇の過ごし方を探求し、実践していくことが望まれます。

脚注

[1] Pearson, Q. M. (1998). Job satisfaction, leisure satisfaction, and psychological health. The Career Development Quarterly, 46(4), 416-426.

[2] Sonnentag, S. (2012). Psychological detachment from work during leisure time: The benefits of mentally disengaging from work. Current directions in psychological science, 21(2), 114-118.

[3] Mojza, E. J., Sonnentag, S., and Bornemann, C. (2011). Volunteer work as a valuable leisure‐time activity: A day-level study on volunteer work, non‐work experiences, and well‐being at work. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 84(1), 123-152.

[4] Wiese, C. W., Kuykendall, L., and Tay, L. (2018). Get active? A meta-analysis of leisure-time physical activity and subjective well-being. The Journal of Positive Psychology, 13(1), 57-66.

[5] Tonietto, G. N., Malkoc, S. A., Reczek, R. W., and Norton, M. I. (2021). Viewing leisure as wasteful undermines enjoyment. Journal of Experimental Social Psychology, 97, 104198.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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