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コラム

デジタル時代のワークライフバランス:仕事と余暇の相乗効果

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テクノロジーの進化によって、いつでもどこでも仕事ができるようになりました。その一方で、仕事と私生活の境界が曖昧になり、ワークライフバランスを保つのが難しくなっています。本コラムでは、仕事と余暇のバランスについて、研究知見を基に探っていきます。

仕事と余暇は対立するものではなく、互いに影響し合う関係にあります。良質な仕事は余暇の質を高め、充実した余暇は仕事のパフォーマンスを向上させます。しかし、仕事のストレスが余暇を侵食したり、余暇の過ごし方が仕事に悪影響を及ぼしたりすることもあります。

仕事と余暇の関係について考察することで、仕事と余暇のバランスを適切に保つことの重要性と、そのための具体的な方法について理解を深めていきましょう。

業務時間外の仕事が余暇との葛藤を生む

スマートフォンやタブレットの普及により、いつでもどこでも仕事ができる環境が整っています。一見便利ですが、仕事と余暇の境界が曖昧になり、様々な問題が生じます。中国の研究によると、業務時間外の仕事接続が仕事と余暇の対立を引き起こすことが明らかになりました[1]

研究では、82名の従業員を対象に5日間の連続勤務日を通じて日記調査が行われました。その結果、勤務時間外の仕事接続行動が増えるほど、仕事と余暇の対立が増えることが確認されました。

勤務時間外に仕事に接続することは、余暇やプライベートの時間を減少させます。例えば、家族との時間や趣味の時間が仕事のメールチェックや緊急対応によって中断されます。心身のリフレッシュやストレス解消の機会が減少し、ワークライフバランスが崩れます。

勤務時間外の仕事接続行動が増えると心理的な切り離しが難しくなり、これが仕事と余暇の対立を悪化させることもわかりました。例えば、休日に家族と過ごしているときに仕事のメールをチェックすると、その内容が頭から離れず、家族との時間を楽しめなくなることがあります。

また、個人の分離志向も関係しています。分離志向が強い人ほど、勤務時間外の仕事接続行動が仕事と余暇の対立に与える悪影響が大きくなります。例えば、「仕事は職場で、家庭はプライベートで」という考えを持つ人が、休日に仕事の連絡を受けると、強い不快感や葛藤を覚えます。

企業としては、従業員の勤務時間外の仕事接続行動を減らすための対策が必要でしょう。労働時間外に従業員に連絡しない、仕事のタスクを合理的に設定するなどです。従業員自身も勤務時間外の仕事接続を最小限にし、心理的な切り離しを図る努力が求められます。

高ストレスや受動的仕事は余暇の身体活動不足に

仕事のストレスや性質が余暇の過ごし方に影響を与えることは、多くの人が経験的に感じていることです。仕事のストレスが高い場合や、受動的な仕事に従事している場合、余暇の身体活動が不足しがちになります。この現象について、欧州の研究チームが大規模な調査を行っています[2]

研究では、14のヨーロッパのコホート研究から得られたデータを用いて、17万人以上の参加者を分析しました。研究チームは、職場の特性を4つのカテゴリーに分類しました。低ストレスの仕事(低要求、高制御)、受動的な仕事(低要求、低制御)、積極的な仕事(高要求、高制御)、高ストレスの仕事(高要求、低制御)です。これらの職場特性と余暇の身体活動不足との関連性を調査しました。

結果は、高ストレスの仕事や受動的な仕事に従事している人が、低ストレスの仕事に従事している人と比較して、余暇の身体活動不足のリスクが高いことを示しています。

高ストレスの仕事は、要求が高く、自己管理の範囲が狭いという特徴があります。このような環境では、従業員は長時間働くことが多く、余暇時間が限られがちです。仕事自体が精神的・肉体的な疲労を伴うため、仕事後に運動する意欲や体力が減少する可能性もあります。「仕事で疲れ切っているから、家に帰ったらゆっくりしたい」という思いが、運動の機会を減らしてしまうのです。

受動的な仕事は、要求が低く、自己管理の範囲が狭いという特徴があります。このような仕事では、従業員が仕事中にあまり身体を動かさないため、全体的な身体活動量が少なくなります。受動的な仕事環境はモチベーションやエネルギーのレベルが低くなり、これが仕事後の余暇時間にも影響を及ぼし、身体活動不足につながります。仕事自体にやりがいを感じられず、余暇時間にも積極的に活動しようという意欲が低下することもあるでしょう。

企業や組織の側でも、このような問題に対処するための取り組みが求められます。例えば、職場でのストレス管理プログラムの導入や、仕事の裁量を増やすなどの施策が考えられます。

個人レベルでは、特に高ストレスや受動的な仕事に従事している人は、意識的に余暇時間の身体活動を計画することが重要です。仕事帰りにジムに寄る習慣をつけたり、週末にハイキングや球技を楽しんだりするなど、定期的な運動の機会を設けることができます。

スマホの使用が仕事と余暇の葛藤につながる

スマートフォンの普及に伴い、時と場所を選ばず業務に従事できる環境が整った現代社会。この利便性の一方で、職務と私生活の線引きが不明瞭となり、新たな課題が浮上しています。アメリカの研究によると、スマートフォンの使用が仕事と余暇の間の干渉を引き起こし、仕事ストレスや生活満足度に影響を与えることが明らかになっています[3]

研究では、19歳から55歳までの462人の労働者を対象に、スマートフォンの使用頻度、スマートフォン使用による仕事の過重負荷、セグメンテーション文化(仕事と私生活を分ける文化)、仕事と余暇の対立、仕事ストレス、生活満足度について詳細な調査を行いました。

研究結果で特に注目すべきは、スマートフォンの使用頻度そのものは直接的に仕事と余暇の対立を引き起こすわけではない点です。その一方で、スマートフォンの使用が仕事の過重負荷を引き起こし、それが仕事と余暇の対立を増加させるという関係が明らかになりました。

スマートフォンの使用が仕事の過重負荷につながる理由は、いくつか考えられます。まず、スマートフォンによって仕事に接続可能な状態が続くことで、業務時間外でも仕事関連の連絡や情報チェックを行うことが増えます。実質的な労働時間が延長され、心理的な負担も増加します。

例えば、夜遅くまでメールをチェックしたり、休日に仕事の連絡を受けたりすることで、本来リラックスするはずの時間が仕事モードに切り替わってしまいます。常に仕事の連絡に対応できる状態でいなければならないという心理的プレッシャーも、ストレスの要因となります。

スマートフォンの使用で、仕事のタスクがより細分化され、頻繁に割り込みが入るようになることも、過重負荷の一因です。例えば、一つのタスクに集中しているときに、スマートフォンを通じて別の緊急の要請が入ることがあります。頻繁な中断と切り替えは、認知的負荷を増大させ、効率的な業務遂行を妨げます。

研究は、スマートフォン使用による仕事の過重負荷が、仕事と余暇の対立を引き起こすことを示しています。仕事の負担が増えることで、余暇時間が減少したり、余暇時間中も仕事のことが頭から離れなくなったりするのです。

興味深いのは、この研究がセグメンテーション文化も取り上げている点です。セグメンテーション文化とは、職場において仕事と私生活を明確に分ける文化のことを指します。セグメンテーション文化が強い職場では、仕事と余暇の対立が減少する傾向が見られました。

これは、仕事と私生活の境界をはっきりさせることの重要性を示唆しています。就業時間外の連絡を控える、休暇中は業務連絡を避けるなどの取り組みが、従業員の仕事と余暇のバランスを保つ上で効果的です。

さらに、仕事と余暇の対立が仕事ストレスを増加させ、それが生活満足度の低下につながることも明らかになっています。スマートフォンの使用による仕事の過重負荷は、単に仕事と余暇の対立を引き起こすだけでなく、最終的には個人の生活の質にまで影響を及ぼします。

研究結果を踏まえると、個人レベルでは、スマートフォンの使用を適切に管理し、仕事と私生活の境界を意識的に設けることが重要です。特定の時間帯は仕事のメールをチェックしない、休日は仕事モードのアプリをオフにするなどの工夫が考えられます。

組織レベルでは、従業員のワークライフバランスを尊重する文化を醸成することが求められます。時間外の連絡を最小限に抑える方針を設ける、休暇中の従業員への連絡を控えるなどの取り組みが有効でしょう。

スマートフォンは便利なツールですが、その使用方法によっては仕事と余暇のバランスを崩す原因にもなり得ます。仕事と余暇のバランスを保ち、健康的で充実した生活を送るためには、スマートフォンの使用を含めた働き方の見直しが不可欠なのです。

ポジティブな仕事の振り返りが幸福感を高める

仕事と余暇の関係を考える上で、単に両者を分離するだけでなく、どのように相互作用させるかも重要な視点です。余暇時間における仕事の振り返りが、個人の幸福感に影響を与えることが、研究の中で明らかになってきました。

スイスの研究チームが行った一連の研究では、余暇時間中に仕事のポジティブな側面を振り返ることが、感情的な幸福に与える影響を調査しました[4]。この研究は、3つの異なる日記調査を通じて行われ、興味深い結果を示しています。

第一の研究では、スイスの複数の組織で働く131名の従業員を対象に、2週間にわたる日記調査を実施しました。参加者は毎日2-3回、朝、仕事終了後、就寝前にアンケートに回答しました。

結果的に、ポジティブな職場思考が日常のウェルビーイング(幸福感)にプラスの影響を与えることが見えてきました。仕事中や仕事後にその日の良い出来事を振り返ることで、平静さや陽気さが高まり、抑うつ感や怒りが減少しました。

第二の研究では、週40時間以上働く成人を対象に、10日間にわたる日記調査を行いました。ポジティブな仕事の振り返りだけでなく、ネガティブな仕事の振り返りも測定し、両者の影響を比較しました。

第一の研究と同様に、ポジティブな仕事の振り返りが幸福感に有益な影響を与えることを確認しました。ネガティブな仕事の振り返りは幸福感を低下させる傾向があることも明らかになりました。

仕事の振り返り方が余暇時間の質に影響を与えることを表す結果です。例えば、仕事後に「今日は何もうまくいかなかった」と考えるのではなく、「今日の会議で良いアイデアを出せた」といったポジティブな側面に注目することで、余暇時間をより楽しく過ごせる可能性があります。

単に仕事と余暇を分離するのではなく、仕事における経験を適切に振り返り、それを余暇時間の充実につなげることが大切です。

従業員の成果や貢献を認め、フィードバックする習慣を作ることが重要です。日々の小さな成功を共有する機会を設けたり、週末前にチーム内で良かった点を振り返るミーティングを行ったりするなど、ポジティブな振り返りを促す仕組みづくりが考えられます。

仕事の振り返りは心理的資本を介して創造性を高める

仕事の振り返りが個人の幸福感に影響を与えるだけでなく、仕事のパフォーマンス、特に創造性にも影響を及ぼすことが明らかになってきました。中国の研究チームによる調査では、余暇時間における仕事の振り返りが、心理的資本を介して従業員の創造性を高める可能性が示されています[5]

研究では、余暇時間における仕事の振り返り(ポジティブな振り返りとネガティブな振り返り)が従業員の創造性に与える影響を調査し、特に心理的資本の役割に注目しました。心理的資本とは、自己効力感、希望、楽観主義、およびレジリエンスという4つの要素で構成される概念です。

調査は、さまざまな業種の従業員を対象に実施されました。参加者は、余暇時間における仕事の振り返り、心理的資本、そして創造性(ラディカルな創造性とインクリメンタルな創造性)について回答しました。ラディカルな創造性とは、既存の概念やプロセスを根本から変える革新的なアイデアを指し、インクリメンタルな創造性は、既存のプロセスや製品を徐々に改良するアイデアを指します。

そうしたところ、ポジティブな仕事の振り返りが従業員の創造性を向上させ、心理的資本がこの関係を強化することがわかりました。ポジティブな仕事の振り返りは、ラディカルな創造性とインクリメンタルな創造性の両方に正の影響を与えていました。

一方で、ネガティブな仕事の振り返りは、創造性に負の影響を与えます。失敗や問題点に焦点を当てることで、新しいアイデアを考える意欲や自信が低下してしまうのです。

この研究でとりわけ注目すべきは、心理的資本の役割です。ポジティブな仕事の振り返りは、心理的資本を高め、それが創造性の向上につながるという間接的な効果も確認されました。仕事の良い面を振り返ることで、自己効力感や楽観主義が高まり、それが新しいアイデアを生み出す力を強化するのです。

例えば、プロジェクトにおける成功体験を振り返ることで、「次も新しいことに挑戦できる」という自信につながります。困難を乗り越えた経験を振り返ることでレジリエンスが強化され、新しいアイデアを考える際の障害を乗り越える力になります。

ポジティブな振り返りの習慣を身につけ、心理的資本を強化することで、より創造的で充実した仕事と生活のバランスを実現できるでしょう。仕事と余暇は対立するものではなく、むしろ相互に高め合う関係にあります。この視点を持つことで、より豊かで生産的な働き方と生活を実現することができるのではないでしょうか。

以上、紹介してきた通り、仕事と余暇の関係性は複雑で多面的です。単純に分離するだけでは十分ではありません。業務時間外の仕事接続や高ストレスの仕事環境が余暇に悪影響を与える一方で、適切な仕事の振り返りは余暇の質を高め、さらには仕事のパフォーマンスにも良い影響を与えます。

個人と組織の両方がこれらの関係性を理解し、適切なバランスを見出す努力をすることが求められます。テクノロジーの発展や働き方の多様化が進む中で、仕事と余暇のより良い関係性を模索し続けることが、個人の幸福と組織の成功の両方にとって不可欠です。

脚注

[1] Wang, F., Zhang, Z., and Shi, W. (2023). Relationship between daily work connectivity behavior after hours and work-leisure conflict: Role of psychological detachment and segmentation preference. PsyCh Journal, 12(2), 250-262.

[2] Fransson, E. I., Heikkila, K., Nyberg, S. T., Zins, M., Westerlund, H., Westerholm, P., Vaananen, A., Virtanen, M., Vahtera, J., Theorell, T., Suominen, S., Singh-Manoux, A., Siegrist, J., Sabia, S., Rugulies, R., Pentti, J., Oksanen, T., Nordin, M., Nielsen, M. L., Marmot, M. G., Magnusson Hanson, L. L., Madsen, I. E. H., Lunau, T., Leineweber, C., Kumari, M., Kouvonen, A., Koskinen, A., Koskenvuo, M., Knutsson, A., Kittel, F., Jockel, K. H., Joensuu, M., Houtman, I. L., Hooftman, W. E., Goldberg, M., Geuskens, G. A., Ferrie, J. E., Erbel, R., Dragano, N., De Bacquer, D., Clays, E., Casini, A., Burr, H., Borritz, M., Bonenfant, S., Bjorner, J. B., Alfredsson, L., Hamer, M., Batty, G. D., and Kivimaki, M. (2012). Job strain as a risk factor for leisure-time physical inactivity: An individual-participant meta-analysis of up to 170,000 men and women: The IPD-Work Consortium. American Journal of Epidemiology, 176(12), 1078-1089.

[3] Son, J. S., and Chen, C.-C. (2018). Does using a smartphone for work purposes “ruin” your leisure? Examining the role of smartphone use in work-leisure conflict and life satisfaction. Journal of Leisure Research, 49(3-5), 236-259.

[4] Meier, L. L., Cho, E., and Dumani, S. (2016). The effect of positive work reflection during leisure time on affective well‐being: Results from three diary studies. Journal of Organizational Behavior, 37(2), 255-278.

[5] Wang, Z., Meng, L., Cai, S., and Jiang, L. (2024). Work reflection during leisure time and employee creativity: The role of psychological capital. Journal of Management & Organization, 30(2), 318-330.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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