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コラム

複数の顔を持つ働き方:副業が個人と組織に与える影響

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副業に対して注目が集まっています。副業には、収入を増やしたり、自己実現やスキルアップを図ったりするメリットがありますが、本業への影響や健康面での不安もあります。副業が個人や組織にどのような影響を与えるのかを理解することが大切です。

本コラムでは、副業に関する研究を紹介します。副業をしたいと思う人の特徴、副業が本業に与える影響、副業がもたらす創造性などについて見ていきます。これらの知見が、副業を考えている個人や、副業を認める組織にとって参考になることを願っています。

副業意欲の高い人の特徴

副業をしたいと考える人にはどのような特徴があるのでしょうか。中国の労働者402人を対象にした調査によると、多様なスキルを持つ人ほど副業をしたいと考えることが分かりました[1]

研究では、個人のスキルの多様性が副業意欲に与える影響を調べています。スキルの多様性とは、仕事を遂行するために必要な様々なスキルや知識を持っていることを指します。

調査結果によると、スキルの多様性が高いほど、副業をしようとする意欲が高まることが明らかになりました。多様なスキルを持つ人は、自分の能力を最大限に発揮したいと考えるからでしょう。例えば、プログラミングができる営業職の人が、副業でウェブサイト制作を行うケースが考えられます。

多様なスキルを持つことで、様々な副業の機会を見つけやすくなります。スキルの幅が広いほど、自分に合った副業を見つける可能性が高まります。

興味深いのは、この研究が「役割幅の自己効力感」という概念を導入している点です。役割幅の自己効力感とは、従業員が規定された要件を超えた広範な役割を遂行する能力に自信を持っていることを指します。

研究によると、個人のスキルの多様性が高いほど、役割幅の自己効力感も高くなります。そして、この役割幅の自己効力感が高いほど、副業意欲が高まります。多様なスキルを持つことで「幅広い役割をこなせる」という自信が生まれ、それが副業への意欲につながるというわけです。

さらに、「副業の意義」も重要な役割を果たしています。副業の意義とは、副業に対する個人の認識とその活動に感じる価値のことです。研究によると、副業の意義が高いと感じる人ほど、役割幅の自己効力感が副業意欲に与える影響が強まります。多様なスキルを持ち、幅広い役割をこなせる自信がある人が、副業に高い価値を見出すと、副業への意欲がさらに高まるのです。

個人にとっては、多様なスキルを身につけることが、将来の副業の可能性を広げることにつながると言えます。一方、組織にとっては、従業員の多様なスキル開発を支援することが、彼らの自己効力感や仕事への意欲を高める可能性があることを示しています。

組織への愛着が副業意欲を抑える

個人のスキルの多様性が副業意欲に影響を与えることを見てきました。しかし、副業意欲には他の要因も関係しています。組織への愛着や職務満足度が副業意欲にどのような影響を与えるかを探ります。

インドのITプロフェッショナル161人を対象にした調査では、職務満足度が高く、組織への愛着が強い従業員ほど、副業意欲が低いことが分かっています[2]。研究では、職務満足度が組織コミットメントに正の影響を与えることが示されました。現在の仕事に満足している従業員ほど、その会社に対する愛着や忠誠心が高まるのです。

なぜでしょうか。職務満足度が高い従業員は、仕事環境や職場の人間関係、給与、昇進の機会などに満足していることが多いでしょう。これらの要因が揃っていると、従業員は組織に対して感謝や愛着を感じやすくなります。

次に、組織コミットメントが副業意欲に負の影響を与えることも明らかになりました。組織に対する愛着や忠誠心が強い従業員ほど、副業をする意欲が低くなります。

組織コミットメントが高い従業員は、組織に対して愛着や忠誠心を感じているため、自分の時間やエネルギーを組織のために使いたいと考えます。副業をすることは、コミットメントを分散させることになります。組織に強いコミットメントを持つ従業員は、組織の目標達成やプロジェクトの成功に集中し、それに貢献することにやりがいを感じるため、副業に時間を割く必要性を感じないのです。

さらに、職務満足度も直接的に副業意欲に負の影響を与えることが分かりました。現在の仕事に満足している従業員ほど、副業をする意欲が低くなるのです。

職務満足度が高いと、現在の職場で得られる満足感や充実感が高いため、追加の収入や別の仕事から得られる満足を求める必要がありません。職務満足度が高いと、ストレスが少なく、仕事への不満が少ないため、他の仕事を探す動機が低くなります。

組織コミットメントが職務満足度と副業意欲の関係を媒介することも見えてきました。職務満足度が高まると、まず組織コミットメントが高まり、その結果として副業意欲が低くなるというメカニズムがあります。職務満足度が直接、副業意欲に影響を与えるのではなく、組織コミットメントを通じて影響を与えます。

柔軟な働き方が副業を促す

これまで、副業意欲に影響を与える個人的な要因を見てきました。では、実際に副業を行う人々にはどのような特徴があるのでしょうか。柔軟な働き方と副業の関係について検討します。ドイツ、イギリス、オランダの労働者を対象とした長期的な調査によると、柔軟な働き方をしている人ほど副業を行う傾向が強いことが分かりました[3]

研究では、2002年から2017年までの15年間にわたるパネルデータを分析しています。パネルデータとは、同じ個人や家庭を長期間追跡調査したデータのことです。この方法によって、個人の状況や態度の変化を時間の経過とともに観察できます。

調査の結果、フレックスタイム制や在宅勤務などの柔軟な勤務形態を持つ従業員や自営業者は、副業に就く確率が高いことが明らかになりました。

柔軟な勤務形態は、時間管理の自由度を高めます。例えば、フレックスタイム制を利用している従業員は、コアタイム以外の時間を柔軟に使うことができます。このことが、副業を行う機会を増やすのでしょう。同様に、在宅勤務は通勤時間を削減し、その時間を副業に充てることができます。

自営業者は自分で仕事のスケジュールを決められるため、複数の仕事を組み合わせやすい環境にあります。例えば、フリーランスのデザイナーは、複数のクライアントの仕事を並行して進めることができます。

この研究は副業の経済的・非経済的影響も調査しています。結果は国によって異なりますが、ドイツでは副業者は高い仕事の満足度と幸福度を報告しています。これは、副業が単なる収入増加だけでなく、自己実現や新しい経験の機会となっている可能性を示唆しています。

一方で、オランダでは副業者は低い収入、低世帯所得などを報告されています。オランダの労働市場におけるパートタイム労働者の高い割合が影響しているかもしれません。副業によっても十分な収入を得られず、経済的な安定が得られない状況が生じている可能性があります。

複数のアイデンティティによって仕事の意義を感じる

一人の人が複数の仕事に関するアイデンティティを持つことがあります。例えば、平日は会社員として働き、週末はデザイナーとして活動する人などがいます。このように複数の職業的アイデンティティを持つことは、仕事の意義にどのような影響を与えるのでしょうか。

アメリカの労働者を対象とした研究を見てみましょう。研究では、15日間にわたり113人の副業者とその同僚を対象に、毎日の仕事の状況と感情を記録してもらいました。

調査の結果、複数の職業的アイデンティティを持つことは、仕事に対する刺激(仕事への興奮や意欲)を増やし、それが仕事の意義を高めることが明らかになりました。特に、異なるアイデンティティ間の違いが大きい場合、この効果は顕著でした。

複数の職業的アイデンティティを持つことで、新しい視点やスキルを得る機会が増えます。例えば、会社員としての経験とフリーランスの経験は、異なる角度から仕事を見る視点を提供します。多様な経験が、仕事に対する新たな刺激となり、意欲を高めます。

また、異なる職業的アイデンティティ間を行き来することで、自己の成長や探求が促進されます。例えば、会社員としての組織的な仕事の進め方と、フリーランスとしての創造性の発揮は、互いに補完し合い、個人の能力を多面的に向上させる可能性があります。

さらに、この研究は、「刺激」と「自己疎外感」という2つの要因に着目しています。刺激は仕事への興奮や意欲を表す一方、自己疎外感は自己との距離感を表します。研究結果によると、複数の職業的アイデンティティの行使は刺激を高めますが、自己疎外感には影響を与えませんでした。

複数のアイデンティティを持つことが、必ずしも自己の一貫性を損なうわけではないことを示唆しています。むしろ、異なる役割を持つことで自己の多面性を認識し、それぞれの役割で自己を表現することができるのです。

仕事以外の様々な役割が創造性をもたらす

仕事以外の活動は、仕事にどのような影響を与えるのでしょうか。仕事以外の様々な役割が創造性にもたらす効果について探ります。

アメリカの労働者を対象とした調査を通じて、仕事以外の個人的な活動に幅広く参加することが、仕事における創造性を高める可能性があることが見えてきました[4]。研究では、「個人的な活動の幅広さ」に着目しています。趣味、スポーツ、ボランティア活動、家族との時間など、仕事以外の様々な活動にどれだけ参加しているかを指します。

調査の結果、個人的な生活の幅が広い人ほど、仕事における創造性が高まることが明らかになりました。多様な活動に参加することで、個人は新しい経験や情報に触れる機会が増えます。これらの経験が「認知的発達資源」として蓄積されます。

認知的発達資源とは、新しいスキル、知識、視点などを指します。例えば、スポーツを通じてリーダーシップやチームワークのスキルを学び、ボランティア活動を通じて異なる社会問題への理解を深めることができるかもしれません。

認知的発達資源が仕事における創造性、つまり新しいアイデアを考え出す能力や問題解決能力にポジティブな影響を与えます。仕事以外で得たスキルや知識は、異なる視点や方法で仕事の課題に取り組むための新しい道具となります。

この研究結果は、仕事以外の多様な活動に積極的に参加することが、仕事の創造性を高める可能性があることを示しています。単に趣味を楽しむだけでなく、そこから得られる経験や学びを意識的に仕事に活かすことで、より創造的な成果を上げられる可能性があります。

組織にとっては、従業員の仕事外の活動を制限するのではなく、むしろ奨励することの重要性を示唆しています。例えば、ボランティア活動への参加を支援したり、趣味や自己啓発のための時間を確保できるような働き方を推進したりすることが考えられます。従業員の創造性が高まり、組織全体のイノベーション力の向上につながるかもしれません。

仕事と私生活の境界が曖昧になりつつある現代社会において、両者のバランスを取ることの重要性を再認識させてくれる結果です。仕事に没頭することも大切ですが、同時に多様な生活経験を積むことが、結果的に仕事のパフォーマンス向上につながります。

ステータスが不一致だと副業が本業に悪影響

副業や仕事外の活動がもたらすポジティブな影響について紹介してきましたが、副業が必ずしも良い影響だけをもたらすわけではありません。本業と副業のステータスの不一致がもたらす影響について検討します。

フルタイムの仕事と副業を持つ278人の正社員とその上司を対象とした調査では、本業と副業の間でステータスの不一致がある場合、ストレスや感情的疲労が増加し、本業のパフォーマンスが低下し得ることが明らかになりました。

この研究におけるステータスの不一致とは、本業と副業で異なる社会的地位や評価、尊敬を得ている状態を指します。例えば、副業では高い評価を受けている専門家として活動しているが、本業ではそうではないといった場合が該当します。

調査の結果、ステータスの不一致があると、従業員のストレスが増加することが分かりました。特に、本業のステータスが低く、副業のステータスが高い場合、不一致が大きなストレス要因となります。

理由としては、まず、役割期待の不調和が考えられます。本業と副業で異なる期待があるため、従業員はそれぞれの仕事において異なる行動や態度を求められます。この不調和が心理的な負担となり、ストレスを引き起こします。例えば、本業では指示に従う立場であっても、副業では自ら判断して行動する必要がある場合、役割の切り替えがストレスとなります。

自己意識の混乱も要因の一つです。本業と副業で異なるステータスを持つことで、自分自身の役割や地位について混乱が生じ、自尊心や自己認識が揺らぎます。例えば、副業では高い評価を得ているにもかかわらず、本業では評価されていないと感じることで、自己価値が揺らぐ可能性があります。

研究では、ステータスの不一致が感情的疲労を引き起こし、それが本業の仕事パフォーマンスの低下につながることも明らかになりました。感情的疲労とは、長期間にわたるストレスや負荷により、精神的に疲れ果てた状態を指します。

ステータスの不一致があると、従業員は絶えず異なる役割期待やステータスに適応する必要があり、これが感情的な疲労を引き起こします。そして、感情的疲労が本業のパフォーマンスを低下させます。疲労により集中力が低下したり、モチベーションが下がったりすることで、仕事の質や効率が落ち得ます。

副業を選択する際に、本業とのステータスの差を考慮することが大事です。ステータスの大きな不一致は心理的な負担となる可能性があります。本業と副業のバランスを慎重に検討する必要があります。

副業での自律性が高いことは諸刃の剣

副業の仕事は、高い自律性を持つことがありますが、これが本業にどのような影響を与えるのでしょうか。副業を持つフルタイムの従業員を対象とした調査によると、副業における自律性が高いと、フルタイムの仕事において苛立ちと主体性の両方が高まることが分かりました。

研究では着目している副業の自律性とは、副業の仕事をどれだけ自分で方向付けることができるかを指します。例えば、仕事のタイミング、場所、方法を自由に決められる程度のことです。

副業の自律性が高いと、フルタイムの仕事に戻ったときに「囲い込まれた」と感じることが分かりました。これは「心理的リアクタンス」と呼ばれる現象で、自由や自律を制限されると、その制限に対して抵抗しようとする心理的な反応のことです。

副業で高い自由度を経験した後にフルタイムの仕事に戻ると、その制約(上司の指示や厳しいルールなど)がよりストレスフルに感じられるのです。副業ではプロジェクトの進め方を自由に決められたのに、フルタイムの仕事では細かい指示に従わなければならない場合、強い反発心を感じる可能性があります。

心理的リアクタンスは、フルタイムの仕事における「苛立ち」と「主体性」という、一見相反する2つの結果をもたらします。

まず、副業の自律性が高いほど、フルタイムの仕事で苛立ちを感じやすくなることが分かりました。自由な環境から制約の多い環境に戻ることで、制約に対する反発心が強くなるためです。上司や同僚に対する苛立ちや反発心が増加し、職場の雰囲気を悪化させる可能性があります。

一方で、副業の自律性が高いほど、フルタイムの仕事でも主体性が高まることが明らかになりました。副業での自律性を経験することで、従業員は自分の能力や意思決定力に自信を持つようになるためです。この自信が、フルタイムの仕事においても主体性を発揮する動機づけとなり、自分の役割や責任を積極的に引き受けるようになります。

この研究では、フルタイムの仕事でのコントロールという要因も考慮しています。フルタイムの仕事でのコントロール、すなわち、自分で決定を下す自由度が低い場合、副業での高い自律性との差が大きくなり、その結果として苛立ちが増幅されることが分かりました。フルタイムの仕事での決定権がほとんどない場合、副業での自由度が逆にフラストレーションを引き起こしやすくなるのです。

これらの結果は、副業の自律性がフルタイムの仕事において「両刃の剣」となることを示しています。副業における高い自律性は、フルタイムの仕事における苛立ちを増加させるリスクがある一方で、主体性を高めるポジティブな効果も持っています。

この研究結果をもとにすれば、副業を選択する際に、その自律性がフルタイムの仕事に与える影響を考慮することが重要でしょう。高い自律性を持つ副業は魅力的に感じられますが、それがフルタイムの仕事での不満を増幅させる可能性があることを認識しておくべきです。

とはいえ、副業における自律性の経験が主体性を高める効果があることを活かし、フルタイムの仕事でもより積極的に行動することで、キャリアの発展につながることもあり得ます。

副業を持つ従業員の主体性の高まりを組織の利益につなげるためには、主体性を発揮できる機会を提供することが求められます。新規プロジェクトの立ち上げや業務改善の提案を奨励するなど、従業員の主体性を活かせる環境を整備することが考えられます。

本コラムでは、副業に関する研究成果を紹介してきました。これらの研究から、副業が個人と組織に与える影響は複雑で多面的であることが見えてきました。副業を選択する際に、自身のスキル、現在の仕事への満足度、本業と副業のステータスの差、副業の自律性などを総合的に考慮する必要があります。

脚注

[1] Meng, Z., Tang, P., and Wang, H. (2023). Influence of individual skill variety on side-hustle intention: The mediating effect of role breadth self-efficacy and the moderating role of side-hustle meaningfulness. Sustainability, 15(3), 2574.

[2] Choudhary, V., and Saini, G. (2021). Effect of job satisfaction on moonlighting intentions: mediating effect of organizational commitment. European Research on Management and Business Economics, 27(1), 100137.

[3] Conen, W., and Stein, J. (2021). A panel study of the consequences of multiple jobholding: Enrichment and depletion effects. Transfer: European Review of Labour and Research, 27(2), 219-236.

[4] Sessions, H., and Pychlau, S. (2024). Self-inconsistency or self-expansion from wearing multiple hats? The daily effects of enacting multiple professional identities on work meaningfulness. Journal of Applied Psychology, 109(6), 897-920.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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