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コラム

気晴らし研究から考える:パフォーマンスを上げる気分転換法(セミナーレポート)

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ビジネスリサーチラボは、20246月にセミナー「気晴らし研究から考える:パフォーマンスを上げる気分転換法」を開催しました。

職場で成果を上げるためには、業務の進め方を工夫することに加えて、集中や意欲を維持するための気分転換も大切です。一方で、気分転換がうまくいかず、やる気が戻らなかったり、休憩時間が長引いてしまったりすることもあります。

本セミナーでは、これらの現象について「気晴らし」や「先延ばし」という研究テーマをもとに考えます。「失敗」を防いで、気分を上手く切り替えるために、気分転換の落とし穴とその原因を明らかにし、実践的な対策を提案します。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

気晴らしとは何か

定義・効果

1つ目のパートとして、気晴らしとは何かについて説明していきます。まず、学術的な定義についてですが、簡単に言うと、意識を別のことに向けることです。具体的には、不快な感情や思考から別の思考や活動に注意をそらすことと定義されています。

具体例をいくつか紹介します。例えば、作業に退屈したり疲れたりしたときに別の作業に切り替えることや、アイディアが出なくて行き詰まったときに、作業を中断してコーヒーを淹れることなどが挙げられます。また、例えば週末に小旅行に出かけることで、リフレッシュして週明けからまた仕事に集中する、というのもあるでしょう。このように、気晴らしの形式としては、短期的なものから中・長期的なものまで、さまざまな形で実施することができます。

気晴らしの効果として、まず気分の切り替えがあります。ネガティブな気持ちを感じたときに、別の活動を行うことで、気分が良くなります。また、課題の質の向上も期待されます。別のことをした後に作業に戻ると、その課題の質が向上する場合があることも、研究で確認されています。また、学生を対象とした研究では、気晴らしを取り入れることで行き詰っていた学業課題が前進したり、対人関係の悩みも解消されやすくなることが示されています。

気晴らしがしたくなる原因

次に、なぜ気晴らしをしたくなるのかについて考えてみましょう。主な原因として、2つ挙げられます。一つは気持ちを切り替えたいから、もう一つは気が散ってしまっているからです。

まず、「気持ちを切り替えたい」という場合について見ていきます。例えば、業務の進捗が悪くて自己嫌悪に陥ったときの選択肢は、どうすれば解決できるかを考え続けるか、一度中断してしてから再度考え直すか、という2つがあります。

後者の場合、つまり気晴らしを取り入れると、気分は改善されることが研究で示されています。逆に、考え続けた場合には、不快な感情が強まってしまう可能性が指摘されています。このことから、いわゆる気分転換として、不快な感情が高まった場合は、無理して継続するよりも中断した方が良いといえるでしょう。

続いて、「気が散っている」場合についてです。気が散っている状態を言い換えると、手元の作業に集中できず、他のことを考えてしまうことだといえます。これを、専門的にはマインドワンダリングと呼びます。マインドワンダリングの学術研究からも、気晴らしを取り入れた方が良いという結果が示されています。

その研究例の1つが、「気が散ることを抑えよう」と努力することの効果を調べたものです。実験の結果、ネガティブな気分にあるときは、このような努力をしても、マインドワンダリングを減らすことができませんでした。このことから、退屈や疲労を感じて気が散っているときも、無理せず気晴らしを取り入れた方が、集中力を取り戻しやすくなるといえるでしょう。

気晴らしは何故うまくいかないのか

続いてパートでは、気晴らしの効果に影響を与える要因について確認していきます。気晴らしが有効であるという結果だけでなく、気晴らしがうまくいかないケースも、研究では実際に確認されています。そこで、気晴らしが「うまくいかない場合」を含む、気晴らしのメカニズムに関する研究結果を参考にして、どうすれば気晴らしがうまくいくのかを考えていきましょう。

「回避」の視点

一つ目の視点は、「回避」です。これは、気晴らしをする際に、その作業を避けたいという気持ちが働くケースです。気晴らしに関する学術研究では、「作業を中断する」という行為には、2つのタイプがあると指摘しています。

1つ目は、気分を切り替えるために、一時的に作業を中断する場合です。気分転換が目的で、作業に戻る前提で一時的に中断するケースを指します。2つ目は、作業そのものを避けたいという気持ちから中断する場合です。作業が疲れる、退屈といった理由で、その作業自体を避けたいと思うために中断するケースです。

これら二つの作業の中断を分けることには意味があります。前者は、「行動」として回避的であっても、気分をリフレッシュするためのものであり、再開後に気分が改善されやすいのです。しかし、後者は、作業そのものを避けたいという動機があるため、「目標」としての回避と呼ばれ、中断後に再開しても、気分の改善が見られなかったという研究結果があるのです。

気分の改善がみられなかった理由として、作業を避けたいと考えて中断した場合は、「ただ中断するだけ」といえます。つまり、作業の再開後は、好転していない状況と再び向き合うことになるため、気分が改善しない考えられています。

「回避」の視点に関するもう一つの問題として、「先延ばし」になるリスクがあります。嫌な作業を中断した際、その再開が遅れてしまうことは、誰にでも経験があるでしょうか。このように、やらなければと思う作業の開始が遅れることは、先延ばしと呼ばれています。

学術研究では、先延ばしにする・なってしまうパターンがいくつも確認されています。例えば、「時間はまだあるから」、「他の重要なことを優先しよう」、「やっても意味がないと感じる」、といった具合です。このような理由で先延ばしにすると、やらなかったことを後悔することになり、結果としてパフォーマンスが低下することが研究で確認されています。

「回避」の視点を整理すると、気晴らしをする際には、「作業が嫌だから」という回避的な動機で作業を中断すると、気分が改善しなかったり、そのまま先延ばしにしてしまうリスクがあるといえます。つまり、気晴らしをする際には、積極的に作業に戻る意識を持つことが重要だといえます。

「理由」の視点

二つ目の視点は「理由」です。前述の回避以外にも、気晴らしの理由によって効果が変わることが確認されています。望ましい、あるいは、望ましくない理由という双方に関する研究を説明します。

一つ目の例として、理由を明確にしないまま気晴らしを始めると、気分が改善しないという結果があります。「嫌な気分を忘れたい」「とにかく嫌な気分を紛らわしたい」と、曖昧な理由のままで気晴らしを行うと、気分が改善しにくいということがわかっています。この場合、気晴らしをしても作業に戻りにくく、何度も気晴らしに頼ってしまうという「気晴らし依存」が生じるリスクもあるのです。

二つ目の例として、目標を明確にするために気晴らしをすると、気晴らしは有効に働きます。例えば、気晴らしをする前に「自分の考えをはっきりさせたい」や「作業の目標を整理したい」といった明確な意図があると、気晴らし後に気分が改善しやすくなります。この場合は、上記とは逆に、作業に戻りやすく、気晴らし依存も防ぐことができます。

三つ目の例として、「気分を改善できる」という見込みがあると、気晴らしは有効に機能します。具体的には、「自分は気分を調整できる」と自信がある場合や、気晴らしについてのノウハウを持っている場合、さらに作業に関して時間的に余裕がある場合などです。こうした点で、気晴らしによって気分が改善するという見込みがある場合と、気分の改善が起きやすくなります。以上の「理由」の視点からは、明確な目標を持つ、あるいは、気分を改善できるという見込みを持つことが、気晴らしを有効にするポイントだといえます。

「内容」の視点

三つ目の視点は、気晴らしの「内容」です。前提として、気晴らしとは手元の作業を中断して別のことに取り組むことです。そのため、気晴らしとして何を行うのかが、気晴らしの効果に影響するのです。ここまでの内容が気晴らしの前段階に注目していたのに対して、ここでは気晴らしの最中のメカニズムに注目していきます。

一つ目の研究知見として、気晴らしに「集中できること」が重要であると指摘されています。例えば、企画案を考えることに行き詰まって、気晴らしとして別の業務の資料に目を通そうと考えた場合を考えてみます。

このとき、目を通した資料の内容に没頭できたり、そこから自分の経験や感想が思い浮かぶなどの思考の切り替えが起きることが、気晴らしとして始めた行為に集中できている状態とされています。そして、気晴らしに集中できると、気分の改善や問題の解決につながりやすいのです。

二つ目の研究知見として、気晴らしの「負荷」が効果を左右する可能性があります。具体的には、気晴らしの際は負荷の低い作業に取り組む方が、良い効果を得やすいと考えられています。理由として、作業の負荷が低いということは、それを進めるために深く思考する必要性も低いといえます。そのため、作業に没頭しやすく、気晴らしに集中しやすくなるといえます。

また、こうした負荷の低い作業を進める場合は、手前で進めていた作業に関する良いアイディアを思いつくという「孵化効果」が得やすいことが分かっており、問題解決も進みやすいという効果が期待されます。以上の「内容」の視点からは、考える内容や思考の切り替えを促すため、気晴らしとして取り組む作業は、できるだけ負荷の低いものを選ぶとよいといえます。

気晴らしを奏功させるための工夫

最後のパートとして、気晴らしをうまく行うために、具体的にどのような工夫ができるのかを考えていきます。先ほど紹介したパターンを踏まえつつ、三つの方針に分けてご紹介します。

思い切って気晴らしをする

一つ目の方針は、「思い切って気晴らしをする」ことです。先述のように、なし崩しで気晴らしを始めると、気分の改善や問題解決が難しくなります。したがって、気晴らしをする前に明確な意図を持つことが重要です。

では、どうすれば思い切って気晴らしをすることができるのか、という点について、3つのポイントをご紹介します。まず、自分の感情状態に敏感になることです。例えば、「退屈を感じている」「気が散っている」など、気晴らしをするべきタイミングを素早く自覚し、「無理に続けるよりも気晴らしをする方が良い」と考えましょう。

次に、明確な意図を持つことです。研究でも示されたように、「思考を整理するため」という目的を持つことや、「時間的に余裕がある」と確認してから少し休むといった具合です。また、自分にとって特に効果的な方法を見つけて、その方法を実践することも大切です。

最後に、「中断」と「再開」の方法を決めておくことです。これにより、作業と気晴らしをスムーズに移行することができので、気晴らしが導入しやすくなるでしょう。例えば、「何時何分に中断」「何分経ったら再開」などと時間で区切る方法、「特定の作業が終わったら」と作業の段階で区切る方法があります。さらに、「休憩室で缶コーヒーを買って1口飲んだら、仕事に戻る」といった具合に、できるだけ具体化することも、行動を実践しやすくする効果が確認されています。

負荷の低い気晴らしをする

二つ目の方針は、上述の「内容」の視点を参考に、「負荷の低い気晴らしをする」ことです。負荷の低い作業を選ぶことで、気晴らしの質を高めるとも言えるでしょう。ここでは、負荷の低い作業として2つの例をご紹介します。

まず、「簡単で慣れた業務」です。例えば、書類整理などの事務作業や、工程やアウトプットが定まっているルーティンワークが挙げられます。あるいは、1時間程度で終わる作業や、1時間で区切りをつけられる作業なども良いでしょう。こうした作業は、進め方が明確で、「作業のために思考する」というコストが低いという点で有効だといえます。

次に、「短時間の休憩」を取ることです。具体的には、自席で軽いストレッチをする、一杯のコーヒーを飲むといった例が挙げられます。これらは「マイクロブレイク」として近年注目を集めており、実際にその効果も確認されています[1]。短時間で実践できる休憩であれば、業務への支障も支障も少なく、取り入れやすいといえます。

仕事の回避を減らす

三つ目の方針は、「仕事の回避を減らす」ことです。根本的な方針であり、漸次的に進めることが必要ですが、仕事に前向きになれれば気晴らしを有効に活用できるという点で、重要だといえます。ここでは2つの方法をご紹介します。

まず、「回避的な感情を捉え直す」という方法です。例えば、退屈で困難な作業や意義が見えにくい作業に対しても、「何か学べることがあるかもしれない」と考えたり、上司に意義を尋ねる、といった具合です。不快な感情を再評価することで、深い感情が続くことを抑えることができます。

次に、「先延ばしの対策をする」という方法です。仕事への嫌悪的な気持ちがあると、先延ばしのリスクが高まります。そこで、先延ばしに関する対策を講じることで、中断した後でも再開しやすくなるという効果が期待されます。

先延ばしの具体的な対策として、次の三つの方法を紹介します。まず、「時間に追われない進め方を心がける」ということです。例えば、締め切りが先にある場合は、手前にサブゴールを設けることで、最終的に慌てずに済むようにします。また、目標を少し下げることでプレッシャーを下げて、積極的に取り組めるようにする方法もあります。

次に、「周囲を巻き込む」ということです。上司や同僚に相談相手になってもらうことで、わからないことがある時に気軽に質問できる環境を作ります。これによって、作業に取り掛かりやすくなり、先延ばしを防ぐことができます。

最後に、「仕事の価値を見出す」ことです。自分が取り組む作業の意義や面白さを見つけることが大切です。上司に相談して、自分が意義を感じる仕事を任せてもらうことや、業務の目的をしっかり説明してもらうことで、納得感を持って取り組めます。

Q&A

Q: 気晴らしの有益性を「サボり」と誤解されずに伝える方法を教えてほしい

A: 特定の個人間だけでの共有では、傍から見る人に誤解される可能性があります。そこで、部署単位など関係者全体で気晴らしの価値を共有することが重要だと考えられます。また、職場として取り入れるならば、短時間でできる活動や業務間での切り替えを推進することで、「サボり」として悪用することを予防できると考えられます。

Q: 元々ルーティンワークが多く裁量の低い職場でも気晴らしは導入できるか

A: ルーティンワークが多くとも、軽いストレッチや短い休憩を取ることができれば、気分転換につながり、作業効率を向上させる効果が期待できます。職場全体で気晴らしの価値を共有することで、休憩の取り方など、制度としての見直し・導入を図ることがよいでしょう。

Q: 気晴らしがうまい人とメンタルヘルスの不調にはどのような関係があるか

A: 研究知見としては、逆に、気晴らしが上手くできない人の傾向として、否定的な考えや不快な感情にとらわれやすい人は、メンタルヘルスの不調が生じやすいことが確認されています。気晴らしをうまく実施できるようになれば、メンタルヘルスに不調が生じにくくなるといえます。

Q: 認知行動療法による気晴らし推進の有無が気になった

A: 関連した現象である先延ばしの対策・治療法として、認知行動療法が導入されている例はあります。課題の否定的な捉え方や、高すぎる目標設定に介入する例があることから、業務の主観的な捉え方を変えるという方法であれば、気晴らし習慣の獲得にも有効かもしれません。

脚注

[1] 詳細は、当社コラムを参照ください;小さな休憩、大きな効果:マイクロブレイクの可能性ちょっと一息:効果的な休憩のとり方

 


登壇者

黒住 嶺 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー

学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了、筑波大学人間総合科学研究科心理学専攻博士後期課程満期退学。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。

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