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コラム

秘密を守ることで失うもの、得るもの

コラム

秘密。私たちの職場生活に無縁のものではありません。昇進の内示、企業の機密情報、同僚との確執など、日々、大小様々な秘密と向き合っているのではないでしょうか。

一見すると、秘密は単に「隠すべきもの」「悪いもの」と捉えがちです。しかし、学術研究は、秘密がもたらす影響の複雑さと奥深さを明らかにしています。

例えば、秘密を抱えることで自分を罰する行動が増えるという発見。あるいは、ポジティブな秘密が個人のエネルギーを高める可能性。これらの知見は、私たちの経験則に新たな光を当てるものです。

秘密があると自分を罰する

秘密の影響は多岐にわたりますが、その中でも特に注目すべきは、秘密が自己罰行動を引き起こす点です。秘密を抱えていると、自分自身を罰する行動が増加することが明らかになっています。この現象のメカニズムを解明した一連の研究を見てみましょう[1]

1つ目の研究では、パートナーに対して秘密を抱えている参加者と告白した参加者で、快楽活動に対する快適さや罪悪感を比較しました。その結果、秘密にしていた参加者は告白した参加者に比べて、快楽活動に対する快適さが低いことが分かりました。これは、秘密を持つことで自己罰の欲求が高まり、楽しみを自分に許さなくなるためと考えられます。

2つ目の研究では、日常的な秘密を持つ参加者にその秘密を思い出させた後の罪悪感と自己罰行動を評価しました。秘密を隠している参加者は、告白した参加者よりも楽しい経験を自分に許さないことが確認されました。秘密を隠し続けることで罪悪感が解消されず、自己罰として快楽を避ける行動が強まるのです。

3つ目の研究では、秘密を思い出した参加者に「罰を受けるべきだと感じる度合い」を測定し、自己罰行動との関連を調べました。秘密を思い出した参加者は罰を受けるべきだと感じ、それが自己罰行動を促進していることが示されました。秘密に対する罰の欲求が、自己罰行動を動機づけているということです。

さらに、参加者にスピードと反応時間のゲームをプレイさせ、痛みを選ぶ傾向を測定した研究も行われています。秘密を持つ参加者は痛みを伴うゲームを選び、罰を受けるべきだという感覚がその選択を媒介していました。秘密に対する罪悪感から、自ら痛みを求める行動が引き起こされていました。

最後に、過去に秘密を持った経験のある参加者に、秘密の内容に基づいてストレスや罪悪感などを評価してもらいました。その結果、不正行為や嘘などの道徳的な秘密は、健康問題や社会的恥などの秘密に比べて強い罪悪感を引き起こし、自己罰行動につながりやすいことが分かりました。

これらの研究から、秘密を持つことで自己罰行動が増加するメカニズムが明らかになりました。秘密から生じる罪の意識や自罰への衝動が、楽しみを拒絶したり苦痛を選択したりする行動を引き起こしています。特に、道徳的に問題のある秘密ほど、この効果が強く表れるようです。

秘密を守ることで他者からの罰を避けようとしても、結果的に自分自身を罰する行動が増えてしまうという現象が起きています。秘密がもたらす心理的な負担の大きさが浮き彫りになったと言えるでしょう。

評判を気にする動機が後悔につながる

秘密を持つ理由は様々ですが、その中でも自己罰行動とは異なる影響を及ぼすのが、評判を守るための秘密です。特に自分の評判を気にして秘密を持つ場合、秘密について考えることで後悔が高まり、真実性(本当の自分を出せる感覚)が低下することが分かっています。政治的な秘密や人間関係の秘密を対象に、秘密保持の動機がその秘密による心理的影響をどのように形成するかが調査されています[2]

1つ目の研究では、アメリカ大統領選挙での投票に関する秘密を持つ参加者を対象に、秘密について考える頻度と実際に隠す頻度、評判を気にする動機、自己の真実性、後悔の感情などを測定しました。結果として、参加者は秘密について考える頻度が隠す頻度よりも高く、評判を気にする動機が高いほど秘密について考える頻度が増すことが分かりました。また、秘密について考えることが自分を出せない感覚を高め、後悔の感情を増加させていました。

2つ目と3つ目の研究では、一般的な秘密を持つ参加者を対象に、秘密の動機が個人の真実性の感覚にどう影響するかを調べました。そうしたところ、評判動機によるフレーミングが真実性の感覚を低下させ、動機づけに関わらず秘密の存在自体が関係の親密さを低下させることが示されました。

4つ目から6つ目の研究では、秘密への思考がもたらす影響を軽減する方法として、対処能力の向上に着目しました。介入により対処能力が上がると、秘密について思いを巡らせることが減り、真実性の感覚が増加することが分かりました。一方で、思いを巡らせることが後悔の増加を予測していました。

これらの研究から、自分の評判を守るために秘密を持つことで、かえって秘密について考える頻度が増え、自己の真実性や人間関係が損なわれる可能性が示唆されます。他者の目を過度に意識するほど、こうした負の効果が増幅されるのです。

道徳的な判断が秘密を暴露する

これまで自分の秘密が与える影響について見てきましたが、他人の秘密に対する私たちの反応も興味深い研究対象です。他人の秘密を暴露する動機は、秘密の内容に対する道徳的な判断や罰の欲求によって影響を受けることがわかっています。一連の研究を通じて、個人が自らの不道徳な秘密を守る一方で、他人の道徳的に問題のある秘密は暴露する傾向があることが明らかになっています[3]

1つ目の研究では、友人の道徳的違反の秘密(不正行為や嘘など)と中立的な秘密で、どちらを明かす可能性が高いかを調査しました。結果的に、道徳的違反を含む秘密の方が、明かされることが分かりました。不道徳な行為を知ると、それを暴露することで不正を正したいという欲求が生じるためです。

2つ目の研究では、現実の出来事を題材に秘密の暴露傾向を検証しました。まず、倫理的に問題のある行動に関する出来事を取り上げました。その行動を道徳的違反と捉える程度が高い参加者ほど、秘密を明かすことを罰として支持していました。同様に、ある行動を道徳的に間違っていると認識する参加者ほど、秘密の暴露を適切な罰だと考える傾向がありました。

3つ目の研究では、秘密の行動に対する道徳的違反の評価が道徳的憤りを高め、それが秘密の暴露を正当化するプロセスを調査しました。道徳的評価が秘密暴露の受容に与える影響は、秘密が道徳的な文脈で捉えられる場合に特に強くなることが示されました。

4つ目と5つ目の研究では、秘密行動の意図性の認知と、秘密に対する罰の必要性の認識が、秘密の暴露を促進することを確認しました。意図的な不道徳行為ほど秘密の暴露が支持され、秘密がまだ罰を受けていないと認識されるほど暴露の可能性が高まりました。

6つ目から8つ目の研究6では、秘密情報と非秘密情報での暴露の心理的プロセスの違いや、現実の秘密に対する暴露の欲求を調査しました。秘密情報の場合、道徳的な怒りが罰の動機を媒介して暴露の可能性を高めること、日常的に知り得た他者の秘密でも道徳的判断と憤りに基づいて暴露されることが分かりました。

他人の秘密を明かすかどうかの判断は、その内容の倫理的な評価や、非道徳的行為への制裁願望に左右されることが浮き彫りになりました。私たちは自分の秘密を守りながらも、道徳的に問題のある他者の秘密は進んで明かそうとするのです。

ポジティブな秘密はエネルギーを高める

秘密のネガティブな側面を多く見てきましたが、実は秘密にはポジティブな効果もあります。秘密というと、もしかするとネガティブなイメージがあるかもしれません。しかし、ポジティブな内容の秘密はむしろ個人のエネルギーや活力を高める効果があります。ポジティブな秘密がエネルギー感を増加させるメカニズムについて検証した論文を取り上げてみましょう[4]

1つ目の研究では、良いニュースを秘密にしている場合と公にしている場合で、エネルギー感にどのような違いがあるかを比較しました。秘密の良いニュースを持つ参加者の方が、非秘密の良いニュースを持つ参加者よりもエネルギー感が高いことが分かりました。秘密であることで、そのニュースを考えるたびに喜びや興奮が蘇り、エネルギーが増します。

2つ目の研究では、ポジティブな秘密を内的な動機で保持している場合と外的な圧力で保持している場合で、エネルギー感への影響を比較しました。内的な理由で秘密にしている良いニュース(自分の意思で昇進を秘密にしているなど)はエネルギーを増加させる一方、外的な理由での秘密(会社の規則で昇進を公表できないなど)はエネルギーを減少させることが示されました。

3つ目と4つ目の研究では、ポジティブな秘密が他の種類の秘密と比べてどう異なるかを調査しました。ポジティブな秘密を持つ参加者は、ネガティブな秘密や中立的な秘密を持つ参加者よりも内的な動機づけが高く、ポジティブな感情も強いことが分かりました。また、ポジティブな秘密の保持期間が長いほど、エネルギー感が高まっていました。

5つ目の研究では、ポジティブ、ネガティブ、中立的な秘密を直接比較し、エネルギー感情への影響を調べました。ポジティブな秘密を持つ参加者は、他の秘密を持つ参加者よりも高いエネルギー感情を報告しました。内的な動機づけがエネルギーを高める要因であることが再確認されました。

要するに、ポジティブな内容の秘密、特に自発的に保持されている秘密が、個人のエネルギーや活力を高める効果を持っています。秘密を考えるたびにポジティブな感情が喚起され、内的な動機づけが高まることで、エネルギー感が増加するのです。

秘密の種類で感情も変わる

秘密がもたらす感情的影響は、その秘密の内容や性質によって異なることが分かっています。36種類の一般的な秘密を対象に、秘密の次元(不道徳性、関係性、専門性/目標志向)がどのように秘密の経験に影響するかを調査した研究が存在します[5]

  • 不道徳性の次元:不正行為や嘘などの道徳的に問題のある秘密ほど、強い恥の感情を引き起こすことが示されました。これは、不道徳な行動が社会的に非難されやすく、自分の倫理観とも矛盾するためです。秘密を持つ個人は、自分の行動をどう評価するかという葛藤に直面し、強い罪悪感を覚えることがあります。
  • 関係性の次元:親しい人間関係における摩擦やトラブルなど、人間関係に関わる秘密が他者とのつながりに影響することが分かりました。これらの秘密は、対人関係における信頼や親密さを脅かすため、秘密を守ることで孤独感や不安感が高まることがあります。
  • 専門性/目標志向の次元:職場での不正行為や個人的な野心など、キャリアや目標に関する秘密は自己洞察力に関連していました。これらの秘密を持つことで、自分の行動や目標を見つめ直すきっかけになります。

これらを整理すると、不道徳性の高い秘密は罪悪感を、関係性に関わる秘密は孤独感を、専門性に関わる秘密は自己洞察をもたらす傾向があるということです。

さらに、秘密をどのように捉え、対処するかによって、その影響を軽減できる可能性も示されています。具体的には、秘密を自分の視点で再解釈したり、信頼できる相手と適切に共有したりすることで、秘密がもたらすストレスや負担が和らぐことが分かりました。

秘密の内容を理解し、それに合わせた対処方法を選ぶことが、秘密との付き合い方において重要です。秘密を一律に避けるべきものと考えるのではなく、その性質に応じて適切に管理することが求められます。

本コラムでは、秘密が個人の心理に与える影響について研究知見を紹介してきました。秘密を抱えることは、自己罰行動や後悔、孤独感など、様々なネガティブな感情を引き起こす可能性があります。特に、道徳的に問題のある秘密や、評判を守るための秘密は、個人の精神的健康を大きく脅かすリスクがあります。

一方で、ポジティブな内容の秘密は、個人のエネルギーや活力を高める効果を持つことも明らかになりました。秘密の持つプラスの側面を理解し、上手に活用することも大切でしょう。このように、秘密は私たちの職業生活において身近なものですが、その影響は複雑で多岐にわたります。本コラムが、秘密との距離を図るためのヒントになれば幸いです。

脚注

[1] Slepian, M. L., and Bastian, B. (2017). Truth or punishment: Secrecy and punishing the self. Personality and Social Psychology Bulletin, 43(11), 1595-1611.

[2] McDonald, R. I., Salerno, J. M., Greenaway, K. H., & Slepian, M. L. (2020). Motivated secrecy: Politics, relationships, and regrets. Motivation Science, 6(1), 61-78.

[3] Salerno, J. M., & Slepian, M. L. (2022). Morality, punishment, and revealing other people’s secrets. Journal of Personality and Social Psychology, 122(4), 606-633.

[4] Slepian, M. L., Greenaway, K. H., Camp, N. P., and Galinsky, A. D. (2023). The bright side of secrecy: The energizing effect of positive secrets. Journal of Personality and Social Psychology, 125(5), 1018-1035.

[5] Slepian, M. L., and Koch, A. (2021). Identifying the dimensions of secrets to reduce their harms. Journal of Personality and Social Psychology, 120(6), 1431-1456.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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