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コラム

秘密が心に与える影響:深まる絆と増す重圧

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人は誰しも秘密を持っています。同僚、先輩、部下、上司、友人などから打ち明けられた秘密を抱えていることもあるでしょう。秘密を共有することの影響は単純ではありません。秘密を打ち明けられることで親密さが深まる一方、その秘密を守ることで心理的な負担も生じます。

本コラムでは、他人から秘密を打ち明けられることが人間関係にどのような影響を与えるか、その仕組みについて見ていきます。

まず、秘密を抱えることが幸福感にどう影響するかを概観し、次に秘密を打ち明けられることの効果とそのプロセスについて、いくつかの研究を紹介します。これらの知見を通して、人間関係における秘密の役割と、それが私たちの心理に与える影響について理解を深めましょう。

心に浮かぶことが幸福感にマイナス

秘密が幸福感に与える影響を探った研究があります。秘密を持つことよりも、秘密について考えることが幸福感により大きな影響を与えることが明らかになりました[1]

研究では、200人以上の参加者を対象に、共通のアンケートを用いて秘密の内容とその頻度を調査しました。結果、ほとんどの参加者が少なくとも1つの秘密を持っていることが分かりました。

興味深いことに、秘密が社会的な相互作用の中で隠されるよりも、心の中で思い起こされる頻度の方が高いことが見えてきました。この「心のさまよい」(マインド・ワンダリング)の頻度が高いほど、幸福度が低下する傾向がありました。一方で、秘密を隠す頻度は幸福度に有意な影響を与えませんでした。

この結果は、秘密を持つこと自体よりも、秘密について頻繁に考えることが幸福感に影響を与えることを示しています。秘密が心に浮かぶと、ストレスや不安感が増し、心理的な負担が大きくなるのです。負担が蓄積することで、全体的な幸福感が低下してしまいます。

秘密が心に浮かぶ理由としては、いくつかの可能性が考えられます。例えば、秘密を持つこと自体が心理的負担となり、関連する思考が繰り返し浮かんでくることがあります。また、秘密を守ることで他者と自由にコミュニケーションできないという孤立感が生じ、これがストレスや不安感を増幅させるかもしれません。

秘密の内容によっては、倫理的な葛藤や罪悪感などの感情が伴うこともあります。これらの感情が秘密について考えるたびに再燃し、心理的な苦痛が増します。

秘密について考えることは様々な心理的影響をもたらし、私たちの幸福感を低下させます。秘密を抱えること自体よりも、その秘密が心に浮かぶ頻度が要因となります。

心を迷走させて幸福感を下げる

秘密について考えることは、なぜ私たちの幸福感を低下させるのでしょうか。秘密に関する思考と幸福感の関係を調査した研究をさらに見てみましょう[2]

研究では、日常生活における秘密に関する思考抑制と関与を測定するための自己報告尺度を開発し、その有効性を検証しました。参加者に秘密について質問し、その重要性や思考抑圧戦略について回答を求めました。これを6日間続け、日々の抑圧や関与、秘密の隠蔽、思考の混乱の頻度を記録しました。

分析の結果、秘密の重要性が高いほど、参加者は抑圧ではなく関与の戦略を優先することがわかりました。重要な秘密ほど、単に考えないようにするのではなく、積極的に考えようとする傾向が見られたのです。一方、重要性の低い秘密については、思考抑圧が優先されました。

思考への関与は心のさまよい(マインド・ワンダリング)の頻度を増加させましたが、抑圧はそのような効果を示しませんでした。そして、心のさまよいが増えるほど、幸福感が低下することが明らかになりました。一方で、秘密を積極的に隠す行為は幸福感に直接的な影響を与えませんでした。

秘密について積極的に考えることが心のさまよいを引き起こし、それが幸福感の低下につながるということです。重要な秘密ほど関与の戦略がとられやすく、これが心を迷走させてしまうのです。しかし、秘密を隠すこと自体は幸福感を直接低下させるわけではありません。

回想が孤立感や葛藤を通じて疲労感へ

秘密について考えることは、なぜ心理的な負担となるのでしょうか。秘密がどのように社会的孤立感や疲労感に影響するかが調査されています[3]。具体的には、13,000以上の秘密を分析し、秘密について考える頻度や隠す頻度、それらが幸福感にどう影響するかを調べました。

まず明らかになったのは、秘密について考える頻度が高いほど、社会的孤立感が増すということです。秘密を抱えることで他者と自由にコミュニケーションできなくなり、疎外感や孤独感が生じます。それらは秘密について考えるたびに強化されます。

さらに、秘密について考えること(心のさまよい)は、対処能力の低下とも関連していました。秘密に関する思考が頻繁に浮かぶと、注意力が散漫になり、ストレスや不安が増加します。問題解決能力が低下し、困難な状況への対処が難しくなるのです。

秘密について考えることは社会的孤立感を高め、対処能力を低下させることで、心理的な疲労感を引き起こすことがわかります。秘密を抱えることで他者とのつながりが阻害され、問題解決能力が損なわれます。負の影響が蓄積することで、全体的な幸福感が低下してしまいます。

打ち明けることが幸福感につながる

秘密について考えることが心理的な負担となる一方で、秘密を打ち明けることは幸福感の向上につながり得ます。秘密の開示が幸福感にどのような影響を与えるかを調査した研究を取り上げます[4]

研究では、秘密を打ち明けることが幸福感を向上させる可能性があるものの、そのためには適切な社会的サポートが必要であることが示されました。秘密を打ち明けた際に理解や共感を得られれば、心理的な負担が軽減され、幸福感が増すのです。一方で、否定的な反応を受けた場合は、逆に対処能力が低下し、幸福感が損なわれます。

秘密を打ち明けることは心のさまよい(マインド・ワンダリング)を減らし、対処能力を高めることで幸福感の向上に寄与することがわかりました。秘密について頻繁に考えることは心理的な負担となりますが、それを適切な相手に打ち明けることで思考が整理され、前向きに問題に取り組めるようになります。

ただし、秘密の開示がポジティブな効果をもたらすかどうかは、打ち明ける相手との関係性にも依存するでしょう。秘密を共有できる安心感や信頼感が築かれている関係であれば、サポートを得やすく、心理的な恩恵を受けられます。逆に、秘密を軽視したり、批判したりするような関係では、開示がかえってストレスを増幅させてしまいます。

打ち明けられると親密さも負担感も増す

ここまで、秘密を打ち明けることの心理的影響について見てきましたが、秘密を打ち明けられる側の経験はどうでしょうか。他者の秘密を知ることが人間関係にどのような影響を与えるかが検討されています[5]

他者から秘密を打ち明けられることで、その人との親密さが増すことがわかりました。秘密を共有するという経験が、絆を深めます。特に、秘密の内容が重要であるほど、打ち明けられた側の親密感が強まりました。

しかし同時に、秘密を打ち明けられることは心理的な負担も増大させました。打ち明けられた秘密を守るためには、それを他者に漏らさないよう気を付ける必要があります。秘密の保持が、ストレスや不安感を引き起こします。

秘密が自分の社会的ネットワークと重なるほど、秘密の隠蔽頻度が増え、負担感も高まることがわかりました。秘密が周囲の人間関係に関わるほど、その秘密を守ることが難しくなり、心理的な負荷が大きくなるのです。

秘密について考える頻度(心のさまよい)は、親密感の増加と負担感の増加の両方に関連していました。秘密について頻繁に考えることで、打ち明けた人との絆を意識する一方、その秘密を守るプレッシャーも感じるようになります。

秘密の捉え方によって、親密感や負担感の程度が変わることも明らかになりました。秘密を「打ち明けられたことで親密さが増した」と肯定的に捉えれば親密感が高まる一方、「周囲に漏れないよう守らなければ」と考えると負担感が増します。

秘密について考える理由が与える影響には興味深いものがあります。秘密を「過去のポジティブな出来事を再体験するため」と捉える場合、親密感と負担感の両方が増加しました。一方、「未解決の問題について考えるため」という捉え方では、このような効果は見られませんでした。

これらの結果から、他者の秘密を知ることは、親密さを深める一方で心理的な負担も増大させることがわかります。特に、秘密が自分の社会的ネットワークに関わるほど、秘密の保持が難しくなり、ストレスが高まります。

他者から秘密を打ち明けられることは、人間関係の深化と心理的な負荷という両面の影響をもたらします。秘密がもたらす親密さと負担のバランスを取ることが、健全な関係性の維持に重要です。

秘密とどう向き合えば良いか

職場に目を移しても、様々な秘密を抱えている社員がいるでしょう。例えば、精神的な健康や慢性的な病気、妊娠などの秘密、離婚や経済的困難、子供の非行などのプライベートな問題、同僚や上司とのトラブルといった職場の人間関係に関する問題、仕事の進捗への不安やミスの隠蔽、モチベーションの低下などの業務に関する問題、転職活動や昇進への不満、将来のキャリアプランへの不安などのキャリアや将来に関する秘密が挙げられます。

本コラムでは、こうした秘密が私たちの心理に与える影響について、いくつかの研究を紹介しました。秘密を抱えることは、それについて考えることを通じて、幸福感を低下させる可能性があります。特に、秘密が重要であるほど、積極的に考えようとする傾向があり、これが心のさまよいを増幅させます。

秘密について考えることは、社会的孤立感や心理的葛藤を引き起こし、疲労感を高めることもわかりました。秘密を抱えることで他者とのつながりが阻害され、対処能力が損なわれるためです。

一方で、秘密を打ち明けることは幸福感の向上につながる可能性があります。ただし、そのためには適切な社会的サポートが必要です。秘密の開示がポジティブな効果をもたらすかどうかは、打ち明ける相手との関係性に依存するのです。

さらに、他者から秘密を打ち明けられることは、親密さを深める一方で心理的な負担も増大させることがわかりました。特に、秘密が自分の社会的ネットワークに関わるほど、秘密の保持が難しくなり、ストレスが高まります。

以上の知見から、秘密が私たちの心理に複雑な影響を与えることが明らかになりました。秘密を抱えることは幸福感を低下させる危険性がある一方、適切に打ち明けることでポジティブな効果をもたらす可能性もあります。

秘密がもたらす影響を理解し、適切に対処することが、健全な人間関係の維持において重要になります。秘密について頻繁に考え込まないこと、必要に応じて信頼できる相手に打ち明けること、そして他者から打ち明けられた秘密については親密さと負担のバランスを取ること。これらを心がけることで、秘密がもたらす弊害を最小化していきたいものです。

秘密は人間関係において不可避の要素ですが、それが私たちの心理に与える影響は多岐にわたります。本コラムで紹介した研究知見を踏まえ、秘密と上手に付き合っていくことが、豊かな人間関係の構築につながるのではないでしょうか。

脚注

[1] Slepian, M. L., Chun, J. S., and Mason, M. F. (2017). The experience of secrecy. Journal of Personality and Social Psychology, 113(1), 1-33.

[2] Slepian, M. L., Greenaway, K. H., and Masicampo, E. J. (2020). Thinking through secrets: Rethinking the role of thought suppression in secrecy. Personality and Social Psychology Bulletin, 46(10), 1411-1427.

[3] Slepian, M. L., Halevy, N., and Galinsky, A. D. (2019). The solitude of secrecy: Thinking about secrets evokes goal conflict and feelings of fatigue. Personality and Social Psychology Bulletin, 45(7), 1129-1151.

[4] Slepian, M. L., and Moulton-Tetlock, E. (2019). Confiding secrets and well-being. Social Psychological and Personality Science, 10(4), 472-484.

[5] Slepian, M. L., and Greenaway, K. H. (2018). The benefits and burdens of keeping others’ secrets. Journal of Experimental Social Psychology, 78, 220-232.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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