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コラム

利益と倫理:非倫理的向組織行動の影響と要因

コラム

企業の不祥事が断続的に報道されています。組織における非倫理的な行動が問題となっています。

そのような中で注目されているのが、従業員が組織の利益のために非倫理的な行動を取る「非倫理的向組織行動」(Unethical pro-organizational behavior)です。これは、例えば顧客をだますことや違法行為を隠すことなど、組織の利益を優先して倫理的基準を逸脱する行動を指します。

短期的には組織に利益をもたらすように見える非倫理的向組織行動ですが、言うまでもなく、実際には組織と従業員の両方に悪影響を及ぼします。

組織の評判を傷つけ、ステークホルダーからの信頼を失うだけでなく、従業員の心理的ストレスや家庭生活の悪化など、様々な問題が生じます。非倫理的向組織行動の問題が認識されるようになり、近年この分野の研究が急速に進んでいます。

非倫理的向組織行動の仕組みを解明し、その予防策や抑制策を探ることは、健全で持続可能な組織運営を実現するために欠かせません。倫理的行動と組織への貢献を両立させることは課題です。

本コラムでは、非倫理的向組織行動研究の動向を整理し、その理解を深めるとともに、組織マネジメントへの示唆を提供します。

非倫理的向組織行動研究の現状と動向

非倫理的向組織行動研究は21世紀に入って急速に発展した比較的新しい分野です。非倫理的向組織行動に関する論文数や研究テーマを分析し、いくつかの知見を示している論文があります[1]

まず注目すべきは、2019年以降、非倫理的向組織行動に関する論文数が急増していることです。これは、例えば、企業不祥事の発生を背景に、この問題に対する関心が高まっていることを示しています。研究の勢いは増しており、今後もさらに発展が期待される分野です。

研究者の国籍を見ると、中国と米国からの論文が特に多くなっています。今後、日本を含めた、それ以外の国での研究がさらに進んでいくことになるでしょう。

この論文では、非倫理的向組織行動研究の主要テーマを特定しています。その結果、倫理的意思決定、測定、非倫理的向組織行動の影響、倫理的リーダーシップ、先行要因などが浮上してきました。これらは、非倫理的向組織行動の仕組みや影響を解明する上で欠かせないテーマです。

非倫理的向組織行動を生み出す要因

非倫理的向組織行動を予防・抑制するためには、その要因を特定することが求められます。先行研究をレビューし、非倫理的向組織行動の主要な要因を整理した研究を紹介しましょう[2]

まず、組織要因です。非倫理的行動を容認する組織風土のもとでは、非倫理的向組織行動が生じやすくなります。組織の価値観や規範が従業員の行動を左右するということです。

倫理的リーダーシップの欠如も助長要因の一つです。倫理的なリーダーは自らの行動で基準を示し、従業員の非倫理的向組織行動を抑制しますが、非倫理的なリーダーは逆に促進します。リーダーの倫理観が組織全体の雰囲気に影響します。

次に、個人要因です。道徳的判断力や自己統制力が低い従業員は、非倫理的向組織行動を行いやすいと言えます。自らの行動の倫理性を見極める能力や誘惑に抗する力が弱いと、非倫理的な行動に走りやすくなります。

組織と自分を強く同一視する傾向(組織アイデンティフィケーション)や、恩返しの信念(互恵性の信念)が強い従業員も、非倫理的向組織行動を行いやすいことが指摘されています。

実証研究の例として、米国の裁判所職員と一般企業の従業員を対象に調査を行ったものが挙げられます[3]1つ目の調査では、裁判所職員にアンケートを行い、組織アイデンティフィケーション、互恵性の信念、非倫理的向組織行動の意欲を測定しました。2つ目の調査では、一般企業の従業員に架空の会社のシナリオを使って、組織アイデンティフィケーションと互恵性の信念を操作的に高めた上で、非倫理的向組織行動の意欲を測定しました。

これらの調査の結果、組織アイデンティフィケーションが高く、互恵性の信念が強い従業員ほど非倫理的向組織行動を行う意欲が高いことが明らかになりました。組織への強い同一化と恩返しの意識が倫理的判断を鈍らせ、非倫理的な行動を正当化してしまうのです。

この研究は、従業員のポジティブな態度や信念がむしろ非倫理的向組織行動を促すことを可視化しました。従業員の組織コミットメントを高めることは一般的に奨励されますが、それが行き過ぎると非倫理的な行動を助長する可能性があります。組織と個人の倫理を両立させるためには慎重なバランスが求められます。

非倫理的向組織行動がもたらす影響

次に、非倫理的向組織行動がもたらす影響について見ていきます。非倫理的向組織行動が仕事と家庭の両面に及ぼす影響を仕事家庭資源モデルの観点から検討した研究があります[4]。中国の営業職従業員を対象にアンケートを行い、非倫理的向組織行動と仕事・家庭の両立の関連を分析しました。

その結果、非倫理的向組織行動は従業員の組織内自尊心を高める一方で、仕事ストレスも増大させることが示されました。非倫理的向組織行動によって組織に貢献できたという自負は一時的に自尊心を高めますが、同時に行動の倫理性への懸念や発覚への不安がストレスを増大させます。

さらに、仕事ストレスの増大は家庭生活にネガティブな影響を及ぼすことが明らかになりました。非倫理的向組織行動によるストレスは家庭にも持ち込まれ、家族との関係悪化や家事の負担感の増加につながります。仕事上のストレスが家庭生活を蝕む「仕事家庭葛藤」が生じやすくなります。

組織の業績重視風土が非倫理的向組織行動の影響を調整することも見出されています。業績重視風土が強いほど、非倫理的向組織行動のプラスの影響(組織内自尊心の向上)が助長され、マイナスの影響(家庭へのネガティブな影響)が緩和されるというのです。

非倫理的向組織行動は個人の資源を生成する面と枯渇させる面の両方を持ち、その影響は家庭生活にも波及します。組織風土の調整効果の発見は、非倫理的向組織行動のマネジメントに示唆を与えています。

非倫理的向組織行動は一時的な成果につながるかもしれませんが、従業員の心身の健康や家庭生活を犠牲にしてまで追求すべきものではないでしょう。健全な組織運営のためには、業績と倫理のバランスを保つことが重要です。

ポジティブな要因と非倫理的向組織行動のジレンマ

ここまでの議論からわかるように、非倫理的向組織行動の要因や影響には考えさせられるものがあります。特に興味深いのは、ポジティブな組織要因と非倫理的向組織行動の関係です。

先ほど紹介した研究では、組織アイデンティフィケーションや互恵性の信念というポジティブな要因が非倫理的向組織行動を促進することが示されていました。従業員の組織への帰属意識や貢献意欲は通常奨励されるものですが、それが行き過ぎると倫理的判断を鈍らせ、非倫理的な行動を正当化する可能性があります。

加えて、リーダーの許しというポジティブな要因が、感謝を媒介として非倫理的向組織行動を促進することが分かっています[5]。中国の従業員を対象に調査を行い、上司の許しが部下の感謝と非倫理的向組織行動に及ぼす影響が検証されました。

その結果、上司の許しが部下の感謝を高め、その感謝が非倫理的向組織行動を促進することが示されました。上司が部下の過ちを許し理解を示すことは、望ましいリーダーシップとされていますが、その許しが部下の感謝を通じて非倫理的な行動を促すのです。上司の恩に報いるために部下が倫理的に問題のある行動を取ってしまうというジレンマが横たわっています。

このように、一般的にはポジティブと捉えられる組織要因が非倫理的向組織行動を促進することがあります。これは組織マネジメントにとって難しい問題になり得ます。従業員の組織コミットメントや上司への信頼を高めることは組織の活力を生み出す一方で、倫理的なリスクを伴うのです。

このジレンマに対処するために、ステークホルダー志向のリーダーシップが非倫理的向組織行動を抑制する可能性を示唆した研究が参考になります[6]。中国の営業職従業員を対象に、責任あるリーダーシップが非倫理的向組織行動を抑制するメカニズムを検討した研究です。

責任あるリーダーシップとは、組織内外のステークホルダーとの相互作用の中で生じる社会的・倫理的な現象に対して関心を寄せ、持続可能な価値創造と前向きな変化を促すリーダーシップのことです。ステークホルダーの利益を重視し、倫理的な行動を率先して示すリーダーシップです。

調査の結果、責任あるリーダーシップは従業員の顧客志向の視点を促し、非倫理的向組織行動を抑制することが見えてきました。顧客の立場になって考えることを奨励するリーダーの下では、従業員は顧客の利益を損ねるような非倫理的な行動を控えるようになります。

興味深いのは、リーダーの能力がこの効果を調整することです。リーダーの能力が高いほど、責任あるリーダーシップが非倫理的向組織行動を抑制する効果は強まります。リーダーが有能だと認知されることで、その倫理的な姿勢が従業員により強く影響を与えます。

ステークホルダー志向の高いリーダーシップを発揮し、リーダーの能力を高めることが、ポジティブな組織要因と非倫理的向組織行動のジレンマに対処する鍵の一つになり得ます。従業員の組織コミットメントを高めつつ、倫理的行動を促すには適切なリーダーシップが重要です。

従業員の組織への帰属意識を高めることは大切ですが、それだけでは不十分です。同時に、ステークホルダーの利益を重視し、倫理的行動を示すリーダーシップが求められます。そのようなリーダーシップを発揮できるリーダーを育成・登用することが、非倫理的向組織行動の防止につながります。

適切なリーダーシップが重要に

本コラムでは非倫理的向組織行動研究の動向をもとに、非倫理的向組織行動の先行要因、影響、ポジティブな組織要因とのジレンマについて解説しました。

非倫理的向組織行動は一見するだけでは組織に利益をもたらすように見えなくもないのですが、長期的には組織と従業員に深刻な悪影響を及ぼします。従業員の組織コミットメントを高めつつも、非倫理的行動を抑制することは組織にとって大きな課題です。

この課題に対処するためには、非倫理的向組織行動の仕組みを理解することが重要です。どのような組織要因や個人要因が非倫理的向組織行動を生み出すのか。ポジティブな組織要因が非倫理的向組織行動を促進するのはなぜか。これらの問いを検討することが効果的な防止策の第一歩です。

今回紹介した中では、リーダーシップのあり方が非倫理的向組織行動防止の鍵を握ります。ステークホルダー志向の高い責任あるリーダーシップを発揮し、倫理的行動のお手本を示すこと。さらに、そのようなリーダーシップを発揮できるリーダーを戦略的に育成・登用することが必要でしょう。

脚注

[1] Li, Z. (2022). Characteristics and trends in unethical pro-organizational behavior research in business and management: a Bibliometric analysis. Frontiers in Psychology, 13, 877419.

[2] Tsiavia, N. (2016). Unethical pro-organizational behavior (UBP): Concept and studies evolution. Science Journal of Business and Management, 4(2), 34-41.

[3] Umphress, E. E., Bingham, J. B., and Mitchell, M. S. (2010). Unethical behavior in the name of the company: The moderating effect of organizational identification and positive reciprocity beliefs on unethical pro-organizational behavior. Journal of Applied Psychology, 95(4), 769-780.

[4] Chen, H., Kwan, H. K., and Xin, J. (2022). Is behaving unethically for organizations a mixed blessing? A dual-pathway model for the work-to-family spillover effects of unethical pro-organizational behavior. Asia Pacific Journal of Management, 39(4), 1535-1560.

[5] Lu, L., Huang, Y., and Luo, J. (2021). Leader forgiveness and employee’s unethical pro-organizational behavior: The roles of gratitude and moral identity. Frontiers in Psychology, 12, 698802.

[6] Cheng, K., Guo, L., Lin, Y., Hu, P., Hou, C., and He, J. (2022). Standing in customers’ shoes: How responsible leadership inhibits unethical pro-organizational behavior. Frontiers in Psychology, 13, 1019734.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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