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コラム

採用力を高める4つの鍵:研究が示す組織魅力の源泉

コラム

企業が採用活動で候補者に自社を魅力的に感じてもらうことが重要な課題となっています。優れた人材を引き付け、長く働いてもらうには、候補者がその組織を魅力的だと思うことが必要だからです。

では、候補者が組織を魅力的だと感じる要因は何でしょうか。経営学や心理学の研究者たちは、この疑問に答えるために様々な角度から実証研究を行ってきました。

本コラムでは、これらの研究結果の中から4つのテーマに注目します。第一に、候補者と組織の相性が組織の魅力にどう影響するか。第二に、組織の属性や文化が候補者にどのような印象を与えるか。第三に、候補者の興味や特性によって組織の魅力度がどう変わるか。第四に、評判の高い組織が持つ逆効果と、採用サイトの使いやすさの重要性についてです。

これらの研究結果を解説し、候補者に自社を魅力的に感じてもらうためのヒントを提供できればと思います。個人と組織の適合性、組織の属性、候補者の特性、採用ツールのデザインといった多方面から、組織魅力について探っていきます。

個人と組織の適合性が組織の魅力を決定する

私たちは、自分に似た他者を好む傾向があります。心理学ではこれを「類似性魅力効果」と呼びます。この効果は対人関係だけでなく、人と組織の関係にも当てはまるようです。ベルギー軍への候補者245名を対象に仮説を検証した研究があります[1]

候補者の性格を5因子モデル(ビッグファイブ)で測定し、組織の特徴を「誠実さ」「興奮」「有能さ」「威信」「無骨さ」の5つの次元で評価しました。例えば、「誠実さ」は正直さ、「興奮」は大胆さや刺激的といった言葉で表現されました。

分析の結果、いくつかの興味深い交互作用が見つかりました。例えば、几帳面で誠実な性格の候補者は、組織の「誠実さ」を高く認知するほど、その組織を魅力的だと感じていました。また、新しい経験を好む性格の候補者は、組織を「興奮」的と感じるほど魅力度が高まりました。

「自分に似た組織」はより魅力的に感じられるのです。ただし、予想したほど多くの交互作用は見られませんでした。研究者たちは、その理由として個人の性格と組織の特徴が必ずしも一致しないことを挙げています。それでも、この研究は個人と組織の適合性が組織の魅力に影響することを示した点で重要です。

一方、個人と組織の適合性には客観的なものと主観的なものがあります。16の女性向け衣料品小売企業を「スポーティ」「セクシー」「保守的」「オルタナティヴ」などのイメージで分類し、それぞれの企業の従業員像を表す形容詞リストを作成した研究を取り上げましょう[2]。これを「プロトタイプ類似性」と呼びます。

女子大学生を対象に、自身とこれらのプロトタイプとの類似性を評価してもらい、各企業の魅力も答えてもらいました。結果、プロトタイプ類似性は組織の魅力と関連がありましたが、「会社の社員は私によく似ている」といった主観的な類似性の方が一貫して組織の魅力を予測していました。

「自分はその組織に合っている」という認識よりも、「自分はその組織の人々と似ている気がする」という主観的な感覚の方が、組織の魅力により直結しているのかもしれません。個人と組織の適合性を考える上で、客観的指標と主観的指標のどちらが重要かは興味深い問いです。

これらの知見は、個人と組織のフィットが組織の魅力を決定する要因の一つであることを示しています。では、フィットする人材を引きつけるには、どのような組織の属性や文化が必要なのでしょうか。次章ではこの点を深掘りします。

組織の属性と文化が組織の魅力に与える影響

高い給与、充実した福利厚生、魅力的なキャリアパス。優秀な人材を引き付けるには、こうした待遇面の魅力は重要です。しかし、それだけで十分でしょうか。ポルトガルのマーケティング専門家・学生230名を対象に、組織の属性が候補者の組織魅力に与える影響を探る研究が行われています[3]

研究では、架空のマーケティング企業の求人票を用意し、その中に報酬、職場環境、仕事の特徴などの情報を盛り込みました。参加者は求人票を読んだ後、各属性の魅力と自身とその組織との適合度(P-O fit)を評価しました。

分析の結果、組織属性の魅力はP-O fitを介して組織の魅力を高めることが分かりました。つまり、求人票に魅力的な条件が並んでいると、候補者はその組織に対して「自分に合っている」と感じ、そしてそのフィット感が組織を魅力的だと感じさせます。加えて、組織属性の魅力は応募意欲にも直接影響を与えていました。

この結果は、求職者を惹きつけるための求人票の重要性を示しています。企業は求人票の中で、仕事のやりがいや魅力をアピールすることで、自社に合った人材の興味を引き出すことができるかもしれません。しかし、そこに書かれた内容を実際の組織文化の中で体現することも重要です。

組織文化といえば、最近ではワークライフバランスや多様性の尊重などの「ソフト」な要素が重視されています。ソフトな文化の一種である「支持的」な組織文化の魅力について、興味深い実験がなされています[4]

研究者たちは、ある銀行の採用パンフレットを2種類用意しました。1つは「競争的」な組織文化、もう1つは「支持的」な組織文化を強調したものです。前者は業績主義や高い給与、昇進機会の多さを、後者はワークライフバランスや協力的な職場環境、社員の成長支援を前面に押し出しています。

大学生にこれらのパンフレットを読んでもらい、その後、各組織の魅力や入社意欲を評価してもらいました。その際、支持的文化の企業は競争的文化の企業よりも給与水準が低いと設定されました。これは現実の傾向を反映したものです。

結果は驚くべきものでした。男性は女性よりも競争的文化を好み、女性は男性よりも支持的文化を好む傾向が見られましたが、男女を問わず大多数の参加者が給与の低さを承知の上で支持的文化の企業を選びました。

支持的文化の魅力としては、仕事と家庭の両立のしやすさ、友好的な職場環境、社員の成長支援などが挙げられました。一方、競争的文化の魅力は、高給与と昇進チャンスに集約されていました。

この結果は、「ソフト」な組織文化を求める声が女性だけでなく男性にも当てはまることを表しています。企業が人材を惹きつけるには、多様な働き方を支援する文化を醸成することが大事でしょう。

以上のように、組織の報酬的属性と支持的文化はともに候補者の組織魅力に影響を与えます。しかし、その効果は候補者の関心や属性によって異なるかもしれません。

候補者の関心や属性による組織選好の違い

求職者が組織を選ぶ際、何を重視するのでしょうか。その優先順位は求職者の関心や属性によって異なるのでしょうか。これらの問いをめぐって、米国のMBA学生を対象に調査が行われています[5]

組織選択に影響する17の要因を、(1)職務特性(給与、福利厚生など)、(2)組織特性(規模、業績など)、(3)ダイバーシティ(マイノリティや女性の割合など)、(4)採用担当者の特性(人種、知識など)の4つのカテゴリーに分類しました。そして、MBA学生にこれらの要因の重要性を5段階で評価してもらいました。

結果、職務特性が男女ともに最も重視され、次いで組織特性、ダイバーシティの順となりました。採用担当者の特性は最も重要度が低いと評価されました。

回答者の属性による違いも明らかになりました。女性やマイノリティの学生は、白人男性学生と比べてダイバーシティ要因をより重視する傾向がありました。女性は男性よりも職務特性を重視し、マイノリティ学生は白人学生よりも採用担当者要因を重視していました。

この結果は、求職者にとって職務内容や組織風土が何より重要であり、採用担当者の印象はそれほど重要ではないことを示しています。ただし、女性やマイノリティにとっては職場の多様性も関心事であり、採用担当者の多様性も組織風土の一つのシグナルとして捉えられているようです。

企業にとっての示唆は何でしょうか。優秀なマイノリティ人材を引き付けるには、ダイバーシティ施策を推進し、それを採用広報で打ち出すことが効果的です。また、採用担当者の多様化も、組織の多様性をアピールする一つの手段になります。

ここで疑問が生じます。企業の評判が高ければ高いほど、優秀な人材を惹きつけやすいのでしょうか。直感的にはそう思われがちですが、必ずしもそうとは限らないようです。次章では、企業の評判が候補者の組織魅力に与える複雑な影響について見ていきます。

高評判の逆効果と採用サイトの使いやすさ

一般に、高い評判を持つ企業は強い採用力を持つと考えられています。しかし、この通説に一石を投じる興味深い知見が提示されています[6]

研究者たちは、米国の大学でキャンパス採用に参加した361人の学生を対象に、事前の企業評判、職務・組織属性の魅力、採用担当者の好ましさ、面接後の企業魅力の関連を調べました。

その結果、職務・組織属性の魅力は企業魅力と正の関連を示し、採用担当者の好ましさは職務・組織属性の魅力を介して間接的に企業魅力を高めていました。ここまでは予想通りと言えるでしょう。

しかし、事前の企業評判は、職務・組織属性や採用担当者の印象とは正の関連を示したものの、企業魅力とは負の関連を示したのです。企業の評判が高いほど、学生はその企業の職務内容や採用担当者をポジティブに評価する傾向がありましたが、高評判企業に対してはかえって魅力を感じにくくなっていました。

この一見矛盾した結果について、研究者たちは次のような解釈を提示しています。おそらく学生たちは高評判企業に高い期待を抱いていたのでしょう。しかし、実際の採用プロセスでは、その期待が十分に満たされず、かえって企業魅力が低下してしまったのかもしれません。あるいは、「高評判企業からは内定をもらえないだろう」と予想した学生がその企業の魅力を低く評価した可能性もあります。

この知見は、企業にとって示唆を与えます。高い評判は採用活動の追い風になるとは限りません。重要なのは、学生の期待に応える実質的な採用活動を展開し、候補者との良質なコミュニケーションを図ることです。

近年、企業の採用活動の主戦場はウェブに移りつつあります。採用サイトを通じて、いかに効果的に求職者とコミュニケーションを取るかが成功の鍵を握ります。

企業の採用サイトのデザインが求職者の組織魅力に与える影響を探った研究を紹介します[7]。具体的には、サイトの情報内容(職務内容、組織文化、教育研修制度など)と使いやすさ(ナビゲーションのしやすさ、視覚的な美しさなど)に注目しました。

1つ目の研究では、参加者に2つの企業の採用サイトを閲覧してもらい、各サイトの情報内容と使いやすさ、そして企業の魅力を評価してもらいました。その結果、企業文化に関する情報の魅力とサイトのナビゲーションのしやすさが企業魅力を有意に予測しました。

2つ目の研究では、同じ業界の2社の採用サイトを比較してもらう実験を行いました。すると今度は、職務内容と教育研修制度に関する情報の魅力が企業魅力を有意に予測しました。ナビゲーションのしやすさも再び魅力に影響を与えていました。

これらの結果は、採用サイトのデザインが求職者の企業魅力に影響を与えることを示しています。企業は採用サイトで、自社の魅力的な職務内容や組織文化、人材育成制度を分かりやすく伝え、使いやすいインターフェイスを実現することが求められます。特に、ナビゲーションの分かりやすさはサイト内の情報の魅力を高めます。

脚注

[1] Schreurs, B., Druart, C., Proost, K., and De Witte, K. (2009). Symbolic attributes and organizational attractiveness: The moderating effects of applicant personality. International Journal of Selection and Assessment, 17(1), 35-46.

[2] Devendorf, S. A., and Highhouse, S. (2008). Applicant-employee similarity and attraction to an employer. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 81(4), 607-617.

[3] Gomes, D. R., and Neves, J. G. D. (2019). Combining behaviourist and interactionist approaches to explain applicants’ attraction to organisations. International Journal of Human Resources Development and Management, 19(3), 209-224.

[4] Catanzaro, D., Moore, H., and Marshall, T. R. (2010). The impact of organizational culture on attraction and recruitment of job applicants. Journal of business and psychology, 25, 649-662.

[5] Thomas, K. M., and Wise, P. G. (1999). Organizational attractiveness and individual differences: Are diverse applicants attracted by different factors?. Journal of Business and Psychology, 13, 375-390.

[6] Turban, D. B., Forret, M. L., and Hendrickson, C. L. (1998). Applicant attraction to firms: Influences of organization reputation, job and organizational attributes, and recruiter behaviors. Journal of vocational behavior, 52(1), 24-44.

[7] Cober, R. T., Brown, D. J., Levy, P. E., Cober, A. B., and Keeping, L. M. (2003). Organizational web sites: Web site content and style as determinants of organizational attraction. International Journal of Selection and Assessment, 11(2‐3), 158-169.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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