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コラム

機械に人間らしさを見出すとき:擬人化が生み出す可能性と課題

コラム

コンピューターやロボットが私たちの仕事に関わっています。これらの機械がどのように人々に影響を与え、どのように受け入れられているかを理解することは、今後の働き方を考える上で重要です。

特に、私たちがコンピューターやロボットを単なる道具としてではなく、時には人間のように感じることがあります。この現象を「擬人化」と言います。擬人化とは、人間ではないものに人間の特徴や感情を見出すことです。

このコラムでは、擬人化に関する研究知見を紹介し、人々がコンピューターやロボットをどのように感じ、反応するのかを探ります。これらの研究を通じて、人と機械の相互作用についての理解を深め、将来の働き方を考えるヒントを提供できればと思います。

コンピューターを人間のように感じる

コンピューターと対話する時に無意識に人間と同じように接することがわかっています。「コンピューターは社会的存在である」という前提に基づき、一連の実験が行われています[1]

まず、参加者は「コンピューターと技術」というテーマと「愛と関係」というテーマについて、男性あるいは女性の声のコンピューターからレクチャーを受けました。

参加者は男性の声のコンピューターを技術的なテーマで、女性の声のコンピューターを関係性に関するテーマでより有益だと評価しました。これは、性別ステレオタイプが無意識にコンピューターにも適用されていることを示しています。

次に、韓国人と白人の顔を持つコンピューターエージェントを使った実験では、参加者は自分と同じ民族のエージェントをより魅力的で信頼できると感じました。そのエージェントの決定を自分の決定に近いと感じました。人々がコンピューターに対しても人間と同じように社会的カテゴリーを適用していることを表しています。

この研究は、コンピューターが単なる道具ではなく、社会的存在として認識されることを示し、人間とコンピューターの相互作用に関する研究に影響を与えました。

予測不可能な動きが擬人化を促進

人は、予測できない動きをする機械を人間のように感じやすいようです。予測できないものを理解しようとする動機によります。ある研究において、コンピューターやガジェットの動きが予測不可能であるほど、それらを人間のように感じる傾向が強いことが発見されています[2]

具体的には、参加者は自分のコンピューターの故障頻度と、そのコンピューターが自分勝手に動くと感じる程度を評価しました。故障が多く予測できないコンピューターほど、人はそれを擬人化する傾向が強いことがわかりました。また、ロボットの動きが予測不可能な場合、参加者はそのロボットを人間のように感じました。

脳の活動を調べた研究では、予測不可能なガジェットを評価する際に、脳の特定の領域が活性化することが示されました。その領域は、他者の精神状態を推測する際に活性化する部分であり、予測不可能な対象に対する擬人化が確認されたのです。

ロボットとの対話実験では、ロボットの応答が予測できないほど、参加者はそのロボットを人間のように感じやすくなりました。そして、ロボットの行動を予測するインセンティブを与えられた参加者ほど、ロボットを擬人化する傾向が強まりました。

これらの結果から、予測不可能な対象に直面した際に、それを理解し予測・制御しようとする動機が擬人化を促進することが見えてきました。擬人化は予測不可能なものに対処するための心理的な手段であり、その背後には理解しようとする動機があるのです。

人間的な特徴を知っているから擬人化する

人間が非人間的な存在に人間的な特徴や感情を見出す理由には、いくつかの心理的な要因が関係しています[3]

人間についての知識は豊富でアクセスしやすいため、これを他のものにも適用しがちだという点です。例えば、ペットの犬が喜んでいるときに、人はその犬が自分を好きだと解釈することがありますが、これは人間についての知識を犬に適用した例です。

人は他者とのつながりを求める生き物です。孤独を感じると、社会的つながりを求めて非人間的なものにも人間性を見出そうとします。例えば、孤独な人はペットを擬人化する傾向が強くなります。擬人化は孤独感を和らげる一つの方法となっているのです。

人間の知識は非人間のエージェントよりも容易にアクセスできるため、推論の基盤となりやすいことがあります。一方で、認知欲求の高い人はデフォルトの擬人化情報に頼らず、より精緻に処理します。

発達による影響も大きく、子供は様々なものに生命と心を帰属させる傾向がありますが、成長とともに、極端な擬人化は減少します。文化の影響では、自然と密着した文化では動物を擬人化しにくく、工業文化では機械を擬人化しにくいといった傾向も見られます。

人間的な手がかりがあると無意識に擬人化する

ウェブサイト上の人間的なエージェントの存在と相互作用性のレベルが、ユーザーのコンピューターに対する擬人化の認識と情報の信頼性判断にどのように影響するかを調査しました[4]

架空の日焼け止め会社のウェブサイトを用いて、エージェントの有無と相互作用性の高低の条件を操作しました。実験を通じて、人間的な手がかりがある場合には無意識に擬人化する傾向があることが示されました。

例えば、ウェブサイトにアバターを配置し、高い相互作用性(例えば、マウスオーバーで情報表示)を持たせることで、ユーザーはそのウェブサイトを無意識に人間的だと感じました。高い相互作用性は無意識的な擬人化を増加させましたが、情報の信頼性判断にはエージェントの存在よりも相互作用性の方が影響を与えました。

この研究は、人々が意識的にはコンピューターを人間化することを拒否しても、人間的な手がかりがある場合には無意識に人間的な属性を付与することを提示しています。

孤独感が非人間の擬人化を促す

先ほど少しだけ述べましたが、孤独を感じると、人は非人間的な存在を擬人化しやすくなります。研究では、孤独感が高い人ほど、ガジェットやペットなどに対して人間的な特性を見出しやすいことが明らかになっています[5]。孤独感が社会的つながりを求める心理を強化し、その結果、非人間的な存在にまで人間性を見出そうとするためです。

実験では、参加者にテクノロジーガジェットの説明を読み、それぞれのガジェットについて擬人化された精神状態(独自の心、意図、自由意志など)と非擬人化の特性(魅力的、効率的など)を評価させました。そうしたところ、孤独感が高い人ほど、ガジェットを擬人化する傾向が強いことが分かりました。

孤独感を実験的に誘発する状況を作り出した実験では、参加者が社会的に孤立した状況に置かれると、ペットに対する評価や曖昧な図形の中に顔を見出す傾向も強まりました。孤立した状況において、参加者はペットに対してより多くの社会的特性を帰属させ、曖昧な図形により多くの顔を見出しました。

これらの結果から、孤独感が非人間的なエージェントに人間的な特性を帰属させる傾向を増加させることが示唆されます。孤独な人は、社会的なつながりや支援を求めて、ペットなどの非人間的なエージェントを擬人化するのです。

擬人化は問題の責任も軽減させる

人間らしい特徴を持つ機械は、より信頼されやすいことが示されています。例えば、自動運転車に名前や性別、声を与えることで、人々はその車をより信頼し、事故の責任も軽減されるという研究があります[6]

国立先進運転シミュレーターを用いて、100名の参加者(女性52名、平均年齢26.39歳)を対象に実験が行われました。参加者は、通常の車、自律機能のみを持つ車(エージェント条件)、自律機能に加えて名前、性別、声などの人間らしい特徴を持つ車(人間条件)の3つの条件にランダムに割り当てられ、約6分間のコースを2回運転しました。

運転中および運転後、参加者は車の知能、周囲の出来事を感じる能力、将来の出来事を予測する能力など、車の人間らしさや信頼性、好みなどに関するアンケートに回答しました。2回目のコース中に事故が発生し、その事故に対する車や関係者の責任についても評価が行われました。

人間条件の参加者は、エージェント条件の参加者よりも車を人間らしいと評価し、より高い信頼を示しました。事故に対する車の責任も、人間条件の方がエージェント条件よりも低く評価されました。

この研究の面白さは、技術に人間らしい特徴を付与することで、ユーザーの認識や行動が変化することを示しており、人間と非人間の区別の柔軟性を理解する上で重要な知見を提供している点です。

医療場面で擬人化は恥ずかしさを増加

医療の場面では、ロボットの人間らしさが患者に与える心理的影響が関心事になり得ます。研究によれば、人間らしいロボットが患者に対して行う診察は、機械的なロボットや単なる機械ボックスと比べて、患者により恥ずかしさを感じさせることがわかりました[7]

技術的なボックス、技術的なロボット、生き生きとしたロボットの3条件で比較が行われました。44人のオランダ人の大学生が参加し、それぞれのロボットと対話しながら健康チェックを受けました。実験室には健康システムのテーブルや視力検査用のライン、体重計、温度計などが配置されました。

測定項目には、手の動き、姿勢の変化、神経質な笑顔、視線の移動などの行動観察と、恥ずかしさ、恥、心配、嫌悪感、喜び、興味、驚きの7項目を評価するアンケートが含まれていました。

結果として、擬人化のレベルが高いほど参加者は恥ずかしさを感じやすいことが示されました。技術的なボックス条件では最も恥ずかしさが少なかったのです。

これらの結果から、人間らしいロボットが必ずしも適切とは限らず、状況によっては機械的なデザインの方が恥ずかしさを軽減できる可能性が伺えます。

機械的なロボットがポジティブな行動をとる

ロボットの外見と行動が人間との関係にどのような影響を与えるかが調査されています[8]60人の日本人参加者を対象に、人間らしいロボットと機械的なロボットのいずれかと3回の対話を行いました。各ロボットは、ポジティブまたはネガティブな行動を取るようプログラムされていました。

機械的なロボットは人間らしいロボットよりも共感と信頼性が高く評価されました。これは、人間に非常に似ているが完璧ではないロボットが、不快感や不信感を引き起こす可能性があるためではないかと考えられます。

また、ロボットのポジティブな行動はネガティブな行動よりも共感と信頼性を高めることがわかりました。特に、機械的なロボットがネガティブな行動を取った場合、信頼性と共感が大きく低下しました。

さらに、ロボットが人間との対話で異議を唱えると、そのコミュニケーション能力に対する不安が引き起こされることが示されました。

擬人化のメリットとデメリット

職場においてコンピューターやロボットの擬人化には、いくつかのメリットがあると考えられます。

機械に人間的な特徴を持たせることで、社員はこれらの技術をより信頼しやすくなります。例えば、名前や性別、声を持つAIアシスタントを導入することで、社員はそれを親しみやすく感じ、日常業務でのサポートに対して信頼を寄せることが期待されます。

ポジティブな行動を取る機械的なロボットは、社員との関係において共感と信頼を高める効果があります。例えば、オフィス内で協力的な動きをするロボットは、チームの結束力を強化するかもしれません。

人間的なエージェントがインターフェースに存在することで、社員は無意識にそれらを擬人化し、親しみやすさを感じます。これによって、情報の信頼性も高まります。例えば、イントラネット上で、人間的なキャラクターが新しいポリシーや手順を説明することで、社員の理解と受け入れが促進されるといったことも考えられます。

一方で、擬人化にはデメリットもあり、注意が必要です。特に、人間らしいロボットがプライベートな場面で使用される場合、社員の恥ずかしさや不快感を引き起こすことがあります。

例えば、人間的なロボットが社員の健康チェックを行う際、社員は技術的なデバイスと比較して、より多くの恥ずかしさを感じる可能性があります。特定の用途では機械的なデザインの方が適している場合があります。

人間のような特徴を持つロボットが不完全である場合、不快感や不信感を引き起こす可能性もあります。例えば、人間に似たロボットがネガティブな行動を取ると、社員はそのロボットに対して強い不信感を抱くことがあります。職場環境においてAIやロボットのデザインや行動が社員の心理に影響を与えることを想像させます。

脚注

[1] Nass, C., and Moon, Y. (2000). Machines and mindlessness: Social responses to computers. Journal of Social Issues, 56(1), 81-103.

[2] Waytz, A., Morewedge, C. K., Epley, N., Monteleone, G., Gao, J. H., and Cacioppo, J. T. (2010). Making sense by making sentient: Effectance motivation increases anthropomorphism. Journal of Personality and Social Psychology, 99(3), 410-435.

[3] Epley, N., Waytz, A., and Cacioppo, J. T. (2007). On seeing human: A three-factor theory of anthropomorphism. Psychological Review, 114(4), 864-886.

[4] Kim, Y., and Sundar, S. S. (2012). Anthropomorphism of computers: Is it mindful or mindless?. Computers in Human Behavior, 28(1), 241-250.

[5] Epley, N., Akalis, S., Waytz, A., and Cacioppo, J. T. (2008). Creating social connection through inferential reproduction: Loneliness and perceived agency in gadgets, gods, and greyhounds. Psychological Science, 19(2), 114-120.

[6] Waytz, A., Heafner, J., and Epley, N. (2014). The mind in the machine: Anthropomorphism increases trust in an autonomous vehicle. Journal of Experimental Social Psychology, 52, 113-117.

[7] Bartneck, C., Bleeker, T., Bun, J., Fens, P., and Riet, L. (2010). The influence of robot anthropomorphism on the feelings of embarrassment when interacting with robots. Paladyn, 1, 109-115.

[8] Zlotowski, J., Sumioka, H., Nishio, S., Glas, D. F., Bartneck, C., and Ishiguro, H. (2016). Appearance of a robot affects the impact of its behaviour on perceived trustworthiness and empathy. Paladyn, Journal of Behavioral Robotics, 7(1), 000010151520160005.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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