2024年6月5日
NTTテクノクロス株式会社|企業内コミュニティ「First Penguin Lab」の活動支援
(左から)NTTテクノクロス株式会社 First Penguin Lab事務局 森本龍太郎様、同 福島隆寛様、株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆
研究所の技術を社会実装していくことを目的に、2017年に発足したNTTテクノクロス株式会社。同社は、企業文化の融和とイノベーティブな組織カルチャーを発展させることを目指して、2017年に企業内コミュニティ「First Penguin Lab」をスタートしました。
多様なバックグラウンドを持つ社員が集まり、自由な発想でアイデアを出し合い、プロジェクトを進めていく。そんな実践の場としてFirst Penguin Labが機能し始めています。
活動が軌道に乗り、参加者も増えていく中で、運営面での課題が浮き彫りに。そこで、2018年12月よりビジネスリサーチラボが学術的知見を基にした助言やイベント登壇、活動内容への講評などのサポートを行ってきました。
First Penguin Labの事務局を務める福島様、森本様に、ビジネスリサーチラボの支援について伺いました。
First Penguin Labとは
伊達:
今回は、First Penguin Labの取り組みについてお話を伺います。当社では2018年12月から関わらせていただいていますが、運営への助言やFirst Penguin Lab Awardsでの講評、関連セミナーでの登壇など一連のサポートについて取り上げながら、お話しできればと思います。
まず、First Penguin Labについてお尋ねします。どのような取り組みで、どのようにして始まったのか教えてください。
福島:
当社の成り立ちと深い関係性があります。NTTテクノクロスは2017年に、NTTソフトウェアとNTTアイティの合併とともに、NTTアドバンステクノロジの一部事業の譲渡を受け誕生しました。母体となった3社はNTTの研究所との関わりは深く研究所系子会社と呼ばれてはいましたが、各社の文化や風土は正に三者三様で、異なっていました。
そこで、NTTテクノクロスとして新たな組織風土を醸成することを目的に誕生したのがFirst Penguin Labです。組織の壁を越えて集まった社員が、各々の興味関心を基に自由な発想でアイデアを出し、社内外を巻き込みながら実践コミュニティとして活動していく。それを推進することで、よりイノベーティブな組織文化の醸成を目指しています。
伊達:
First Penguin Labは、社内ではどのように受け止められているのでしょうか。
森本:
通常の業務とは違う新しいことに挑戦できる場として浸透しています。
誰に命令されるわけでもなく、日々の業務からも離れて、自分の興味や関心を基にアイデアを」試すことのできる実験場になっています。
伊達:
それでは、First Penguin Labの体制について教えてください。
福島:
First Penguin Labは、実践コミュニティを生み出すための実践コミュニティのようなもので、実践コミュニティを生み出すプラットフォームとも言えます。その切り口で体制を表現すると、プラットフォームから生まれる実践コミュニティと、プラットフォームを運営するメタ的な実践コミュニティである事務局が存在します。事務局は各実践コミュニティの支援や伴走など活動の下支えを行っています。
最初から現在のような運営形態だったわけではありません。2019年までは会社が発足して間もなかったこともあり、謎の秘密結社と思われないよう会社の施策という色を前面に出していました。2020年から、現在の形に変更し、経営企画部門からは必要最低限な支援を受けつつ独立運営の形になりました。この変更により自主性を発揮できる環境がさらに整い、参加者のモチベーションがより高まりました。
余談と補足ですが、当社の母体3社が研究所系子会社であることから、ラボという言葉が好まれており、First Penguin Labから生まれた実践コミュニティのことをラボと呼んでいます。そして年に1度、各ラボが社長や役員の前で活動を報告するイベントである「First Penguin Lab Awards」を開催しています。報告に対して社長や幹部からは応援メッセージや前向きなコメントをいただける等、大変ポジティブな雰囲気のイベントとなっています。もしFirst Penguin Labの体制図を示すならば、社長や役員もFirst Penguin Labの応援者というポジションで書き込みたいと思っています。
伊達:
新しい取り組みを生んでいく場所としてFirst Penguin Labがあり、そこから新しいラボが生まれ、自律的に活動を進めていく。新規事業部門のような構造ですね。事務局が強くコントロールしているわけではありませんが、事務局のおかげで新たなラボが生まれる環境がデザインされている。この構造は特徴的だと思います。
First Penguin Labが直面していた課題
伊達:
NTTテクノクロス様からは様々なご相談をいただいていますが、私にとって特に印象的なのは、例えば、コロナ禍での活動の変化です。当社にご相談いただく前に、どのような課題や問題に直面されていたのでしょうか。
福島:
2018年12月に初めて伊達さんからご支援いただいた時から少し時を遡りますが、First Penguin Labを始めた当初は3か月程度の期間で活動し、社長や役員の前で活動報告をして終了し、また新たな参加者を募集して、というスキームでした。しかし、活動報告後も活動を続けたい参加者が多く、その結果、参加者の数は増え続けていました。
参加者のやりたいことが増える中で、全体的な底上げが必要になってきたと感じていました。学術的な知見やそれを実践に落とし込むために専門家の力が必要だと考え、その第一人者である伊達さんにご協力をお願いしました。私自身、越境学習の重要性は感じていましたし、外部の知見を取り入れることが刺激になり、個々の活動をブラッシュアップできるのではと考えていました。
First Penguin Labの参加者も増えてくると、コミュニティのライフサイクルも変わり、運営面での課題が浮き彫りになっていました。First Penguin Labの活動を一段高いレベルに引き上げるためには、活動の言語化が必要と思いご相談のきっかけでした。
伊達:
当時はアルムナイ的な形で活動が続いていました。活動を続けるためには、活動の基盤やそれを支えるロジック、事務局としての機能、活動を生み出して運営していくためのノウハウなどが必要になってきます。
単発的なイベントではなく、継続的な活動として根付かせるためには、しっかりとした土台づくりが欠かせません。実践と研究の両輪でアプローチすることで、その基盤を強化できますね。
森本:
私もコロナ禍のことが強く印象に残っています。活動のスタイルを変えざるを得なくなったことで、再び活動の意義を問い直す機会となりました。オンラインでのコミュニケーションが主流になる中で、どのようにFirst Penguin Labの理念を実現していくか手探りで進めざるを得ない状況でしたが、伊達さんからのアドバイスが道標となりました。
研究と実践の両輪のアプローチで相談に乗っていただけるので、非常に心強く思っています。
伊達:
ちょうどその頃、トップダウン型の企業内コミュニティの運営や構造について、ある大企業から相談を受けていたので、知識を得ていたタイミングでした。当社を選んでいただいた理由としては、学術研究や他社の企業内コミュニティ事例などの知見を持っていたことがあったのでしょうか。
福島:
NTTの研究成果を世の中にビジネスとして広めていく当社のミッションと、伊達さんがやっているアカデミックな部分の実践という点で親和性が高いのかなと思います。理論と実践をつなぐ役割を担っている伊達さんのお話は、社内でも大きな反響を呼びました。First Penguin Labの活動を推進する上でも、心強い存在だと感じています。
伊達:
お互いに基礎的な技術を応用して社会や市場に届ける仕事をしているので、自然とリスペクトし合えるというのはあるかもしれません。
森本:
以前、伊達さんに越境学習についてご講演いただきましたが、聴講者から「よそに行って知識を学ぶことは何となくいいと思っていたけれど、理屈が腑に落ちた」というコメントがありました。ふわっとしたことを、体系的にわかりやすく言語化していただけるので、伊達さんの講演は凄く人気があります。
First Penguin Labの参加者も、自分たちの活動が「このままでいいのだろうか」と疑問を持ちながら日々やっている中で、的確なコメントをいただけると、「これでよかった」という自信になったり、「こう変えてみよう」と前向きに活動を改善しています。
社外の意見を取り入れることで、自分たちの活動を客観的に見つめ直すきっかけになっています。「これで合っているのかな」という不安を払拭し、自信を持って前に進んでいくためのヒントをいただいています。
印象に残っている出来事
伊達:
印象に残っている出来事について教えてください。講演会やFirst Penguin Lab Awardsでの講評、ミーティングなどで感じたことや、新しい視点だったこと、面白かったこと、使えそうだと思ったことなどがあれば教えてください。
森本:
First Penguin Labは自由な活動です。それゆえ、どこまで自由にした方がよいのか、といったところは気にしていました。私は事務局と並行してラボ活動にも参加しているのですが、例えば、ラボ活動のプロセスをどこまでオープンにした方がよいかなどです。
活動をスケールするとなると、活動のアウトプットだけでなくプロセスもできるだけオープンにした方が良いと思っています。そうすると日頃の活動を議事録などで公開して誰が来てもいいように準備しなければなりません。ちょっとした雑談が重要な活動ですが、活動をオープンにしようと思うと自分たちの活動を整理して客観的に見えるようにする意識が働きます。
自由な活動を尊重しつつも、一定のルールを設けることで、かえって活動が進むと言語化していただき凄く腑に落ちました。
伊達:
チームが出来上がっていく過程で重要なものの一つはルーティンです。定期的なミーティングもルーティンで、チーム感の醸成につながります。自律的にやるというと、ルーティンがない状態をイメージしがちですが、枠組みを決めてしまえばあとは自由にできるので、ルーティンがあったほうが逆に動きやすくなるのかもしれません。
森本:
自由にしすぎると、その都度いろいろ調整しながらやるのが疲れる部分になるので、ある程度のルーティンがあると、そこが楽になって議論などに集中できるという気がします。例えば複数人出席するミーティングの日程調整は大変です。毎回しないといけないとなると、大変な労力になってしまいます。
ルーティン化することで、無駄な調整コストを削減できます。本来のアイデア出しなどの創造的な活動に、より多くのリソースを振り向けられるようになるのだと思います。「この日のこの時間は必ずミーティングがある」というのが決まっているだけで、参加者の心理的な負担も減るでしょう。
福島:
私が一番記憶に残っているのは、2021年頃に行われた「アフターコロナの働き方」のご講演の中での伊達さんのお話です。当時はミーティングがオンラインになっていました。セミナーの中でリアルに会ってブレストするのとオンラインでブレストするのはどちらがクリエイティビティが高いかというお話で、やり方次第ではオンラインでした。一度個人の時間をつくって、みんなで1人ずつ考えて発表するほうがクリエイティビティが高かったというお話に、アイデア管理の重要性は以前から感じていたので、凄く納得しました。
First Penguin Labでは、新しいアイデアを生み出していくことがとても大事なので、アイデアの出し方についてのお話は参考になりましたし、自分たちのやり方を見直すきっかけにもなりました。
伊達:
コンピューターに媒介されたコミュニケーションの研究では、対面でのブレストは案外非効率だということが分かっています。プロセスロスと呼び、例えば、相手が話している間に思いついたアイデアを出せなかったり、会話を成立させるのに神経を使ったりすることがアイデア創出の妨げになるのです。
テキストベースのコミュニケーションだとそれが少なく、オンラインのほうがアイデアの数が多くなるという研究もあります。思いついたことをすぐに書けるし、他の人の話と関係なくてもアイデアを共有できる。プロセスロスが少ないのです。
First Penguin Labではアイデアが重要なので、出し方も大切になってきますね。ラボを立ち上げるアイデア、ラボを運営していく上でのアイデアなど、さまざまな場面でアイデアが求められます。
対面とオンラインのブレストを使い分けながら、アイデアをブラッシュアップしていく。そんな工夫もFirst Penguin Labでは大切にしていただきたいですね。
実際にやってみたこと
伊達:
当社の支援を通じて、プロジェクトの中で実際にやってみたことはありますか。
森本:
伊達さんがよく言われている「小さい成功をつくると勢いが増す」という言葉が印象に残っています。ラボ活動をしていると、楽しくて熱がこもるからこそついつい高い目標を立ててしまいます。そうすると、途中で頓挫してしまいそうになります。
そこで、特に初期のうちはすぐにできることから試してみて「こんなの作ってみました」と共有するほうが楽しいよと言っています。そうすると「それいいね」などの反応や、「もうちょっとこうしたら」といった意見も出てきて、進みやすくなります。
一足飛びに大きな成果を求めるのではなく、小さくても着実に前進していく。その積み重ねが、大きな成功につながっていきます。早い段階から成果を出していくことで、参加者のモチベーションも上がります。「これならできそう」という手応えを感じられるからこそ、粘り強く活動を続けられるのだと思います。
福島:
私からは、社外への情報発信についてお話させてください。伊達さんから「社外にどんどん情報発信してもいいのでは」というアドバイスをいただきました。以前、ビジネスリサーチラボさんのウェビナーにも登壇させていただきましたが、First Penguin Labの価値が社内にとどまらないのではと社内でも認識されました。情報発信は自分でもやりたかった部分だったので、伊達さんからの後押しでやりやすくなりました。
ありがたいことに、最近、「HR’s SDGsアワード」の優秀賞をいただくことができました。受賞式でスピーチもさせていただきます。メディアでも発信を進めており、社外からの問い合わせも来るようになっています。こうした活動は続けていきたいですね。
社外との接点を増やしていくことで、First Penguin Labの知名度は確実に上がってきていると感じます。外からの評価を得ることで、社内でのプレゼンスも高まっていくのではないでしょうか。
伊達:
新規事業プロジェクトの事例を見ていると、社外で先に話題になって、そこから逆輸入のように社内に還流してくるケースは少なくありません。First Penguin Labの活動を発信していくのは大切だと思います。社内の理解や協力も得やすくなるでしょうし、優秀な人材を惹きつけることにもつながるかもしれません。
今後の展望
伊達:
2018年からFirst Penguin Labに私も関わらせていただいています。今後やっていきたいことや計画があれば教えてください。
福島:
以前からの野望なのですが、他社にFirst Penguin Labを広めていきたいです。社外に情報発信していく中で、いろいろな反響もいただいています。他社版のFirst Penguin Labを作っていくのも面白そうだと思っています。「◯◯支部」のような形でFirst Penguin Labが広がっていくといいなと考えています。
そのためには、ノウハウの整理や言語化、活動の概念化も必要になってくるでしょう。そうしたことも同時に進めて書籍化もしたいですね。また、社内だけでなく社会的にも意義のある、分かりやすい新規事業の成功例も作っていきたいと思っています。
First Penguin Labが一つのムーブメントとなって、企業の枠を越えて広がっていく。そんな未来は、とてもワクワクしますね。NTTテクノクロス発のイノベーション・プラットフォームとして、他社の模範となるようなモデルを確立できれば素晴らしいと思います。
伊達:
他社にFirst Penguin Labができるというのは斬新なアイデアですね。各社のFirst Penguin Labをつなぐ協会のようなものができたら面白そうです。
日本の大企業を見渡すと、どこかでこの種の取り組みは行われているはずです。しかし、それを束ねる団体はないように思います。だからこそニーズはありそうです。一社だけで始めるのはハードルが高くても、仲間がいるとチャレンジしやすくなります。
イノベーションの輪を日本中に広げていく。そのきっかけをFirst Penguin Labが作れたら、本当に素晴らしいことだと思います。
森本:
そうすることで、First Penguin Labの認知度も上がるでしょうし、他社から声がかかるようにもなると思います。「First Penguin Labがあるから御社に入りました」と言われる日が来たら嬉しいですよね。
First Penguin Labの魅力を若い世代にアピールしていくことで、就職先として選ばれる会社になれるはずです。新しいことにチャレンジできる環境があるというのは、エンジニアにとって魅力になるでしょう。
福島:
実はあったみたいですよ。eスポーツに力を入れている会社だと知って採用面接に来た方がいたらしいです。First Penguin Labの中にはeスポーツイベントの開催や応援アプリケーションの開発に取り組んでいるラボがあるのですが、その活動を知って良い会社だなと思ってもらえたようです。
伊達:
「楽しそう」というのはFirst Penguin Labの良さの一つだと思います。仕事をしつつ、これだけ楽しめる取り組みがあるのは素敵なことです。好奇心旺盛な人を惹きつけるのに、これほど強力な武器はないでしょう。
楽しみながらも本気で取り組む。そんなFirst Penguin Labの益々の発展を心から願っています。今後もぜひ伴走させていただければ幸いです。