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コラム

危機に立ち向かう力:チームレジリエンスの有効性と注意点

コラム

職場のストレスや逆境は避けられないものです。経済的な不況や仕事の過負荷、プロジェクトの失敗、緊急事態など、多くの要因が社員に影響を与えています。こうした状況で注目されるのが「チームレジリエンス」です。

チームレジリエンスは、チームが逆境に適応し、回復し、成長する能力を指します。個人のレジリエンスとは異なり、チーム全体の動きやプロセスに焦点を当てています。本コラムでは、チームレジリエンスの研究を紹介し、その重要性や測定方法、応用例について議論します。

チームレジリエンスの体系的な整理

職場におけるチームレジリエンスについて、これまでの文献を体系的にレビューし、概念を整理した研究から始めましょう[1]。研究では、チームレジリエンスの定義や要素、個人のレジリエンスとの関係など、多角的に検討しています。

チームレジリエンスは端的に言えば「逆境に耐えたり回復したりするチームの能力」と定義されます。これは、準備、適応、リフレクションというプロセスを通じて形成されるチームの状態を指し、逆境後のチームの機能の持続性、回復性、成長性によって示されます。具体的には、次のような要素が含まれます。

  • リソース:メンバーの能力やスキル、関係性などが含まれます。これらのリソースは、チームが逆境に対処する際に基盤となります。
  • プロセス:協力、調整、コミュニケーションなどのチームプロセスを指します。これらのプロセスを通じて、チームは逆境に適応し、必要な改善を行います。
  • ステータス:チームアイデンティティや心理的安全性など、チームの特性や条件を指します。これらの状態は、チームのレジリエンスを支える要素です。
  • アウトカム:パフォーマンスや健康など、チームの活動の結果を指します。レジリエンスアウトカムは、チームのレジリエンスの高さを示す指標となります。

研究では、個人のレジリエンスとチームレジリエンスは一部の特徴を共有するものの、構造的には異なるとされています。個人のレジリエンスがチームレジリエンスに影響を与えることもあれば、その逆もあると示唆されています。

例えば、レジリエントなチームメンバーは、スキルを共有し、集団的な能力を促進することでチームレジリエンスを高めます。一方で、チームレジリエンスが個人の自己効力感を高め、逆境を対処する能力を強化することも考えられます。

チームレジリエンスについて少しイメージが湧いてきたでしょうか。続いて、チームレジリエンスをどのように測定するかについて見ていきましょう。さらに理解が深まるはずです。

測定方法も検討されている

チームレジリエンスの測定方法について、「Team Resilience InventoryTRI)」という尺度が開発され、有効性が検証されています[2]

まず、文献レビューを通じてチームレジリエンスの概念を整理し、チームレジリエンスを「チームが集合的に経験する逆境への適応能力」と定義しました。

TRIの開発にあたっては、専門家のレビューや実証的テストを経て、感情的・行動的・認知的リソース、適応プロセス、持続プロセスの要素が盛り込まれました。例えば、ポジティブ感情やチームの結束、チームの構造やコミュニケーション、集合的な効力感やトランザクティブメモリーシステムなどが含まれます。

研究では、3つの実証が行われ、TRIの信頼性と妥当性が確認されました。まず、大学生のチームを対象に、TRIの測定性能や他の変数との関連が検討されました。結果的に、TRI3因子構造と高い一貫性が確認されました。

次に、TRIの「適応」と「持続性」という新たな側面を検証し、個人のレジリエンスとは異なる概念であることを示しました。

最後に、実験室でチームが直面する逆境への対応を測定する方法を用い、TRIがレジリエントなパフォーマンスの軌跡を予測できることを確認しました。さらには、チームメンバーによるレジリエンスの主観的評価と客観的指標の関連性も検討されています。

これらの結果から、TRIはチームレジリエンスを測定するための信頼性と妥当性の高いツールであると言えます。

コロナ禍においてチームの調整が重要に

COVID-19パンデミック下でのチームレジリエンスの重要性について探っていきます。COVID-19パンデミックは、医療現場におけるチームレジリエンスを試す逆境となりました。ある研究では、パンデミック下でのプライマリケアチームのレジリエンスについて探求しています[3]

COVID-19パンデミックは、医療システム全体に負担をかけ、特にプライマリケアチームはその影響を強く受けました。この研究では、米国のベテランズヘルスアドミニストレーション(VHA)からの全国規模のデータを用いて、7023の患者アラインドケアチームを分析しました。

研究の目的は、パンデミックという逆境下でチームがどのようにパフォーマンスを維持するかを評価し、チームレジリエンスのモデルを同様の状況に一般化することでした。

研究では、チームのパフォーマンスを「訪問時の患者の血圧が140/90以下である患者の割合」で評価しました。また、チームの調整とチームメンバーの流動性(チームメンバーの入れ替わり)がチームパフォーマンスにどのように影響するかも調べました。

地域レベルの対策(社会的距離、マスク着用、検査など)が、逆境とチームメンバーの流動性および逆境とチームパフォーマンスの関係を調整するかも検討しました。

結果としては、主治医ケアチームのパフォーマンスが逆境の影響で有意に変化しなかったことを示し、チームがレジリエンスを発揮したことを支持しています。

また、チームの調整がチームパフォーマンスと正の相関があることも示されました。一方で、チームメンバーの流動性は逆境とチームパフォーマンスの関係を媒介する役割は見られませんでした。地域レベルの対策は、逆境とチームメンバーの流動性の関係を一部調整する可能性が示唆されましたが、逆境とチームパフォーマンスの関係を調整することはありませんでした。

この研究は、COVID-19パンデミックという強い逆境下でのチームレジリエンスを検証し、チームの調整がパフォーマンスに重要な役割を果たすことを強調しています。チームの調整を強化することが重要だと言えるでしょう。

家族や友人のサポートの有効性

同様に医療現場を対象とした研究として、緊急医療におけるチームレジリエンスの例があります[4]。緊急医療におけるチームレジリエンスの重要性について、ある研究が興味深い示唆を提供しています。

COVID-19パンデミック下の緊急医療チームのレジリエンスを探究し、家族や友人からのサポートがチームのレジリエンスにどのように影響を与えるかを明らかにしました。

COVID-19パンデミックは、緊急医療従事者にとって非常に厳しい環境をもたらしました。感染リスクの増加、リソースの不足、患者数の増加など、多くのストレス要因が存在しました。こうした逆境下での緊急医療チームのレジリエンスに焦点を当て、チームレベルと個人レベルの要因の関係を探究することを目的としています。

研究では、オランダの緊急医療チームを対象に調査を実施しました。チームレジリエンスは10項目の尺度に、COVID-19パンデミックの文脈に合わせて5つの項目を追加して測定されました。個人のレジリエンスはBrief Resilience Scaleを用いて評価されました。

その結果、チームの親密度と家族のサポートが直接的にチームレジリエンスに寄与することが示されました。また、変革的リーダーシップは間接的に影響を与えることが分かりました。変革的リーダーシップが個人のレジリエンスを高め、その結果、チームレジリエンスも向上するというプロセスが見えてきました。

楽観主義や自己効力感も個人のレジリエンスに影響を与え、変革的リーダーシップと楽観主義はチームレジリエンスに間接的な影響を与えることが明らかになりました。このように、個人のレジリエンスとチームレジリエンスは異なる概念でありながら、相互に影響し合う関係にあります。

この研究は、家族と友人からのサポートが緊急医療チームのレジリエンスにとって重要であることを指摘しています。パンデミック下では、医療従事者が家族との時間を制限される中で、家族や友人からの感情的な支援がチーム全体の結束を強め、レジリエンスを高める役割を果たしているのでしょう。

2つの注意点

チームレジリエンスは難しい状況に直面するビジネス環境において重要性を増す一方です。しかし、無批判に受け入れられるものかと言えば、そうではないとも思います。チームレジリエンスに対してあえて、その潜在的な問題の可能性を挙げておきましょう。大きくは2つの論点があり得ます。

一つは、チームレジリエンスを強調することが、逆境やストレスに対する対処が個人やチームの責任とされ、組織全体の構造的な問題が見過ごされるリスクを伴う点です。

例えば、組織が無理な業務量や労働時間を課している場合、レジリエンスの強化が求められること自体が問題です。労働環境を改善し、合理的な業務配分を行うべきであり、個人やチームに過度な負担をかけ続けることは持続可能ではありません。

他にも、必要なリソースが不足している場合、どれだけチームレジリエンスを高めても限界があります。組織としてはリソースを提供し、社員が効果的に業務を遂行できる環境を整えなければなりません。

これらの構造的な問題を解決せずに、チームレジリエンスの向上のみを求めることは、根本的な解決策とはなり得ません。むしろ、組織の問題を隠蔽し、社員に負担を強いる結果となります。

もう一つは、長期的な視点を持つことの大事さです。チームレジリエンスは、短期的に逆境に対して効果を発揮することが示されています。例えば、プロジェクトの失敗や緊急事態に直面した際に、チームが迅速に対応し、業務を持ち直す能力を高めることができます。

しかし、これが長期的に持続するかどうかは必ずしも同じ問題ではありません。短期的には高いパフォーマンスを維持できたとしても、やがて問題が生じる可能性があります:

例えば、短期的な逆境に対処するために全力を尽くした結果、社員が疲弊し、バーンアウトに陥るかもしれません。バーンアウトはパフォーマンス低下や健康問題を引き起こします。

チームレジリエンスを長期的に維持するためには、持続可能な取り組みが必要です。一例として、社員に対する継続的なサポートの提供が求められるでしょう。また、社員の健康管理を重視し、ストレス管理やメンタルヘルスのサポートを行うことも重要です。

脚注

[1] Hartwig, A., Clarke, S., Johnson, S., and Willis, S. (2020). Workplace team resilience: A systematic review and conceptual development. Organizational Psychology Review, 10(3-4), 169-200.

[2] McGregor, A. J. (2023). Psychometric Validation of the Team Resilience Inventory (Doctoral dissertation, The University of Western Ontario (Canada)).

[3] Hughes, A. M., Arredondo, K., Lester, H. F., Oswald, F. L., Pham, T. N., Jiang, C., and Hysong, S. J. (2023). What can we learn from COVID-19?: examining the resilience of primary care teams. Frontiers in Psychology, 14, 1265529.

[4] Hendrikx, I. E., Vermeulen, S. C., Wientjens, V. L., and Mannak, R. S. (2022). Is team resilience more than the sum of its parts? A quantitative study on emergency healthcare teams during the COVID-19 pandemic. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(12), 6968.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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