2024年5月1日
成果指標の設定支援
組織サーベイを実施するときには、「成果指標」を設定する必要があります。成果指標とは、人や組織の目指す状態を表したものです。自分たちのありたい姿を捉えるのが成果指標です。
例えば、「イノベーションを生み出すこと」を大切にする企業なら、成果指標は「イノベーション行動」や「クリエイティビティ」などが良いかもしれません。「お客様の満足度を上げること」を目指す企業では、「顧客志向」や「市場志向」などが候補になるかもしれません。
成果指標は組織戦略の中心と対応するものであり、人事上、重視する物差しとなります。しかし、成果指標には重要な役割があるからこそ、多くの企業がその設定に難しさを感じています。
ビジネスリサーチラボは、これまで多くの組織サーベイを提供してきました。成果指標を設定する場面においても、クライアント企業に寄り添ったサポートをしています。
私たちのサポートの特徴は、研究知と実践知を組み合わせた総合的なアプローチにあります。組織の実態を多角的に理解しながら、根拠に基づく提案をすることで、それぞれの企業にふさわしい成果指標を見つけ出していきます。
本コラムでは、ビジネスリサーチラボが行う成果指標設定のサポートについて、具体的な取り組みを説明します。
組織の目標を明確にする
成果指標は、組織が目指すべき姿をわかりやすく表現したものでなければなりません。目標がはっきりしていないと、適切な指標を設定することはできません。そこで、ビジネスリサーチラボでは、クライアント企業の経営層に対する聞き取りや関連資料の読解を通して、組織の目標を探ります。
組織のビジョンや中期計画、事業戦略、人材戦略など、さまざまな情報を考慮することで、組織サーベイにおける「成果」の意味を明らかにしていきます。経営層の考えを引き出し、人事部門や現場の意見とすり合わせる作業は、成果指標を設定する土台となります。
私たちは、できるだけ多くの情報を集めつつ、議論を重ねながら本質を見抜くことを大切にしています。表面的なキーワードに惑わされることなく、組織が目指すべき将来の姿を言葉で表現すること。それが成果指標を設定する際の出発点です。
成果指標の候補を出して定義を作る
組織の目標が決まったら、成果指標の内容を検討する段階に入ります。とはいえ、ゼロから指標を作るのは簡単なことではありません。ビジネスリサーチラボでは、研究知見や他社事例も参考にしながら、成果指標の候補を挙げています。
例えば、社員がいきいきと働くことに力を入れる企業なら、「エンゲージメント」「組織コミットメント」といった指標が良いかもしれません。ボトムアップでの提案を強化することを目指すなら、「ボイス」「提案行動」などを候補に挙げられます。
私たちは、人材マネジメントや組織開発、人間の行動や心理に関する学術研究を広くチェックし、さまざまな観点から指標の候補を示します。さらに、数多くの組織サーベイの実績を通じて蓄積してきた実践知をもとに、それぞれの企業の実情に合ったものを提案するよう努めています。
成果指標の候補を検討する際には、それぞれの指標がどのような組織的な意味を持つのかを吟味しましょう。例えば、「クリエイティビティ」という成果指標を設定する場合、「クリエイティビティを発揮することが、なぜ私たちの会社にとって大事なのか」を改めて考えるのです。
成果指標の案がそろったら、定義づくりです。組織内で共通理解が持てるよう、わかりやすい言葉で指標の内容を説明する必要があります。学術的な概念の定義も参照しつつ、社員の実感に合った表現を心がけます。
一例として、「エンゲージメント」という成果指標を設定するとします。学術的には「ワーク・エンゲイジメント」が参考になります。これをクライアント企業の状況に合わせて、その企業で本当に目指すべき状態を表すように検討を加えます。
ビジネスリサーチラボでは、クライアント企業の文化や価値観を考慮した上で、「腑に落ちる」定義にすべく、見直しを重ねます。一つ一つの成果指標が組織の状況に根ざしたものとなり、社員に自分ごととして捉えてもらえるように注意を払います。
指標を測定できるかどうかの検討
組織サーベイを設計する上で、測定可能性の検討は重要な観点です。ビジネスリサーチラボでは、この点を理解し、クライアント企業に適切な調査設計を提供することを強みとしています。
測定可能性を検討する際には、まず概念の明確さが鍵となります。曖昧な概念では正確な測定は難しいものです。成果指標の定義を明確にすることが不可欠です。例えば、「クリエイティ日」という概念を成果指標にする場合、その定義を明確に定めなければなりません。
また、概念の境界を明確にすることも欠かせません。例えば、「顧客志向」という概念には、「顧客ニーズの理解」「顧客満足の追求」「顧客との長期的な関係構築」など、様々な要素が含まれる可能性があります。概念の境界線を引き、どこまで概念の内容として含めるのかを考えます。
さらに、測定する概念が多面的である場合、それぞれの側面を捉えられるよう、概念を整理します。例えば、「エンゲージメント」という概念を、「仕事への熱意」「組織への帰属意識」など、複数の要素を伴うものとして定義したい場合、概念の構造を明らかにする必要があります。
ビジネスリサーチラボでは、測定可能性の検討を行うことで、クライアント企業の組織の実態を正確に把握するための土台を築きます。曖昧な概念をそのまま測定しようとしても、得られるデータの質は低くなってしまいます。明確な定義と構造化を行うことで、その後の設計をスムーズに進めます。
なお、測定可能性の検討には、専門性が不可欠です。ビジネスリサーチラボでは、組織行動論や社会心理学、心理測定などの知見を活用しています。また、クライアント企業の特性や要望を踏まえ、実践的な文脈に合わせた設定を行います。
成果指標同士の関係を整理すること
組織サーベイでは、通常、複数の成果指標を設定することになります。イノベーション行動、エンゲージメント、ウェルビーイングなど、いくつかの観点から組織の状態を把握したいというニーズは少なくありません。
そんなときに、それぞれの指標がどのような関係にあるのかを整理しておくことが求められます。
例えば、「エンゲージメント」と「クリエイティビティ」を成果指標にするとします。両者の間にどのような関係を想定するかを考えます。内発的動機づけ理論に基づけば、エンゲージメントは活動自体に興味や楽しさを感じるため、自由な発想ができて、クリエイティビティが高まると考えられます。
あるいは、エンゲージメントが高い状態は、ポジティブ感情によって多様な情報に対して開かれた姿勢になります。認知的柔軟性が高まることで、異なる視点から問題を捉えたり、新しいアイデアを生み出したりしやすくなるため、クリエイティビティが高まるかもしれません。
これらは仮想の例示ではありますが、このように理論的な示唆を手がかりに、複数の成果指標間の関連を検討することができます。
関係者との合意形成を促進すること
成果指標の内容と関連性が整理できたら、クライアント企業の社内の関係者と合意を形成していく段階に入ります。組織サーベイの設計においては、経営層、人事部門、現場のマネジャーなど、立場によって成果指標に対する考え方が異なります。
認識のギャップを放置したままでは、組織サーベイの実効性が損なわれてしまいます。ビジネスリサーチラボは、関係者の意見を吸い上げながら、建設的な対話を促す役割を担います。
例えば、設定した成果指標やそれらの間の関連などについて、関係者に提示し、賛同や懸念、要望を抽出します。
経営層からは「もっと理念に近づけてほしい」という意見が出るかもしれません。現場のマネジャーからは「評価制度との連動を意識してほしい」と指摘されることもあるでしょう。こうした意見を踏まえ、成果指標の枠組みを柔軟に修正していきます。
例えば、経営層の意向を汲んで、成果指標の名称を理念における表現に合わせるといった工夫が考えられます。また、マネジャーの問題意識に応えるため、人事評価の観点を一部の概念に盛り込むことも検討に値するでしょう。
大切なのは、関係者の意見を一方的に取り入れるのではなく、それぞれの問題意識の核心を捉え、対話を重ねていくことです。時には、これまでの前提を問い直すような本質的な議論も必要になるかもしれません。
成果指標の設定において、関係者の合意形成は欠かせないプロセスです。建設的な対話を重ねることで、組織サーベイに対する共通理解と当事者意識を醸成することが可能になります。
以上、ビジネスリサーチラボによる成果指標の設定支援について、5つのポイントを中心に説明してきました。
成果指標は組織にとって大切な価値基準であり、その設定プロセスは組織変革の指針を定める作業となります。だからこそ、研究知と実践知を活用した検討と、関係者間の合意形成が欠かせません。
ビジネスリサーチラボは、この難しいプロセスに寄り添う専門家集団として、クライアント企業の組織サーベイをサポートしています。
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。