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コラム

組織の噂は何をもたらすのか:組織ゴシップ研究を紐解く(セミナーレポート)

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ビジネスリサーチラボは、20244月にセミナー「組織の噂は何をもたらすのか:組織ゴシップ研究を紐解く」を開催しました。

皆さんは「噂好き」でしょうか。その場にいない人についてあれこれ話すのが噂話です。

実は「組織ゴシップ」という研究群があります。会社の中の噂話の影響について実証が重ねられています。

噂話は、働く人々にどのような影響を与えるのでしょうか。ポジティブな噂話とネガティブな噂話は、影響が異なるのでしょうか。今回は、組織における噂話について考えます。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

否定的なゴシップの影響

今回のセミナーで取り上げるテーマは、組織における噂話、学術的には「組織ゴシップ」と呼ばれるものです。組織ゴシップとは、そこにいないメンバーについて非公式で評価的な話をすることを指します。

例えば、ある人の良い面や悪い面について話すことが当てはまります。その人を肯定的に評価したり、否定的に評価したりすることを伴っているのが特徴です。

組織ゴシップは、主に組織行動論の中で研究されています。組織行動論は、組織における人の心理や行動について研究する分野ですが、その中でも組織ゴシップは重要なテーマの一つです。

しかし、以前は組織ゴシップは人間関係における逸脱行為や負の存在として捉えられることが多く、あまり注目されてきませんでした。組織ゴシップは毒舌や中傷のようなものとして位置づけられ、そこにいない人を傷つける可能性のある行為だと考えられていたのです。

確かに、組織ゴシップは多くの組織で見られる一般的な活動ですが、以前は真剣に取り扱われることが少なかったのが実情です。

組織ゴシップがネガティブなものとして捉えられてきた理由は、人間関係の対立や不安を引き起こすことに焦点が当てられていたからだと考えられます。悪意があり正確ではない噂話が流れると、人間関係が悪化し、生産性も下がる可能性があります。

実際に、ネガティブなゴシップが、ゴシップの対象者のウェルビーイングを下げることが研究で明らかになっています。これは資源保存理論から説明できます。

資源保存理論によると、人は自分の資源を守ろうとする傾向があります。ネガティブなゴシップは、その人を取り巻く人間関係やサポートを遠ざけてしまう可能性があるため、本人にとってストレスになります。

ただし、感情をコントロールする能力が高い人は、ネガティブなゴシップの影響を受けにくいことがわかっています。自分のゴシップを流されても動揺しにくく、感情をある程度コントロールできるため、苦痛も減らすことができます。

好影響も悪影響ももたらす

組織ゴシップの研究を紐解いていくと、組織ゴシップの影響は単純にマイナスだけではなく、複雑な側面があるということがわかってきています。

まず、ゴシップが広まっていると感じると、働きぶりに対してプレッシャーを感じ、その結果、仕事のパフォーマンスが高まることが明らかになっています。例えば、手を抜くとそのことを噂されるかもしれないと思い、しっかり働こうとします。適度なプレッシャーになるということです。

ただし同時に、ゴシップが広まっていると感じると、同僚との関係性や信頼関係が損なわれてしまいます。噂される可能性があるため、周囲との良い関係を構築しにくくなります。周囲との関係性は人が働く上で重要なので、それがうまくいかないとウェルビーイングが低下してしまいます。

興味深いのは、否定的なゴシップが多いと、パフォーマンス向上効果とウェルビーイング低下効果がより強くなる傾向がある点です。ネガティブなゴシップが職場に蔓延していると、プレッシャーを感じてパフォーマンスは高まる一方で、疑心暗鬼になって周囲との関係が形成しにくくなり、ウェルビーイングが低下するのです。

このように、組織ゴシップにはプラスの影響とマイナスの影響の両面性があります。これを捉えて、組織ゴシップを「Mixed Blessing(ありがたいようなありがたくないような)」と表現する研究もあります。一概に良いとも悪いとも言えない、白黒つけられるものではないということです。

他の研究でも、組織ゴシップのプラスとマイナスの両方の影響が検証されています。プラスの面では、組織ゴシップが情報交換の手段になり得ることが挙げられます。

例えば、噂話を通じて他部署の話を聞いたり、ある人の情報を入手したりすることがあるでしょう。マネジャーの観察研究などでは、鮮度の高い噂話を意思決定の際に考慮に入れていることがわかっています。組織ゴシップは情報収集の手段として用いられ、不確実性を削減する効果があるのです。

また、肯定的なゴシップ(ある人を褒めるようなゴシップ)が広まっていると、自分の貢献を見てくれていると感じ、公平な処遇を受けられると思うようになります。その結果、従業員の満足度が高まります。

一方、否定的なゴシップ(ある人を蔑んだり、ネガティブな側面に注目したゴシップ)については、人間関係を損ねたり、利己的な行動を誘発したりする影響があります。否定的なゴシップが飛び交う職場では、不適切な行動や倫理的でない行動を取る恐れがあります。

さらに、職場の雰囲気が悪くなり、ストレスも溜まります。ネガティブなゴシップが蔓延する職場に所属したいと思う人は少ないでしょう。従業員の満足度が低下し、離職意思も高まってしまいます。

肯定的なゴシップを広げる

組織ゴシップが複雑な現象であることをご理解いただけたと思います。ネガティブなゴシップは人にストレスを与え、人間関係を悪化させる一方で、肯定的なゴシップは公正感を高め、満足度を向上させます。

ここで、肯定的で悪意のないゴシップが組織内で共有されやすい条件について検討した研究を紹介します。

まず、肯定的なゴシップとは、そこにいない人に関する好ましいニュースを伝えることを指します。一方、否定的なゴシップは、他者の言動の好ましくない面を強調するようなゴシップです。

また、悪意があるゴシップは、ゴシップの対象者の評価を下げたり操ったりしようと考えて行動するもので、そうした意図が含まれていないのが、悪意がないゴシップです。

肯定的で悪意のないゴシップは、否定的や悪意のあるゴシップと比べて、組織内で共有されやすい傾向があることがわかっています。良い噂の方が広がりやすいのです。

これは、ゴシップを言う人(発信者)の心理が関係しています。発信者は、周囲から悪く思われたくないので、肯定的なゴシップを言った方が、聞き手から良い評価を受けられます。悪口を言うと、自分に対する評価が下がる可能性があるため、肯定的なゴシップを発信する方が有効なのです。

また、ゴシップの対象者が聞き手の仲間だと見なされる場合にも、肯定的で悪意のないゴシップが共有されやすくなります。相手への親近感や愛着が要因になっているようです。

さらに、発信者が、受信者は真偽を確かめられると認識している場合も、悪意のないゴシップを共有する傾向があります。真実を確かめられる可能性があるなら、わざわざ否定的な側面は言いません。受け手の潜在的な反応を考慮して、望ましい情報を提供しようとします。

組織ゴシップは単なるコミュニケーションではなく、発信者の心理に注目すると、人間関係の機微に関連する複雑な現象だということがわかります。

では、具体的に何があると肯定的なゴシップや否定的なゴシップが促されるのでしょうか。看護師を対象にした研究によると、ある人が公正な扱いを受けていると感じると、肯定的なゴシップを言う傾向が強いことがわかっています。

公正感を持っていると、組織や上司に対してポジティブに評価しているので、肯定的なゴシップを言いやすいのです。ここでいう公正感には、評価の手続きや結果、やりとり、情報の公正さが含まれます。

さらに、内部者としての地位を強く感じると、公正感と肯定的なゴシップの関係性が強まることも明らかになりました。内部者としての地位とは、自分が組織の重要な一員であると認識していることを指します。

自分が大事なメンバーで尊重されていると思うと、公正感を感じた時に、肯定的なゴシップを言う行動をとりやすくなるのです。ただし、否定的なゴシップに対しては、内部者としての地位は関係していませんでした。

組織ゴシップは言うならば噂話以上のもので、人間のコミュニケーションや社会的な絆、評判や評価に関係しています。肯定的な噂話を促すには、公正感と内部者としての地位が重要になります。

公正感は人や組織とのやりとりに関わる部分で、内部者としての地位は自分の組織内での位置づけに関係しています。自分が人や組織に対してどんな感覚を持っているか、自分が組織の中でどんな位置づけにあるかが、ゴシップに影響を与えます。

組織ゴシップへの対策

研究知見を踏まえて、組織ゴシップとどう向き合っていけばいいのか、対策について考えてみましょう。目標は、組織ゴシップのマイナスの側面を最小限に抑えつつ、プラスの側面を引き出していくことです。

一つ目の対策は、組織における公正感を高めることです。これが正攻法でしょう。公正な扱いを受けていると感じると、肯定的なゴシップが広がり、職場の士気や生産性に寄与します。

公正感を高めるために、意思決定の手順や基準などの情報を社内で広く共有することが大切です。情報開示を進めるだけでなく、定期的な個人面談などを通じて、従業員の意見や心配事、懸念をヒアリングすることも求められます。

次に、内部者としての地位を高めていくと良いでしょう。自分は組織の重要な一員だと感じてもらうようにするのです。内部者としての地位を感じると、肯定的なゴシップを広め、それがプラスの効果を生み出すことが明らかになっています。

具体的には、従業員の意見を聞く機会を作り、実際に聞いた意見や提案を受け入れて組織を改善することで、自分は尊重されていると感じられます。

また、それぞれの従業員の役割や仕事が組織にどう貢献しているのかを考える機会を設けることも効果的です。上司と部下で話をしたり、職場で話をしたりして、自分たちがどんな貢献をしているのかを一緒に考えましょう。

忙しい日々の中では、自分の貢献を考えることは少ないかもしれません。そういう時間をきちんと設けることで、内部者としての地位を高められます。

もちろん、組織ゴシップは重要ですが、それだけに依存して意思決定や組織運営が行われるのは問題です。公式なルートでも情報発信していくことが重要です。

ゴシップの真偽を確かめたり、様々な情報源をもとに判断したりするためにも必要です。特に否定的なゴシップに振り回されずに済みます。

例えば、意思決定の結果や議事録をニュースレターやメール、イントラネットで共有するのも一案です。ある会社では、経営会議をウェブ会議で行い、それを公開しているそうです。経営者の思惑がわかるので、噂話に振り回されずに済みます。また、経営層と従業員が直接対話する機会を設けるのも、公式ルートを拡充する方法の一つです。

感情との付き合い方を磨くことも、ゴシップとの付き合い方として挙げられます。否定的なゴシップをゼロにするのは難しいでしょう。そんな時、感情をコントロールする能力があれば、否定的なゴシップに振り回されにくくなり、ウェルビーイングを保ちやすくなります。

EQやレジリエンスに関する研修やワークショップを開催したり、社内のカウンセリング制度を整備したりして、相談しやすい環境を作ることがおすすめです。

そして、肯定的なゴシップには良い効果があるので、奨励していきたいところです。従業員がお互いの貢献を認め合うところから始めましょう。助けられたことを言葉にして共有する場を設定しましょう。

「この人からこんなことをやってもらって嬉しかった」ということを、チャットやミーティングで共有していくと、いい噂話を流せます。ただ、そのためには、まず貢献や助かったことを見つける時間が必要になります。

Q&A

Q:噂話とゴシップの違いはどのように理解すればよいでしょうか。

このセミナーにおいて、組織ゴシップ研究で使われる「ゴシップ」という言葉は、日本語の「噂話」とほぼ同じ意味で用いています。そこにいない人について評価的な情報を広めたり話したりすることを指すので、噂話とイコールと考えていただいて大丈夫です。

Q:仕事のパフォーマンスへの影響は短期的なものなのでしょうか、それとも長期的に持続するのでしょうか。

この点については、私の知る限り、まだ十分な検証がなされていません。今後の本格的な研究が待たれるところです。ただ、論理的に考えると、ご質問の通り、長期的な持続性については疑問が残ります。

パフォーマンスが上がる背景には、成果に対するプレッシャーがあるわけですが、同時にウェルビーイングも下がっています。プレッシャーがあって頑張りつつ、ウェルビーイングが下がっているという状態では、中長期的には維持が難しいかもしれません。

Q:噂話の収集ばかりに奔走する管理職がいる場合、どう対応すべきでしょうか。

組織ゴシップは、情報収集の手段としての側面があります。場合によっては、公式的な情報より早く、新しい情報をキャッチできる方法でもあるのです。その意味では、噂話の収集自体はポジティブな面もあります。

ただ、それだけに頼るのは危険です。意思決定の質を高めるには、組織ゴシップ以外の情報源も活用することが重要だと伝えていくのが良いでしょう。その際、組織ゴシップの有用性も認めつつ、アプローチすることが大切です。

QSNSの発達・利用頻度が、噂話・ゴシップに与える影響についてはどう考えますか。

SNSに限らず、社内のチャットツールなど、ゴシップの伝達を速めたり増長させたりするメディアが登場していることは確かです。ちょっとした話が、あっという間に広がっていくことがあり得ます。

また、伝言ゲームのように内容が変化していく可能性もあります。こうした効果が、現代のメディアにはあるのではないかと思います。

Q:自分がいないところで褒められると、やる気が高まります。良い評判の有効性は高いと感じます。

自分がいない場所で褒めてもらえるのは、とても嬉しいものです。「そんな風に良く言ってくれたのか」と後からわかると、やる気が上がります。さらには、この会社では頑張ると誰かが見ていて、正しく評価してくれると感じられます。


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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