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導入事例

アサヒグループジャパン株式会社|キャリア自律を定義し、現状把握と効果測定を定量的に行う

コラムプロジェクト例導入事例

(左から)アサヒグループジャパン株式会社 キャリアオーナーシップ支援室 室長 林雅子様 、国武一徳様、野田幸代子様、株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆
※本インタビューにおける所属や肩書は、すべて取材時点(2024年3月)のものです。

アサヒビール、アサヒ飲料、アサヒグループ食品など、アサヒグループの日本事業を統括するアサヒグループジャパン株式会社。同社は2022年にキャリアオーナーシップ支援室を立ち上げ、社員の自律的なキャリア形成を多角的に支援しています。
アサヒグループにとってのキャリア自律を定義し、グループの社員のキャリア自律をめぐる現状、キャリア自律を促す要因、さらにはキャリア自律の効果を明らかにするため、当社にご依頼いただき、組織サーベイを実施しました。
組織サーベイの設計・実施・考察、その後の対策をご一緒した林様・国武様・野田様に、組織サーベイのプロジェクトを振り返り、お話を伺いました。

キャリアオーナーシップ支援室の立ち上げ

伊達:

最初にお聞きしたいのは、相談をいただく前に直面していた課題についてです。部門の立ち上げやキャリア自律の定義などに関する課題があったかと記憶しています。

野田:

2022年の9月に、私たちはキャリアオーナーシップ支援室を立ち上げました。この部署で中長期の計画を策定するにあたり、まず現状を正確に理解することが重要だと考えました。私たちのグループには1万人を超える国内社員がいますが、キャリア形成に対する意識や行動、私たちの施策がどのような影響を及ぼしているか、また、他の要因が社員のキャリア意識にどう影響しているかを知りたいと思いました。

伊達:

キャリアオーナーシップ支援室を立ち上げられたということですが、そもそもキャリアオーナーシップという考えに焦点を当てた背景は何でしょうか。

林:

私自身の経験として、会社に入社しても、自分のキャリアは自分で開拓しなければならないと強く感じていました。今からおよそ20年前、当時は、社内にキャリアを考える場がほとんどありませんでした。

そこで、社員が自分のキャリアを自律的に形成できるような環境を作りたいと思いました。これは最近では「キャリアオーナーシップ」という言葉で表されるようになった考え方ですが、まさに自分でキャリアを切り開くことの重要性を感じて、この活動を始めました。

伊達:

その思いが形になったというわけですね。草の根の活動から始まり、20年前はキャリアに関する研究が日本で注目され始めた時期でもありますね。

林:

その通りです。その時期にはキャリア関連の本も出版されていました。そうした本を読んで、キャリアに対する問題意識を深め、勉強を始めました。

伊達:

そのような経緯を経てキャリアオーナーシップという概念にたどり着き、グループ全体でこれを推進していくことになったのですね。

キャリア自律には様々な定義があり得る

林:

キャリアオーナーシップ支援室で進める「キャリア自律」については、多くの人が聞いたことはあるものの、具体的な理解は人それぞれで異なっています。この概念についての共通の理解を持つことが重要だと考え、定義を明確にしようと思いました。

伊達:

この頃は、行政の文書などでもキャリア自律という言葉を目にするようになりました。しかし、「キャリアが自律している」とはどういうことか、また「自律」とは何かについても、人によってイメージが異なります。

組織サーベイを実施するにあたり、キャリア自律に関する定義が必要になります。定義できなければ測定することはできません。そこで、キャリア自律の意味を明確にしていくことが求められました。

国武:

2020年夏に人事部キャリアサポートグループ(現組織の前身)で行ったSWOT分析から、キャリア自律に関する取り組みの目標設定が難しいという問題が浮かび上がりました。さらに、キャリア自律に向けた施策の効果を検証することが難しいという話も挙がりました。

林:

そうですね。定義の明確化、現状把握、目標設定、効果の可視化が必要です。

国武:

以降、毎年年末に行うSWOT分析において、キャリア自律施策の効果検証や目標設定の難しさが継続して指摘されていました。2年間の取り組みを経て、社員に対する施策の影響を可視化することが私たちの目指すところになりました。

林:

キャリアオーナーシップ支援室ではキャリア相談(キャリアコンサルティング)キャリアセミナーなどを通じて、社員のキャリア自律を高める努力をしています。これらの施策が実際に効果をもたらしているかを可視化したいと考えていたのです。

国武:

まさにそうした取り組みを長い間、望んできました。

伊達:

キャリア自律とは何かを定義することなく、現状把握や効果測定、目標設定は困難です。基礎となるキャリア自律の考え方を明確にし、キャリアの開発支援を受けた社員の状態を評価する必要があります。2020年から始まった活動の効果を可視化することも、今回のプロジェクトの目的の一つでした。

専門性の高さを実感する経験があった

伊達:

2022年9月にキャリアオーナーシップ支援室が設立された後、2023年に組織サーベイを実施しました。ビジネスリサーチラボをパートナーとして選んでいただいた理由について教えていただけますか。以前、アサヒプロマネジメントさんでもお手伝いしましたが、その時とは異なるテーマでした。今回、当社を選んでいただいた理由を伺えればと思います。

林:

統計的手法を用いた実証研究、つまりデータに基づく分析を行いたいと考えていました。コンサル会社に依頼するとアンケートを取って分析してくれるのですが、正直なところ、もっと深く分析してほしい気持ちがありました。

私は大学院で実証研究を行った経験があり、データに基づいた検証は現実に合っており、理にかなっていると確信しています。そのため、ビジネスリサーチラボさんに依頼しました。他にこのようなサービスを提供するところは少ないと思います。

伊達:

市場にはさまざまなデータ分析やサーベイのサービスがありますが、品質には差があります。他方で、専門性の高いサービスを提供するためには、依頼者自身もある程度の知識があるのが望ましい。林さんのように、ご自身で分析を行った経験があると、どのサービスが適切か判断しやすくなりますね。

林:

はい。近年は当社の中でもデータリテラシーを身につけることが推奨されていますが、実際に自分で研究を行うことで得られる知識は非常に大きいと感じています。その経験があったからこそ、貴社に依頼をしたと思います。

多くの企業が社内で組織サーベイを行いますが、その分析が十分に行われていないことが多いと感じています。私たちは、それを変えたいと思っています。

国武:

例えば、ある調査では、結果は数字が羅列されているのみで、概念間の関係性を見出す分析は行われていません。

林:

市場には、私たちが求めるレベルの実証的分析を提供する会社が他にありません。だからこそ、貴社に依頼させていただいたのです。

データをもとに伝えることは強力

伊達:

データ分析にはそれなりの知識、スキル、経験が必要ですね。20年前、いえ10年前と比べても、データ分析には専門性が必要なことが徐々に理解されつつあるとは思います。とはいえ、まだ完全に浸透しているわけではありません。

当社としても、貴社のように先進的な取り組みを進める企業からご依頼をいただけることはありがたいと感じています。

人事領域全体の質を向上させるためにも、データに関する知識を持つ人を増やすことが大事です。データリテラシーは汎用性が高く、多岐にわたるシーンで役立ちます。実際に手を動かす経験を持つことが、この分野の奥深さを理解するためには有効ですね。

林:

確かにそう思います。

伊達:

経営陣と話をする際にも、やはり数字が重要です。感覚的な表現ではなく、数字を使って説明することが求められます。

林:

数字の重要性は大きいですね。データリテラシーを高めることが大切だと思います。

伊達:

データリテラシーを向上させることで、キャリア領域においても、エピソードやストーリーだけでなく、定量的な解析が役割を果たします。

確かに、人類は長い歴史の中で寓話や伝承の形で知識を伝えてきました。しかし、統計学の発展により、定量的な解析も知識の伝達や生産の手段となっています。こうした視点が人事領域においてもさらに広がっていくことを願っています。

当社との出会いは十数年前にさかのぼる

伊達:

ここで当社のことを知ったきっかけについて教えていただけますか。

林:

はい、実は伊達さんがまだある先生の弟子だった頃に、セミナーでお会いしたのではないかと思います。私が2008年に人事部門に異動してから、様々な外部セミナーに参加していた時期です。

伊達:

もう16年ほど前の話になりますね。

林:

2008年から2010年頃の間だと思います。

伊達:

その後、貴社のグループ会社とも仕事をさせていただきました。アサヒプロマネジメントさんとは別の会社ですね。

林:

思い返してみると、株式会社ビジネスリサーチラボが立ち上がる前にお会いしたかもしれません。

伊達:

2008年から2010年ですと、まだ株式会社にはなっていなかったですね。有限責任事業組合でした。当時はまだ営業を始めたばかりで、人的ネットワークもほとんどなかったです。

林:

その後、貴社の開催する小規模なセミナーにも何度か参加しました。その時期に大学院にも通っていて、2013年から2015年頃にかけて専門的な知識や分析の勉強をしていました。

伊達:

その経験が後につながるわけですね。林さんのキャリアと、当社の立ち上げとその後の活動が連動しているのが興味深いです。どのようにして当社とのつながりを持っていただいたか、その流れが明らかになりました。

経営陣と一緒にキャリア自律とは何かを議論

伊達:

プロジェクトの内容に話を進めましょう。今回のプロジェクトでは、まず「キャリア自律」とは何かという点から始めて、組織サーベイを実施し、その結果を分析して提供しました。

この一連の流れで、キャリア自律をどのように定義するか、それに影響を与える要因は何か、また、貴社の施策が効果的だったかどうか、さらにキャリア自律を高めることの意義についても検証しました。

キャリアというテーマをめぐって、レクチャーからサーベイ実施まで幅広く取り組んだわけですが、特に印象に残っている点や発見があれば教えてください。

野田:

このプロジェクトを振り返って、「本当に取り組んで良かった」と思った瞬間があります。それは、プロジェクト初期に社長や役員を含む皆さんを対象にレクチャーを行った際、その場でディスカッションができたことです。

アサヒグループにおけるキャリア自律について話し合い、「成長」、「つながり」、「自分軸」というキーワードを抽出できたことが印象的でした。

伊達さんが「シーキング」という言葉を使って、成長を探求すること、人とつながること、そして自分軸を磨くことだと整理していただきました。これらのキーワードがその後の調査設計に大きく寄与しました。そのミーティングは非常に有意義で、その三つのキーワードがアサヒらしい価値観を表していると感じています。

伊達:

ミーティングでは多くの意見が出されましたね。

野田:

最終的にはそれらを集約して、アサヒグループにふさわしいキーワードに落ち着きました。そのプロセスが記憶に残っています。

多くの社員から回答をいただけた

伊達:

他に、特に印象に残っていることがあれば、教えていただけますか。

野田:

個人的に印象深いのは、組織サーベイに対して当初ネガティブな見方があったことです。組織サーベイが実施できない場合の代替案を相談させていただいたこともありました。

どうにかして組織サーベイを実施できる状態に持っていけた時は嬉しかったです。その一方で、実際にアンケートに回答してくれる人がいるかどうかという不安がありました。初日に1770名から回答があったと伊達さんからメールで知らされた時は、本当に安心しました。

伊達:

最初は分析に必要な最低人数がどれくらいかという話もしていましたよね。

野田:

そうです。少なくともこのぐらいはほしいというやりとりをしていました。最初は100人超えるかどうかも不安でした。

国武:

今振り返ると、組織サーベイを実施するタイミングも良かったですね。

野田:

はい、最終的に想像をはるかに超える多くの社員から回答を得ることができました。グループ内の他の組織サーベイにも引けを取らないのではないでしょうか。

伊達:

多くの回答が得られたこと自体、キャリアに対する関心の高さを示していると解釈できます。また、2020年からの活動が社員に受け入れられている証でもあるでしょう。

組織サーベイを実施していることに気づいてもらうことも一つの大きな課題でしたが、キャリア自律に関する事前の啓蒙活動が、受け取る準備を整えていたのではないかと思います。そのおかげで多くの回答を得ることができたのは良かったですね。

キャリア自律を3つのキーワードにまとめた

伊達:

国武さんはいかがでしょうか。

国武:

私の印象に残っているのは、先ほどの野田の話に重なるのですが、伊達さんが最初に経営陣を集めて行ったミーティングです。

経営陣を巻き込み、アサヒのキャリア自律について一緒に考える機会を設定してくださったおかげで、「成長」、「つながり」、「自分軸」というキーワードを経営陣と一緒に抽出することができ、共感を得ることができました。プロジェクトの大きな転換点だったと感じます。

また、組織サーベイを実施する以外のアイデアを出していただいた上に、組織サーベイの実施に向けて社内の理解をどう醸成するかという課題に対しても意見をいただきました。

伊達:

経営陣の理解を得ることは、どのようなプロジェクトを進める上でも重要です。ただし、もちろん簡単に理解を得られるわけではありません。経営陣が自らテーマに関与し、思考し、共感することが大切です。

今回のプロジェクトでは、話し合いの場を設けることで、キャリア自律という新しい概念について深く考え、三つのキーワードに集約することができました。

野田:

初めはキャリア自律を文章で定義しようと考えていましたが、伊達さんの提案でキーワード化する方向にシフトしました。これが後のアンケート設計にもスムーズにつながり、プロジェクトを前進させることができたと思います。

伊達:

構成要素は何かという問いに置き換えられたのが良かったですね。また、経営陣が自らキャリアに関する言葉を発することで、キャリアという概念を自分事として考える機会になりました。これが後に、キャリア自律に対する受容力を高める効果があったのではないでしょうか。

国武:

経営陣も自分の言葉でキャリア自律について語ることで、プロジェクトに対する関心や理解を深めることができたと感じます。

アサヒらしいキャリア自律の定義にする

伊達:

他の人の意見を聞くことの重要性もあるでしょう。経営陣にとって、慣れないトピックについて公式に意見を求められた際の緊張感は想像以上に大きいと思います。

自分があまり詳しくない分野について、責任を持って発言することにはプレッシャーが伴います。社員や他の経営陣との意見の齟齬を懸念するかもしれません。さまざまな不安が湧いてきて当然です。

国武:

そういう立場ですもんね。

林:

確かに、気軽に発言するわけにはいきません。

伊達:

自分の発言が対外的に影響を与える可能性があるため、慎重になります。しかし、社内の意見を聞く機会があれば、様々な視点を知ることができ、共通の理解や「アサヒらしさ」のような企業のアイデンティティを再確認できます。

そうなると、自信を持って発言できるようになります。こうしたことができるのが、今回のプロジェクトの冒頭で行ったミーティングの意義ではないでしょうか。

国武:

共通点を見つけるというのは素晴らしい表現ですね。対立を生むのではなく、むしろ一致点を見つけるわけですから。

伊達:

共通の価値観が、その会社固有の特徴につながり、それを知っている、あるいは、内在化していることが、自信を持って発言するための基盤になります。

自信を持って施策を進められる

伊達:

今回のプロジェクトではキャリア自律に関する組織サーベイを行いました。組織サーベイを通じて得られた知見をもとに、今後どのような取り組みを進めていく予定ですか。

野田:

組織サーベイと並行して、2022年以降、年次計画や中期計画の策定にも取り組んでいました。分析結果から、様々な指標が成果にどう影響しているかが明らかになりました。

私たちは以前からeラーニングやキャリアセミナー、キャリア相談といった活動を行ってきましたが、今後はさらに発展させ、セルフ・キャリアドックを中心に据えた活動を展開していこうと考えています。

組織サーベイの結果では、私たちの施策がキャリア意欲を高める効果があるということが示されましたが、実際の利用者数はまだ少ないという課題も浮き彫りになりました。これらをもとに、より積極的な計画を立て、自信を持って推進していけそうです。

伊達:

セルフ・キャリアドッグの取り組みはソーシャルメディアで拝見したかもしれません。

野田:

セルフ・キャリアドックの導入イベントを開催し、外部の専門家による講義やパネルディスカッションを行いました。このイベントはリアルとオンラインのハイブリッド形式で実施し、多くの社員が参加しました。このような取り組みが、キャリア自律を促進する環境を整えることにつながっていくはずです。

伊達:

キャリア開発支援が有効であることが、今回の分析から分かりましたよね。一方で、利用者がまだ多くないという課題もありますが、組織サーベイへの回答率を見る限り、キャリアに対する関心は低くないでしょう。

関心があるにも関わらず利用者が少ないのであれば、関心を持っている社員に対して後押しすることができれば、利用しようと考える可能性があります。そうなると、より大きな成果を期待できそうです。

社内にも分析結果を伝えている

伊達:

効果が認められると、自分たちが準備した取り組みに意味があると分かり、自信につながりますね。また、自分たちの取り組みを他の場で説明する際にも役立ちます。

野田:

得られたデータをもとに作成したコンパクトなシートを社内で共有しています。どのような要因が影響しているのか、また私たちの施策の効果がとても分かりやすくなっています。

特に、上司と部下のキャリア支援の関係性が、私たちがもともと抱えていた課題の一つでした。今回のデータ分析で、上司の関わりがメンバーのキャリア意欲に間接的に影響していることが明らかになりました。上司から支援を十分に受けていると感じる社員を増やしていきたいと思います。

林:

私たちの計画では、キャリア相談の回数を増やすことを目標にしていましたが、社内からは「それが本当に効果的なのか」という疑問が持たれていました。しかし、今回のサーベイ結果で、私たちの取り組みが実際に効果をもたらしていることが証明され、相談機会の増加を目標とすることの妥当性を主張できるようになりました。非常に心強いことです。

伊達:

素晴らしいですね。

国武:

例えば、キャリア相談には一般的に効果があるというのは理解していましたが、私たちの環境で私たちの方法で行った取り組みが効果的であることが明らかになったことには、大きな意味があります。

林:

まさにそうです。この結果はありがたいものでした。

伊達:

自社の社員が自社の施策について回答したデータを分析したものですから、社内における価値は一層のものですね。

林:

先週の年次計画発表会でも、サーベイ結果を各部門に共有することができました。

伊達:

組織サーベイが実際に役立っていくと、当社としてもやりがいも感じます。「勉強になりました」という状態を超えていくことができます。

キャリア自律がインクルージョンと関連する

林:

今回の組織サーベイで、キャリア自律がインクルージョンとウェルビーイングといったアウトカムと関連していることも明らかになりました。これは、直感的に感じていたことが実証された意味で、発見です。

伊達:

特に、キャリア自律とインクルージョンとの関連については興味深いですね。

林:

個人が自律していなければ、インクルージョンを推進することは難しいはずです。自分自身の独自性を理解し、他者との違いを認めることができなければ、本来のインクルージョンは成立しません。

国武:

違いを認識できなければ、進まないですよね。

林:

今回の組織サーベイでそのことが検証されたことは良かったです。

伊達:

例えば、キャリアオーナーシップ支援室とダイバーシティ部門という、部署間の連携も強化できそうです。

林:

当社のDE&Iのありたい姿にはキャリアオーナーシップが組み込まれています。そのことが実際に検証されたことは大きな前進です。

国武:

経営陣とのミーティングに際したメモにもDE&Iは取り上げられていましたね。

林:

そうです。そのことを踏まえて、インクルージョンをアウトカムに加えることにしました。

施策による行動変容を可視化していきたい

伊達:

今後の取り組みについてお伺いします。とりわけ、キャリアとデータの結びつきは一般的ではないため、今後の展望や構想をお聞かせいただきたいです。

野田:

キャリアとデータの関連付けは、当社でも、これまであまり進んでいなかった領域です。今回、私たちは社員の意識や施策の効果を、データを通じて把握することができました。特に、キャリア形成支援の施策がキャリア意欲を高める効果があること、そして参加者の満足度が高いことが分かりました。

今後は、これらの施策を受けた後の、社員の具体的な行動変容までをデータ化し、検証していくことを考えています。行動変容を促す要因を理解し、さらに効果的な支援を提供できるようになりたいと思います。

伊達:

素敵な目標ですね。行動につながる要因を明らかにできれば、より効果的な支援策を打ち出せるでしょう。小さな変化を促すための施策が何であるか、その理由を深掘りすることは重要です。

野田:

今年は、そういった方向での取り組みを強化していきたいと思っています。

伊達:

具体的な行動に移せるような様々な支援が必要となりそうです。キャリアについて振り返って終わりではなく、キャリア自律に向けた行動変容を促していけると、本質的な前進になります。

林:

行動変容を促す支援は、多くの人が求めています。ただ意識を高めるだけでなく、行動に移せるような後押しができれば、大きな効果が期待できます。

国武:

セミナーや面談が有効であることは分かっていますが、それがどのような行動をもたらしているのかを明確にすることが次のステップですね。

意識と行動の変化を維持する介入

伊達:

キャリア開発についてよく耳にするのは、経営層からの意見で、「キャリアに対する意識だけ高まっても仕方ない」というものです。

勉強の意欲に置き換えてみると、勉強したいという気持ちだけが高まっても、実際に勉強をしなければその意欲は維持できません。行動が伴わないと意識も維持しにくいのですね。キャリア開発も、自分を探求し続けたいと思い続けるためには、何か行動を起こす必要があります。

野田:

行動を起こすことで、意識がさらに高まるんですね。

林:

それを組織サーベイで測定することもできるのですか。

伊達:

はい、できる部分もあります。例えば、キャリア形成支援の直後は意識が高まりますが、その後1ヶ月もすると下がってしまいます。持続しないので、何かしらの介入が必要です。

林:

行動を促す介入を行って、意識が下がっていなければ、そして、行動変容が維持できていれば、一定の評価になりますね。

伊達:

そうです。意識も行動も維持するのは難しいものです。通常は時間が経つと関心が薄れ、行動も消えていきます。

本人の周囲にも働きかけていく

野田:

私たちだけで全ての行動変容を支援できるとは思っていません。身近な人、特に上司の関わりが重要だと考えています。

伊達:

上司や周囲のサポートがあると、背中を押される感じがします。

野田:

私たちは年間を通して限られたポイントでしか関われませんが、上司ならば日常的に、継続して社員と関わることができます。その意味で、上司や周囲の人たちをサポートすることも、私たちにとって重要な役割です。

伊達:

行動変容を起こすには、本人だけではなく職場の要因も効いてきます。職場によっては、行動変容が起きにくい環境もあるでしょう。良い上司がいることや、サポートする文化があることなど、ポジティブな要因を示すことができれば、「これが大事だから取り組んでください」と伝えやすくなります。

林:

今後は、それを検証することが重要ですね。

伊達:

どの施策がどのように行動変容につながるのか、それを理解することができれば、必ずしも全員が行動変容していなくても、対策のヒントになります。

林:

そうですね、結果が全てではなく、そこから何を学べるかが大事です。

国武:

もちろん良い結果が出るに越したことはありませんが、たとえ良い結果が出なくても、そこから教訓が得られるのであれば十分です。

研究と実務の距離が近くなれば

伊達:

データを活用することで、次の施策を考えたり、経営陣への報告や提言をより強化したりすることができます。貴社がキャリアの領域でデータ活用を進めることで、他の企業も興味を持ってくれると良いですね。

林:

ところで、大学院で感じたのですが、アカデミックな研究は豊富に行われていますが、その知見が実務に活かされていないのがもったいないと感じています。実務とアカデミックの世界をつなげることが重要ですね。

伊達:

産業界と学術界は必ずしも同じ言語と文法を持っているわけではないので、研究知見を実務の文脈に翻訳する必要があります。講演を行う、あるいは聞くだけでなく、実務にどう埋め込むかが大事です。

林:

研究と実務が分断されているのはもったいないことです。

伊達:

知識を得た後で活用先を探すのは簡単ではありません。例えば、実際に直面している課題に対して適切な知見を提供できれば、理論と実務の距離を縮めやすくなります。当社では、今後もそのような活動を続けていければと思います。

#伊達洋駆

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