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コラム

職場でサポートを醸成するには:一筋縄ではいかない性質

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皆さんの職場では、助け合いが自然に起きていますか。例えば、仕事で抱え込んで困っている同僚がいたら、誰か手伝おうとする人がいるでしょうか。

本コラムでは、職場におけるサポートに焦点を当てます。まずは、そのようなサポートの有効性について指摘している研究知見を紹介します。

しかし、どのようなサポートであっても等しく効果があるわけではありません。サポートの質によって効果が左右されることが示されています。

さらに、サポートは基本的に良い影響をもたらすものの、完ぺきではありません。むしろ、サポートには少々難しい側面があります。サポートの扱いにくい特徴にも触れます。

本コラムは、職場におけるサポートという有益でありながらも奥深い現象を理解するための最初の一歩となることを目的としています。

サポートを受けると健康になる

うまくいかないときでも、そうでないときでも、サポートを受けると嬉しい気持ちになります。サポートを受けることには様々な効果が示されていますが、ここでは特に、人々の健康に与える有益な影響について紹介しましょう[1]

神経内分泌系の一つであるHPA軸は、例えばストレスの状態から回復するために重要な役割を果たします。HPA軸によって調節されるコルチゾールは、起床時に最も高い値を示すものの、日中にかけて大きく低下し、夕方以降ゆっくりと低下して夜間に最も低くなります。

これを一般に概日リズムと呼びます。概日リズムが崩れると、体内時計が外部環境とうまく連動しなくなり、心身に悪影響を及ぼす可能性があります。これは睡眠障害につながったり、心理的な問題をもたらしたりする可能性があります。

生理学的な話をしているのは、実はサポートを受けることが神経内分泌系の機能に寄与し、心身の健康につながることが実証されているからです。

研究では、特に上司からのサポートが高い人は、サポートが低い人よりもコルチゾールの曲線が二次関数的な傾斜を示すことが明らかにされました。要するに概日リズムが良好だったのです。さらに、コルチゾールのパターンはBMIBody Mass Index)の増加を緩和することも報告されています。

他方で、同僚からのサポートではこのような効果は認められず、上司からのサポートが特に社員の健康に影響を与える可能性があることが示唆されます。

サポートが社員の健康に大きなインパクトを持ちうることは想像に難くないのですが、これが実際に検証されていることは興味深く、サポートの重要性と深刻性をまさに表していると言えるでしょう。

サポートの提供者は孤独感が下がる

先ほどの研究は、特に上司からのサポートを受けることが有効であることを示していますが、サポートを提供する方はどうでしょうか。

サポートを提供することが、提供者自身にも好影響を与えることが明らかになっています。具体的には、2つの実験を通じて、まず、サポートをすることが孤独感を減らすことが分かりました[2]

孤独感は、個人が望む人間関係の質と現在の人間関係の質が一致していない場合に高まりますが[3]、サポートを行うことで、例えば支援した相手とのつながりを感じるようになり、孤独感が薄れるというメカニズムが想定されます。

この結果は、人が孤独感を覚えると人との接触を避けがちになるが、そのような行動が孤独感を長引かせる要因になる一方で、他者へのサポートを行い、関わろうとすることが孤独感を減らす鍵となることを表しています。

また、サポートを提供することは、提供した側にポジティブな気持ちをもたらします。例えば、他者を助けることで共感や連帯感を強めたり、自分が価値のあることをしていると感じ、自己評価が高めたりするといった効果があり得ます。

この研究は、他者を助ける行動である向社会的行動を取り扱っており、実験では贈り物をすることや感謝の手紙を書くこととして定義されています。向社会的行動は、本コラムで議論する職場におけるサポートよりも広い概念ですが、前者に後者も含まれると考えられるため、本コラムに対する含意もあります。

自律的動機に基づくサポートが有効

これまで見てきたように、サポートを提供することも受けることも、双方ともに有効であることが明らかになっています。しかし、すべてのサポートが等しく有効であるわけではありません。サポートの質に関して示唆を与える研究を紹介しましょう[4]

人のモチベーションは大きく、自律的動機と統制的モチベーションに分けられます。自律的動機は、内的な興味関心や価値観に基づいて行動することを意味し、統制的動機は外部からのプレッシャーや期待によって行動することを意味します。これらは内発的および外発的という言葉に対応づけることができます。

研究によると、自律的動機に基づくサポートと統制的動機に基づくサポートでは異なる効果が得られました。

具体的には、自律的動機に基づくサポートは、それを行った本人がその行動の重要性を認識し、他者への思いやりを通じて自分自身に活力をもたらします。他方、統制的動機に基づくサポートは、罪悪感や羞恥心などによって引き起こされるため、ネガティブな感情を伴いやすく、実際に抑うつ、不安、ストレスが高いと報告されています。

さらに、自律的動機に基づくサポートについて振り返ると、ポジティブな感情が高まり、将来的にサポートをしたいという意欲が高まることが示されています。これは、未来の行動にも影響を与える点で注目に値します。

これらの結果から、同じサポートであっても、自己から発せられるエネルギーに基づいたものの方が、サポートする側のウェルビーイングにとって有益である一方で、他者からの要求や脅威、報酬によってサポートすることはあまり良い結果をもたらさないことが理解できます。

3つの欲求を増やす環境を作る

自律的動機に基づくサポートが統制的動機に基づくサポートよりも有益であることが理解できたので、次に考えるべきは、どのようにして自律的動機に基づくサポートを増やすかです。

自律的動機についてより深く理解するためには、その背景にある自己決定理論に注目すると良いでしょう。自己決定理論では、自分で選んで行動する「自律性」、自分が効果的に振る舞えると感じる「有能感」、他者とのつながりを感じる「関係性」という3つの基本的な欲求を満たすことが重要だとされています。

自律的動機に基づくサポートを増やすためには、これらの欲求を満たす環境を作り出すことが有益です。

例えば、自分の興味関心や価値観に基づいて、自分なりの成長目標を立てることが一つの方法です。自ら成長目標を設定することで、自律性の欲求が満たされ、自律的動機が喚起されます。自律的動機が高まると、外部からの報酬や圧力ではなく、自分自身の意思で行動することになり、そのような状態でなされるサポートは自律的動機に基づくものとなります。

また、職場において小さなことでも構わないので、お互いに感謝を表明し合うことも効果的です。相互の感謝は関係性の欲求を満たし、自律的動機を駆動させます。そのような状態になれば、自律的動機に基づいて他者をサポートしようという意欲が生まれます。

さらに、能力開発の機会を積極的に提供することも役立ちます。新しいスキルや知識を得ることは有能感を促し、自律的動機を高めます。学習したスキルや知識を活かしてサポートするようになれば、自律的動機に基づくサポートが実現するでしょう。

エンパワーメント的サポートがおすすめ

サポートを行う側の自律的動機と統制的動機に関する議論を経て、サポートを受ける側から見たときのより有効なサポートの質について考える必要があります。

どのようなサポートを受けると有益なのか、その効果が性別によってどのように異なるか、あるいは同じなのかを検討した研究を取り上げます[5]

研究では、「エンパワーメント的サポート」と「非エンパワーメント的サポート」の2種類を区別しています。エンパワーメント的サポートは、受け手が能動的であり、問題解決のスキルや知識を身につけることを目指すサポートです。他方で、非エンパワーメント的サポートは、受け手が受動的であり、すでに出来上がっている解決策を提供するサポートを指します。

この分類は、「授人以魚 不如授人以漁」という孔子の言葉を思わせます。これは、飢えている人に魚を与えるのか、それとも魚の釣り方を教えるのかという選択に関する格言です。

エンパワーメント的サポートを受けると、受け手は自分の能力レベルに対する自信が高まり、仕事上の目標に向けて積極的に進むことがわかりました。また、エンパワーメント的サポートの効果について性別による差は認められず、男女で同等に有効でした。

一方、非エンパワーメント的サポートを受けた場合、受け手は自分の能力レベルに対する自信が低下する傾向があります。これは、非エンパワーメント的サポートが受け手の自律性を侵害し、自己評価を下げることに関連していると思われます。

性別に関しては、非エンパワーメント的サポートを受けた女性は特に、自身の能力レベルに対する認識が低くなることが示されています。これは、能力やリーダーシップを低く見積もるステレオタイプが女性に対して潜在しているためです。

自分の集団に対する否定的なステレオタイプを意識することで、ステレオタイプに従った行動をとる傾向を「ステレオタイプ脅威」と呼びます。非エンパワーメント的サポートによってステレオタイプ脅威が強化され、女性の自信が損なわれている様子が見えてきます。

サポートしてくれた相手を貶める

先に挙げた研究知見から、サポートの受け手と提供者の間で生じるダイナミクスについて理解が深まったかと思います。ここでは、サポートの受け方に関するさらなる複雑性を明らかにした研究を見ていきましょう[6]

この研究は、特定の条件下でサポートを受けた人が、そのサポートを提供した人に対して否定的な評価を下し、評判に悪影響を及ぼすような行動をとることがあると指摘しています。これは興味深い研究であり、サポートが必ずしも肯定的な結果をもたらすとは限らないことを示しています。

サポートを受けることで、自分の地位が脅かされると感じることがあります。自分の能力や貢献が周囲に適切に認識されていないのではないかと感じ、不安、ストレス、不満を高めるのです。特に、サポートの受け手がサポート提供者を自分よりも能力が高いと認識している場合に、この傾向が強まります。

問題は、有能なメンバーからサポートを受けて地位の脅威を感じた受け手が、サポートを提供してくれた相手に対して、仕事上の妨害や無視などの行動をとる動機が形成される点にあります。このような行動は、受け手が自分の地位を守り、相手の地位を下げることで地位の差を埋めようとする実践と見ることができます。

サポートは必ずしも好影響をもたらすわけではなく、場合によって提供者を貶めようとする受け手の行動を引き起こす可能性があります。受け手と提供者の間の関係性や双方の能力によって、サポートの効果が影響されることを理解しましょう。

サポートのタイミングと方法を調整する

サポートと貶める行動の関係を検証した研究結果は、私たちに難しい課題を提示しています。単にサポートを促進するだけでは、すべてがうまくいくわけではありません。では、どのようなアプローチを取れば良いのでしょうか。

一つの考え方として、サポートのタイミングと方法を慎重に調整する必要があります。サポートは、受け手がそれを必要としているときに提供されるべきです。タイミングを合わせることで、サポートの有用性が地位脅威を上回るかもしれません。

直接的には、受け手が自らサポートを求めることが重要です。自分からサポートを求めることで、ニーズに応じたサポートが自然と提供されるようになります。

さらに、サポートの方法にも注意が求められます。ある人に対しては教育的なアプローチが有効かもしれませんが、別の人には質問を中心としたコーチングが適している可能性があります。

定期的な公式化も、サポートをめぐる複雑な効果をいくらか緩和する方法の一つです。例えば、週に一度、15分間、ペアで現状を共有し相互に助言を行うことを習慣化するなどの取り組みが考えられます。ただし、このような方法が統制的動機に基づくサポートへと転化しないようにする必要があります。

脚注

[1] Gonzalez-Mule, E., and Yuan, Z. (2022). Social support at work carries weight: Relations between social support, employees’ diurnal cortisol patterns, and body mass index. Journal of Applied Psychology, 107(11), 2101-2113.

[2] Lanser, I., and Eisenberger, N. I. (2023). Prosocial behavior reliably reduces loneliness: An investigation across two studies. Emotion, 23(6), 1781-1790.

[3] Heinrich, L. M., and Gullone, E. (2006). The clinical significance of loneliness: A literature review. Clinical Psychology Review, 26(6), 695-718.

[4] Kelley, N. J., Weinstein, N., Smith, E. E., Davis, W. E., Christy, A. G., Sedikides, C., and Schlegel, R. J. (2022). Emotional, motivational and attitudinal consequences of autonomous prosocial behaviour. European Journal of Social Psychology, 53(3), 486-502.

[5] Lee, Y. E., Simon, L. S., Koopman, J., Rosen, C. C., Gabriel, A. S., and Yoon, S. (2023). When, why, and for whom is receiving help actually helpful? Differential effects of receiving empowering and nonempowering help based on recipient gender. Journal of Applied Psychology, 108(5), 773-793.

[6] Tai, K., Lin, K. J., Lam, C. K., and Liu, W. (2023). Biting the hand that feeds: A status-based model of when and why receiving help motivates social undermining. Journal of Applied Psychology, 108(1), 27-52.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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