2024年2月1日
ネガティブ・フィードバック:耳の痛い話の伝え方
本コラムでは、ネガティブ・フィードバックに焦点を当てます。詳細は後述しますが、ネガティブ・フィードバックとは、相手に改善点を指摘することです。
ネガティブ・フィードバックが必要な場面はありますが、時には相手を傷つけ、逆効果となることもあります。取り扱いが難しい行動です。
ネガティブ・フィードバックをどのように行えば良いでしょうか。フィードバック研究の知見を手がかりに、この問いにアプローチするのが本コラムの目的です。
本コラムをお読みいただくことで、ネガティブ・フィードバックを実施する際のヒントを一つでも得られれば幸いです。
ポジティブ・フィードバックとネガティブ・フィードバック
仕事の中でフィードバックを行う機会はたくさんあります。例えば、年に一回の面談で部下のパフォーマンスを評価することや、プロジェクト終了後の振り返りを行って次に活かすことがあります。
定期ミーティングなどで進捗を確認するタイミングで今後の進行のためにコメントすることもありますし、仕事上の問題が発生した際に解決策を伝えるのもフィードバック場面の一つです。
パフォーマンスや能力に関する情報を提供することが、フィードバックの意味するところです[1]。本人の働きぶりやスキルがどうかを他者から伝えられるケースが特に想定されます。
上手にフィードバックを受けることによって学習が進み、仕事のモチベーションが高まって改善もなされることが、これまでの研究で明らかになっています[2]。
フィードバックはポジティブなものとネガティブなものに分かれます。ポジティブ・フィードバックは、相手のパフォーマンスを肯定的に評価したり称賛したりすることを指します。これは良いパフォーマンスを強化し維持するために行われます。
ネガティブ・フィードバックは、改善が必要な行動を指摘することです。それは批判的な意見を含むかもしれませんが、相手に問題を認識させ、成長する機会を作り出すことを目指します。
ネガティブ・フィードバックが求められる背景
本コラムでは、ネガティブ・フィードバックに注目します。ネガティブ・フィードバックは、仕事の日常で、自分が受ける立場、行う立場、または目撃する立場になることがあります。
例えば、仕事の品質に対して問題を指摘するケースがあります。報告書を作成し上司に見せて、「この報告書には◯◯という分析が抜けている。それは重要な分析で不可欠だから、これを追加して考察をやり直してほしい」と助言されたとき、それはネガティブ・フィードバックと言えます。
他にも、プロジェクトリーダーから「タスクの締切を何度か過ぎている。これでは他の人の仕事にも遅れが生じる。締切をきちんと守るよう時間管理の方法を改善してほしい」と言われるのも、ネガティブ・フィードバックの一例です。
これらの例から分かるように、ネガティブ・フィードバックは単なる文句や不満ではありません。あくまで相手の行動変容を目的にしており、そのための情報提供です。
ネガティブ・フィードバックがゼロで済む組織は想像しにくく、組織の中で必要不可欠だと考える人が多いでしょう。
すべての人がいきなり適応的な思考や行動を取れるわけではありません。これは当たり前の話です。思考や行動のパターンを修正する上で、ネガティブ・フィードバックが必要であると指摘されてもいます[3]。
ネガティブ・フィードバックが適切に与えられれば、それは相手にとって学習の機会となります。うまくいかない点を認識し、スキルを高める第一歩となります。
また、潜在的なリスクや問題に早期に気づくことができます。そのため、リスクマネジメントのために重要です。
ネガティブ・フィードバックは、受け取る個々人にとって有効になり得るだけではなく、組織にとっても持続的な成長を実現し、非効率を防ぐことにつながります。
ときに悪影響をもたらす理由
ネガティブ・フィードバックが成果をもたらすこともありますが、簡単なことではありません。ポジティブ・フィードバックが相手に自信を与える一方で、ネガティブ・フィードバックは相手を脅かす可能性があり、受け入れにくいとされています[4]。
実際、ネガティブ・フィードバックは時にパフォーマンスの向上をもたらさないことが検証されています[5]。では、ネガティブ・フィードバックが効果に簡単に結びつかない理由とは何でしょう。
一つの理由は、ネガティブ・フィードバックが受け手にネガティブな感情を引き起こさせることです[6]。問題点を指摘された人は感情的になり、自己防衛の姿勢を取ることがあります。フィードバックの内容よりも感情が焦点となり、本来の目的が達成できなくなる可能性があります。
また、ネガティブ・フィードバックは受け手の自尊心を傷つける可能性があります。自尊心が低下すると、行動の積極性が失われ、良い改善案をもらっても実行できず、効果が得られなくなります。
ネガティブ・フィードバックは、それを行う者と受ける者の関係にヒビを入れることもあります。信頼関係は円滑に働いていく上での基盤となりますが、それが揺らぐと様々なタスクに悪影響を及ぼしかねません。
ネガティブ・フィードバックはやる気を削ぐこともあり得ます。やる気が低下すると、短期的にやらなければならない仕事には取り組めても、長期的な目標達成に向けて進むことや難易度の高い仕事に対して消極的になります。
確かに、ネガティブ・フィードバックは適切に機能すれば、人や組織に大きな成果をもたらすかもしれません。しかし、取り扱いに注意が必要な方法であることは間違いありません。
相手のネガティブな感情に寄り添う
ネガティブ・フィードバックが逆効果にならないために、相手が抱くネガティブな感情に対応することが重要です。
ここで言うネガティブな感情とは、例えば怒り、悲しみ、攻撃性、不公平感などを含みます。そうした感情に対応することが求められます。
感情は人を動かし、仕事の成果に影響を与えます。感情を経験すると、その感情に対処することが他の行動よりも優先されるからです[7]。
ネガティブな感情に寄り添う方針を基本とすべきです。例えば、相手の感情を理解しようと努め、共感を示します。そうすることで、相手は自分が受け入れられていると感じ、前向きになれるでしょう。
そのためには、相手の話をじっくり聞きます。話を遮らず、丁寧に傾聴することで、相手の状況や心情を理解しようとします。
ネガティブな感情が一見合理的ではないように感じても、否定したり軽くあしらったりしてはなりません。そのような態度をとられると、相手は自分に対する自信をさらに失い、フィードバックに集中できなくなります。
ただし、ネガティブな感情の処理には、それなりの時間がかかることも認識しておくべきです。すぐに気持ちを切り替えるよう急かすことは望ましくありません。相手に感情を整理する猶予を与え、そのことを尊重しましょう。
相手のレベルに合わせて情報を提供する
ネガティブ・フィードバックの内容には特に注意を払う必要があります。重要なのは、そのレベル感です。
あまりにも難易度が高いフィードバックを行うと、相手は圧倒されて「自分にはできない」と感じます[8]。これは自然な反応ですが、そうなると改善にはつながりません。
逆に、あまりにも簡単なフィードバックも良くありません。相手は「これで良いのか」と感じ、成長の可能性を作り出せずに終わってしまいます。
適切なレベルのネガティブ・フィードバックを提供するためには、相手のスキルや経験を把握することが欠かせません。そのために、相手の過去の働きぶりや実績を見直してみます。成果物や完遂したタスク、参加したプロジェクトを調べることで、相手のレベルを推測できます。
可能ならば実際に相手が働く様子を観察しましょう。百聞は一見にしかず、ということわざもあります。情報に基づく推論も必要ですが、実態を目にすることで具体的なレベルを評価できます。
相手の周囲の人から話を聞くのも一つの方法です。いくつかの視点を得られれば、それらの間にギャップがあることも珍しくありません。ギャップは考える素材を与えてくれます。自分の評価の精度を高めることができるでしょう。
また、相手に自分自身のレベルを評価してもらうのも一つの方法です。自分のことは自分が一番分かっている場合もあります。もちろん、鵜呑みにするのではなく、一つの情報として扱う姿勢が必要です。
しかし、結局のところ、普段からの会話を高い頻度で行うことが、遠回りのように見えても有効かもしれません。情報交換を細かく行うことで、より精度高く相手のレベルを把握できます。
こうした方法を通じて、レベルを把握した上で、それを考慮したフィードバックの内容を提供しましょう。
自己肯定感の高い人に行う
ネガティブ・フィードバックは、誰に対しても等しく行動変容をもたらすわけではありません。相手によって相性が良い場合もあれば、そうでない場合もあります。
できれば、相性が良い人を見極めて、その人に焦点を当ててフィードバックを提供したいところです。では、どのようにして良い相性を見極めれば良いのでしょうか。
まず、自己肯定感が高い人は、ネガティブ・フィードバックに対して相性が良いと言えます[9]。ネガティブ・フィードバックは相手を脅かす性質を持つことがありますが、自己肯定感が高いと、行動に悪影響を与える水準を低く保つことができます。
問題点を指摘されても、「自分のパフォーマンスを高めるために言ってくれた」と感じることができれば、行動変容に至る距離はぐっと近くなります。
そのような人を見極めるには、例えば、自分の意見をはっきりと表明したり、挑戦的な仕事や困難な状況にも積極的に取り組んだりするようなタイプの人を探すと良いでしょう。
自分が成功した時にそれを仲間と共有し、たとえうまくいかない時でも建設的な態度を保ち、成長のチャンスと捉える人は、自己肯定感が高い可能性があります。
また、他人の成功を脅威に感じずに一緒に喜ぶ人も、自信を持っている証拠です。こうした人はネガティブ・フィードバックに対して相性が良いと考えられます。
成長志向の高い人の相性が良い
自分の能力を高めたいと考えている人には、ネガティブ・フィードバックの相性が良いと言えます[10]。これは想像しやすいことですが、そうした人はネガティブ・フィードバックを成長の糧にしようとします。
ネガティブ・フィードバックは、適切に受け止めることができれば、最高の教材となり得ます。そのスタンスで臨めば、フィードバックからより適応的な行動を導き出すことができます。
つまり、成長志向が高い人にはネガティブ・フィードバックがおすすめです。しかし、そのような人をどう見極めれば良いのでしょうか。
まず、自己成長のために積極的に時間を使っているかどうかが判断基準になります。新しいスキルや知識を得ることに熱心な人は、学習や成長に関連する活動に参加しているはずです。
安定した環境を好むよりも、多少の困難や未知な状況にも思い切って飛び込んで挑戦しようとする人も、成長志向が高いと考えられます。
成長志向の人は、自ら周囲にフィードバックを求めていることがあります。フィードバックは成長をもたらすきっかけであり、彼ら彼女らにとってはある意味で「ごちそう」なのです。
このような人を見つけたら、ネガティブ・フィードバックを提供しても問題ないでしょう。それどころか、喜ばれる可能性さえあります。
正確性が求められる仕事で有効
仕事の種類によって、ネガティブ・フィードバックが有効になるか否かが変わります。この点も重要な考慮事項です。
創造性が必要な仕事、つまり新しいアイデアや革新的な方法を生み出すような、前例のない方法を探求するタスクでは、ポジティブ・フィードバックがより良い結果につながります。
一方で、正確性が求められる仕事、つまり高いレベルの精度で注意深くプロセスを守ることが必要なタスクでは、ネガティブ・フィードバックが効果を発揮すると報告されています[11]。
創造性が必要な仕事ではネガティブ・フィードバックをおすすめしないものの、正確性が必要な仕事では積極的に提供する方が良いということです。それぞれの仕事の具体的な例を挙げてみましょう。
創造性が必要なタスクの例:
- 新しいサービスのアイデアを出すブレインストーミング
- 市場ニーズを考慮した解決策の提案
- ユニークなプロモーション方法の検討
- ターゲットの心に響く独創的なメッセージの作成
- 事業や組織の新しい戦略の立案
正確さが必要なタスクの例:
- 様々なデータの正確な入力
- 誤りのないレポートの作成
- 正確な記録の作成と報告
- 基準に基づいた文書の作成
- サービスの品質の検査
仕事の性質に応じてネガティブ・フィードバックを実施すべきかを考えることが重要です。
まずは関係を構築する
ネガティブ・フィードバックの効果においては、「誰から言われるか」という点がポイントになります。上司と部下の関係性が良好な場合、部下は上司に対して積極的にネガティブ・フィードバックを求めることが明らかにされています[12]。
親しくない人からのダメ出しは、面目を失うと感じ、フィードバックの内容を受け入れにくくなります。ネガティブ・フィードバックを行う側である上司は、部下との関係を深める努力を行わなければなりません。
例えば、普段から部下とのコミュニケーションの場を設けます。個別面談などプライバシーが守られた、部下の意見や懸念を共有しやすい環境を作りましょう。
コミュニケーションを行う際、上司が一方的に話すのではなく、傾聴に徹します。部下の置かれた状況を理解し、人間として尊重すること、部下の個々の事情を大切に扱います。
さらに、部下のキャリアサポートにも積極的になるべきです。話を聞くだけでなく、実際に人を紹介したりトレーニング機会を提供したりすることで、部下の発達を手助けします。
上司は複数の部下を持つことが多いので、判断には透明性を持ち、公正な態度を貫くことも大切です。不公正感は関係を傷つけます。
これらの取り組みは、時間をかけて丁寧に積み重ねます。信頼関係は一朝一夕には深まりません。粘り強く継続することで着実に関係構築が進みます。
良好な上司部下関係は、ネガティブ・フィードバックの効果を引き上げるインフラとして機能します。
ボトムアップのフィードバックも良い
ここまで上司から部下へのフィードバックを中心に据えてきたと感じられたかもしれません。そこで、興味深い研究知見を一つ紹介しましょう[13]。
この研究では、上司から部下へのフィードバック、同僚から同僚へのフィードバック、部下から上司へのフィードバックという3つの条件で、フィードバックの効果を比較しました。
結果として、上司から部下、同僚から同僚へのフィードバックでは、受け手は自分がどう見られているかを気にし、フィードバックを活かせないことが多かったのです。
一方で、部下から上司へのフィードバックでは、フィードバックの内容をもとに自分の問題点を理解し、建設的に改善を進めることができました。
これは、トップダウンやピアのフィードバックよりも、ボトムアップのフィードバックが機能しやすいことを示しています。とはいえ、ボトムアップのフィードバックを実行するのは部下にとって心理的障壁があり、難しいものです。
そのため、上司側は、部下からのフィードバックが出やすい状況を作る必要があります。例えば、自分から積極的に部下にフィードバックを求めます。フィードバックを求めれば、部下もそれに応えやすくなります。
また、部下が上司にフィードバックする際は、リラックスできる環境を設定します。フィードバックを受けたら言い訳や反論をせず、防衛的にならないよう細心の注意を払います。
部下からのフィードバックをしっかりと聞き、話を中断せず、最後まで聞いてメモを取りましょう。フィードバックが終わったら感謝の言葉を伝えることが、今後の継続的なフィードバックを促します。
フィードバックを聞くだけでなく、それに基づいて実際に行動を改善します。そして、そのことを部下に伝えれば、部下はフィードバックをした甲斐があったと感じるでしょう。
脚注
[1] Fang, H., Li, X., Ma, H., and Fu, H. (2021). The sunny side of negative feedback: negative feedback enhances one’s motivation to win in another activity. Frontiers in Human Neuroscience, 15, 618895.
[2] Kluger, A. N., and DeNisi, A. (1998). Feedback interventions: Toward the understanding of a double-edged sword. Current Directions in Psychological Science, 7(3), 67-72.
[3] Morran, D. K., Stockton, R., Cline, R. J., and Teed, C. (1998). Facilitating feedback exchange in groups: Leader interventions. Journal for specialists in group work, 23(3), 257-268.
[4] Audia, P. G., and Locke, E. A. (2003). Benefiting from negative feedback. Human Resource Management Review, 13(4), 631-646.
[5] Kluger, A. N., and DeNisi, A. (1996). The effects of feedback interventions on performance: A historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory. Psychological Bulletin, 119(2), 254-284.
[6] Kluger, A. N., Lewinsohn, S., and Aiello, J. R. (1994). The influence of feedback on mood: Linear effects on pleasantness and curvilinear effects on arousal. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 60(2), 276-299.
[7] Weiss, H. M., and Cropanzano, R. (1996). Affective Events Theory: A theoretical discussion of the structure, causes and consequences of affective experiences at work. Research in Organizational Behavior, 18, 1-74.
[8] Hattie, J., and Timperley, H. (2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81-112.
[9] Simon, L. S., Rosen, C. C., Gajendran, R. S., Ozgen, S., and Corwin, E.S. (2021). Pain or gain?: Understanding how trait empathy impacts leader effectiveness following the provision of negative feedback. The Journal of Applied Psychology. 107(2), 279-297.
[10] Janssen, O. and Prins, J. (2007). Goal orientations and the seeking of different types of feedback information. Journal of occupational and organizational psychology, 80(2), 235-249.
[11] Van Dijk, D., and Kluger, A. N. (2011). Task type as a moderator of positive/negative feedback effects on motivation and performance: A regulatory focus perspective. Journal of Organizational Behavior, 32(8), 1084-1105.
[12] Chen, Z., Lam, W., and Zhong, J. A. (2007). Leader-member exchange and member performance: A new look at individual-level negative feedback-seeking behavior and team-level empowerment climate. Journal of Applied Psychology, 92(1), 202-212.
[13] Kim, Y. J., and Kim, J. (2020). Does negative feedback benefit (or harm) recipient creativity? The role of the direction of feedback flow. Academy of Management Journal, 63(2), 584-612.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。