2024年1月30日
オーダーメイド型の適性検査とは:自社に合ったアセスメントの可能性(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2024年1月にセミナー「オーダーメイド型の適性検査とは:自社に合ったアセスメントの可能性」を開催しました。
社員にはそれぞれ能力や性格といった特徴があります。一人ひとりの特徴を捉えるのが、アセスメント(適性検査)です。
採用、登用、研修、チームビルディングなど様々な場面で活かせます。実際に、現時点で活用している企業も多いでしょう。
一方で、アセスメントと言うと、既製品をイメージしませんか。つまり、すでに出来上がったプロダクトです。
しかし、実はオーダーメイドでアセスメントを開発することもできます。自社の状況や目的に合ったアセスメントは作れるのです。
セミナーでは、オーダーメイド型のアセスメントとは何か。どのような場合にオーダーメイド型が有効か。オーダーメイド型のアセスメントを作る流れや、オーダーメイド型を活用した例はどのようなものか、などを解説しました。
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
適性検査の概要
適性検査とは、一体何を意味するのでしょうか。まず、「適性」という言葉について説明します。学術的に見ると、適性は広範な意味を持つ概念です。個人の能力や性格など、多岐にわたる要素から構成されています。
実務的な視点では、適性の範囲はもう少し狭まるかもしれません。企業が求める特定の職務に適した特徴を指すことが多いと思います。
適性には、仕事を遂行するのに必要なスキルや知識、問題解決能力や論理的思考などの認知的能力が含まれます。また、協調性や外向性、誠実性といった性格特性も要素です。
これらに加えて、興味や価値観、物事に対する志向性も適性の一部です。これら多くの要素が含まれる適性を測定するのが、適性検査となります。
適性検査を大まかに分類すると、能力検査と性格検査の二つに分けられます。まず、能力検査は、文字通り個人の能力を評価するものです。
ここでいう能力には、推論、記憶、数学的能力、言語理解、空間認識といった認知的能力や、特定の職業に関連するスキルや知識が含まれます。一般的には、正解が存在するテスト形式が用いられます。
次に、性格検査は、個人のパーソナリティ、つまり安定した特徴を測定します。ここでは、性格特性、モチベーションの源泉、価値観、嗜好性などを評価します。
一般に、性格検査は自己報告形式で行われます。回答者が自分自身について回答するアンケート形式です。
適性検査を用いる場面
適性検査は、さまざまな場面での活用が可能で、実際に多方面で利用されています。
特に、採用の文脈で思い浮かべやすいかもしれません。採用では、候補者の能力や性格が企業に適しているかどうかを評価するために適性検査を使用します。
また、候補者を見極めるためだけでなく、候補者について深く理解することも可能にします。この理解により、候補者にとって魅力的な働きかけができるようになり、志望度を高めることにつながります。
適性検査は採用以外にも多様な用途があります。たとえば、研修の場面では、社員の能力や性格を可視化することで、リフレクションの材料として利用できます。
同様に、キャリア開発の文脈では、自身の価値観や志向性を理解することが、将来のキャリア目標の設定に役立ちます。
昇進昇格の選考では、候補者が必要な能力や素養を持っているかを確認するために適性検査を用いることもあります。
組織開発においても、チーム構成の検討や組織全体の特性を把握するために活用されます。こうした情報をもとに、効果的な介入方法を検討することができます。
さらには、上司や部下、同僚間でお互いの性格や能力を知ることで、関係を深めるきっかけともなります。適性検査の結果を共有することで、相互理解が促進されることもあります。
タレントマネジメントにおいても、適性検査は有用です。価値ある人材を発掘したり、適切な配置転換の参考情報として利用することが可能です。
適性検査は、従来は個人と仕事のマッチングを重視する形で使用されてきましたが、最近では自己理解を深める役割を担うケースも増えています。
マッチングは、能力や性格が特定の組織や仕事に合致しているかを確認する、すなわち、評価を目的にした活動です。一方で自己理解は、自分の強みや弱み、関心や価値観などを把握することであり、育成を目的としています。
オーダーメイド型とパッケージ型
本日のテーマに近づいてきました。適性検査には、パッケージ型とオーダーメイド型の二つがあります。
まず皆さんがよく知っているパッケージ型から説明しましょう。パッケージ型の適性検査とは、質問項目や計算式があらかじめ設定されており、汎用的で標準化されたデザインのものです。受検者が回答すると、自動的に結果が出力される仕組みを持っています。
一方、オーダーメイド型の適性検査は、特定の組織や仕事に特化して設計されたものです。組織の文化や人材の要件に合わせてカスタマイズし、それぞれのニーズに応じた内容を作ります。本日はオーダーメイド型の適性検査に焦点を当てます。
オーダーメイド型の適性検査は、その柔軟性と特化性に大きな魅力があります。特定の組織や仕事のニーズに合わせて設計されるため、適切な評価が行えます。
さらに、組織の文化や価値観に合わせたカスタマイズが可能で、受検者のパフォーマンスや適合度を予測しやすいと言えます。不要な項目を排除することで、効率的に適性を測定することもできます。
また、組織の経営戦略や人材戦略を考慮して設計できるのも魅力の一つです。受検者に対するフィードバックを行うような設計にすることもでき、透明性の高い評価が可能になります。他にも、組織の変更や再編があった場合にも、柔軟に対応することができます。
しかし、オーダーメイド型には限界もあります。特に、開発には高度な専門性が求められ、時間とコストがかかる点が挙げられます。また、一度開発されたオーダーメイド型の適性検査は、特定の組織や仕事に特化しているため、他の状況での適用性は限られることになります。
オーダーメイド型が合う会社
オーダーメイド型の適性検査について、さらに理解を深めていただくために、例を交えて説明しましょう。
弊社、ビジネスリサーチラボでは、これまで何社ものオーダーメイド型の適性検査を開発してきました。いくつかの事例を組み合わせ、また抽象度を高め、要するに仮想例を示そうと思います。
仮にA社と呼ぶ企業があります。A社は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、テレワークを導入しました。テレワーク環境で活躍できる人材を採用するため、オーダーメイド型の適性検査を開発することになりました。
A社では、テレワークでの活躍をどう定義するかから始めました。例えば、テレワークでの満足度やパフォーマンス、上司の評価などを基準にしました。
その後、学術研究と実務知識を基に、テレワークで重要と思われる性格特性や価値観をリストアップしました。これらをもとに、質問項目を作成し、A社の社員に対してアンケートを実施しました。収集したデータを分析し、テレワークでの活躍と関連する特性を特定しました。
ただし、適性検査では回答者が自己を良く見せようとする傾向があるため、このバイアスを軽減するための計算式の工夫も施しました。その後、A社の内定者を対象にトライアルを実施し、その結果をもとに、適性検査の精度を高める作業を行いました。
この適性検査は、面接評価が低い候補者に対する救済措置としても使用されました。面接では目立たなかったが、適性検査で高得点を取る候補者を見つけ出すことができました。
また、A社内のテレワーク研修においても、研修前にこの適性検査を受けることで、自己理解を深め、研修効果を高めることができました。
さて、このようにオーダーメイド型の適性検査は、独自性のある会社に適しています。例えば、柔軟な働き方を推進する会社や、ユニークな組織文化を持つ会社、最先端の技術を用いる会社、特殊な顧客関係を持つ会社、個性的なブランドイメージを持つ会社などです。
また、独自の人事基準やリーダーシップスタイルを重視する会社、特徴的な理念を持つ会社にも適しています。
一方で、他社と似た人事や採用基準を持つ会社には、汎用性の高いパッケージ型の適性検査が向いているでしょう。オーダーメイド型は、特定のニーズに合わせたカスタマイズが必要な場合に有効です。
オーダーメイド型の開発プロセス
オーダーメイド型の適性検査の開発プロセスについて見ていきましょう。特に、性格検査の開発プロセスに焦点を当てます。
- 「どのような人材が良いか」を定義することです。これをコンセプトと呼びます。例えば、テレワークで活躍する人材が良い人材などと定義します。
- コンセプトに基づき、良い人材の特性を挙げていきます。ここでは、研究成果や実務経験をもとに、適性検査で測定する内容を検討します。これを概念と呼びます。例えば、テレワークで活躍するための性格や志向性、価値観などが挙げられます。
- 適性検査の結果をどのように表示するか、つまりアウトプットイメージを作成します。例えば、エクセルを使用して結果を表示させるレイアウトを考えます。
- 尺度を作成します。尺度とは、挙げた概念を実際に測定するための質問項目や選択肢、教示文のことです。例えば、テレワークに適した性格や価値観などについて、これらの尺度を作ります。
- 尺度は試作版であり、そのまま使用すると問題が生じる可能性があります。そこで、実際に調査を行います。例えば、社員を対象にアンケート調査を行い、試作版の尺度をテストします。
- 回答データを統計的に分析し、試作版の尺度が正しく機能しているかどうかを確認します。この分析を通じて、性格や志向性、価値観などの概念を絞り込みます。
- 計算式を作成します。これは、適性検査で各概念のスコアを算出するために必要です。例えば、テレワークに関連する性格や価値観のスコアを出す計算式を作るのです。
- アウトプットイメージを修正します。計算式や分析の結果に基づき、最初に作成したアウトプットイメージを見直し、必要な修正を加えます。例えば、絞り込まれた概念だけをアウトプットイメージに反映させるなどの修正を行います。
開発を依頼する際の注意点
オーダーメイド型の適性検査を開発することは、非常に専門性が高く、簡単ではありません。適性検査は、個々の受検者に対して、例えば「外向性が何点」といった具体的なスコアを提示します。
これは非常に重大な特徴です。受検者の職業人生に受験結果が大きな影響を及ぼす可能性があるため、専門性の高い開発が求められます。
ここで言う専門性として、まず心理学の知識が必要です。理論やモデルを理解し、それを適用する能力が求められます。
尺度開発の方法論、例えば、信頼性、妥当性、公平性などの知見も必要です。さらに、適性検査の開発には統計学の知識も不可欠であり、テスト理論にも精通している必要があります。
実際のところ、オーダーメイド型の適性検査の開発は難易度が高く、多くの場合、自社だけで開発を行っていません。
一方で、外部の専門組織に開発を依頼する際には、いくつかのポイントに注意が必要です。開発組織が先に述べたような専門知識を持っているか、すなわち、その専門性を見極めなければなりません。
そして、オーダーメイドの適性検査は、ニーズに合わせた設計が求められます。外部組織がそれに対応できるかどうか、また、個人情報の取り扱いにおいて、情報保護の体制が整っているかどうかも重要です。例えば、Pマークの取得などが一つの指標になります。
開発プロセスの透明性も欠かせません。なぜ、どのような流れで開発を進めるか、そして計算式なども共有し、意味合いを説明できるところが良いでしょう。
もちろん、適性検査の開発経験があり、十分な実績を持っている外部組織を選ぶことを推奨します。これらの点を考慮しながら、適性検査の開発パートナーを選びましょう。
適性検査の限界
最後に、私が適性検査についてお話する際にいつも強調している点に触れます。適性検査は万能ではないということです。
適性検査があれば全ての状況で上手くいくわけではありません。適性検査には限界があります。先ほど、オーダーメイド型の適性検査の限界を紹介しました。例えば、費用や時間がかかるという特有の限界がありました。
加えて、適性検査そのものにも限界があります。まず、適性検査の結果が全てではないことです。これは、特に人事や採用に関わる方々には理解していただきたい点です。
適性検査はあくまで一部の側面を捉えるもので、その人の全てを表すものではありません。そのため、適性検査の結果のみに頼ると、その人の可能性を見落とすことがあります。
続いて、適性検査はあくまで傾向を示すもので、特異な才能や能力を持つ人を見極めるのは難しいということです。適性検査は、一般的な傾向を把握するのに適しています。
適性検査にはバイアスが組み込まれている可能性もあります。特定のグループや属性の人が不当に低く評価されるリスクがあります。様々な角度からリスクを考慮する必要があります。
加えて、適性検査は個人のスコアを出すため、「評価される」というプレッシャーが伴います。多くの場面で適性検査が行われると、ストレスの原因になり得ます。
また、適性検査で出たスコアはその時点での結果に過ぎません。人は経験を通じて変化します。変化の可能性を踏まえて、結果を解釈しましょう。
適性検査は個人の特徴を明らかにすることが目的ですが、その人が成果を出すためには、周囲の環境や支援も影響します。適性検査は個人の特徴を示すものであり、パフォーマンスをすべて予測するものではありません。適性検査の結果と並行して、適切な環境を整備していかなければなりません。
なお、適性検査を使用する際は、排除の論理ではなく、包摂の論理を持ってほしいと考えています。適性検査を使って、個人の長所を引き出し、短所を補うことで、その人の良さを生かすということです。
Q&A
Q:マネジメント人材の見極めでは、当社なりの基準を置いているので、そこではオーダーメイドが良さそうだと思いながら聞いていました。マネジメント向けの適性検査で性格を診断するケースはありますか?
昇進・昇格のアセスメントの一環として、性格検査を取り入れることはあります。例えば、人当たりのいい人がいますが、なかには、実際にマネージャーとして任命すると、部下に負担をかけてしまうケースがあります。これは組織にとっても本人にとっても部下にとっても望ましくありません。
そこで、マネージャーには適さない性格の人を特定するための適性検査を開発することはできます。人柄が良いと、その他の能力も高く評価されがちなため、人物評価を補完するために性格検査は使えます。
Q:組織サーベイは自分の会社で作っているのですが、うまくいっていません。適性検査も社内で作ろうとすると、やはりうまくいきにくいものでしょうか?
適性検査の開発には、専門的なスキルが必要となります。組織サーベイと適性検査の開発を比較すると、適性検査の方が開発が難しいと言えます。適性検査では個々人のスコアを出すため、より高い精度が求められるからです。
もし組織サーベイの開発がうまくいっていない場合、適性検査の開発が成功する可能性は低いと考えられます。こうした状況では、まずは社内に専門スキルを持つ人材がいるかどうかを考えます。
該当する人材がいれば、その人に開発を依頼することができます。いなければ、専門性を持った人材を新たに採用することもあり得ます。もちろん、内製ではなく、外部の専門組織と協力する方法もあります。要は、適切な専門スキルを持った人材のサポートを得ることが大切です。
Q:オーダーメイドにすると自社にフィットする適性検査が作れるのが魅力だと理解しました。一方で、他の人と比べてどうか、という比較は難しくなるのではないでしょうか?
性格や能力の比較は、パッケージ型の適性検査では行われます。多くの人が検査を受けているため、受検者が一般的な基準に照らしてどうかを理解しやすいのです。他方で、オーダーメイド型の適性検査でも、統計的指標を用いて受検者のスコアを他の人と比較することは可能です。ただし、誰と比較するかを慎重に検討する必要があります。
例えば、企業が自社の社員との比較を求める場合、社員を対象に調査を実施します。社員のデータを収集すれば、個々の受検者が社員と比べてどうかを見ることができます。あるいは、ターゲットとなる学生層との比較を行いたい場合には、ウェブモニターを用いた調査ができるかもしれません。
Q:適性検査の限界としてバイアスが入る可能性があるというお話がありました。私の元々の理解ではむしろ適性検査は客観的な評価ができると考えていたのですが、例えば、どんなバイアスが入るのでしょうか?
適性検査は、恣意性や主観を減らし、人の特定の側面を評価できる点で魅力的です。しかし、適性検査にはバイアスが存在するリスクがあります。
例えば、企業が求めるタイプの人材を見極めるために、社員のデータを基に計算式を作成したとします。計算式を使った結果、女性が採用で不利になるという事例が実際に発生しています。計算式に男性を有利にするバイアスが含まれていたのです。
登壇者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。