2024年1月10日
人事のための統計研修:データ分析スキルを高める支援
ビジネスリサーチラボでは、企業の人事部門向けに「統計研修」を提供しています。統計研修を受けることで、データ分析のスキルを身につけることができます。
本コラムでは、当社が提供する統計研修について詳しく紹介します。統計研修が求められる背景から始め、どのようなスキルをどのように習得できるのか、研修の流れやその有効性、研修提供時に重視しているポイントなどを幅広く記述します。
本コラムをお読みいただくことで、当社が提供する統計研修の内容を理解できるでしょう。また、人事担当者がデータ分析を学ぶ際に重要となる点も明らかになるはずです。
データ分析スキルが求められる背景
人事領域において、データ分析への注目が高まっています。背景の一つとして、人事のデジタル化が挙げられます。多くの人事関連システムが市場にリリースされ、人事の効果や効率を高めるために導入する企業が増えています。
システムを使用することで、採用、育成、配置、退職に至るまでの社員体験全般にわたって多くのデータが生まれます。これらのデータから洞察を得て、人事施策を洗練させることが求められるようになりました。
データに基づく意思決定への機運も、経営領域で高まっています。人事がより戦略的なものになるためにも、データ分析スキルを持っていることが役立ちます。経験や勘だけではなく、データ分析スキルを駆使することで意思決定の精度を高められます。人事においては、社員の職業人生に関わる施策を講じるため、意思決定の精度を高める努力は不可欠です。
データ分析を行うことで、より良い組織を作ることにつながります。社員のエンゲージメントを高め、不幸な離職の原因を探り、対策を打つことで、良質な仕事環境を構築し維持することが可能です。
データ分析スキルとは
人事にとって有益なデータ分析スキルには様々な側面があります。主要なものを取り上げてみましょう。
まず、統計学の知識です。特に基本的な統計手法を理解することによって、データを様々な角度から解釈できるようになります。例えば、記述統計の適切な処理に始まり、t検定、相関分析、回帰分析などが手法の例として挙げられます。
データを分析可能な形に整えることもスキルの一つです。データはいつも完ぺきな状態で手に入るわけではありません。分析のために整形しなければならないことも多くあります。
分析のためのツールを用いる能力も必要です。無料と有料を問わず、様々な統計解析ツールがありますが、いずれも使用法を習得しなければ、データ分析は実践できません。
さらに、分析結果を分かりやすく正確に見せる能力も有用です。グラフやモデルをうまく示せば、現場の社員や経営層に内容を理解していただきやすくなります。
オーダーメイド型の統計研修の流れ
当社の統計研修は、決まった内容を提供するのではなく、各社の状況や事情を踏まえてオーダーメイドで研修内容を作ります。一般的に、次のようなステップで当社はオーダーメイド型の統計研修を提供しています。
ヒアリング
各社のデータ保存状況や普段用いているツール、人事担当者の現状のデータ分析スキルなどを理解するためのヒアリングを行います。統計研修実施にあたっての企業のニーズも把握します。1時間のヒアリングを1回もしくは2回実施するケースが多く見られます。
全体設計
ヒアリングで得た情報をもとに、研修のプログラムを考えます。初心者向けの基礎的な内容から応用的で高度な分析技術まで、企業のニーズおよび人事担当者のスキルを踏まえて流れを検討します。
教材準備
統計研修で使用する教材を作ります。レクチャーのためのスライドを作成したり、必要に応じて仮想のデータを作ったり、実際のデータを加工したりします。
講義実施
設計した研修プログラムに沿って講義を行います。一方通行で知識を教えるだけではなく、質疑応答や対話の時間を設けるようにしています。全体設計および教材によって変わりますが、1回1時間の講義を1-3回ほど行うことが一般的です。
分析実践
講義で伝えた内容を持ち帰って、実際に分析をしてもらいます。これは研修の一環であるため、失敗しても構いません。実際の仕事への応用を促すために、実践は有益なステップとなります。
フィードバック
実際に分析した内容に対して、当社からコメントや改善点を指摘します。どこをどう修正すればより良い状態になるか、具体的な手がかりを提供します。フィードバックはミーティング形式で行い、分析実践の内容によって異なりますが、1回2時間のケースがよくあります。
これらのステップを実施するのにおよそ2ヶ月程度の時間が必要です。なお、6つのステップはあくまで一般的なものです。企業のニーズや人事担当者のスキルによっては、特定のステップを削除したり、追加したりすることもあります。
オーダーメイド型である意義
当社の統計研修は、オーダーメイド型である点に特徴があります。オーダーメイド型の統計研修にはいくつかの利点があり、それらが理由で、当社もオーダーメイド型を採用しています。
まず、各社の状況に合わせて研修内容を調整できます。企業ごとにニーズが違えば、人事担当者のスキルも異なります。オーダーメイドにすることで、実践までつなげられる研修となります。
例えば、社員のエンゲージメントを高めるために組織サーベイのデータを分析したいという目的がある企業もあります。目的を考慮に入れて研修を設計することで、より役立つ応用的な内容にすることができます。
オーダーメイド型の研修には、参加者のモチベーションを高めやすいという意義もあります。研修を受け、その内容を理解し、行動できるようになると、自社の課題解決につながるからです。
さらに、企業のニーズを踏まえた研修になるということは、研修の背景にある目的自体がずれていない限り、人事上の施策の品質を高めることに結びつきやすいのもオーダーメイド型の良さです。場合によっては、組織のパフォーマンスに資する研修になり得ます。
このように、オーダーメイド型の統計研修では、企業固有の目的に対応する形でデータ分析スキルの習得が可能になる点で利点があります。
分析手法の例とデータ・クリーニング
統計研修の内容は企業によって異なりますが、いくつかの分析手法をレクチャーするのは共通しています。当社が統計研修を通じてレクチャーする分析手法の一部を以下に紹介します[1]。
- t検定:2つのグループの平均値の差が統計的に有意かどうかを検討します
- 効果量:差や関連の大きさを評価するために算出します
- 相関分析:2つの変数間の関連を評価する手法です
- 回帰分析:1つまたは複数の影響指標と成果指標の関係をモデル化します
- クラスター分析:類似するデータをグループ化します
- 因子分析:データの背後にある構造を推定します
- 時系列データの分析:時間の経過に伴うデータの変化を分析します
- 構造方程式モデリング:特定のモデルがデータにどの程度当てはまるかを検証します
統計研修では、データ・クリーニングも扱います。データを分析可能な状態にするため、この作業を遂行するのは非常に重要なスキルの一つです。
例えば、データセットを把握し、どのような情報が含まれているかを理解すること、欠損値の処理方針を定めること、外れ値の確認とその原因判断、カテゴリー変数の数値化など、データを分析しやすい形に整える必要があります。また、異なるソースからのデータを統合し、整合性を確保することも含まれます。
統計研修を務める講師の特徴
当社の統計研修において講師を務めるのは、以下の要件を満たす当社のフェローです[2]。
- データ分析に関する深い専門知識を有している
- 人事関連のプロジェクトに参加経験がある
- 学習の原則を理解し、参加者のニーズに応じた教育能力を持っている
- 人事領域で実際のデータ分析を行っている
- データ分析に関する最新のトレンドやツールに精通している
- 企業ごとのニーズに合わせて研修内容をカスタマイズできる
統計研修の提供事例
過去にデータ分析をレクチャーした事例として、キヤノンマーケティングジャパン様を挙げることができます[3]。
同社は、組織サーベイを内製で実施しており、元々基礎的なデータ分析の知識をもとに表計算ソフトを用いて分析を行っていました。しかし、人事以外の関係者に説明する際に、もっと分析を理解しておくべきだと感じ、当社の統計研修を受講することになりました。データ分析のスキルと経験に加えて、人事領域のドメイン知識を持っていることが、当社を選んでいただいた理由です。
統計研修では、ヒアリングを行った上で、初回のセッションではデータ分析の考え方や同社のニーズに合った分析方法、そしてツールの使い方をレクチャーしました。そして、同社が実際に分析を行った後、分析結果を見てフィードバックを行うセッションを実施しました。
相談から実施までの流れ
人事部門向けの統計研修について、当社に相談いただいてから実施が決まるまでの流れは、次のように整理できます。
- 当社に様々なルートで問い合わせをいただく
- 打合せで、人事が抱える課題や必要な分析スキルを伺う
- スケジュール、実行方針、コストを考慮して見積もりを検討する
- 当社から見積もりを出して、メールで調整を行う
- 見積もり内容に合意が得られたら、契約書を作成する
- 同時に、講師をアサインし、当社の体制を整える
- 契約書に両者がサインをして、統計研修の設計に入っていく
このプロセスは、クライアントのニーズによって変わり得ます。重要なのは、クライアントの期待を明らかにし、それを満たす統計研修が提供できるかを相互に確認することです。
分析サービスと統計研修の相違点
当社では、人事部門向けにカスタマイズされたデータ分析サービスを提供しています。また、統計研修も実施していますが、これら二つのサービスはどのように異なるのでしょうか。データ分析を依頼するか、統計研修を受けるか迷っている方のために、それぞれのメリットを整理しておきます。
オーダーメイド型のデータ分析サービスのメリット
- クライアントの要望に合わせて、高精度の分析を実施する
- 専門家による迅速な分析により、効率的に問題解決を図れる
- 高度な統計モデルを活用し、複雑な課題へのアプローチが可能
- より具体的かつ実用的な成果を提供できる
統計研修のメリット
- 人事担当者自身がデータ分析スキルを習得できる
- 社内で分析能力を持つことで、長期的にコスト削減が期待できる
- データに基づく意思決定の文化が企業内に根付く
- 新しい問題に対して社内で柔軟かつ迅速に対応できるようになる
脚注
[1] 各手法の詳細はコラムを参照していただければと思います;t検定、効果量、相関分析、回帰分析、クラスター分析、因子分析、時系列データの分析、構造方程式モデリング。
[2] 当社のフェローについては、こちらのページをご確認ください。
[3] キヤノンマーケティングジャパン様の事例は、こちらのコラムでご覧いただけます。
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。