2023年11月6日
採用における適性検査の科学:適性検査を開発する立場から活用方法を解説(セミナーレポート)
ビジネスリサーチラボは、2023年10月にセミナー「採用における適性検査の科学:適性検査を開発する立場から活用方法を解説」を開催しました。
多くの企業が採用活動に適性検査を導入し、市場にも様々な適性検査がリリースされています。しかし、どのような適性検査を使えば良いか悩む企業や、使ってはいるものの意図が明確でない企業が少なくありません。
そこで本セミナーでは、適性検査の概論や開発過程とともに、その適切な利用方法を紹介しました。当社代表取締役の伊達洋駆が講師を務め、多くの適性検査の開発に携わってきた経験をもとに、研究と実践の双方の観点で解説しました。
※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。
1.適性検査とその種類
「能力検査」とは
本日は、採用における適性検査を開発する立場から、その活用方法を解説します。最初に、適性検査とその種類について説明します。
適性検査は能力検査と性格検査の2つに大別できます。両方を含むプロダクトが多いのですが、最近は性格検査のみのプロダクトも増加傾向にあります。
能力検査とは何でしょうか。そもそも人の能力は3つのカテゴリーに分けられます。1つ目は認知的能力で、言語、空間、数学、演繹記憶などを含むものです。2つ目は情緒的能力で、自分の感情を認識・調整したり、他人の感情を理解・共感したりする能力です。3つ目は身体能力で、運動能力や体力、筋力が該当します。
このうち、能力検査がよく扱うのは認知的能力です。認知的能力の測定では、個人の最大値を評価します。
これまでの研究では、認知的能力は将来のパフォーマンスに影響を与えることが示されています。このことから、能力検査は企業にとって意義があるといえます。
「性格検査」とは
性格検査は、人の安定した傾向を評価する検査です。性格検査は一般にアンケート形式で、日常的な特徴を捉えます。
性格に関する言葉は多岐にわたり、性格を示す言葉が4500以上あると報告する研究もあります。性格検査では、人の性格の様々な側面を明らかにします。
一方、著名な性格検査で測定されている要素を5つの側面に集約できることを示す研究もあります。ビッグファイブとして知られる性格のモデルです。
- 外向性:自分の内面よりも他の人や物事に意識が向いている
- 協調性:自己中心的にならず、他者と協調を図ろうとする
- 勤勉性:責任感が強く、計画的で真面目
- 神経症傾向:心理的な苦痛を感じやすい
- 開放性:新しい経験や文化に対してオープン
2.適性検査の開発プロセス
コンセプトを定めて概念に落とし込む
続いて、適性検査の開発プロセスを紹介します[1]。適性検査の作成方法を知ると、適性検査の選定や活用時に役立ちます。ここでは、特に性格検査に光を当てます。
開発における最初のステップは、適性検査のコンセプトを明確にすることです。その検査でどのような人材を優れているとみなすのかを決定します。
例えば、入社後に活躍する人材を「良い人材」とするのか、早期離職しない人材を「良い人材」とするのか。それぞれ適性検査で測定する内容は異なります。
コンセプトが決まったら、適性検査で何を測定するのかを検討します。これは検査のアウトプットに表示されるもので、「概念」と呼びます。いきなり質問項目を作成せず、まずは概念を考えます。
概念の検討にあたっては、コンセプトが役立ちます。例えば、「入社後に活躍する人材」を良い人材とする場合、活躍に寄与する性格や能力は何かを考え、概念として設定します。
アウトプットイメージと尺度を作成する
次にアウトプットイメージを検討します。大まかにどのような結果を排出するのかを考えます。受験者と企業で異なるアウトプットを出す場合は、両方を描きます。
その後、先の概念を基に、それらを測定するための尺度を作成します。尺度とは教示文・質問項目・選択肢を含むもので、概念を測定するツールです。一つの概念を、複数の質問項目で測定します。
ただし、この段階の概念や項目は暫定的なものです。高品質な適性検査にするためには、実際のユーザー層に近い人を対象に、暫定的な概念や項目が適切に機能するかを確認する必要があります。
予備調査を実施して改良する
暫定的な尺度をもとに、予備的な調査を行い、データを集めます。そして、データを統計分析し、検査の適切さを検証します。そのことにより、適性検査の基本的な品質を満たそうとします。
さらに、概念の得点を算出するための計算式を構築します。加算や平均値などの計算だけでなく、データに基づいて複雑な計算式を設計することで、より精度の高い得点を算出することができます。
計算式まで作った後は、暫定版のアウトプットイメージを再度確認し、必要な場合は修正を行います。適性検査には、詳細なコメントがつけられる場合が多いのですが、コメントの作成も、ここで実施します。
ここまでの工程が、ベータ版を完成させるまでのステップです。ベータ版のリリース後、集まったデータをもとにメンテナンスを行います。リリース後も精度を向上させるための努力が続けられます。
3.適性検査の選び方
コンセプトを確認する
適性検査の選び方を紹介します。全ての会社で「この適性検査を導入すれば大丈夫」といった万能の検査はありません。自社に合った適性検査を選ぶ必要があります。
最も考慮していただきたいのが、適性検査のコンセプトです。適性検査のコンセプトは、検査において「望ましいとされている人材像」に当たります。コンセプトを明確に公表していない適性検査も稀にありますが、提供者に問い合わせて確認すると良いでしょう。
自社の理想とコンセプトが合致していない適性検査を用いると、目的を達成できません。自社が適性検査を通じて何を行いたいかを明確にし、それに合ったコンセプトを持つ適性検査を探りましょう。
検査の品質と計算式の確認
続いて、その適性検査が基本品質を満たしているかを確認します。適性検査を利用する側としては、品質基準をクリアしているのかチェックする必要があります。
適性検査が満たすべき基本品質は、例えば、信頼性、妥当性、公平性です。信頼性は、測定したいものを一貫して測定できているか、妥当性は、測定したいものを正確に捉えられているか、公平性は、回答者の特性が回答に影響を与えていないかを指します[2]。
適切に開発された適性検査であれば、いずれも検証されているはずです。検証結果が公開されている場合は報告書を参照し、記述がない場合は問い合わせても良いでしょう。
得点の計算式も確認しておいて損はありません。計算式は企業秘密であることも多く、それ自体を閲覧することは難しいでしょう。しかし、計算式を組み立てる際の考え方については尋ねることができます。
4.適性検査の使い方:見極め編
見るべき概念を選ぶ
ここからは、適性検査の使い方を紹介します。まずは、候補者が自社に合っているかを評価する、いわゆる「見極め」としての使い方です。
適性検査では多くの概念を測定しています。重要なのは、全ての概念の得点を一つ一つ確認することではなく、自社がどの概念に注目するかを選定することです。
自社は何を見極めたいのかを定めましょう。例えば、入社後に活躍する可能性を見極めたいのか、それとも、定着する人材を見極めたいのか、などを考えます。
そして、データを活用して、見るべき概念を絞り込みます。例えば、入社後に活躍する人材の見極めには、過去の適性検査のデータと入社後の評価の関連を調べることが有効でしょう。ただし、データの許諾や契約などを確認し、きちんと調整しておく必要があります。
説明可能性を重視する
適性検査を見極めに活用する上で、「説明可能性」に注意を払っていただきたいと思います。例えば、「自社は、なぜこの概念で候補者を見極めるのか」を説明できるようにするということです。
適性検査は、その使い方によっては偏見や差別の温床になり得ます。適性検査の結果は、受験者のキャリアに深く関わるものであり、何となくの利用は倫理的に問題です。慎重な運用が求められます。
採用の際に適性検査を使用する場合、採用と人権の問題が関わってきます。職務を予測する概念のみを見るなど、抑制的な利用を心がけたいところです。
見極めのバイアスを是正する
むしろ、採用時のバイアスを是正する目的で、適性検査を活用することもできます。適性検査以外の評価と組み合わせるのです。
例えば、面接で高評価を受けた候補者について、適性検査の結果をもとに、バイアスで高評価をつけていないかを考えられます。逆に、面接での評価が低かった候補者について、適性検査を通じて良い部分を探るという方法もとることができます。
概念名に惑わされない
適性検査を使用する際の注意点があります。適性検査の概念名に影響されすぎないようにすることです。概念名の「イメージ」で評価せず、概念の「定義」を適宜確認しましょう。
また、適性検査で測定する個人の能力や性格は、パフォーマンスやエンゲージメントに影響を与える要因の一つです。他に、上司、仕事、同僚、風土など、多くの環境要因もあります。そのことを理解した上で、活用していただきたいと思います。
5.適性検査の使い方:惹きつけ編
最後に、適性検査を候補者の「惹きつけ」に用いる方法を述べます。惹きつけとは、候補者の志望度を高めることです。
ここで一つの研究知見が参考になります。候補者の志望度を高める際に、「フィット」を伝えることが有効であるという知見です。企業側が候補者に「あなたは当社に合っています」と伝えると、候補者の志望度が高まります。
ただし、この方法は取扱注意でもあります。というのも、実際にフィットしているか否かにかかわらず、惹きつけの効果があるからです。候補者が本当に自社に合っていると感じた場合のみ、この方法を用いていただければと思います。
フィットと言っても、2つの種類があります。一つは、候補者の性格と自社の文化が合致していることを表す「サプリメンタリー・フィット」です。
例えば、適性検査を通じて、候補者が外向的な性格であるとわかったとします。対して、自社が明るい文化である場合、「あなたは外向的な性格のようです。当社は明るい文化ですので、合っていると思います」と伝えます。
もう一つのフィットは、「デマンド・アビリティ・フィット」です。企業が求めている能力を候補者が持っていることを意味します。
例えば、能力検査で候補者の数学的思考が高いと判明したとします。自社で統計分析のスキルを求めていた場合、「あなたは数学的思考が得意ですね。当社では統計分析を担当してもらう人材を探しているので、あなたは当社に合うと思います」と伝えます。
このように適性検査によって候補者の理解を深めることができます。その上で、候補者に適切にアプローチしていただくと、惹きつけの効果が得られます。
Q&A
Q: 入社前後で同じ検査項目を用いる際の注意点はあるか
変化しにくい特徴を捉える適性検査は、一度測定すれば良いでしょう。一方で、変化しやすい特徴を捉える適性検査は、入社後も測定する意義があります。なお、検査を受ける状況が回答に与える影響を考慮しましょう。例えば、入社前の検査では、自分が評価されている中で行いますが、入社後はそうではないかもしれません。
Q: 適性検査を既存の社員にも実施して採用に用いることはできるか
ある人のパフォーマンスは、その人の能力・性格と、その人が置かれる環境との組み合わせによって形成されます。どのような環境で、どのような能力・性格の人が活躍できるのかを検証すれば、採用にも配置にも活かすことができます。
Q: 個人とチームの相性を予測する方法はあるか
相性の予測は簡単ではありません。チームの何との相性がどうか、という具合に、チームの要素を分解するのが良いでしょう。例えば、マネージャーとの相性、仕事の特徴との相性、文化との相性など。
全ての要素で相性が良い人はほぼいないでしょう。完璧なマッチングを追求するより、合わない部分をフォローする考え方が必要だと思います。
おわりに
適性検査を採用におけるスクリーニングとして使用することは珍しくありません。もちろん、その実務上の意義は理解しています。
しかし、適性検査は「人を除外するため」に使用するよりも、ある人の特徴を捉えることで、自社で活躍するためにどのようなサポートが必要かを理解するために使うほうが生産的だと、個人的には考えています。ぜひ、そのような使い方も模索していただけると嬉しいです。
脚注
[1] 適性検査の開発プロセスに関する詳細は「適性検査の開発プロセス:ビジネスリサーチラボが支援する場合」をご参照ください。
[2] 信頼性、妥当性、公平性については、コラム「心理尺度の作り方・考え方:組織サーベイの質問項目作成のポイント」でも解説しています。
登壇者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。