2023年10月30日
キヤノンマーケティングジャパン株式会社|内製型組織サーベイの分析・項目設計支援
(左から)キヤノンマーケティングジャパン株式会社 総務・人事本部 人事企画部 チーフ 岡本裕己様、主管 永島俊行様、株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆、能渡真澄
プロジェクトでは分析方法のレクチャー、および、実際の分析結果に対するフィードバックを行いました。
分析を担当された永島様・岡本様に、プロジェクトを振り返ってお話を伺いました。
自己流の分析に不安を覚え、分析レクチャーを依頼
伊達
今回、当社は組織サーベイの分析に関する支援をさせていただきました。まずは、ご相談いただいた背景や課題についてお伺いできればと思います。
永島
当社では、2021年から毎年1回、キヤノンマーケティングジャパングループ全従業員を対象とした組織サーベイを実施しており、設問については当社独自のものを使用しています。当時を振り返ると、私たち人事企画部が調査に合流した時は、既に設問設計は別部門で完了しており、調査終了後の分析フェーズからの途中参画した状況でした。そのため、組織サーベイとは何なのか、どのように分析すればいいのか等をインターネットや書籍で調べ、手探りで分析しました。もともとは人事が持っているデータと組織サーベイのデータを突合するために参画したのですが、今は事務局として運営全般を担当しております。
伊達
調べながら分析をされたということですね。
永島
はい、基礎的な知識を身に付けて分析を試みました。エクセルの標準機能を用いて相関分析や重回帰分析を実施しましたが、それらの分析結果を経営層や他部門に説明する際、私たち自身の理解が浅く、分析結果の考察に対する共感が得られないということもありました。
伊達
組織サーベイに限らず、データ分析はもともと重視されるカルチャーなのでしょうか。
永島
当社は、過去を振り返ると「データ」よりも「コミュニケーション」を通してお客様の課題を見つけるアプローチが強かったように感じます。しかし、近年はデジタルの進展などに伴いデータ分析の重要性が認識されており、データに基づく意思決定に力を入れています。
伊達
マーケティング・セールス領域ではデータ活用は広がっていますね。マーケティング・セールス向けのシステムを開発している会社がHR向けのシステムを開発するケースもあります。
今のお話に関して、岡本さんのほうで補足はありますか。
岡本
自己流でデータ分析を行っていたので、私たちの方法が本当に正確なのかどうか、サーベイを分析した結果が本当に合っているのか、不安がありました。
伊達
不安を感じず「これで良いだろう」と軽く進めてしまう方もいる中で、ある意味で健全な気持ちであり、真摯な態度と言えるかもしれません。特に人事のデータ分析は、人事施策につながり、社員に大きな影響を及ぼす可能性もあるので注意が必要です。
データ分析の専門知識と人事領域のドメイン知識を持つ専門家へ依頼
伊達
ビジネスリサーチラボという会社を選ばれた理由や、選択プロセスについてお伺いしたいと思います。
永島
私たちは専門家ではないので、データ分析を専門とする企業にアドバイスを求めました。データだけを見るのではなく、人事としてのさまざまな側面や関連性を理解してくれる企業を探していたのです。その点で、多くの企業から意見を伺った中で御社は私たちのニーズに最も応えてくれると感じ、お願いすることに決めました。
伊達
分析ツールを提供している企業はありますが、人事領域におけるデータ分析を多数実施している企業はそんなに多くありません。当社は人事領域に特化してオーダーメイド型のデータ分析を手がけているので、その部分を評価していただけるのはありがたいです。
永島
付け加えると、自社で作成したサーベイ結果を元に分析を依頼すると、残念ながらお断りされることが多かったです。多くの企業は、自社が提供する既存のサーベイを使用した場合のみ分析をサポートするという方針でした。また、コンサルティングと一緒に依頼しないとサービス提供が難しいというケースも多かったです。
伊達
そういえば、2021年に私が登壇したHRカンファレンスのセッションを視聴していただいていたのですよね。その点もご依頼に関係していますか。
永島
そうです。パネルディスカッションを拝見してからご連絡したのですが、調べてみるとそれよりも前の2019年頃から、ビジョン浸透や採用に関する伊達さんのセミナーを何度か受講していました。
伊達
以前からご存知だったのですね。ありがたいです。
永島
私たちは人事データを活用して、「組織風土の改革」や「ビジョンの浸透」を目指しており、これらの変革をしっかり推進していきたいという思いが強くありました。
分析結果をもとに手法と考え方のレクチャーを実施
伊達
続いて、プロジェクトの内容についてお話しましょう。プロジェクトの主担当は当社の能渡でした。初回のセッションでは、データ分析の基本的な考え方や、このプロジェクトのケースでの最適な分析方法、使用すべきツールについてレクチャーさせていただきました。2回目のセッションでは、当社のオフィスに足を運んでいただきましたね。全体の流れについて、改めて能渡からお話できればと思います。
能渡
本プロジェクトで当社が初めに担当したのは、分析方法に関するレクチャーでした。事前に共有していただいた御社の分析結果を確認した上で、どのような追加の分析が可能か、また分析の深堀りとして何ができるかという点についてアドバイスをさせていただきました。その後、再分析された内容を改めてご共有いただき、それに対する追加のアドバイスやフィードバックを行うという形で進めてまいりました。
伊達
データ分析の知識のレベルや範囲は、よほど体系的な教育を受けている場合を除き、それぞれの企業で異なっています。今回、知識提供をする上で、当社として意識した点を能渡から説明します。
能渡
最初に分析結果を見た際、多角的にアプローチされていることがすぐに分かりました。しかし、その分析手法は、一般的な分析解説サイトで見かける情報に基づいて、ありとあらゆる集計や分析を試したように見受けられました。この分析結果から「結局、どの点が重要なのか?」という判断が難しかったのではないかと感じました。
分析において重要なのは、分析の目的と分析方法の対応、そしてその限界という基本的な視点を持つことです。この視点を持つことが、分析の質を向上させる鍵だと考えます。私の解説では、分析の基本的な考え方、つまり「分析で何を明らかにしたいのか?そのための分析手法は何か?」ということを中心に構築しました。
伊達
分析の組み合わせは無数に存在します。その中でどこに注目すべきか、判断が難しいことが多いかと思います。興味深いことに、経営層にフィードバックした際、自信のない箇所に対しては指摘や質問を受けるものです。
岡本
確かにありますね。
伊達
分析者が自信を持っていない結果に対しては、経営層も違和感を覚えるのかもしれません。自信のなさが様々なところに現れてしまう側面もあるのでしょう。そうした中で、分析の基本的な考え方を知るのは重要だと感じます。
アウトプットの必要性を背景に短時間で多くの学びを得た
伊達
レクチャーやフィードバックにおいて、印象に残っていることはありますか。
岡本
セッションの最後に触れられた点が印象に残っています。メインの設問を20問設けているのですが、結局多くの設問が同じような内容を聞くものになっていると指摘していただいたことですね。
その点は、どう対処するか検討しています。経年変化をとらえたいので、設問をいきなり大きく変更するのは困難です。しかし、より良いものにしていくためにもしっかりと回答の傾向を捉え、より効果的な改善策を施していくことを考えています。
永島
私たちの作成した組織サーベイでは項目間での相関が非常に高いという課題があり、「このままでよいのか?」という疑問や迷いが生じていました。事前にこの課題をお伝えできていなかったのですが、能渡さんから的確に指摘していただきました。その点が強く印象に残っています。
伊達
皆さんが試行錯誤を重ねたからこそ、疑問や迷いを感じたのだと思います。様々な分析を試みていなければ、「相関が高すぎるのでは?」といった悩みは浮かび上がってきませんよね。
他に、印象に残っていることはありますか?
永島
私たちが訪問した際に、能渡さんが「ちょっとやってみますね」と言い、すぐに分析を行ってくれたことが、印象的でした。「このように迅速な対応をできる人を採用したい」と、帰り道に話していました(笑)。能渡さんのスピード感には本当に驚きましたね。
伊達
データに慣れ親しんでおり、実際に手を動かす経験もしているからですね。
永島
持ち帰って後で回答する方法だと、タイムロスが生じます。それに対して、その場で具体的な方法を示していただいて、理解できる形でご説明いただいたのはイメージしやすかったです。短い時間の中で、私たちの理解が大きく深まったと感じています。
伊達
私の経験上、データ分析について教えてほしいという依頼は、大きく2つのタイプの方からいただきます。
- 純粋にデータ分析の知識を得たいタイプ
- 自分で分析を行う必要があり、そのために学びたいタイプ
後者は、何かをアウトプットする必要があるため、より真剣に取り組んでいただけるという感触があります。
岡本
もう逃げられないという状況ですね(笑)。
伊達
私たちのサービスへの良いご感想をいただいたのはありがたいことですが、御社が具体的なアウトプットを想定していたことも、うまくいった要因の一つだと感じています。
永島
確かに、データ分析や数式に関する内容は、純粋な好奇心だけではすぐに挫折してしまうかもしれません。私たちの場合、ご相談させていただいた時点で、既に火がついている状態でアウトプットが必須の状況でした。
伊達
私たちも、教科書だけで理解するのではなく、ツールを使用して実際のデータを分析し、論文を書く中で学んできています。その意味で、似たようなプロセスを経ていると言えます。
分析ノウハウをもとにサーベイ設計も改善
伊達
当社からはデータ分析の考え方や手法をお伝えしました。実際に御社の中で分析をしてみて、いかがでしたか。
永島
まだ道半ばというところもありますが、レクチャーで成果指標と影響指標について学んだことは大きな進展でした。成果指標として何を設定するのか、私たちが目指す目標は何なのかを事務局で議論しました。そして、レクチャーしていただいた分析を用いて、これらの成果指標に対する影響指標が何であるかということを明確にしました。これが私たちの取り組んだアクションの一つです。
伊達
分析のことが理解できると、設計にも生かせますね。
永島
そうですね。私たちは独自にサーベイを作成しているため、設問を自由に変更できるのは大きなメリットです。今年は、先の分析結果を基に、特定の領域を更に詳しく調査するための設問を追加するなどの議論を進められました。また、新たな影響指標が存在しないかについても議論しながらサーベイの内容を拡充しています。
伊達
分析を通じてサーベイの改善が進むのは、とても良いことですね。
ステークホルダーに対する仮説ヒアリングが鍵を握る
伊達
その後の進展について、他に何かありますか?
岡本
分析結果にはしっかりとした根拠があったので、結果を堂々と提示できました。ただ、すべての人にその結果が受け入れられるわけではありません。納得感を得られていない人たちに対して、どのようにすれば理解してもらえるのかは次の課題だと感じています。必ずしも分析の途中過程を全て見せる必要はないと思いますが、結果がしっくりこないと感じる人がいるのも事実です。
伊達
各人が素朴に持っている仮説があるはずです。「この会社はこうなっているのではないか」とか「これが問題なのでは」といった仮説をそれぞれの方が持っています。
組織サーベイを実施する際には、ステークホルダーの持つ仮説を事前に収集しておくのがおすすめです。例えば、「我々の会社の課題は何だと思いますか?」や「エンゲージメントを向上させるために効果的な施策は何だと考えていますか?」といった質問をする方法があります。
岡本
確かに、自分の持っている仮説が分析に反映されていないと、「本当に正確に分析されたのか?」と疑問に思うかもしれません。
伊達
たくさんある結果のうち、自分がもともと持っている仮説に合っている部分のみに焦点を当て、他の結果を無視するのは危険なことです。このようなことを避けるためにも、事前にステークホルダーの仮説を把握することが大事です。
従業員への還元とコミュニケーションを狙う
伊達
組織サーベイについて、今後の展望や目標があれば教えていただきたいです。
岡本
人事の立場として、収集したサーベイを人事施策に活かし、それが効果的であることを示したいと考えています。さらに有益な情報を集め、それを具体的な施策へと結びつけたいところです。
また、毎年サーベイを実施しているので、従業員から「何が変わったのか」を実感してもらう必要があります。実感がなければ、従業員はサーベイの意義を疑問視し、「なぜ毎年やっているのか」と思うかもしれません。その結果、表面的な回答になり、サーベイの意味が失われます。サーベイの結果に基づき、「この施策を導入しました」とアクションを起こし続けることが目標です。
伊達
「サーベイ疲れ」のような現象もありますよね。大企業では様々なテーマで年に何回も組織サーベイを実施しています。回答した結果がどうなったのかが分からなければ、従業員としては「また答えるのか」と感じるのが自然だと思います。
永島さんはどのような展望をお持ちですか?
永島
組織サーベイの主な目的は組織の課題を抽出することにありますが、同時に、ビジョンを共有するツールとしても活用できると感じています。つまり、調査ツールとしてだけではなく、コミュニケーションツールとしても有効ではないかということです。
会社が特に注力している点や、主要な成長領域に関して詳しく質問を盛り込むことで、すべての従業員がそれに答える過程で、「会社はこの点に特に力を入れているんだ」ということが伝わる可能性があります。
伊達
今後の展望についてお伺いしましたが、能渡さんの感想はどうですか。
能渡
全体を通して、御社の皆さまが、常に良い意味での不安感に向き合い続けている点が、非常に強みであると感じました。試行錯誤の末に出した分析結果でも「これで大丈夫だろうか」と不安を抱え続け、当社のレクチャー後も、御社の中でアウトプットへの疑義が共有され、積極的にディスカッションされています。
「専門家のレクチャーを受けたから、言われたとおりにやったから、これで大丈夫」と妄信せず、これで本当に大丈夫か、まだやれることはないかと、不安感から逃げずに向き合い続けているということです。
そのように、現状のベストとして分析結果を受け取りつつも、その中でも不安を感じ疑問を持ち続けること、それを基にサーベイや分析をさらに改良・洗練できないかと挑戦し続けることは、データ分析を活用していく上で非常に重要な姿勢であり、大きな強みだと思います。
伊達
人事領域では、例えば「この方法でエンゲージメントを測定すれば大丈夫」といった具合に、何かを盲信してしまう企業もあります。これはあまり健全なことではありません。不確実性を受け入れ、健全な不安感を持ちながら、様々な知識を得たり、柔軟に物事を考えたりしていきたいところです。
オーダーメイドとノウハウの蓄積が強み
伊達
今日はいろいろとお伺いしてきましたが、最後に当社のサービスについてのご意見をお伺いします。当社のサービスを他社に勧められるとすれば、どういう理由で推薦できるのか、お聞かせいただけると幸いです。
岡本
とても柔軟に対応していただいた点が大変印象的です。商品を一つの決まった形として提供するのではなく、我々の分析結果を元にカスタマイズしていただくというアプローチは、まさに求めていたものでした。この部分に対する満足度は非常に高いです。
実際には求めていない内容が話されることは一切なく、我々のニーズに合わせてサービスを提供していただけたのはありがたかったです。
永島
データ分析を体系的に学べたことで我々の知識やノウハウが徐々に蓄積されていると感じています。また、他部門へ分析方法の説明を行うことで組織全体の能力向上にも寄与していると思います。人事データの分析を行う際のノウハウを身につけられたのは、御社の支援のおかげと感じています。
伊達
ありがとうございます。いずれの点も、当社が大事にしているところです。1点目の柔軟に対応するという点は、我々は「オーダーメイド型」と呼んでいます。一方で、オーダーメイド型の良さは事前に伝えることが難しいため、実際に体験した御社のご感想は励みになります。
2点目のノウハウの蓄積についても、当社が意識している点です。当社は、サービスの提供を通じて、人事領域全体のリテラシー向上に貢献したいと考えています。当社の目指している方向性について指摘していただき、とても嬉しく思います。