2023年9月5日
ビジネスリサーチラボに対する近年のご依頼内容
ビジネスリサーチラボは、人事領域において、様々な研究知見を活用して、データ分析のサービスを提供しています。基本的にはオーダーメイド型のサービスであり、その内実が十分に分からない方もいるかもしれません。
本コラムでは近年、当社に対してご依頼いただく内容が多いものを挙げ、当社に対してどのようなことを依頼していただけるのか、すなわち、当社のサービスのカバー範囲を知っていただきたいと思います。
企業人事からのご依頼内容
企業の人事部門から当社にご依頼いただく内容は、大きく分けて二つ、組織サーベイと社内データ分析があります。それぞれのカテゴリーの中にも、いくつかのパターンが存在します。
1.組織サーベイ
まず、組織サーベイについて説明します。企業の人事部門から当社が依頼を受ける組織サーベイは、いずれもオーダーメイド型である点が共通しています。
①組織サーベイの全体プロセス
オーダーメイド型の組織サーベイは、その会社の状況や目的に合わせて、一から設計し実行するものです。
組織サーベイに関する依頼で言えば、サーベイのプロセス全体をまるごと依頼していただくケースが最も多くなっています[1]。
組織サーベイのプロセスの詳細はコラムにまとめているので、そちらを参照していただきたいのですが、まずは概念や項目を設計し、企業の社員から回答を得て、データを分析した上で、対策案を検討するのが、一般的な流れです[2]。
当社に依頼をいただくのは、例えば、これまでパッケージ型の組織サーベイを実施してきたものの、自社に合ったサーベイを実施したい場合や、内製で進めていたところから限界を感じた場合です。
②組織サーベイの設計のみ
オーダーメイド型の組織サーベイにおいて、設計だけを依頼していただくこともあります。ここで言う設計とは、組織サーベイで測定したい概念の検討と、それに関連した項目の作成を含みます。
概念とは組織サーベイで測定したいもの、項目とは概念を実際に測定するための質問項目、選択肢、教示文のセットを指します[3]。
組織サーベイの設計は当社で完全に実行するケースもあれば、クライアントがすでに作成していた概念や項目に対してコンサルティングを行うケースもあります[4]。
クライアントの状況と目的を考慮し、より有効な組織サーベイを目指して設計に工夫を凝らすことは、組織サーベイにおいて成功の要とも言える重要なフェーズです。当社は、概念と項目の設計に関する専門性を有しています[5]。
③組織サーベイの分析のみ
組織サーベイの分析のみを依頼していただくこともあります。例えば、回答データは手元にあるが、どう分析すれば良いか分からない、あるいは分析したものの不安が残るといった場合に依頼があります。
分析は表計算ソフトを使えば一見誰でもできるように思われます。ところが、目的に沿った厳密な分析を行うことは容易ではなく、一定のスキルと経験が必要です[6]。
分析のみを担当する場合にも、いくつかの方法があります。当社から分析方針を示し、クライアントが分析の実行を担う場合、分析方法の研修を行う場合、そして当社が手を動かして分析を行い納品する場合です。
④サーベイフィードバックのコンサルティング
最後に、それほど多いわけではありませんが、組織サーベイのフィードバックに特化した依頼をいただくこともあります。
当社がサーベイフィードバックのファシリテーションのみを行うことはあまりありません。むしろ、サーベイフィードバックの有効な実施方法についてコンサルティングするのです。
組織サーベイ全体を依頼していただいた場合には、人事、経営者、マネジャー向けにサーベイフィードバックを行うことが多くあります[7]。そこで得たノウハウをもとに、サーベイフィードバックを改善につなげる知見を提供しています。
2.社内データ分析
企業人事からのご依頼として社内データ分析があります。企業の中では様々なデータが保管されています。それらのデータを活用することで、より良い人事施策を検討する素材となります[8]。
①有望なデータの選択
様々なデータの中から、特定の目的に対してどのデータが活かせそうかを考える際の支援をご依頼いただきます。
ある程度の規模の企業においては、データが多く蓄積されています。それらのデータをそのまま分析に回せるわけではなく、分析可能な形にクリーニングしなければなりません。
どのデータが成し遂げたいことに貢献するか検討が必要です。当社では学術的な知見を参照し、有望な成果が上げられそうなデータを絞り込む作業を行います[9]。
②現有データの分析
社内データの分析は、複数年の計画で試行錯誤を進める企業が多く見られます。色々な理由で、一年目に思うような成果が得られないことがあります。
そうした場合、企業人事から当社に支援を要請していただくことがあります。当社はいわば駆け込み寺の役目を果たしています。
分析を回すデータの種類や性質を見直したり、分析の手法に工夫を加えたりすることで、局面を打破することができます[10]。
なお、このケースに限らず、当社には難易度が高い依頼が集まる傾向があります。もちろん、あらゆる分析に対応できるわけではないですが、他社では難しい場合でも、当社なら完遂できることがあります。
③複雑で難易度の高い分析
企業側でやりたいことは決まっており、そのためにデータを収集している一方で、データの性質が厄介であったり、分析手法が高度で自社では手に負えなかったりする場合、当社に依頼していただくことがあります。
例えば、発話データや生態ログの分析がこれに該当します。こうしたデータは、目的が明らかになっていて、目的に合致していたとしても、処理や分析が複雑で難易度が高くなります。
他にも、時系列を伴うデータの分析は高度化しやすいのですが、当社は熟練したスキルと経験を持っているため、効率的に対処できます[11]。
④複数の組織サーベイの分析
社内データ分析において、一見特殊に思えるものの、依頼自体は少なくはないのが、組織サーベイ同士を組み合わせて分析を行ってほしいというご依頼です。
複数年にわたって組織サーベイを実施している企業では、単年のデータを分析するだけではもったいないと言えます。複数年のデータを統合して分析することで、解明できることの範囲が広がります。
近年流行しているパルスサーベイの分析も、この部類に入ります。パルスサーベイとは、短い間隔で高い頻度で、少ない質問の組織サーベイを実施する方法を意味します[12]。
HR事業者からのご依頼
企業の人事部門からのご依頼についてこれまで取り上げてきました。しかし、当社のクライアントは企業人事に限定されません。
実際、企業人事をクライアントとするHR事業者も、当社のクライアントです。当社自体が企業人事をクライアントにしながらも、HR事業者と明確に競合していないのは珍しい立ち位置と言えます。
※この珍しい立場にはいくつかの理由がありますが、主要なものとしては、私たちがパッケージ型のサービスを提供していないこと、研究知見を活用して人事領域全体の知識を底上げすることを狙っている中立性などが挙げられます。
1.組織サーベイの開発
当社は企業人事に対して、オーダーメイド型の組織サーベイを提供しています。このサービスの提供を通じて、一から組織サーベイを作る経験を一年中行っており、その経験が蓄積されています。
その経験が評価され、HR事業者から自社で販売するパッケージ型の組織サーベイの開発を依頼していただくことは珍しくありません。パッケージ型の組織サーベイとは、質問項目や計算式が事前に組み込まれた、いわゆる既製品を指します。
HR事業者とは、全体戦略における組織サーベイの位置づけを踏まえた上で、継続的なコミュニケーションを交わしながら、それぞれのHR事業者にとって有効なパッケージ型の組織サーベイを開発します[13]。
もちろん、信頼性、妥当性、公平性など、満たすべき品質の水準をクリアした組織サーベイを開発することは重要です。これだけの数の組織サーベイを開発してきた企業は、当社以外ではかなり少ないと思います。
また、当社が一度開発した、もしくは当社以外が開発したパッケージ型の組織サーベイのメンテナンスの依頼も受けます。組織サーベイをリリースし、実際の回答データが集まってくると、より精度を高めるためにチューニングする必要があります。
さらに、一度開発したパッケージ型の組織サーベイでも、何年か経つと大幅な改変が求められることがあります。そうした場合も、当社に依頼をいただきます。
改変の際には、精度は重要ですが、時代の変化やトレンドの状況、HR事業者の内部人材の状態などを考慮しつつ進めます。
なお、いずれのケースでも、当社はデザインやシステムの側面の専門性を提供することはできません。質問項目、計算式、アウトプットイメージを提示するのが主な役割です。
2.適性検査の開発
最近、当社に寄せられる依頼の中で増えているものの一つが、HR事業者からの適性検査の開発依頼です[14]。適性検査は、特に個々人の違いに注目し、個人に対して結果を出す診断ツールです。
当社が主に受けるご依頼は、パーソナリティやコンピテンシーを自己申告形式で測定する適性検査です。これは一般に性格検査と分類されることが多いでしょう。
適性検査では集団でデータをまとめるだけではなく、個人の診断結果を出さなければならないため、組織サーベイとは異なる側面があり、高い精度が求められます。
また、適性検査を受ける状況において、往々にして「自分をよく見せたい」という心理が作動するため、その点に配慮した質問構成や計算式を構築する必要もあります。
適性検査は、各社のコンセプトやアウトプットの仕様が異なり、組織サーベイよりもバリエーションが多いため、組織サーベイに比べて開発の難易度がぐっと高まります[15]。
適性検査については、機能追加の依頼をいただくこともあります。既に出来上がっている適性検査に対して、「こういうことをできるようにしたい」というご要望を受け、それを実装する役割を担います。
3.HRサービス開発のコンサルティング
当社は、企業人事だけではなくHR事業者もクライアントにする稀有な立ち位置を確立しています。この立ち位置から人事領域を俯瞰する機会に恵まれています。
それらの機会を通じて人事領域全体の知識が身につくため、HR事業者から組織サーベイや適性検査以外のサービスの開発に際し、コンサルティングの依頼を受けることもあります。
サービスが市場に合うかどうか、どのような要素から構成されればより受け入れられるか、サービスの市場への示し方など、幅広くコンサルティングを行っています。
4.市場調査の支援
HR事業者の中には、シンクタンク機能を持っている企業もあります。そうした企業からのご依頼で、市場調査のサポートをすることもあります[16]。
当社が人事領域に幅広い知見を持っていること、学術的な知見にアクセスできること、分析スキルと経験を有していることから、こうしたご依頼を受けることができています。
市場調査を行うと言っても、社内で閉じて活用されることは少なく、社外に向けて結果を公表することで、人事領域の啓蒙を同時に狙います。
本コラムでは近年、当社にいただくご依頼の内容を、企業人事からのご依頼とHR事業者からのご依頼に分けて紹介しました。
こうしてみると、実に多様な仕事を行っているように見えますが、研究知見やデータ分析を活かしてオーダーメイド型のサービスを提供している点は、おおよそ共通しています。
脚注
[1] 一つの事例として次のコラムをご参照ください。<組織サーベイの最前線>アサヒプロマネジメント株式会社:組織サーベイを通じて全社的な対策を実行
[2] 当社の組織サーベイの進め方についてまとめたコラムがあります。ビジネスリサーチラボの組織サーベイ支援 12のステップ
[3] 概念と項目については、次のコラムにて意味合いを整理しています。人事のための組織サーベイ入門:従業員の心理を可視化し、データ分析に基づいて意思決定する方法
[4] 組織サーベイの設計に関するコンサルティングの一事例として、次のインタビューが参考になるでしょう。ライオン株式会社|内製型組織サーベイの設計・項目作成支援
[5] 当社が組織サーベイを設計する際に考慮に入れている知見の一部は、次のコラムにおいて確認できます。心理尺度の作り方・考え方:組織サーベイの質問項目作成のポイント
[6] 組織サーベイを実行する上での当社の強みを挙げたコラムがあります。ビジネスリサーチラボのオーダーメイド型サーベイの強み
[7] サーベイ結果をフィードバックするときのポイントを挙げたレポートを参照していただきたいと思います。サーベイフィードバックの10の方法:従属員意識調査を対策につなげるために(セミナーレポート)
[8] データの利用に当たっては、法的な要件を満たす必要があります。また、当社は、従業員の不利益となる形でのデータ利用に対して賛成の立場ではありません。
[9] 有望なデータを絞る折に研究知見を活かすという観点では、影響指標の挙げ方に関するコラムの内容が部分的に参考になるかもしれません。組織サーベイの効果を引き上げる 影響指標の設定方法とチェックポイント
[10] データ分析で有益な成果を得るために考慮すべき点を語った対談として、次のものが参考になる可能性があります。「筋の良い」データ分析を行うためのポイント(人事のためのデータ分析 対談レポート)
[11] 例えば、時系列データの分析の際に用いる手法である、潜在差得点モデルに関するコラムをご参照ください。潜在差得点モデルとは何か
[12] パルスサーベイの魅力と限界を整理したレポートとして、次のものをご参照ください。パルスサーベイの科学:高頻度アンケートの分析、限界、対策(セミナーレポート)
[13] 組織サーベイの開発者として当社の名前を出さないことが多いのですが、例外として、「マイナビ エンゲージメント・リサーチ」を挙げさせていただきます。株式会社マイナビと共同で「マイナビ エンゲージメント・リサーチ」を開発しました
[14] 当社ではHR事業者だけではなく、企業の人事部門からも自社オリジナルの適性検査を開発してほしいというご依頼を受けることがあります。
[15] ここでも、組織サーベイと同様に、デザインとシステムについては当社の範囲外です。
[16] 市場調査を支援したケースとして、TalentX社のリファラル採用に関する調査が挙げられます。
執筆者
伊達洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。