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導入事例

ライオン株式会社|内製型組織サーベイの設計・項目作成支援

コラムプロジェクト例導入事例

(左から)ライオン株式会社 人材開発センター 臼井秀人様、ビジネス開発センター コンシューマーナレッジ インサイトクリエーショングループマネージャー 本瀬丈士様、株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆

大手生活用品メーカーとしてオーラルケア製品や家庭用洗剤、ボディケア製品等の製造・販売を行うライオン株式会社様。同社は、自社内で組織サーベイを実施していますが、質問項目の妥当性・信頼性を強化したいという課題を持っており、適切な項目や表現などについて専門的な知見をもとに改善したいと考えていました。また、コーポレートブランディングの取り組みの一環として、従業員のエンゲージメントや働きがい、就労環境を理解し、可視化したいという目的がありました。

これらの背景をもとに、ビジネスリサーチラボでは2022年8月~12月にかけて組織サーベイの調査項目に関するコンサルティングを行いました。人事の立場からプロジェクトに関わる臼井様と、マーケティングリサーチを専門とする本瀬様にお話を伺いました。

人事とマーケティングが協働し、組織サーベイを洗練化する

伊達

貴社が実施されている組織サーベイの質問項目を洗練化することがプロジェクトの目的でした。まずは、当社へご相談いただく前のことについてお伺いできればと思います。

臼井

当社では組織サーベイを行う際に、自社で調査票を作り、特有の課題にフォーカスして柔軟にカスタマイズできる体制を構築しています。一方で、調査票の設問をいかに妥当性のあるものにしていくかには課題を感じていました。公開されているエンゲージメントのフレームなどを参考に設問を洗い出すなどして進めていましたが、設問の項目や表現、順番など、判断に迷う部分もあり、専門的な知見をもとにより有効な調査にしていきたいと感じていました。

伊達

完成した質問項目だけを見ると、「簡単に作れるだろう」と思う方もいらっしゃるんですが、実際に作ろうとすると、様々な面で難しさがありますよね。

本瀬

ビジネスリサーチラボ社に相談する少し前に、コーポレートブランディングに重点的に取り組んでいこうという流れが社内で立ち上がりました。コーポレートブランディングの枠組みには顧客・株主・従業員といったステークホルダーが含まれますが、従業員が現在どのような状況なのか、例えばエンゲージメントはどのような状態なのか等をしっかり把握できていなかった。この部分を強化していかなければコーポレートブランディングにつながっていかないのではという危機感がありました。そこで、我々が捉えるべき従業員エンゲージメントを学術面・実践面の両方を考慮して設定し、そこに繋がる働きがいや就労環境などの要因も幅広く観察したいと考えました。

伊達

人的資本に関する一部の項目の開示が義務化され、HR領域では人的資本経営が盛り上がっています。開示義務はないものの項目の中にはエンゲージメントが含まれます。これは、社員が活力を持って働いているかどうかなどを表すもので、将来的に上場企業については開示が求められることになるでしょう。このような背景のもと、組織サーベイによるエンゲージメントの可視化は社会的に注目されています。

コーポレートブランディングの文脈で組織サーベイによって人や組織の状態を可視化していこうとする貴社の取り組みは、発想も含めて先進的なものだと感じています。

また、組織サーベイのプロジェクトは人事企画が主導するケースが多いのですが、貴社のプロジェクトチームは多様な部署のメンバーで構成されているのが特徴的です。このようなチームが組成された経緯を教えていただけますか。

本瀬

当社のマーケティングリサーチ部門には40人以上のメンバーが所属しており、長い歴史の中でマーケティングの知見とノウハウを蓄積しています。その中で、調査の設問には専門性が必要だということを重々認識しています。組織サーベイであっても、質問を見れば、きちんとした設計がなされているのかということを評価することができるんですね。このようなスキルを持ったメンバーが加わることで、プロジェクト全体のクオリティーも上がっていくのではということで、途中から参画することになりました。

臼井

そうですね。もともと、調査を行うのであればしっかりとした根拠のある有効なものにしたいということが会社としてもありました。社内で調査の専門部隊が存在するため、その知見を活用しながら取り組んでいくことが最善だと考え、本瀬さんに参加していただくことになりました。

伊達

確かに、マーケティングリサーチ部門の方は専門知識と調査経験があるので、心強いパートナーになると感じました。

しかし、多くの企業ではマーケティングと人事は独立して活動しており、このような協働はあまり見たことがありません。また、マーケティングリサーチ以外にも、例えばデータ分析などを専門とする部署がある企業もあります。しかし、人事がこれらの部署の支援を求めることは実は多くありません。このインタビューを通して、このような座組の魅力と効果を知っていただきたいですね。

学術知見と実践経験を備えたパートナーとして推薦

伊達

私たちにご依頼をいただいた経緯や、なぜ私たちが選ばれたのかなどを教えていただければと思います。佐藤博樹先生からのご紹介だったと記憶しているのですが、詳細を教えていただけるとありがたいです。

本瀬

佐藤先生には大学院時代にご指導をいただいていたのですが、今回の件を佐藤先生に相談したところ、伊達さんを推薦していただきました。

佐藤先生が伊達さんを推薦した理由は、ビジネスリサーチラボがアカデミックな知見と実践的な経験を兼ね備えているからで、私も会社のウェブサイトなどを見てその印象を持ちました。さらに、他にこのような経験と知見を持つ会社は少ないのではないかと感じています。当時は多くの大手、外資を含む人事コンサルタント会社にヒアリングを行いましたが、多くが自社のシステムの導入支援を行うようなスタンスでした。

伊達

パッケージ商品を推奨する形ですね。

本瀬

はい、そうです。多くの会社が「私たちのシステムを使用すれば、貴社のデータをBIツールのように見ることができます」というアプローチをしていました。しかし、私たちは意味のある調査を行えるような、調査項目を作り上げるためのコンサルティングを求めていました。そして、自社で内製するプロセスを並走していただけるパートナーを探していました。その点で、貴社は私たちの求めるパートナー像にフィットしていると感じました。

伊達

ありがとうございます。私が佐藤先生と初めて出会ったのは、2019年に開催された日本労務学会で、私と佐藤先生はセミナーセッションでご一緒しました。主題は大学の研究者が企業とどう協働していくべきかということでした。

そこでの出会いを通じて、佐藤先生は私たちの会社を知り、今回私たちを推薦してくださったと思います。ありがたいことです。臼井さんはいかがでしょうか。

臼井

調査票を自分たちで作成する際には、根拠を持って取り組むことが重要だと考えていました。学術的な知見は本来、私たち人事側が持っているべきだと思いますが、その視点が足りなかったので、専門家の視点から調査票をレビューしていただきたいと思いました。私自身、元々理系の背景を持っているため、データの適切な扱いにはこだわりを持っています。

伊達

それは理解できます。私たちのクライアントには、理系の背景を持つ方やIT企業が多くいらっしゃいます。データの扱いに関心を持っていたり、データを使った経験があったりする方が多いということです。ビジネスリサーチラボは、HR事業者のサービス開発やコンサルティングを手がけるなど、人事業界では特異な立ち位置にあります。当社の特性を評価していただき、依頼をいただけたことに改めて感謝申し上げます。

学術的根拠をもとに信頼できる組織サーベイを実現

伊達

プロジェクトを実施していく中で、特に印象に残った点や学びになった点があれば教えていただきたいです。

臼井

私が特に印象に残っているのは、レポートの各項目に参考文献が明記されていて、学術的な根拠がしっかりとあることです。非常にレベルが高く、期待を上回るものでした。後で参考文献で詳細を確認することもでき、その数と詳細さが参考になりました。HRの領域は、データドリブンでやっていこうという潮流がありますが、実態としては限られた時間の中で質の高い調査を作り上げることは難しい面があります。そのような中で、専門家の立場でしっかりと根拠を示しながら並走していただけたことはとても安心感がありました。

それ以上に印象的だったのは、学術的な知識の活かし方でした。学術的な根拠を重視する一方で、回答者負担から設問数には上限があるなど実務上の壁もあります。ビジネスリサーチラボ社はそういった事情を理解し、その中でどのような対策が最も効果的かをバランス良く提案していただいたことがありがたかったです。

伊達

データドリブンというときに、データの根拠は非常に重要ですよね。データだけでは進行が難しいものです。そこに科学的な知見が加わり、さらに実践的な知見が組み合わさることで、意味のある形で分析を実行できます。

また、研究知見を実務へどう適用するかは私たちも意識しており、評価いただけたことが嬉しいです。理論が先行し過ぎると現実から乖離してしまう反面、理論が重要な部分もあります。それぞれの会社に適した形でどのように適用するか。このことは工夫を凝らしているところです。

本瀬

私たちは外部のパートナーに頼りきりになるのではなく、内部で組織知をストックしていきたいと考えています。これは人事領域だけでなく、組織全体としてもそうです。ビジネスリサーチラボのアドバイスは、我々のスタイルに非常に合っていました。

伊達

今のお話を伺って、私たちが支援しているクライアントとの共通点を感じました。様々な業種のクライアントの方がいらっしゃいますが、共通しているのは、結論だけを求める方はいないということです。結論を効率的に求めるのであれば、別の会社に依頼し、例えばツールを導入する方法で十分かもしれません。それよりも、プロジェクトで新たな視点を得て、社内で持続可能で高い品質の運用を行うことを重視している会社が多いと感じました。

私からも、貴社のプロジェクトを進める中で印象的だったことをお話しします。まず、意外に思われるかもしれませんが、組織サーベイの際に、目指すべき指標(成果指標)とそれを促進する要因(影響指標)をきちんと整理できている会社は多くありません。貴社では、そこがきちんと分けられていました。

もう一つ記憶に残っているのは分析です。これまで様々な企業の内製型の組織サーベイを見てきましたが、分析についてほぼトップレベルだと感じました。

つまり、貴社では成果指標と影響指標が区別されていて、高い分析能力があるという状態でしたので、あとは成果指標と影響指標の中身さえ整えれば全体としてうまくいくだろうという感覚を持って、プロジェクトを進められました。

本瀬

私たちが行っていることが高度なものだとは思っておらず、むしろ基本的なことを実行しているというのが正直なところです。

私は普段マーケティングリサーチを行っていまして、生活者のインサイトを見つけ出し、それを新しい製品のアイデアに生かすチームの統括をしています。その中で今回実施したような分析も用いています。例えば、生活者の需要性を測る時には、「どのくらい使いたいですか」「どのくらい買いたいですか」といった質問をし、ロイヤルティなどKPIとなりそうな指標を設定し、パッケージのデザインや使いやすさ、中身の要素(洗剤ならば洗浄力など)がそれらにどう影響するかを統計的に分析します。その手法を組織サーベイでも活用しました。

私たちの部署が入って良かったと思うところは、分析結果の解釈の部分です。例えば因子分析を行った時に、出てきた因子をどのように解釈し、誰もが理解しやすいラベリングをどうするかといったところは、普段私たちが生活者の様々な調査結果を解釈し、社内に伝えていることがノウハウして役立ちました。

伊達

逆に言えば、基本的な分析が人事の領域ではなかなかできていないというのが実態としてあるのでしょう。当社では、成果指標と影響指標の話や、統計分析の基礎について、様々な場で繰り返し伝えてきていますが、まだ道半ばというところです。

その意味で、貴社の取り組みは人事領域のデータ分析に風穴を開ける部分があると感じます。人事領域のデータ分析を行う際、必ずしも人事だけで行わなければならないわけではありません。適材適所で専門性を持った方々と協力しながら進めることが重要ですね。

社内調整で生まれる定義の広範化とダブルバーレル

伊達

ここまではポジティブな点について触れてきました。組織サーベイとしての課題について印象に残っている点もあります。

様々な企業で内製型の組織サーベイにフィードバックを提供してきた中で、共通して見られる課題があります。

一つは質問項目の定義の問題です。例えば、エンゲージメントという概念を測定するとき、貴社ではその定義が記述されていましたが、測定という観点からすると、洗練化の余地がありました。これは貴社に限らず、多くの会社で見られる傾向です。

もう一つの課題は、ダブルバーレルの質問項目です。一つの質問項目に複数の意味内容が含まれていることを指します。

実は両者に共通する原因があります。それは、社内での調整の過程で発生するということです。初めはシンプルだった質問や概念が、様々な意見や指摘を組み入れる中で、複雑化していきます。

例えば、”ダイバーシティ”を測定しようとすると、「ダイバーシティ推進部門が採っていた、この項目を入れられないか」「この項目を入れるんだったら、こういうのも入れてほしい」「この概念にはこういう意味も入るよね」等、様々な指摘が入る中で、概念の定義が広がっていってしまいます。

このような課題は、内製型の組織サーベイにおける一般的なものです。自社で調査を実施する場合、社内の多くの視点を取り入れることになりやすいからです。

本瀬

よく分かります。

臼井

なぜそうなってしまうかというと、社内からのさまざまな意見に対して、明確な根拠を以って断ることが難しいわけです。専門的な知見をもとに作成した設問については、「こういう定義なので変えられません」と言え、ビジネスリサーチラボのような専門性がある方に支援していただけると、根拠を持って調整することができます。この点は、社内だけでは難しいところです。

伊達

そうですね。なかなか一筋縄ではいかないところだと思います。意見を聞かないというのも違いますしね。内製型の組織サーベイでは避けられない課題であるため、今後も意識して対処する必要があるのでしょう。

精度の高い調査をもとに共通言語を得て、改善のPDCA活性化へ

伊達

プロジェクトを通して様々な修正の方針を出させていただきましたが、その後、社内でどのようなアクションを取られたのかお伺いしたいです。

臼井

いただいたレポートを元に、欠けていた調査項目を補充しました。また、設問もレポートを反映した上で調査を行いました。もともとエンゲージメントを成果指標と設定し、影響指標で説明しようとしていましたが、モデルの精度も高くなり、網羅性も非常に高くなったと思います。また、副次的なところかもしれませんが、社内での説明の際に、学術的な根拠を持って説明できるのも良かったと感じています。

伊達

「なぜこのような測定の仕方をしているのか」等、素朴な質問を受けるケースもありますよね。本瀬さんはいかがでしょうか。

本瀬

伊達さんからのアドバイスにより、影響指標を増強した結果、「ダイバーシティ」や「業務量の多寡」といった新たな因子が見つかりました。こういった部分に注目して力を注いでいけばエンゲージメントが上がるという共通言語ができたことは大きな意義がありました。

例えば(影響指標の1つである)「仕事のやりがい」は部署によって異なりますが、それがエンゲージメントに繋がると示したことで、「うちの部署において仕事のやりがいってどういうことだろうね」といったディスカッションが実際にできています。大きな進歩だと思います。

また、定性調査も開始し、定量調査で明らかになった部署ごとの課題をもとに、それぞれの改善策を作るための深い従業員インサイトを洞察するという次のステップに進めています。

伊達

それぞれの会社にとって、サーベイを実施することの意義とは何か。その一つを話していただけたと感じました。

例えば、働きがいを高めることは重要だと認識しつつも、皆がその問題について同じ土台で話すための言語がないんですよね。そのような中で、組織サーベイはまさに共通言語を提供するので、その結果、議論ができるようになります。

異なる仕事をしていても、学びになる取り組みをしているケースもあります。「あの部門はマネージャー同士でコミュニケーションをとっているのか、それならうちの部門でもやってみようか。そうすると、上司サポートが高まるかもしれない」等、共通言語をもとに、対策の情報交換が生じやすくなります。

他に、組織サーベイを通して、貴社として狙っていることがあれば教えてください。

臼井

成果指標であるエンゲージメントを向上させることが目標です。まだ道半ばではありますが、調査をやるだけではなくて、PDCAをしっかり回していくことが必要です。調査結果を現場で活用して改善し、その結果を数値でまたチェックするといったことを、今後は力を入れてやっていきたいと考えています。

現在、部署や組織別のフィードバックレポートを作成していますが、共通言語を持ってマネージャー間で情報交換するといったところまでは至っていません。今後は、いかに現場のマネージャーにデータを活用していただけるかに注力したいと思っています。

伊達

組織サーベイが健康診断のような位置づけとなり、具体的な行動へと落とし込んでいく形になっていけばベターです。もちろん、地道な取り組みが必要だと思いますが、PDCAのサイクルが本格的に回るようになったら、ぜひ貴社の取り組みについて様々な場所でお話していただきたいです。他社の人事の方にとっても参考になると思います。

様々な領域を横断しながら課題解決に寄り添う

伊達

最後の質問です。今回、調査設計のコンサルティングという形で関わらせていただきましたが、大企業でも内製型の組織サーベイを行っている会社があります。特に、どのような会社に対して、ビジネスリサーチラボのサービスをお勧めできそうですか。

本瀬

私たちは、組織知を蓄積しながら、時代の流れに合わせて重要なテーマを取り上げて組織をアップデートしていくアプローチをとっています。今回のプロジェクトの場合、エンゲージメントはそれ単体で扱っているのではなく、現在取り組んでいるパーパスブランディング等の他の要素と合わさって深めています。

貴社はエンゲージメントに限らず、様々なテーマについてもお付き合いいただけるため、様々な課題に取り組む企業にお勧めできますね。

伊達

ありがとうございます。ビジネスリサーチラボは幅広い領域をカバーし、かつ変化に対応していくところを強みとしているので、貴社のように様々なことにチャレンジしていきたいと考えている企業にとって良いサービスを提供していきたいと、改めて感じました。

#伊達洋駆

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