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コラム

フェロー対談:黒住嶺 ~研究をもとに現場の問題を解決する~

コラム

株式会社ビジネスリサーチラボでは、多様なバックグラウンドを持つフェローが働いています。フェローのこれまでのキャリア、現在の活動や関心、今後の展望などを共有することを目的にした対談を実施しました。今回は、入社2年目を迎えているフェローの黒住嶺です。以下、黒住と当社代表取締役の伊達洋駆による対談をお届けします。

研究スタンスを評価され、リファラル採用で入社

伊達:

この対談では、ビジネスリサーチラボのフェローが何を考え、どのように業務に取り組んでいるかをお話します。まずは、どのような経緯でビジネスリサーチラボに入社したかを教えてください。

黒住:

よろしくお願いします。私がビジネスリサーチラボに参加したのは、リファラル採用という形でした。フェローの能渡さんからの紹介で、「あなたの研究スタイルはここに合っている」と言われ、それが心に響きました。

能渡さんとは以前から一緒に研究をしており、研究の進め方など、私から相談を持ちかけていました。その時の会話が能渡さんの印象に残り、新人の募集が出たタイミングで、私に声をかけてくれたんだと思います。

伊達:

それは、研究に対するスタンスが合っていたということですか。

黒住:

はい、そうです。たとえば、私は能渡さんによくデータ分析の相談をしていました。

しかし、ただ分析方法を尋ねるだけでなく、「自分はこれを達成したい、これに興味がある」という視点も併せて伝えていました。そこから能渡さんに、「彼はただ方法を知りたいだけでなく、目的に対して最適な分析を探求している」と伝わったのかもしれません。

伊達:

自分自身で解決したい問題を意識し、それに向かって研究を進めていたんですね。能渡さんからの紹介後、黒住さんはビジネスリサーチラボのことを調べたと思います。どの部分が印象に残りましたか。

黒住:

「アカデミックリサーチ」のコンセプトには、とても感動しました。民間企業が直接、社会科学系の研究手法や研究知見を扱う点が珍しいと思いました。

それに、ビジネスリサーチラボの事業は総じて、人々の困りごとに、研究的なアプローチで解決策を提案することだと感じました。これが実は、私がかねてからやりたいと思っていたことだったのです。

研究と業務の共通点と相違点

伊達:

そのような経緯でビジネスリサーチラボに入社してから、1年半ほどが経とうとしています[1]。大学院における学術研究とビジネスリサーチラボでの仕事について、共通点と相違点を教えてください。

黒住:

共通点は、扱うテーマに対してどのような手法を用いるのが最善か、考え抜くことです。この点は、ビジネスリサーチラボで行う全ての業務で、学術研究と同じだと思います。

相違点については、ビジネスリサーチラボでは学術的な研究知見を、クライアントの問題にどのように活かせるかという視点で見ます。つまり、実践的なアプローチに常に関心を持っているのです。この視点は、大学院での学術研究とは必ずしも一致していません。

伊達:

まず、共通点について掘り下げましょう。目的に対して、どのような手段を選ぶかを粘り強く検討することは、確かに大事ですね。では、実際の業務の中で、工夫していることや意識していることはありますか。

黒住:

たとえば、クライアントの社内データを分析する場合です。このとき、既に蓄積されているデータを使って分析する必要があったり、リサーチクエスチョンとは別に気になったことも報告してほしいと求められる状況も多いです。そのため、どんな目的でどの方法を採用するべきか、検討する必要があります。

そこで、知っている分析手法から、適応できそうなものはなるべく全て試すようにしています。分析結果は、部分的ではあるものの、現象を必ず反映しています。いくつもの結果を解釈することで、現場の理解を深めることが大切だと考えています。

ただし、解釈に気を取られて、分析の利用方法が不適切になるリスクもあります。なので、手続きに誤りはないか、結果の考察が飛躍していないかは、ダブルチェックしてもらうようにしています。

伊達:

言い換えると、多面的に現実にアプローチしていくということですね。

続いて、相違点についても触れておきましょう。具体的な問題に研究を活かすという相違点に、黒住さん自身が適応していくために、新たにどのようなスキルや考え方を習得しましたか。

黒住:

一番に挙げられるのは、「自分がどう思うか」を大切にするという姿勢です。学術研究では、主観的な視点はなるべく排除した、客観的な分析や測定に重きが置かれます。しかし、ビジネスリサーチラボの業務の中では、自分がどう感じ、どのように解釈したかが重視されていると気づきました。

たとえば、データ分析の結果をクライアントへ提供する場合です。このとき、客観的だが具体性が低い、いわば無味無臭な解釈では、クライアントには伝わらないのです。

求められているのは、専門性を持った分析者が自らの体験も踏まえて整理した、現象がありありと見える報告です。つまり、現場の問題解決に際しては、主観も必要であり、主観と客観のバランスをうまくとることが求められているのだと考えています。

伊達:

自分を媒介にして実践に関わるという方針ですね。黒住さんは特に意識している視点だと思いました。

印象に残っている研究レビューとデータ分析

伊達:

ビジネスリサーチラボに来て、様々な仕事をしてきたかと思います。特に先行研究のレビューについて聞きます。黒住さんがこれまで行ってきたレビューの中で、何が一番記憶に残っていますか。

黒住:

私が一番印象に残ったのは、リーダーシップ研究のレビューです。学術研究で確認されているリーダーシップスタイルを網羅しようという目的でした。リーダーシップの専門家でもなければ、あそこまで多くのリーダーシップスタイルがあると知る機会は、ないと思います。その点で、とても面白かったですね。

伊達:

結局、何個ぐらいのリーダーシップスタイルを見つけたんでしたっけ。50個ぐらいでしたか。

黒住:

いえ、もっと見つかったはずです(笑)

また、レビューに取り組んだことで、思わぬ研究結果を知れたのも刺激的でした。詳細は割愛しますが、混沌とした職場に置かれた上司を、精緻な理論化よりもまず描写しようとする意図を感じた研究です。もっと掘り下げたくなって、伊達さんと二人で、セミナーも開催しましたね[2]

伊達:

言われてみると、自分の興味範囲を超えて探求できるのは、ビジネスリサーチラボの仕事の魅力かもしれません。自分では考えたこともなかった問題に、クライアントが直面している可能性があるので、そういう仕事が生まれてきます。

続いて、ビジネスリサーチラボにおけるデータ分析の取り組みの中で、印象に残っているものはありますか。

黒住:

新入社員のデータを用いて、今年どのような新人が来たのかを把握するプロジェクトです。そこではクラスター分析[3]を用いて、新人をタイプ分けしました。

クラスター分析は、大学院生として自分の研究をしていた頃にもよく用いていた手法です。慣れ親しんだ分析が企業の問題解決に直結したという経験となり、非常に新鮮でした。

一方で、自分の仕事がクライアントに影響を与えるという大きな責任も感じました。どんな分類を採用するかによって、新入社員への施策が変わるということなので。私がビジネスリサーチラボに入社してすぐに行った分析だったのもあり、印象に残っています。

伊達:

分析結果は、様々な形で活用されますよね。仕事生活に様々な影響を与えます。自分の好奇心に加えて、責任感を持つことは重要だと感じました。

さらに、新人を理解するための分析を、黒住さんが新人であるタイミングで行ったのも意味があったのかもしれません。印象にも残りそうです。

大事にしている価値観と会社への貢献ポイント

伊達:

黒住さんが仕事を行う上で重視していることはありますか。

黒住:

大切にしていることは二つあります。一つは、効率です。効率を重視することは、一見、丁寧な課題解決という、ビジネスリサーチラボのような仕事と矛盾する進め方に思えますが、とても大切だと考えています。

仕事では必然的に、いくつかの課題解決を同時並行で進めることになります。そのため、一から十まで丁寧に進めていると、進め方はどれも丁寧だけど、肝心の提案はいずれも間に合わないという本末転倒な事態にもなりかねません。

そのため、この案件で重要なポイントは何かを考え、まずその水準を達成するように意識しています。そのうえで、充てられる時間の中で、成果物を最大限改良することが、効率を重視した進め方だと思います。

大切にしていることのもう一つは、具体化です。研究知見においては、個別のケースの特徴は、どうしてもそぎ落とされていきます。しかし、その結果を目の前の課題へ実際に反映できなければ意味がありません。

クライアントは、自分や社員を理解するために、できるだけ具体的な情報が欲しいのです。そこで、例えば解決策を挙げるときは、その提案を見るだけですぐに実行可能な具体性を目指しています。つまり、具体性は課題解決を前に進めるうえで非常に大切だと感じています。

伊達:

なるほど、効率と具体化。効率については、時間という制約をうまく考慮する必要があり、具体化については、現実との照らし合わせを行う必要があるということですね。

そうしたことを意識しながら働いている黒住さんですが、ビジネスリサーチラボで働いている中で、どのような貢献ができていると感じますか。

黒住:

まず思い当たる貢献は、業務を構造化することです。初めは、私が新人として入社したころに、いろいろな業務を早く覚えようとして始めたことです。

具体的には、マニュアルがない業務について、その手順や注視すべきポイントを一から書面化しています。また、そのマニュアルを使って業務を進め、改善できるプロセスがあれば、実務とマニュアルの両方を修正しています。

一度構造化しておけば、同じようなタスクを行う際、何から取り組めば良いかが分かります。また、他の社員が同じようなタスクを行う場合にも役立つかもしれません。

伊達:

学んだことを残すだけでなく、共有しているということですね。他の社員にも有益である点も良いと思いました。

黒住:

他には、「毒味係」も担っています。もちろん研究知見は必ずしも毒ではありませんが、研究結果を試すという役割を毒見係と呼んでいます。例えば、フィードバックの提案方法に関する研究を読んで、それを私が他人に行うフィードバックで活用してみるということです。

研究結果を読んで面白いと感じても、それを自分で実際に試す人は、実はそこまで多くありません。試してみた上で、私なりの考えや感想を伝えることが重要だと考えています。こうした役割を、これからもビジネスリサーチラボの中で積極的に担っていきたいと思います。

伊達:

ビジネスリサーチラボでは、クライアントに様々な対策を提案しています。その点で、ビジネスリサーチラボ自体が対策を実践しないと、本当に役に立つのかを自信を持って説明できません。実践の主導者として、黒住さんが積極的に行動していますね。

また、黒住さんには、失敗を恐れないという強みがあるのでしょう。新しいことを試すとき、うまくいかないこともあります。すべてが完璧にいくわけではなく、何かしらの調整が必要になります。それでも黒住さんが挑戦できるのは、失敗をポジティブに受け止めているのだろうと感じました。

ビジネスリサーチラボに合う人材

伊達:

ここまで、黒住さんの話を中心に話を進めてきました。少し話題を変え、今度は黒住さんから見て、ビジネスリサーチラボはどのような社風があるか、どのような人柄の社員が働いているかを教えてください。

黒住:

世相もあって、私は入社時からフルリモートで勤務しているため、職場で皆さんと直接会う機会はあまり多くありません。なので、オンラインでのコミュニケーションや、業務を通して抱いた印象ではあります。それでも、どの社員も、それぞれの役割をよく理解し、その役割を果たすことに熱心な人が多いと感じます。

例えば、能渡さんは分析のスキルが高く、それを業務で活用しているだけでなく、社内外に共有することにも力を入れています。社内で誰よりもスキルが高いという自負や、自分の役割をしっかりと果たすという責任感を持っていると思います。

さらに、新しいことに挑戦する傾向も強いです。ただ、いわゆる向上心といった、スキルアップ自体を目指して新しいことを追求しているのとは違う気がします。どこか自然と挑戦していて、新しいことだけど面白そう、楽しそうだからやっているというイメージです。

伊達:

確かに、経験に対して開放的な社員が多いですね。リラックスした状態で、各々の知識を広げていっていると思います。

今の話にも関連しますが、ビジネスリサーチラボにはどのような人が合うと思いますか。

黒住:

研究に関わるスキルは大切ですが、これは後からでも伸びます。なので、それ以上に重要な要素が二つあると思っています。

一つは、「現場の問題を解決したい」という意思です。学術研究と同様に、想定通りに進まない業務も少なくありません。それでも、どうにか問題解決につなげたい、という土台があれば、より良い成果へと近づけられると感じています。

もう一つは、現場で独自に培われている知識と経験を学ぶ姿勢です。あくまでも個人的な意見ですが、アウトリーチという表現を社会科学系の領域で使うことには違和感があります。実務の現場では、研究知見に頼らずとも日々業務をこなします。そのような状況に研究知見を押し売りしては、実務家から反発にあうだけでなく、有益な実践知を見落とすことにもなるでしょう。

勿論、理論に基づく仮説検証や介入というトップダウンの関わり方も、混沌とした現場を整理する基準として重要です。なので、現場から学ぶというボトムアップの関わり方と併せて、2つのアプローチを心がけられることが必要だと考えています。

伊達:

現場を尊重することが大事なのですね。その視点がないと、一方的に教えるだけ、あるいは、教わるだけになってしまいます。そうならないようなバランスで関与することが求められます。

今後、取り組んでいきたいこと

伊達:

最後に、黒住さんが今後どのような仕事をしたいと考えているか、教えてください。

黒住:

今後の目標としては、主に二つあります。一つは、情報発信です。これまでの仕事は、データ分析や先行研究レビューがメインでした。これらは、研究知見の活用ではあるものの、私個人に閉じています。なので、セミナーや研究結果の発表などの情報発信の場で、研究知見に触れる機会が少ない人からの感想を直接聞くことで、それを業務や研究に活かしたいと考えています。

もう一つは、コミュニティ運営です。ビジネスリサーチラボのような事業や活動は、まだまだ認知度が高いとは言えません。研究をより広く理解しやすく伝えるとともに、現場からのフィードバックを得て、問題の解決へつなげるためのコミュニティを作りたいと思っています。

伊達:

ありがとうございます。情報発信やコミュニティ運営を通じて、社内外の様々な人との関係を築いていけそうです。さらなる活躍を期待しています。

黒住:

こちらこそ、貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

 

脚注

[1] 20236月時点

[2] ここで取り上げた「パラドキシカル・リーダーシップ」について、詳細は「パラドキシカル・リーダーシップ入門:矛盾と上手く向き合う(セミナーレポート)」で紹介しています。

[3] クラスター分析についてはコラム「クラスター分析とは何か」を参照してください。


プロフィール

黒住 嶺 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー

学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。

 

 

 

伊達洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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