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コラム

ビジネスリサーチラボにおけるコラムの位置づけと考え方

コラム

今回のテーマは「コラムの執筆」です。文章の作成テクニックというよりも、コラムに対するビジネスリサーチラボの考え方や心構え、目的について述べます。

コラムとは

ビジネスリサーチラボにおいて、コラムは知識を伝達する手段の一つと位置づけています。私たちは、主に3種類のコラムを公開しています。

  • 研究成果の紹介:実務に役立つ研究結果を紹介するもの
  • 分析手法の解説:初級から応用まで、統計分析の方法や考え方を説明するもの
  • イベントのレポート:主催するセミナーの報告をまとめたもの

ビジネスリサーチラボのコラムの特徴はその長さにあります。6,000字から10,000字程度と、一般的なコラムよりも長めです。その長さにもかかわらず、毎月4本から8本程度のペースで公開しています。

コラムの目的

ビジネスリサーチラボのフェローが務めており、それぞれの関心や専門性を活かして担当しています。コラムの執筆は業務の一部です。

コラムを公開することの主な目的は、読者にとって有益なコンテンツを提供することです。例えば、私が書いた「デリゲーション」に関するコラムは、読者が部下に仕事を任せる際に参考にできる内容にしました[1]

コラムは、ビジネスリサーチラボの業務プロセスにおいても利用されます。例えば、プロジェクト開始前にコラムは役立ちます。

ビジネスリサーチラボは、クライアントからの依頼に基づいて仕事を行っています。お問い合わせをいただいた際に、コラムを共有することがあります[2]。これにより、クライアントとのコミュニケーションが円滑になります。

また、プロジェクト計画を作成する際にもコラムは有益です。例えば、組織サーベイを実施する際に、クライアントが組織サーベイの基本知識を持っていると、スピーディに進行できます。そこで、基本知識を得るための教材としてコラムを用います[3]

さらに、プロジェクトの進行中においてもコラムは使えます。例えば、成果指標の設定方法に関するコラムを、クライアントが自社内で成果指標の案を作るときに送ることもあります[4]

データ分析の際にも、コラムは活用できます。報告書に分析手法の詳細を記載すると冗長になるため、脚注でコラムを紹介することが多いです。

例えば、効果量を算出したときに、効果量の説明を一から詳しく行うと、それだけで長文になります。コラムを示すことで、効率化を図りながらも、学習可能性を残すようにしています[5]

このようにコラムは単なる読み物に限定されず、様々な場面で活用されています。コラムによって、コミュニケーションコストを削減できています。

読者をイメージする

コラムを書く際に重要になるのは、読者を具体的に想像することです。このコラムの読者はどのような人かを考える必要があります。

代表的な読者像を「ペルソナ」として整理するのが良いでしょう。ビジネスリサーチラボのコラムの読者として共通しているのは、企業人事やHR事業者の方であるという点です。

しかし、これだけではあまりに大雑把です。より具体的に読者をイメージしなければなりません。例えば、読者の年齢は何歳ぐらいか。人事やHR事業者の中でもどの機能の方々を対象にしているか。また、どのような性格の方を想定しているか。

読者の能力を考慮することも大事です。読者がどの程度の知識を持っており、何ができるのかを考える必要があります。それによって、記事の難易度や情報の省略度が決まります。

さらに、読者の価値観も考えます。読者は何を大切に思っているかという点です。また、読者の関心、すなわち普段何について悩んでいるのかを検討することも求められます。

このように、読者の具体的なイメージを練り上げます。検討が済んだら、その内容をメモしておきます。コラムを書いている最中に、誰に向けて書いているのかを再確認しやすくなります。コラムの一貫性を保てます。

また、読者がコラムを読む前と読む後でどう変わるかを考えるのも一策です。読む前はどのような状態にあり、読んだ後はどのようになってほしいか。特にどのような行動を起こしてほしいと思うかを考えるのが良いでしょう。

読者がコラムを読むタイミングについて検討を加えるのも大切です。例えば、ある問題を急ぎで解決するためにコラムを読む場合と、時間をかけて学びたいと思って読む場合では、必要とする情報は異なります。

コラムの基本構成

コラムの構成について紹介します。構成に関する明確なルールが存在するわけではありません。しかし、大枠としては、「導入」「本文」「結論」の3部に分かれていることが多いと言えます。

このうち「本文」は、コラムにおいて最も内容が充実するパートです。本文をどのような展開にするかは究極的には執筆者次第です。

例えば、結論から始めてその理由を述べる展開も良いでしょう。ストーリー仕立てで読者の興味を引きつける展開もあります。読者層やコラムの趣旨によって適切な展開が変わることも予想されます。

しかし、どの形式を選んでも「導入」は重要です。インターネット上には無数の情報が存在します。読者が私たちのコラムを選んで読むためには、導入で関心を引く必要があります。

そのためには、読者がどのような問題意識を持っているのかを推測する必要があります。例えば、人事系のカンファレンスやネット上の記事を探って、読者が持つ関心を理解しましょう。

ただし、「これさえ読めばすべてが解決する!」などという大げさなフレーズは不要です。専門家として適切に読者の関心に寄り添えば十分です。

コラムの位置づけ

コラムを書く際には、できるだけ多くの人に読んでもらいたいと思うかもしれません。もちろん、それは健全な気持ちです。

しかし、大事なのは読者の量ではなく質です。たとえ読者が1人でも、その人が行動を起こせば、そのコラムは成功と言えます。必ずしも大勢の人に読まれることを目指す必要はありません。

そもそもビジネスリサーチラボの公開するコラムはニッチなテーマのものが多く見られます。専門的で深い内容でも遠慮せず、しかし、特定の読者の理解と行動を促すように執筆します。

また、一つのコラムで、全てを語りつくすことはありません。大事なことは、伝えたいポイントが一つ以上はコラムに含まれていることです。

一つの完璧で包括的なコラムを作るよりも、まずは10本のコラムを書いてみる方が実践的には有用です。コラムの品質を無視するのは危険ですが、一つのコラムを書くために膨大な時間とエネルギーを使う必要はありません。時間をかけすぎず、慎重すぎずに、コラムを公開しましょう。

もし公開後に何か修正が必要だと気づいたら、修正すれば良いのです。それがウェブメディアの特性です。ただし、大きな修正をした場合は、修正した部分とその日付を明記して、透明性を保ちたいところです。

書き方のテクニック

文章の書き方についてもヒントを共有します。読者は必ずしも専門家ではないことを覚えておきましょう。専門知識を知らない方にも理解できるように書く努力が求められます。

例えば、抽象的な話が続くときには具体例を示すことが有効です。そして、一つよりも複数の例を挙げると、読者がイメージしやすくなります。

さらに、文章とパラグラフの長さにも注意しましょう。論文は文章やパラグラフが長い傾向にありますが、オンラインで読むには短い方が無難です。

箇条書きや見出しを使って情報を整理することもおすすめです。図表も役立ちます。文章だけではなく、視覚情報も提供すると、理解が深まりやすくなります。

文法の正確さや論理的な展開、そして誤字脱字のチェックは看過できない側面です。コラムに信頼感を覚えてもらうためにも欠かせません。

 

以上で述べたことは、コラムの書き方のノウハウというよりも、ビジネスリサーチラボにおけるコラムの位置づけや考え方を整理したものです。

脚注

[1] 仕事を任せる:権限委譲を進めるために
[2] プロジェクトの始まり方:取引に至るまでの流れ
[3] 人事のための組織サーベイ入門:従業員の心理を可視化し、データ分析に基づいて意思決定する方法
[4] 良い成果指標を定めるための4つのステップ
[5] 効果量とは何か:「差の大きさ」を評価する指標


執筆者

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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