2023年2月27日
プロジェクトの始まり方:取引に至るまでの流れ
ビジネスリサーチラボでは様々な企業から依頼を受けて、サービスを提供しています。本コラムでは、クライアントとビジネスリサーチラボの取引が始まるまで、どのような流れをたどるかを説明します。
ビジネスリサーチラボと初めて取引をする際の話に限定します。継続案件や、既存クライアントの別部署からの依頼の場合は当てはまりません。
ビジネスリサーチラボのクライアントには企業人事とHR事業者がいますが、取引が始まるプロセスはおよそ共通しています。
取引が始まるまでは4つの段階を経ます。以降、各段階においてクライアントとビジネスリサーチラボがそれぞれ何を行うかを述べていきます。
1.企業から相談をいただく
ビジネスリサーチラボに対して(将来的にクライアントとなる)企業から連絡をいただくところから始まります。企業人事もしくはHR事業者の方から連絡が入ります。
意思決定者あるいはそれに近い役割の方から、また、セミナー・コラム・書籍・記事など、ビジネスリサーチラボのコンテンツを見た方から連絡をいただく方が多い傾向があります。
そのため、問い合わせに先立って、ビジネスリサーチラボのサービスに関する一定の知識がある状態です。ただし、そこまで詳細に理解していなくても、相談は歓迎しています。
連絡方法の一つとして、コーポレートサイトの問い合わせフォームがあります。もう一つは、ソーシャルメディアのダイレクトメッセージです。さらに、知り合いからの紹介もあります。例えば、過去の取引先や、ビジネスリサーチラボのコンテンツに普段から触れている方からの紹介です。
「こういう背景があって、こんなことを依頼したいが、可能か」などの形で、相談内容を受け取ります。概要を説明していただく場合もあれば、資料を別途送っていただく場合もあります。
この時点におけるプロジェクトの実現可能性はまちまちです。例えば、「ビジネスリサーチラボに依頼したいが、内容やリソース面で可能かを確認したい」ケース、他にも「実行内容はおよそ決まっていて予算も確保しているが、どこに依頼するかを考えるため、情報収集している」ケース、さらには「問題意識はあるものの、実行内容が定まっていない」ケースもあります。
ビジネスリサーチラボでは、実現可能性の高低にかかわらず、相談に対応しています。必ずしも直近で始まる必要はないということです。
企業内で調整を続けている中で半年ほどの期間が空き、実行に至ることもあれば、「すぐに開始できないか」という緊急の相談もあります。
2.打ち合わせを実施する
問い合わせを受け取ったら内容を確認し、打ち合わせを設定します。打ち合わせは、翌週以降に調整します。
最近は、オンラインで打ち合わせを行っています。特に、この時点の打ち合わせは、ごく一部の例外を除き、対面で実施することはありません。
打ち合わせの時間は30分から長くても1時間です。この時間の中で、大きく7つのことをヒアリングします。
何を実施したいか
企業から相談をいただいているため、「これをしたい」ということがあります。それをまずは聞きます。問い合わせの際に文章で受け取っていることもありますが、口頭で詳細を確認します。
なぜ実施したいか
続いて、「なぜそのことに取り組みたいか」を尋ねます。背景、問題意識、経緯を聞いていきます。話を聞く中で、「その問題を解決するためには、○○ではなく△△のほうが妥当」という具合に、実行内容を変えたほうが良いことが分かる場合もあります。
何を目指しているか
取り組みを進めることで、どんな状態にたどり着きたいかをヒアリングします。要するに、ゴールを明らかにするということです。目指す状態が分かれば、それがプロジェクトにおける実行内容や優先順位を考えるための基準になります。
どのようなチームか
企業側がどのような体制でプロジェクトを進める予定かを確認します。チーム構成です。例えば、どのような権限、関心、仕事の範囲を持つ人から成るかなど、様々な観点から聞いていきます。この情報は、プロジェクトの実行時にも役に立ちます。
予算は決まっているか
プロジェクト実施にあたって予算が決まってるのかを尋ねます。もし決まっているときには、どれくらいのボリュームかも聞きます。未定の場合や、調整が必要な場合も、そのことを共有していただきます。
期限は決まっているか
いつまでに、どのような状態に持っていく必要があるか、何を納品しなければならないかをヒアリングします。これにより、求められる品質とスピード感がわかります。スケジュールに無理がないかどうかを検討します。
期限が定められているというのは、その後に何かを実行すべきだということでもあります。期限を設定した理由を掘り下げると、プロジェクトの成果物を何にどう活用するのかも見えてきます。例えば、次年度の施策として提案したいので、この時期には必要と明らかになれば、活用先が推測できます。
実現可能性はどの程度か
プロジェクトを実際に開始できる見込みがどのくらいあるかを聞きます。営業における、いわゆる確度です。本当に始まる話か、まだフワッとしている話かを明らかにします。実現可能性が高いとわかれば、ビジネスリサーチラボの社内リソースを確保するように進めなければなりません。プロジェクトが集中している際には、実行時期をずらすための調整を行うこともあります。
これら7点をヒアリングした上で、「これまでのお話を参考にすると、ビジネスリサーチラボとして、こういうことができそうです」と打ち合わせ中に伝えます。
特に事前資料を準備していないことがほとんどです。口頭で説明します。ただし、説明の詳細面の補足として、ビジネスリサーチラボが公開しているコラムのURLを共有することが少なくありません。
口頭だけでも概略は伝わります。白紙の状態でビジネスリサーチラボに相談をいただくことはなく、企業側に何かしらのイメージがあります。そのため、ビジネスリサーチラボからの説明を把握するための準備が企業側には整っているのです。
つまるところ、「どういう内容だと、実行可能な形で一緒に取り組めそうか」を検討するのが、打ち合わせの主な目的になります。実施の内容、方法、期限、流れなどを企業とビジネスリサーチラボの間で認識をすり合わせたら、打ち合わせは成功と言えます。
とはいえ、一度の打ち合わせで、実施イメージが湧いてこないこともあります。そういうときは二度目の打ち合わせを行います。ただし、プロジェクト開始までに二度目の打ち合わせを行うのは珍しいかもしれません。
打ち合わせの席で、ビジネスリサーチラボから費用を具体的に示すことは、ほとんどありません。費用は様々な条件によって異なるため、基本的には持ち帰って算出します。一方で、過去に類似例があり、なおかつ、企業側も知りたい場合には、概算を伝えることがあります。
3.提案と見積もりを送る
打ち合わせ後はビジネスリサーチラボから企業に連絡をします。企業側の予算が決まっており、打ち合わせでそのことを聞いているときには、予算に合わせて何ができるのかを知らせます。
他方で、予算が決まっていない、あるいは、共有してもらっていないときには、ビジネスリサーチラボから、3つのことを伝えます。
実行内容
ビジネスリサーチラボから提供できるサービスを示します。モジュールに分解して説明するようにしています。そうすることで、企業が「ここは不要」「ここは実行してほしい」などと選び取れます。
費用
実行内容でモジュールに分ける理由のもう一つは、モジュールごとに費用を出したいからです。「これとこれとこれを足したら、予算内に実行できます」と、これもまた企業側で検討できるようにしています。
費用が変動し得るケースもあります。例えば、100問のアンケートを作るのと、200問のアンケートを作るのとでは工数が異なります。こうした費用が変わる条件がある際には、その条件をビジネスリサーチラボから企業に共有します。
期間
費用と同じように、実行内容のモジュールごとに期間を記します。期間はあくまで目安です。およその進行感を企業側にも共有するために提示します。
これら実行内容・費用・期間は、メールの本文にて箇条書きを中心とした文章で示します。なお、実行内容を送る際に、新規の情報は限られます。打ち合わせで確認した内容を整理し、そこに費用と期間を追加します。
事前の打ち合わせで合意を得ているため、実行内容は文字で伝えても伝わります。とはいえ、イメージが湧きにくい箇所もあります。そのときには、理解を補助するコラムのURLを送ります。例えば、分析方法やアウトプットイメージなどはコラムを参考資料として出します。
ビジネスリサーチラボから、スライドで作成した提案書を作成することは基本的にはありません。しかし、企業内で、どうしても提案書が必要なケースもあります。そのようなケースは費用を頂戴して提案書を作成します。
しかし、メールで伝えた実行内容が事前の打ち合わせにはないものを多分に含んでいることもあります。「後から考えると、この方法が最適ではないか」と考えを改めるような場合です。メール本文で理解しにくい際には、再度打ち合わせを行い、本文に記述した内容を口頭で補足します。
打ち合わせを改めて行うほどではないにせよ、疑問が出てくることもあります。企業からメールで質問を受け、それに返信します。不明点がなくなったら、企業内で内容を正式に検討していただきます。
4.契約を締結する
ビジネスリサーチラボがメールで送った内容を企業内で検討した結果、OKかNGか保留かという結論が出ます。OKであればプロジェクトにGOサインが出たということで契約締結に進みます。
ここで正式な見積書を提出します(企業によっては、3段階目で見積書を出すこともあります)。続いて、契約書の雛形をやりとりします。企業から送っていただくことも、ビジネスリサーチラボから送ることもあります。
内容としては、一般的な業務委託契約書です。少し異なるところとしては、事前確認を経れば学術利用が可能になるという項目を加えている点でしょう。この項目を除外するように言われたことは今まで一度もありません。
契約の調整プロセスにおいて、ビジネスリサーチラボ側で進行管理表を作ります。進行管理表は、プロジェクトの中でどのようなタスクを、何月第何週に、企業とビジネスリサーチラボのどちらが行うのかを整理した資料です。
他にも企業によっては情報セキュリティをはじめとして、いくつか必要な手続きがあります。そうした諸々の手続きをすべて終えたら、契約を交わします。締結にあたっては電子契約が増えてきたと感じています。
契約を締結したら、プロジェクトを開始できる状態です。キックオフ会議を設定します。プロジェクトの最初の打ち合わせです。また、データの受け渡しも進めます。必要な社内資料やローデータなどを含みます。
以上の4つの段階を順番にクリアして、晴れてプロジェクトが始まります。初めに相談を受けてから契約を締結するまでの期間は企業によって違います。相談から開始まで最も早くて2週間、長くて2ヶ月程度です。全体の期間の長さを左右するのは社内調整の期間です。
執筆者
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。