2023年1月20日
新世代の採用学:新しい求職者、手法、考え方を模索する(セミナーレポート)
採用学研究所(運営:株式会社ビジネスリサーチラボ)は、2022年12月1日に、セミナー「新世代の採用学:新しい求職者、手法、考え方を模索する(採用学9周年記念セミナー)」を開催しました。
採用の現場は、デジタルネイティブの求職者の登場をはじめ、HRテクノロジーの進展や、オンライン採用の普及など、多くの変化にさらされています。そのような背景をうけ、本セミナーでは、「新世代の採用学」というテーマについて、登壇者が異なる視点で解説しました。
セミナーに登壇したのは、ビジネスリサーチラボ 伊達洋駆、エスノグラファー 神谷俊氏、神戸大学大学院 服部泰宏氏の3名です。
本レポートはセミナーの内容をもとに編集・再構成したものです。
「反射する世代」との向き合い方について:Generation Z から私たちは何を学ぶのか(神谷)
神谷:
近年メディアでは、Z世代が「キワモノ的」のように取り上げられています。しかし、そのイメージは、私が日々学生と接している感覚とは乖離があります。そこで、Z世代の本質的な理解に向けて情報提供をしていきます。
1. Z世代とは何か
1.1. いわゆるZ世代の特徴
神谷:
Z世代の特徴として一般的にいわれてる内容を押さえていきます。現在、四つの「世代」が一つの組織で働く、という珍しいことが起こっています。再雇用や外部パートナーとして、ベビーブーマーといわれる世代も現役の方が多い一方で、入社5年目未満のZ世代にあたる方もいて、ジェネレーションギャップが起こりやすい状況です。
例えば、すぐスキルアップしたい若手世代と、長い時間をかけてスキルを高めてきたシニア世代では、ジェネレーションギャップがあるでしょう。そこにコンフリクトが生まれると、組織のパフォーマンスも停滞するため、世代が入り交じるような多様性豊かな職場では、相互理解が求められるのです。
また、Z世代は世界では3割を占めています。日本では15パーセントほどですが、東南アジアでは人口比率の多くを占めるなど、ボリュームの大きな世代です。組織のパフォーマンスやマーケティングの効率を上げるために、Z世代の理解にはニーズがあるのです。
上の表では、各世代の特徴を整理しています。上の世代ほど、一枚岩としての結束を意識するような傾向が強く、逆に、下の世代ほど個人主義の傾向が強いと言えます。Z世代は、所属意識が薄く、自分自身の所属コミュニティーをバーチャルにもリアルにも持っています。一つの組織に足をとどめ、それを基盤にする感覚が希薄です。
他に興味深いのは、キャリア達成のところです。シニア層は自己啓発を重視し、自分で勉強することを重視する価値観を持っています。しかし、Z世代は、その必要性を感じないと書かれています。
1.2. 世代を語るリスク
神谷:
私は、このような内容を見たときに、「Z世代はわがままで、努力を嫌う」など、バイアスが強くなることを危惧しています。世代を語ることのリスクを整理しましょう。
まず「ステレオタイプ」とは、いわゆる先入観です。次に「利用可能性ヒューリスティック」といって、目立つ行動や言動、自分の知ってる情報で、相手の印象を決めてしまうこともあります。サトウ君というZ世代の新入社員が、入社後すぐに遅刻すると、「Z世代だから」と意味づけしてしまう、という具合です。
最後に、「内集団・外集団」の区別です。「〇〇世代」と呼ぶこと自体が、バイアスを反映していると思います。自分たちの世代を内側と考え、他の世代に批判的になる側面が出てしまっています。
ベビーブーマー、X世代、Y世代など、Z世代以前の「世代」に関する研究も行われてきました。しかし、「○○世代だからこういう傾向がある」「こんな行動を取りやすい」といった研究結果は、あまり多くありません。むしろ、世代は関係ないという結果が、多く報告されています。
例えば、「Z世代は好きな仕事しかやらないので、やりたくない仕事を与えられると不満を覚えやすい」「X世代やY世代は自己中心的なキャリアを歩むので、すぐ仕事にネガティブな感情を抱きやすい」など、ラベリングがされやすいのですが、実際には職務満足に大きな差はないという結果があります[1]。離職レベルに世代が影響しないという報告もあります[2]。研究結果からみても、「○○世代だから」という見方は控えたほうがいいと考えています。
1.3. Z世代の向こう側を考察する
神谷:
Z世代を理解する際に、自分の物差しや、「私が若いときはこうやってきた」など、自分の時代の考え方で図っていると、一向に理解は進みません。逆に、今の時代に物差しを合わせて思考していけば、ジェネレーションギャップは起きにくいはずです。
自分の世代とZ世代を比較するのではなく、彼らがどうしてそのような考え方や価値観を持ち、どう行動・判断しているのかに興味を持つのが良いでしょう。世代の向こう側にある、時代背景とかや環境的な影響へと視野を拡張することが必要です。
このような物事の見方は、「ホーリズム」あるいは「全体論的思考」と呼びます。世代だけではなく、社会全体や経済などを含め、複合的に捉えていくスタンスです。この考え方に立てば、「Z世代の当人だけを見ていても意味がない」と気づきます。
反対に、「Z世代だからこういうことをする、こういう傾向がある」と、世代から因果関係をひも解こうとする思考を、「還元的思考」と呼びます。どちらも大事な思考スタイルですが、組織や人事に関わる方は、全体論的な思考で「世代」と向き合うことが必要だと思います。
2. 就活におけるZ世代の変化
神谷:
ここからは、採用に目を向けていきます。日本の就活生の特徴や変化から、その向こう側に、彼らが何を見ているのか、どういう思考があるのかを考察していきます。まずは、どんな変化が生まれてるのかを紹介していきます。
2.1. 就活における変化
神谷:
Z世代の方の就活のなかでも、コロナ前後で変化が見られます。当社エスノグラファーでは、毎年5社ほどの大手企業にモニター調査を依頼しています。その企業の選考を受けた学生は、いわゆる学歴上位校が多いのですが、キャリア観やキャリア行動に、この数年で特徴的な変化がありました。
特徴的なのは、「キャリア探索レベル」です。自分のことを理解し、仕事情報を細かく収集して、自分にフィットするかを検証する姿勢が、コロナ禍の前よりも後で高まりました。コロナ禍以外にも原因はあると思いますが、他にも、企業理解のレベルも高まっていました。
また、下図のように、どんな情報を重視してるのかも、この3年間で差が出ています。図の左側に行くほど23卒の回答率が顕著に高かったものが挙がっています。23卒の回答者の方が、個人のキャリアや雇用条件を吟味するようになっています。逆に、20卒の方は、企業全体の特徴を捉えるような情報収集のスタイルが見て取れます。
利用する手段も変わっています。下図に示したように、20卒の方は、会社説明会やナビサイト、採用パンフレットなど、いわゆる、採用文脈のプロモーションのメディアやチャンネルを利用しています。しかし23卒の方では、インターンシップ、口コミサイト、企業ホームページが増えています。採用チャンネルとして公式的に提供されている情報以外も取りにいくようになったのです。
2.2. 全体論的思考から見た考察
神谷:
これらの傾向を「Z世代だから」と結論付けるのではなく、背景に何があったのかを考えることが重要です。背景を見通すことができれば、今求められている採用アプローチのヒントになります。
年内で50人ほどの学生に、どのような就活をして、どのようなキャリア観を持っているのかをヒアリングしました。その中で、キャリア探索の促進に影響を与える可能性のある要因を見つけました。
まずは「不安」です。インタビューでは、ネガティブな日本の未来を語る学生が多い印象を持ちました。YouTubeのなかで「日本は財政破綻する」「この業界は危険」と語るのを目にしたということです。コロナ禍でネガティブな情報が沢山流れてきて幻滅するという、インフォデミックといわれる傾向もあります。
そうした背景の中で、「ファーストキャリアをきちんと築かないとまずい」などの「キャリア焦燥感」が刺激されているのかもしれません。キャリア焦燥感は、従来は入社1、2年目の若手が抱くものですが、就活生のうちから感じている可能性が分かりました。
そうであれば、採用担当者は就活生にファーストキャリアとしての価値を示す必要があります。たとえば「自社に入るとこのようなスキルが身に付く」など、労働市場における価値を説得的に見せるといったことです。辞めていった人たちがどのような企業に行ったかという情報の開示も有効かもしれません。
また、コロナ禍でオンライン採用へのシフトが進みました。この影響はZ世代にとって大きいと考えています。この世代はデジタルネイティブといえますので、検索能力が高く、相互作用が起きているかもしれません。企業側も、ウェブ情報を潤沢にして、YouTubeやSNSでの採用活動を始めています。以下に示した集計に表れるように、Z世代側も、それを検索し利用する術を持っているため、キャリア探索が進みやすくなっています。
インタビューでは、OB・OG訪問の際、先輩のLINEのIDを聞き、その中で給与などについて質問する様子も聞かれました。また、同じ学校・学部の誰々が内定を受けたという情報をSNSで随時共有しているため、自分がどこの企業を受験すると内定もらいやすいのかも推測できるようです。このように、就活生はウェブリテラシーが非常に高いため、企業側もSNSなどを積極的に使って情報提供する必要があります。
さらに、「道具性」といって、「これをやっておけば、次にあちらが達成される」など、成功の因果関係への期待感が高まっている様子が見受けられます。道具性が高まると、キャリア探索が進みやすくなります。「それをやれば、自分のキャリアがうまくいく」というシグナルを読み取ることができるので、アクションをしやすくなるのです。
今の就活市場は「道具」だらけです。インターンシップに参加すると、企業の実態が分かる、優遇されて早期選考に呼ばれる。早期選考に呼ばれると、内々定の獲得も高くなる、といった具合です。ジョブ型雇用を進める企業では、配属先が見えているため、内定さえもらえれば自分のやりたい仕事をできる見込みも立ちやすくなります。
道具性の前提を活かすならば、企業側は、手掛かりとなる情報を公開する必要があるでしょう。いつの時期から選考がスタートし、どんな面接を行い、何を評価するか。配属先はどう決めて、その条件をいつ検討し、決まるのか。このような情報にニーズがあるといえます。
3. これからの採⽤チームに求められるもの
神谷:
ここまでの背景を踏まえると、今の採用チームに求められるものは「学習」だといえます。採用戦略をどう展開していくべきかといった点を、随時見直して、高頻度で更新していく必要があるのと思います。次の図に沿って考えてみます。
学習の「シングル・ループ」や「ダブル・ループ」という単語を聞いたことがあるかもしれません。あるいは「デューテロ・ラーニング」といわれる、いわばメタ的な学習を効かせていく必要があります。
例えば、「今年のこの施策がうまくいったかどうか」「何を改善すればいいか」だけではなく、「そもそもこの施策をなぜやる必要があるか」「どういう情報やソースを基に判断したか」という具合です。自分たちの採用活動を捉え、客観的に俯瞰しながら、その妥当性や効果性を検証しましょう。
根元を見直すようなチーム学習が進まない場合は、原因は恐らく情報不足です。ガービンが、チーム学習を進めるためのチップスを5つ提供しています[3]。
- 客観的な情報収集・問題解決(Systematicproblemsolving)
- 積極的な実験(Experimentation)
- 過去の経験から学ぶ習慣(Learningfrompastexperience)
- 他者から学ぶ機会(Learningfromothers)
- 知識を伝達する仕組み(Transferringknowledge)
このなかでも、情報収集やデータが重要だと強調しています。アンケートを実施して活動傾向を把握したり、Z世代の就活生の思考を把握したりするのが良いでしょう。ほかにも、施策の中で積極的に実験したり、インターンで試したことを面接に応用したりするなど、近い過去から学ぶ経験も重要です。
また、学生や内定者を招いて就活中の感想を聞くことや、それをチーム内でシェアするといった方法も挙げられます。学習する採用チームをつくり上げて、変化する環境、その変化を反射するZ世代の人たちと向き合っていくことが必要です。
私たちは新しいものにどう向き合えば良いか:ソーシャルメディアを用いた採用評価を題材に(伊達)
伊達:
私からは、求職者が投稿するソーシャルメディアを、企業が採用評価に用いたらどうなるかを考えてみます。少し変わった切り口かもしれません。しかし、採用担当者が新しい物事にどう向き合っていけばよいのかを考える機会にできればと思っています。
ソーシャルメディアを採用の中で利用する場合、大きく分けて二つの方向性があります。一つは、企業がソーシャルメディアを用いて、自分たちの会社や仕事の情報を発信する方向性です。SNSの企業アカウントが典型例です。
もう一つは、求職者が用いるソーシャルメディアの内容を、企業が評価に利用する方向性です。例えば、求職者はFacebook、LinkedIn、Twitter、Instagramなどに様々な投稿をしています。求職者の投稿内容を評価に利用することはできるのでしょうか。これが私の本日話すテーマです。
1. 新たな情報源として期待される理由
伊達:
海外では、求職者が新しい仕事を探す際に、ソーシャルメディアを利用することが一般的になりつつあります。ソーシャルメディア上の情報が本人の履歴書代わりになり、企業からオファーが来るのです。
日本でも、興味深い調査結果が報告されています[4]。「実名を伴うソーシャルメディアを就職活動の文脈で活用したいか」を尋ねた結果です。
13年卒の学生では、「活用したい」という回答が29.5パーセントだったのに対して、23卒の学生では57.1パーセントに及び、10年でほぼ倍になっているのです。日本でもソーシャルメディアを巡る価値観が変わってきています。
それでは、特に海外において、企業が求職者のソーシャルメディアを評価に用いようと考えた理由を説明します。
採用でよく用いられる評価手法は2つあります。一つは、書類選考です。履歴書やエントリーシートなどの書類の提出を義務付け、書類に書かれた内容をもとに選考します。もう一つは採用面接です。面接におけるやりとりを通じて、企業は求職者の適性を評価します。
ただ、企業は書類や面接といった選考方法に不足感を抱いています。求職者を理解するには情報量が少ないのです。また、書類や面接で得られる情報には、求職者の「自分に対して良い印象を持ってもらいたい」という気持ちが含まれています。
こうした状況の中で、企業としては、求職者を評価するための新たな情報源を探しています。ここに、求職者のソーシャルメディアが企業から期待が寄せられる理由があります。
2. ソーシャルメディアがもたらす評価の歪み
伊達:
では、求職者のソーシャルメディアを企業が評価に用いた場合に起きることを検討した研究を紹介します。初めに紹介するのは、ソーシャルメディアに掲載された写真が、企業による候補者の評価にどう影響するのかを明らかにした研究です[5]。
この研究では、ソーシャルメディアのコンテンツを、文章と写真という二つの要素に分け、記載される文章は同じだが、写真が異なっている条件を作りました。
写真については3つのパターンを用意しました。勉強している写真、家族と一緒に過ごす写真、お酒を飲んでいる写真です。同じ文章に、3パターンの写真が掲載された条件の間で、企業による求職者の評価は一体どうなったのでしょうか。
お酒を飲んでいる写真の条件では、その求職者が次の選考に進んで良いとは判断されにくい傾向がありました。求職者に想定される初任給も尋ねていますが、こちらも、お酒を飲んでいる写真を掲載した求職者は低く評価されました。
つまり、写真が違うだけで、評価が変わってしまうのです。このことはソーシャルメディアに始まったことではありません。写真が影響を与える点を検証した研究は多くあります。1980年代に行われた研究を例として示しましょう[6]。
ある美術評論家の30代の男性の写真を出します。写真の下には、「芸術を支援するために寄付が必要です」という趣旨のメッセージが書かれています。写真の画質が良い場合と質の低いコピーの場合で、メッセージに対する賛同の度合いが異なるかを検証しました。
結果、カラー写真の場合、賛同しやすいことがわかりました。他方で、質の低いコピーの場合、主張の強さが賛同に影響を与えることが分かりました。1980年代に行われた研究ですので、現在にそのまま当てはまるわけではありません。ただ、写真が影響を及ぼすことは分かります。
ここまで写真の話を取り扱ってきましたが、文章の影響はどうでしょうか。結論としては、文章も評価バイアスを生み出します[7]。
例えば、ポジティブな文章を書いている求職者ほど、「この求職者は自社に合ってる」と評価されることが明らかになりました。あくまでも文章のタッチを変えただけです。表面的な形式が、評価に影響を与えていることを表す例です。
3. 新しいものに向き合う姿勢について考える
伊達:
以上の研究を踏まえると、「求職者のソーシャルメディアは、今後用いないほうが良い」「従来の方法だけで良い」と考える人もいるでしょう。しかし、評価がゆがむから使わない方が良いという考え方を一貫させると、従来の書類や面接といった選考手法も利用できなくなります。
書類や面接による選考でも評価のゆがみは生じているからです。面接における評価バイアスの例を挙げておきましょう[8]。
面接に先立って、面接官は「計画的で真面目な人を採用したい」と考えていました。しかし、ふたを開けると、社交的で陽気な人が高く評価されていました。面接官は自分の意図した評価を行えませんでした。
評価をめぐるバイアスは、ソーシャルメディアを通じて初めて生まれた問題ではありません。従来からの課題がソーシャルメディアという新しい動向を吟味する中で顔を出したのです。私はこの点に非常に大きな示唆があると考えています。
一般に、新しいものが登場すると、それをいかに円滑に受け入れるかを検討しがちです。例えば、ソーシャルメディアの普及が進んだら、それをどう採用に取り入れれば良いかを考えるでしょう。
もちろん、その考え方が間違いではありません。新しいものを無視すべきでもありません。しかし、別の見方も可能なのです。
新しいソーシャルメディアを採用に用いる現象を注意深く観察すると、評価のゆがみという従来からの問題に気づくことができました。同じ見方は、ソーシャルメディア以外でもできます。
新しく登場したものを用いる自分たちの姿を俯瞰的に考察すれば、採用における「当たり前」をあぶり出し、疑う機会になるのではないのでしょうか。私の発表では、ソーシャルメディアによる評価を吟味することで、書類や面接にも通底する評価バイアスの問題を導き出しました。
ソーシャルメディアを用いた採用を進めることも大事ですが、バイアスにまみれた選考をどうにかしていくことは、それ以上に大事だと思います。このように、既存の方法に潜在する当たり前を浮き彫りにするのが、新世代の採用を検討する際の視点だと思います。
「世代の特徴」とは何か:「世代」とどう向かうか(服部)
服部:
私のところでは、「世代」とどう向き合うか、世代の特徴といわれるものとは何かを考えていきます。そして、話題になっている「Z世代」についても話します。
1. 「世代の特徴」と呼ぶものの正体
1.1. 観察可能な振る舞い
服部:
皆さんが、一昨年から今年にかけての求職者を見て、「Z世代は、こう振る舞う」と判断したとします。これは、目の前のZ世代の行動、思考様式、話し方など、私たちが観察可能なものを見ているのです。代表的なものをいくつか紹介します。
まず、求職者1人当たりのエントリー数が少なくなっていること。次に、採用活動時期の個別化です。私の見る限りでも、活動量が上がる時期のピークが、分散化・個別化していると感じます。これは、平均的な活動量では必ずしも測れないものです。
例えば、エントリー数自体は去年の学生と変わらないが、本気で活動している人がいれば、周りが動いてるから動いている人もいます。日本で説明会が開催される時期に、海外に行っている学生もいます。バイリンガル人材を対象としたフォーラムの時期に間に合えば良いと考える学生もいます。
学生の間に、独特の企業評価基準ができていることも確認できます。インフラ系企業と、IT系のベンチャー企業、クラシックな食品企業を受けている学生がいました。一見すると傾向の異なる三社ですが、本人に尋ねると「実はこういう理由がある」と、1本の線につながる独特な基準があるようです。
最後に、就職活動の終局に起こる逡巡です。大企業を想定すると、6月や7月が就職活動のピークです。この終局で、ドタバタと動き出す学生がいます。いわゆる立派な企業で、かつ本人の第1志望から内定を得ているのに、「まだやめたくないんです」と相談を受けることもあります。
1.2. 「世代」を見るときに必要な4つの視点
服部:
ここまで、世代の特徴だと思い込みがちな例を挙げてきました。実はそれらの中には、4つの要素が混入しています。
- コホートの効果
コホートとは、同じ時期に、同じ経験をした層の人たちのことです。いわゆる世代の特徴といわれるものです。例えばY世代は、アジア通貨危機は記憶があまりないが、阪神淡路大地震や、アメリカで起きた9.11事件は明らかに覚えています。
- 年齢/ライフサイクルの効果
同じ年代をある時期にくぐったコホートだからではなく、現時点の年代だから起きている考えや行動ではないか、という点です。他の世代、他のコホートの人、いつの時代の人でも、ある年齢になると同じように考えるだろうというのが、ライフサイクル的な効果です。
- 環境への反応/適応の効果
就活という環境に置かれれば、多くの人が同じような反応をするだろうというものです。「就活生」を見て、「Z世代の特徴」だと思い込んでしまいます。例えば、「うちの大学のネームバリューでは、あと何社受ければどのくらい内定が得られる」といった情報が、学生の間で交換されています。こうしたことは、1人当たりのエントリー数の減少に部分的に影響しているかもしれません。
- 個人特性の効果
個人の生得的な特徴や育った環境により、価値観や能力が形成され、リテラシーや職業観も育っていきます。「この人だから起こる」という部分も、当然あるわけです。
1.3. 採⽤担当者が「世代」と向き合うヒント
服部:
実際には、採用担当者として短期的な施策を考える場合、「何が今起こってるか」という「観察可能な振る舞い」をみるだけでも、事足りる部分もあるでしょう。
ただ、より本質的に採用を設計する際には、4つの視点を持つことが有用です。そのための示唆になるよう、もう少し踏み込んで解説していきます。
- コホートの効果
フィリップ・コトラーによる指摘があります。「どの世代に何が響くかを考えるときには、その世代が何から影響を受けているのかを考える」ということです。採用に置き換えると、想定している世代の人たちが、いつ、どんな出来事を経験したかを考えます。
- 年齢/ライフサイクルの効果
私個人は、安定的なジェネラルな部分だと考えています。例えば、70年代・80年代ぐらいに書かれた専門書の内容は、多少のずれはありつつ、今でも当てはまります。それを読み解くことで、「この世代はこんなことに悩むのか」と知ることができます。
- 環境への反応/適応の効果
恐らく最も直接的に、採用の施策に直結する部分でしょう。ディテールをキャッチすることが有効だと考えています。リンダ・グラットン氏の『リデザイン・ワーク』という書籍を読んだ際に、議論の背景にある彼女の思考に刺激を受けました。例えば、ペルソナ設計をするときに、グラットン氏は、「名前はトムか、マイケル、20代ではなく23歳」などと非常に具体的に考えていました。
- 個人特性の効果
ステレオタイプや一般論ではなく、個別性に向き合うことが大事です。評価や選抜の文脈では、個人差を求職者自身が消そうします。そのため、座談会や面談、あるいはオフの場面としての食事会など、素の状態を出し得る環境を設ける必要があるでしょう。
2.「⾼解像度の近未来向」を見る
服部:
もう一つ、「Z世代」に関して見逃していけないポイントを紹介します。「Z世代」というコホートに固有の影響なのか、あるいは現在の環境の影響なのかは定かではないのですが、「高解像度の近未来志向」と呼ぶ特徴があります。
少し前までは、上図の左側のように、採用側も求職者も比較的遠くの未来をイメージしていたと言えます。「40年間ぐらいかけて一緒にいましょう」と、遠くてあいまいな未来でも合意できれば内定が成立する世界です。
一方で、現在は多くの学生や求職者が、3年から5年ほどの近い未来について、「この会社は具体的に何を提供してくれるか」「ここで何ができるか」を求めていると感じます。
この視点では、必ずしも会社との利害が完全に一致した、運命共同体である必要はありません。求職者は「目標は違うが、この会社にいれば私は成長できる」と感じ、企業は「うちでは、この人のこの能力を活かせそうだ」と、折り合いがつきます。
私はこの状況を「両立可能性」と呼んでいます。両立可能性の状態を繰り返していくことで、「結果としての長期雇用」が起こり得ます。ただし、高い頻度でメンテナンスと擦り合わせが重要です。
3. 良質な経験をどう作るか
服部:
最後に、良質な経験の重要性について紹介します。私もこのテーマの解像度を上げようと思い、調査を続けています。
求職者は、主に5つの経験を重視していると考えられます。これがZ世代に固有の特徴なのかは現時点で判断を保留していますが、このような思考で動いている人が多いと感じています。
1つ目は、「『大事にされている』と思えるか」です。その企業の中で、自分が大切にされているか、邪険に扱われていないかを、まず気にします。
2つ目は、「期待に応えているか、期待を超えているか」です。一通りの情報をインプットして説明会や面接を迎えます。そこで同じ内容を繰り返されると、期待に応えていませんし、超えてもいません。外で手に入らない情報を与えられるかが重要です。
3つ目は、「魅力的な人と会えるか」です。同じような選考フローでも、能力や人格的に優れた人に出会えたら、それだけでも良い経験になり得ます。
4つ目は、「成長を実感できるか」です。主観的な成長の実感は重要です。企業から求職者へのフィードバックがあることや、説明会や面接に行ったことで新たな情報や知識が増えたと思えることが大事になります。
5つ目は、「メリットがあるか」です。プラスアルファの情報をもらえたり、その後の選考が有利になったりするなど、色々なメリットがあるから選考を受け続けるという側面があるのです。
5つの経験のうち、全てではなくともいくつかを、採用のフローの中に埋め込めているでしょうか。繰り返しになりますが、「Z世代だから、この体験が必要」と限定するべきではありません。しかし、少なくとも今の世代に耳を傾けると、これらの経験ができると、「良い就職活動だ」と判断されるだろうと考えています。
脚注
[1] Cennamo, L., & Gardner, D. (2008). Generational differences in work values, outcomes and person‐organisation values fit. Journal of managerial psychology, 23(8), 891-906.
[2] Kowske, B. J., Rasch, R., & Wiley, J. (2010). Millennials’(lack of) attitude problem: An empirical examination of generational effects on work attitudes. Journal of business and psychology, 25(2), 265-279
[3] Garvin, D. A., Edmondson, A. C., & Gino, F. (2008). Is yours a learning organization?. Harvard business review, 86(3), 109
[4] 株式会社マイナビ(2022)「23年卒向けマイナビ調査にみるZ世代就活生の価値観」
[5] Bohnert, D. and Ross, W. H. (2010). The influence of social networking web sites on the evaluation of job candidates. Cyberpsychology, Behavior, and Social Networking, 13(3), 341-347.
[6] Pallak, S. R. (1983). Salience of a communicator’s physical attractiveness and persuasion: A heuristic versus systematic processing interpretation. Social Cognition, 2(2), 158-170.
[7] Carr, C. T. and Walther, J. B. (2014). Increasing attributional certainty via social media: Learning about others one bit at a time. Journal of Computer-Mediated Communication, 19(4), 922-937.
[8] Moy, J. W. (2006). Are employers assessing the right traits in hiring? Evidence from Hong Kong companies. The International Journal of Human Resource Management, 17(4), 734-754.
登壇者
伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年にHRアワード2022書籍部門 最優秀賞を受賞。
神谷俊:株式会社エスノグラファー 代表取締役/株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
法政大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、経営学修士。株式会社ビジネスリサーチラボにて調査・研究「アカデミックリサーチ」を推進する一方、多様な組織に在籍し、独自のキャリアを展開。自身では株式会社エスノグラファーを経営。また、2020年4月からは、リモート環境における「職場」の在り方を研究する“Virtual Workplace Lab.(バーチャルワークプレイスラボ)”を設立。学術的な知見を基盤に「分断・分散」を前提に機能する組織社会の在り方を構想する。著書に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)。
服部泰宏:神戸大学大学院経営学研究科 准教授
2009年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。滋賀大学経済学部専任講師、准教授、横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授を経て現職。「組織と個人の関わりあい」をコアテーマに、人材の採用に関する研究,圧倒的な成果をあげるスター社員の採用・発見・育成と特別扱いに関する研究,人事管理の国際比較の研究などに従事。著書に『採用学』(単著、新潮社)、『日本企業の採用革新』(共著、中央経済社)、『組織行動論の考え方,使い方』(単著、有斐閣)、『コロナショックと就労』(共著、ミネルヴァ)など。2022年に組織学会高宮賞(著書部門)を受賞。