2023年1月6日
【HR事業者向け】営業においてソーシャルメディアを活用する方法
本コラムはHR事業者に向けて作成しています。営業活動においてソーシャルメディアをうまく活用する方法を解説します。BtoC領域だけではなく、BtoB領域でもソーシャルメディアが普及しています。
ここで急いで、営業におけるソーシャルメディアの定義をしておきましょう。ソーシャルメディアとは、営業担当者が情報発信したり、関係を構築したりするテクノロジーを指します[1]。ソーシャルメディアには、ソーシャル・ネットワーキング・サービス、ブログ、マイクロブログ、ウィキなど、幅広いサービスが含まれます。
BtoB領域の営業の中でも、ソーシャルメディアの活用が進んでいます。なぜでしょうか。考えられる一つの理由は、広く潜在顧客にアプローチできるからです。しかも、ソーシャルメディアは他の方法より安価です。
ソーシャルメディアが普及したことで、商談などの具体的な接触が生じるより前に、営業が始まるようになったとの報告もあります[2]。こうした動向を受け、営業におけるソーシャルメディアに関する研究も進められています。
本コラムでは、それらの研究をもとに、営業においてソーシャルメディアを活用する際のポイントを紹介します。
1.情報伝達とレスポンスが鍵になる
BtoB領域において営業担当者に求められるものは何でしょうか。それは、顧客とのコミュニケーションです。特に、営業担当者から顧客に対する「情報伝達」が重要です[3]。
営業担当者からの情報伝達において有効な役割を果たすのが、近年目覚ましい発展を遂げているテクノロジーです。営業担当者は様々なテクノロジーを活用して、市場における情報を共有し、営業上の成果をあげようとします[4]。
テクノロジーの一つである、ソーシャルメディアも情報伝達の強力な手段になります。このことはBtoB領域の営業担当者を対象にした研究の中で、実際に確かめられています[5]。
その研究によれば、「ソーシャルメディア利用」は「情報コミュニケーション」を促します。ソーシャルメディア利用とは、仕事に役立つようにソーシャルメディアの様々な機能を利用することです。例えば、Facebook、Twitter、LinkedIn、YouTubeなどを営業に利用します。情報コミュニケーションとは、顧客に対して情報を明確かつ簡潔に伝えることを意味します。
ソーシャルメディアを用いることで顧客への情報伝達が進むのです。しかも、情報コミュニケーションは「顧客満足度」にプラスの影響を与えることもわかっています。顧客が営業担当者のパフォーマンスに対してどの程度満足しているかが、顧客満足度の意味するところです。
ここまでを総合すると、ソーシャルメディアを利用することで情報伝達が進み、顧客を惹きつけられるということです。しかし、それだけではありません。
情報コミュニケーションは「対応力」を高めます。対応力とは、忙しくてもリクエストに応じることを指します。要はレスポンスです。
顧客から見たとき、ソーシャルメディアの利用を通じて営業担当者から情報を得られるだけではなく、レスポンスも得られます。さらに、対応力もまた顧客満足度を上昇させることが検証されています。
ここで指摘しておくべきは、ソーシャルメディアを使うだけでは顧客満足度にはつながらない点です。ソーシャルメディアの利用が、情報伝達やレスポンスに結びついてこそ顧客満足度が高まります。
したがって、「とりあえずソーシャルメディアを使おう」という呼びかけだけでは足りません。例えば、アカウントを作るだけでは成功には結びつかないのです。この点は実感的にも納得できるのではないでしょうか。放置されてしまったソーシャルメディアのアカウントは、よく目にします。
ソーシャルメディアを用いて、顧客に情報を提供することが大事なのです。そう考えると、会社単位で推進する際には、ソーシャルメディアを通じて、どのような情報をどのように発信していくのかを考える必要があります。
とはいえ、こうした利用方針を定めることは簡単ではありません。発信すると良い情報を理解しなければならないからです。次節では、このことについて考えます。
2.ワクワク感、有能さ、無骨さを感じる情報
顧客は日々の活動の中で、様々な課題を抱えています。解決できていない課題もあります。営業担当者が顧客に対して、課題解決のヒントになる情報を提供できれば、顧客は喜びます。
前述の通り、ソーシャルメディアには情報伝達を促す傾向があります。課題解決に示唆を与える情報をタイムリーに提供できれば、ソーシャルメディア活用の意義があります。実際、課題解決に資する情報を顧客に伝えれば、顧客との間で強い関係を作り出せます[6]。
各社の営業担当者が顧客に情報を伝達したとします。そうすると、顧客のもとに様々な情報が集まります。顧客の立場からすれば、どの企業がどのような情報を出しているかがわかり、どの企業の商談を受ければ良いのかを判断する材料が得られます。
ソーシャルメディアを通じた営業担当者による情報伝達は、顧客にとっては商談の効率化につながります。それでは、商談相手として選ばれるために、営業担当者はどのような情報を伝達すれば良いのでしょう。この点を考える上で参考になる研究を紹介します[7]。
2018年から2020年の114週間にわたって、ある企業のLinkedInのデータを収集・分析した研究です。その企業がリンクトイン上に投稿した211の投稿を集め、それぞれの投稿の印象を分類しました。
研究の結果、3つのことが明らかになりました。第1に、「ワクワク感」を覚える投稿は「閲覧数」や「いいね数」を向上させます。ワクワク感とは、大胆さや元気さ、想像力や最新感といった印象を指します。情報にワクワク感があると閲覧者は関心を持ちます。そして閲覧者の目にとまるのです。
第2に、「有能さ」の印象を与える投稿は「クリック数」を増やします。有能さとは信頼感や知的な雰囲気、そして成功といった印象を指します。
有能さを感じると、閲覧者は安心感を覚え、さらにその企業の情報を探索しようと思えます。ソーシャルメディアを通じて顧客を動かすには、有能さを感じる情報が重要になります。顧客が合理的に情報を処理している様子が伺えます。
第3に、「無骨さ」の印象を与える投稿は「新規フォロワー数」を向上させます。無骨さとはアウトドアやたくましいといった印象のことです。無骨さを感じると、活発な印象を受けます。顧客は「健全な企業だ」と思って、その企業をフォローします。
以上の通り、ワクワク感、有能さ、無骨さを感じる情報に対して、顧客はポジティブな心理や行動をとります。これらを踏まえて、まず実践的に考えるべきは、ソーシャルメディアにおいて発信する情報がどのような印象を与えているのかという点です。印象には明確で客観的な基準はありません。受け手の主観的な評価の積み重ねで決まります。
自社のソーシャルメディアにおける情報をいくつかピックアップし、どのような印象を覚えるかを営業以外の社員に尋ねてみると良いでしょう。ソーシャルメディアを通じた情報伝達の際には、何を伝えるのかだけではなく、どのような印象を持ってほしいのかも考えましょう。
研究結果を見る限り、ワクワク感、有能さ、無骨さのいずれかの印象を与えるのが望ましいといえます。ワクワク感を高めるには、例えば、最新動向を提供したり、新しいツールや方法を試したり、未来を推測してみたりすることが有効かもしれません。
有能さの印象を高めるためには、根拠のある発信を心がけたり、営業担当者自身がどのような人物かを知ってもらったり、うまくいった事例を紹介したりすることがあり得ます。
無骨さの印象を高める上では、社内の定例イベントなどの活気のある様子を伝えたり、厳しい時期を乗り越えてきたことを共有したり、過去のトラブルを改善に生かした例を紹介したりすると良いでしょう。
いずれにせよ重要なのは、「意図を持つこと」と「結果を確認すること」です。「その情報で、どのような印象を持ってもらいたいか」を事前に意図し、「実際にそのような印象を持ったのか」を確認します。
3.情報伝達を上手く進めるポイント
ソーシャルメディアを通じた情報伝達が営業を進める上で有効であることを確認してきました。こうした傾向は特に営業の初期において役に立ちます。
例えば、関係を維持する段階よりも、関係を構築する段階においてソーシャルメディアが活用されるという報告があります[8]。営業担当者は、ソーシャルメディアを通じて顧客と関係を構築するのです[9]。
ソーシャルメディアなどのオンラインで関係を構築したら、対面などの従来の方法に移行することもわかっています[10]。既存顧客の維持より新規顧客の獲得にソーシャルメディアは力を発揮するといえます。
ソーシャルメディアの情報伝達の効果は、新規営業において得られやすいのです。これは、大企業に限った話ではありません。中小企業でも、ソーシャルメディアは新規顧客の獲得につながります[11]。
とはいえ、こうした視点が相対的なものである点には注意が必要です。関係維持にソーシャルメディアが使えないわけではありません。実際のところ、ソーシャルメディアで継続的に情報伝達すると、顧客へのリマインドになります。
BtoB領域においては、いざ依頼したいと思ったときに。自社が想起されるかが重要となります。ソーシャルメディアによって定期的に情報伝達していると、自社を想起してもらえる確率が高まります。
一方で、ソーシャルメディアにおける情報伝達は、三つの理由で簡単ではありません。第1に、ソーシャルメディアの導入は確かに安価ですが、情報伝達を行うためには人的資源が求められます[12]。
ソーシャルメディアを通じた情報伝達が、社内で業務の一部として認められていなければなりません。情報伝達の時間や人材を確保しなければ、なかなか続きません。例えば、更新が途絶えたSNSを見る機会は豊富にあります。
第2に、秘密情報の漏洩などのリスクを感じ[13]、情報伝達にストップがかかることもあり得ます。ソーシャルメディアの利用は炎上と隣り合わせです。何が火種になるかわかりません。ソーシャルメディアは気軽に継続的に情報伝達できます。問題が発生する可能性は常にあります。
そこで、ソーシャルメディアを利用するためのガイドラインを定め、社員教育を繰り返す必要があります。とはいえ、ソーシャルメディアの利用にあたって制約だらけになると、今度は魅力的な印象を与える情報の伝達が難しくなります。
一つ考えられる方法としては、「何をすべきでないか」を明確にすることです。逆にいえば、それ以外は裁量を持たせるという運用方法が良いのではないでしょうか。
第3に、営業担当者がソーシャルメディアのノウハウを持っていないと、「ソーシャルメディアをうまく使えると思えない」と感じます[14]。
これはテクノロジーに限りませんが、有効に使える自信がないと、人はそれを使おうとしません。営業担当者に対して、ソーシャルメディアの活用に関する小さな成功体験を提供することが大切です。例えば、1日に1回、ソーシャルメディアを通じて情報伝達を行い、お互いにそれぞれの情報を承認し合うところから始めていてはいかがでしょうか。
とはいえ、とにかく情報を伝達したりすれば良いかというと、そうではありません。顧客が有益だと思わない情報は、顧客の企業に対するロイヤリティに悪影響を与えます[15]。ソーシャルメディアを通じた情報伝達も、ある程度の質を維持しなければ逆効果になるのです。
情報の質を高めるために求められるのは「学習」です。最適な情報の正解はありません。ソーシャルメディアを活用する営業担当者が集まって学び合う場を作っていきましょう。
4.情報を収集して柔軟な営業に活かす
ここまでは、ソーシャルメディアを通じた「情報伝達」に光を当ててきました。最後に、別の示唆的な側面に触れ、コラムを締めます。営業担当者にとってソーシャルメディアは「情報収集」にもつながるという視点です。
そもそも企業において営業担当者は、市場の情報を得る役割を担っています[16]。「競争的知性」という言葉もあります。競争的知性とは、競合他社や市場について情報収集することを表します[17]。インターネットの登場や普及によって、競争的知性を高めることが容易になりました[18]。
ソーシャルメディアは、その傾向に拍車をかけます。ソーシャルメディアの情報をたどれば、タイムリーに情報を得られるからです。このことは、BtoB領域の営業担当者を対象にした研究において検証されています[19]。
ソーシャルメディアを利用するほど競争的知性が高まるのです。それにしても、競争的知性が高まると何が良いのでしょうか。適応的販売につながります。適応的販売とは、顧客とのやりとりの中で得た情報に基づいて、その時々で適切な営業を行うことを意味します[20]。
つまり、営業担当者が状況に応じて自分の営業スタイルを変えること、これが適応的販売です。適応的販売を行うには顧客や競合他社の情報が必要です。そのため、高い競争的知性を持っていれば適応的販売を行いやすいのです。
そして、適応的販売を行うほど営業のパフォーマンスが高いことも明らかになっています。ソーシャルメディアは市場や顧客の情報収集を助け、柔軟な営業を可能にし、最終的には営業上の成果をもたらすということです。
とはいえ、漫然とソーシャルメディアを利用しているだけで、有益な情報を得られるわけではありません。情報収集の質を高めるには、どうすればいいのでしょう。営業の現場で情報を使ってみることをおすすめします。
アウトプットの場を決めてインプットすると、インプットへの意識が変わります。さらには、インプットした情報が有益かどうかも検討できます。有益な情報は別の場面で利用すれば良いでしょう。
脚注
[1] Agnihotri, R., Kothandaraman, P., Kashyap, R., and Singh, R. (2012). Bringing “social” into sales: The impact of salespeople’s social media use on service behaviors and value creation. Journal of Personal Selling and Sales Management, 32(3), 333-348.
[2] Cortez, R., Gilliland, D. I., and Johnston, W. J. (2019). Revisiting the theory of business-to-business advertising. Industrial Marketing Management, 89, 642-656.
[3] Palmatier, R. W., Dant, R. P., Grewal, D., and Evans, K. R. (2006). Factors influencing the effectiveness of relationship marketing: A meta-analysis. Journal of Marketing, 70(4), 136-153.
[4] Hunter, G. K., and Perreault, W. D., Jr. (2007). Making sales technology effective. Journal of Marketing, 71(1), 16-34.
[5] Agnihotri, R., Dingus, R., Hu, M. Y., and Krush, M. T. (2016). Social media: Influencing customer satisfaction in B2B sales. Industrial Marketing Management, 53, 172-180.
[6] Jarvinen, J., Tollinen, A., Karjaluoto, H., and Jayawardhena, C. (2012). Digital and social media marketing usage in b2b industrial section. Marketing Management Journal, 22(2), 102-117.
[7] Cortez, R. M., and Dastidar, A. G. (2022). A longitudinal study of B2B customer engagement in LinkedIn: The role of brand personality. Journal of Business Research, 145, 92-105.
[8] Iankova, S., Davies, I., Archer-Brown, C., Marder, B., and Yau, A. (2019). A comparison of social media marketing between B2B, B2C and mixed business models. Industrial Marketing Management, 81, 169-179.
[9] Lacoste, S. (2016). Perspectives on social media ant its use by key account managers. Industrial Marketing Management, 54, 33-43.
[10] Murphy, M., and Sashi, C. M. (2018). Communication, interactivity, and satisfaction in B2B relationships. Industrial Marketing Management, 68, 1-12.
[11] Michaelidou, N., Siamagka, N. T., and Christodoulides, G. (2011). Usage, barriers and measurement of social media marketing: An exploratory investigation of small and medium B2B brands. Industrial Marketing Management, 40(7), 1153-1159.
[12] Andzulis, J. M., Panagopoulos, N. G., and Rapp, A. (2012). A review of social media and implications for the sales process. Journal of Personal Selling & Sales Management, 32(3), 305-316.
[13] Jussila, J. J., Karkkainen, H., and Aramo-Immonen, H. (2014). Social media utilization in business-to-business relationships of technology industry firms. Computers in Human Behavior, 30, 606-613.
[14] Michaelidou, N., Siamagka, N. T., and Christodoulides, G. (2011). Usage, barriers and measurement of social media marketing: An exploratory investigation of small and medium B2B brands. Industrial Marketing Management, 40(7), 1153-1159.
[15] Bill, F., Feurer, S., and Klarmann, M. (2020). Salesperson social media use in business-to-business relationships: An empirical test of an integrative framework linking antecedents and consequences. Journal of the Academy of Marketing Science, 1-19.
[16] Fouss, J. H., and Solomon, E. (1980). Salespeople as researchers: Help or hazard?. The Journal of Marketing, 44(3), 36-39.
[17] Rapp, A., Agnihotri, R., Baker, T. L., and Andzulis, J. M. (2015). Competitive intelligence collection and use by sales and service representatives: How managers’ recognition and autonomy moderate individual performance. Journal of the Academy of Marketing Science, 43(3), 357-374.
[18] Chen, H., Chau, M., and Zeng, D. (2002). CI spider: A tool for competitive intelligence on the web. Decision Support Systems, 34(1), 1-17.
[19] Itani, O. S., Agnihotri, R., and Dingus, R. (2017). Social media use in B2b sales and its impact on competitive intelligence collection and adaptive selling: Examining the role of learning orientation as an enabler. Industrial Marketing Management, 66, 64-79.
[20] Weitz, B. A., Sujan, H., and Sujan, M. (1986). Knowledge, motivation, and adaptive behavior: A framework for improving selling effectiveness. Journal of Marketing, 50(4), 174-191.
執筆者
伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。